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学園編

ダンジョンと推しと妖精

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 薄暗い洞窟の中。点々と置いてある松明の灯りだけでは心もとなく、ライトの魔法も使っている。

 目の前には頭が牛で、体は筋肉質な男性であるミノタウルス。ボロをまとった魔法を使うマジックゴブリンが、ケケケと気味の悪い声で笑う。

 うおおー、と大きな声でミノタウルスが咆哮した瞬間。その首が一太刀で落ち、ごろんと転がる。

「それじゃあ、パーシヴァルのレベルが上がったら動くってこと?」

「そうなるね。あっ、ベルるん後ろ!」

「よっと」

 話をしながら、慌てたように魔法を唱えるマジックゴブリンも倒すベルるん。

 ベルるんにはシールドやパワー、速度アップのスピードなど補助魔法をフルでかけている。このダンジョンの敵であれば、サクサクと倒してレベル上げが可能だ。

 60を超えてからはレベルが上がるスピードが落ちて、今は1日に1レベルも上がらないほどだ。

 安全に邪神を倒すためにも、目標は卒業までに80レベル。ゲーム通りのタイミングで邪神が復活する保証もないため、できるだけ早くレベルは上げたい。

「ウインド」

 魔法の名前を言って手をかざすと、手から風が巻き起こり、後ろから走ってきたミノタウルスへ襲い掛かる。

 私もレベルが63になっているため、魔力が増えてウインドやウォーターなど、魔力に比例して威力が上がる魔法が強くなった。

「今日は64まで頑張ってあげようね!」

「了解。あ、アリサ。この後のランチは学食じゃなくて外に行こうね」

 にこにこ笑いながら敵を倒すベルるん。ゲームであればもう一つ上のダンジョンでレベル上げをするのが効率的なのだが、あえてぬるいダンジョンに来ている。

 理由としては、推しを絶対に傷つけたくないから!!ゲームみたいに一撃で体力の1/3持っていかれるような場所に、推しを連れて行けるわけがない!

「それじゃあ、私はお肉食べたい!」

 私の推しを傷つけたくない精神から、笑顔で魔物を倒す私とベルるんが出来上がった、というわけだ。他の人から見たら、なかなかの恐怖映像だろう。

「ひいっ」

 その結果。そこそこの高位ダンジョンで笑いながら魔物を倒す青年と妖精の姿を見て、悲鳴を漏らす冒険者が続出したとかしないとか。

 あ、もちろん。ダンジョン内は透明化を解いてるよ!









 水の国学園は首都にあるため、すぐに繁華街へ出かけることができる。

 テレポートで移動もできるが、ベルるんと一緒に行くと、急に現れたベルるんにはびっくりする人がいるからあんまり使いたくない。

「お肉が食べたいんだよね?」

 ガヤガヤと活気のある繁華街を通り、お店を探す。街中には冒険者の姿も多くあるが、50レベルを超えるような人は中々いない。

 まぁ、冒険者が強かったら、攻略キャラが邪神を倒すなんて展開もないもんな。

 強い冒険者が勝手に世界を救ってくれれば、私は推しの幸せに集中できるのに。と思ってため息をつく。

「アリサ大丈夫?疲れた?」

「あ。ごめんね!大丈夫。ちょっとお腹が空いただけ!」

 私のため息に気がついたベルるんが、気遣うように私の顔を見る。ぶんぶんと手を振って大丈夫アピールをしておく。

「それじゃあ、あそこのレストランに行ってみようか」

 ベルるんが選んだのは白い外装で、中々の規模のお店だ。待ちはいないが、店内は中々に混んでいる。

「いらっしゃませ!何名様でしょうか?」

 笑顔の女性店員がさっと現れ、人数を聞いてくれる。

「2人で」

「え?2名様……あ、かしこまりました!それではこちらへどうぞ」

 2人と言われてハテナを浮かべたまま固まっていた女性は、ベルるんの後ろを見て納得したように案内をする。

「よっ。ベルンハルト」

 そう言ってベルるんの肩に手を置くのは、火の国の第3王子アーサーだ。同じクラスではあるが、ほとんど接触はないはずだった。

 突然現れたアーサーをじろり、と睨むベルるん。多分、ゆっくり私とご飯を食べたかったんだと思う。

「がはは。そんな怖い顔するなよ。クラスメイトだろう?」

 豪快に笑ってバンバンとベルるんの肩を叩くと、案内していいのか戸惑う女性店員の方を見る。

「案内してくれ。あ、それと席は3人のところでよろしくな」

「かしこまりました」

 案内ができる、とホッとした様子の店員さんに連れられて、奥のテーブル席に案内された。

「いやあ。それにしても奇遇だな!休みの日に学園外で、しかも噂のベルンハルトと会うとは思ってなかったぜ」

 そう言うとずいっと、ベルるんの顔の前に身を乗り出す。

「なぁ。お前が鬼みたいに強いって噂は本当かよ」

 ベルるんは私が丁寧にレベルを上げただけあって、現在は水の国の将軍よりも強くなっている。その噂を聞いたんだろう。

 そういえば、アーサーってゲームでは戦闘狂だったな。

「どの噂かは分からないが、貴様よりは強いだろうな」

 にやり、と笑って言うベルるんに、アーサーは嬉しそうだ。

「それなら今度手合わせしてくれないか!」

「アリサ。彼も強くしたいんだよね?」

 アーサーの言葉に返事をせず、私に話かける。私はアーサーに見えるように透明化を解除して、こくんと頷く。

「うん。重要な人だからね」

「なるほど。アーサー、それじゃあ食事が終わったら、学園で手合わせしてあげるよ」

「おお!約束だぜ!とと、噂の妖精じゃないか!よろしくな!」

「はは。よろしく」

 声のボリュームと勢いの良さに押されながら、挨拶を返す。

「僕のアリサがお腹を空かせてるから、注文するよ」

 そう言って店員さんを呼ぶと、私の好きそうなものをたくさん注文してくれた。
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