【完結】推しの悪役にしか見えない妖精になって推しと世界を救う話

近藤アリス

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学園編

久しぶりの情報ギルドと妖精

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 テレポート先は情報ギルドの奥、イーライの執務室だ。6年の間に何度も訪れているため、すっかり見慣れた。

 透明化を解くと、相変わらず色気たっぷりのイケメンが、ペンを置いて微笑んだ。

「お。来たな」

「例の件に進展はある?」

 私の言葉にイーライは肩をひょい、とすくめた後で、首を振った。

「全然だな」

 予想していた回答だけれど、少し落ち込んでしまう。

「水の珠。という言葉自体が俺も初めて聞いたからな」

 6年間全く情報が入らない水の珠。ゲームでは、ヒロインへの恋に敗れたベルるんが、闇堕ちして倒された時に手に入るアイテムだ。

 ゲーム最後の邪神戦では、水、火、風、土の珠を装備したヒロインたちが戦う。その中で最も欠かせないのが、水の珠だった。

 乙女ゲームのくせに何故か邪神は、第二形態まで進化する。人型の邪神を倒すと、黒い大きな竜の姿になるのだが、その際に死の吐息を吐く。

 死の吐息の効果は、全体攻撃の即死攻撃だ。そして、水の珠の効果は即死攻撃を無効化する、というものだった。

 そう。つまり、水の球がなければ、第二形態になる際に必ず全滅する仕様なのだ。

「水の珠はやっぱり、私が何とかするしかないか」

 ベルるんがリンに倒され、優しく抱きしめられた時に流した涙。それが水の珠になる。

 邪神が復活するまでに、どうにかして手に入れないといけない。そして、このことはベルるんには内緒にしている。

「アリサが俺に会いに来てるって知ったら、坊ちゃん怒りそうだよなあ」

 イーライは未だにベルるんを、坊ちゃんと呼ぶ。ベルるんの出産に立ち会った医者を探した時以降は、ほとんど関わりがないはずだが、ベルるんはイーライを好きではないようだ。

「だから寝た後に来てるんだよ。あ、これ依頼料ね」

 どんっと机の上に、ミノタウルスの角などを置く。レベル上げの際に出る素材を、依頼料として渡すようになっている。

 換金してから渡してもいいけれど、イーライ的には直接もらう方がお得らしい。

「うん。確かに」

 そう言うと、机の上に出した素材がぱっと消えた。イーライはアイテム収納ができる袋を持っており、その中にしまったようだ。

「あ。追加依頼してもいい?」

「いいぜ。まあ、とりあえず座れよ」

 ぱたぱたとその場で飛んでいると、イーライが引き出しからミニチュアの椅子とテーブルを出す。

 さっと机の上にはセットをすると、どうぞ。と言うように手で座るように誘導する。

「ありがとう」

「さあ、何の依頼だ?」

 お礼を言って椅子に座る。この椅子は私が通うようになって、すぐに用意してくれていたものだ。

「火の国の火龍なんだけど、起きる周期を教えてほしいの」

「火龍か。うん。それなら水の珠と違って、ちゃんと仕事ができそうだ」

 にっと笑うイーライ。6年も依頼の進展がなかったことが、本人的に嫌だったんだろう。

「火龍が次に起きるタイミングを知りたいのか?」

「ううん。行くのはまだ先だから、周期が知りたいの」

 首を振って答えると、イーライは不思議そうだ。

「アリサと坊ちゃんのレベルだったら、すぐに倒すこともできそうだが?」

「ちょっとね。私たちだけで倒すわけじゃないから」

 ゲームでは、火龍をアーサーが倒すことで、火の珠を手に入れることができる。私とベルるんで倒して、アイテムがドロップしなかったら怖いので、アーサーのレベルが上がったら連れていくつもりだ。

「まあ、俺たちは依頼通りにこなすだけだ」

 そう言うと、ミニチュアのコップに、コーヒーを入れてくれた。

「ほら」

「ありがとう!」

「それじゃあ今度は俺の番だな。アリサ、お前の話を聞かせてくれ。そうだな。妖精の国についての続きを聞かせてくれ」

 妖精の国、とは私がいた世界のことだ。イーライには依頼料の一部として、私の世界についていろいろな話をしている。

 経済や学問、文化などなど。どれも興味深いようで、イーライは目をキラキラ輝かせて聞いている。









「それじゃあ、そろそろ行くね」

 2時間くらいだろうか?すっかり話に夢中になってしまい、少し眠気を感じる。私は立ち上がると、イーライに笑いかけた。

「火龍の件、よろしくね」

「ああ。了解した」

 そう言って私の手を指で挟むようにそっと掴むと、ちゅっとリップ音を立ててキスをする。

「ちょっと!」

「はは。これくらい挨拶だろう?」

 思わず飛び跳ねて、非難の声を上げる。イーライは笑いながら、私を見ている。このお色気イケメンは、時々私に接触をして反応を楽しむことがある。

「いつでも来いよ」

 そう言ってにやりと笑うイーライに、何と返していいか分からず頷く。そして、テレポートを唱えて、ベルるんの自室へ帰った。
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