【完結】推しの悪役にしか見えない妖精になって推しと世界を救う話

近藤アリス

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学園編

久しぶりの侯爵家と妖精

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 久しぶりに訪れる侯爵家は、ベルるんの幼少期と違って暖かい雰囲気で溢れている。庭も色とりどりの花が咲いており、侯爵夫人が好きなピンクの花が目立つ。

「おかえりなさいませ。坊っちゃま。アリサ様」

 笑顔で出迎えてくれる庭師や侍女たち。みんな心からの笑顔でベルるんや、私を出迎えてくれる。

 屋敷の玄関扉を開けると、パタパタと二階につながる階段から誰かが降りてくる。

「二人ともおかえりなさい」

 笑顔で迎えてくれたのは、侯爵夫人だ。産後1ヶ月も経っていないため、少しだけ疲れて見えるが、それでも昔よりもずっと健康的だ。

「ただいま。母上」

 昔はお母様、と呼んでいたベルるんだけれど、今では母様と呼ぶようになっている。

 成長したね、と感慨深い思いでじっと見つめる。

「また変なこと考えてる?」

 侯爵夫人と軽くハグをした後で、呆れたようにベルるんが言う。

「ははは。あ。侯爵夫人。出産おめでとうございます」

 私はそう言うとアイテムボックスから、風の国で買った赤ちゃん用の服などを手渡す。

「まあ。ありがとう。マーシャに会いに行きましょう」

 ふふふ、と二児の母とは思えない可憐さで笑い、侯爵夫人が私たちをベルるんの妹がいる部屋へ案内してくれる。

「マーシャ。お兄様が帰ってきたわよ」

 部屋の中央で乳母に抱かれ、ポーッとしている可愛い赤ちゃんがいた。目や髪の毛は輝くような銀色で、顔立ちも侯爵夫人に似ていた。

「マーシャ。僕たちの妹」

 そう言って何故か私の手を取り、マーシャを抱く乳母へ近付く。

「坊っちゃま。抱っこしてあげてください。まだ、首が座っていないので、ここを持って支えてあげてくださいね」

 乳母から抱き方を教わり、恐る恐るといった様子で抱っこする。

「柔らかくて、暖かい」

 ベルるんに抱っこされて、マーシャが産まれて間もない赤ちゃんらしく、ふにゃふにゃと泣く。

「泣き出した!」

 ベルるんが慌ててこちらを見るけれど、私も子どもなんて扱ったことないから分からない。

「抱っこしたまま揺らせばいいんじゃないかな?」

 分からないけれど、それっぽいことを言ってみる。私の言葉に絶対信頼のべふるんは、その場でゆらゆらと揺れる。

「泣き止んだよ。赤ちゃんって可愛いね」

「そうだね。可愛い可愛い」

 ベルるんに抱っこされたままの赤ちゃんの頭を、よしよしと撫でる。

「きっとアリサに似た子どもも可愛いよ。楽しみだね」

「まあ」

  ベルるんの言葉に、何故か喜ぶ侯爵夫人。いや、彼まだ16歳だから!と私だけ焦ってしまう。

 本気なのか、冗談なのか。ベルるんから、こういった発言が増えてきた。本気で受け止めるのも怖くて、流し続けてる私がいる。

 私が笑って流すと、ベルるんもにっこり笑ってくれた。










 夜になって侯爵が帰ってくると、久しぶりに4人で食卓を囲った。この穏やかな家族の団欒も、昔だと見えなかった姿だ。この姿を見ると、ベルるんの過去を変えてよかったなとつくづく感じる。

「今日はゆっくり眠れそうだね」

 部屋に戻り、就寝前に少しだけベルるんとおしゃべり。

「ねえ、アリサ」

「どうしたの?」

 おいで、と手招きをされたので、パタパタと飛んで近付く。

「アリサが僕の好意を、見て見ぬふりしているの気付いているからね」

「いや。それは」

 突然の言葉に動揺が隠せない。

 幼少期から見守ってきた推しは、私にとって大切な人だけど。ヒロインとくっつくとばかり思っていたから、正直どうしていいか分からない。

 ベルるんは私の動揺を見て、困ったように笑う。

「10歳からずっとそばにいるから、恋愛対象になるのは難しいかな?でもね。アリサが嫌がっていないことも分かってるから、これからもよろしくね」

 そう言うと、人差し指で私の頬を持ち上げる。ゆっくりと顔が近づき、私の頬に軽く唇が触れる。

「ベルるん!」

「おやすみ、アリサ。僕の可愛い妖精さん」

 びっくりして名前を呼ぶと、ベルるんはそう言ってベッドに横になる。

 何か言おうとしたけれど、反対を向いているベルるんの耳が真っ赤になっているのを見て、何だか私も恥ずかしくなってきた。

 推しと恋愛ができるか、これって推し活をする人にとっては究極の選択では?

 恋愛対象として見ている人も多いけど、私にとって推しというのは一定の距離がある存在だった。それこそ尊すぎて神とか天使みたいな。

「でも。推しからきてくれて、拒める人なんていないのでは?」

 ぽつり、と呟いた言葉は、そのまま暗い部屋の中に溶けて消えた。









「ありさ。青春ですね」

「うわああ!」

 真っ白な空間で、目の前には親指を立てて微笑む女神様。

「それを言うために、夢に出てきたんですか?」

 恥ずかしさから、ふてくされたように言うと、女神様は首を横に振る。

「そうだったらよかったのですけれど。悪いお知らせがあります」

 そう言うと、女神様は真剣な表情へと変わった。
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