【完結】推しの悪役にしか見えない妖精になって推しと世界を救う話

近藤アリス

文字の大きさ
上 下
16 / 57
幼少期の推し編

妖精という存在について知る妖精

しおりを挟む
 侯爵は建国記念日の祭りの日、ベルるんの叔父であるギルバートと一緒に帰ってくるそうだ。おそらく、ギルバート側が侯爵を丸め込むため、一緒に帰ることを提案したんだろう。

 可愛いベルるんを散々堪能した首都へのお出かけから、今日で3日目。今朝、情報ギルドへ一人で依頼内容を確認しにいくと、既にベルるんの出産時に立ち会った医師の情報を得ることができた。

 エリザという女性医師で、当時はまだ20代半ばだったものの、将来を有望視されていた人だった。そんな彼女はベルるんの出産に立ち会い、その後は侯爵にベルるんの風貌について口止めされて侯爵領の小さな村へ行くように指示されていた。

 侯爵領の小さな村へ、というのは彼女にとっては医師としての成功が途絶えたこと意味する。でも、私としては、口止めで殺されてるかも?と思っていたため、生きていてくれてありがたい。

 そして今。私はイーライからエリザがいると言われた村にテレポートで飛んできた。

「村の名前と場所さえ分かれば、初めての場所でも飛べるとか本当にチート」

 パタパタと村の中を飛びながら、様子を見る。小さな規模の村だけれど、子供たちが笑顔で走り回っている。大人たちの表情も明るいため、環境としては良さそうだった。

「ええと、この家かな?」

 エリザの家は村のはずれにあった。赤い屋根のこじんまりとした家で、庭には風に揺れる洗濯物がある。

「流石に透明化したまま入ったら失礼だよね」

 私はエリザから姿が見えるように意識をし、玄関に置いてあるベルを鳴らした。

 すぐに室内からバタバタと足音がし、少し待つと扉が開いて、落ち着いた雰囲気の女性が出てきた。

「はーい」

「あ、初めまして。こんにちは」

 笑顔でぺこり、と挨拶をすると、エリザは目をぱちぱちとさせて固まっている。

「少し話したいことがありまして」

 そう私が言うと、はっと我に返った様子で中に入れてくれた。

 こざっぱりとした清潔感のある部屋で、エリザは室内のテーブルと椅子を見て少し悩み、木箱を椅子の上に置いてくれた。

「こちらへどうぞ」

「ありがとうございます」

 椅子の上に置いてくれた木箱に腰掛けると、テーブルの高さがちょうど良くなる。

「失礼ですが、妖精様でよろしいですか?」

「あ。はい。多分」

 今まで姿を見せたベルるんとイーライとは異なり、エリザはとてもかしこまった様子だ。どこか緊張しているようにも見える。

「ああ。初めまして妖精様。お会いできて光栄です」

「こちらこそ、突然押しかけたのに対応してくださってありがとうございます」

 私がお礼を言うと、とんでもない!とぶんぶんと両手を顔の前で振る。

 あれ、もしかしてこの世界にとって、妖精ってそこそこの存在なの?

「本題に入る前に、エリザさんにとって妖精はどんな存在なのかを聞いてもいいですか?」

「私にとってですか。そうですね。妖精様は女神様の使いとして認識しております。そのため、女神様の代理人のような尊い存在かと」

「悪戯したりとかのイメージではないの?」

 地球での妖精のイメージは、どちらかといえば悪戯っ子のイメージが強い気がする。そう思って聞いてみると、急にエリザの表情が固くなる。

「確かに言い伝えの中には、妖精様の意見にそぐわないことをした街に対し、妖精様が悪戯と称して天罰を与えたという話がありますが」

「こわ!この世界の妖精の悪戯こわ!」

 思わずブルブルと震えてみせると、その様子にエリザは少し安心したようだ。

「妖精様の姿はほとんどの人が言い伝えで知っていますが、実際に会ったという話は神話でしか聞いたことがありません。なので、私は本当に今感動しています」

 なるほど。エリザはキラキラとした瞳で私を見てくれている。

 ベルるんは子供だから純粋に喜んでくれたけど、昨日のイーライのあの態度はさすがギルド長ってところだったんだな。この世界の大人であれば、このくらいの反応はしてしまうものなんだろう。

「本当に尊い存在で、敬語を使っていただくのは申し訳がありません。気軽なお言葉にしてくださると嬉しいのですが」

「分かりました。実は1つお願いがあって来たんだけど、エリザさんは侯爵家の一人息子であるベルンハルトの出産に立ち会ったんだよね?」

 こくん、と頷くエリザ。先ほどまでのキラキラの瞳とは変わり、また表情が固くなっている。

「口止めをされていると思うのだけど、出産の時に変わったことはなかった?」

 そう言うと、しばらくエリザは戸惑いながらも、口を開いてくれた。

「妖精様はベルンハルト様の風貌についてご存じでしょうか?」

「今は金色の髪で、目の色が緑ってこと?」

「ご存じなんですね。実は、生まれた時のベルンハルト様は、目の色が銀色だったんです。しかし、次の日に健診でお伺いしたところ、なぜか瞳の色が変わっていて」

 両手を顔の前でぎゅっと握り、しっかりと答えてくれたエリザ。この様子なら証拠なりそうだ!

「今から話すことを聞いて、協力するかを決めてほしいんだけど」

 そう言って私はベルるんの現状について話し始めた。オーガスト侯爵の弟であるギルバートの陰謀だったこと。本来のベルるんの目は銀色で合っていること。ベルるんがそのせいで辛い目にあってきたこと。

 全てを話し終えると、エリザはポロリと涙をこぼした。

「あの時の可愛らしい赤ちゃんが、そんな目にあっていたなんて」

 そう言うと、決意を込めた表情で顔を上げる。

「妖精様。私にできることであれば、何でもいたします。ベルンハルト様の風貌について口にしないことを条件に、ここで細々と暮らして参りました。でも。あの日、私がもっと瞳の色について自信を持って食い下がれば違っていたかもしれません」

 元々責任感の強い女性なんだろう。ベルるんの生い立ちを聞き、悔やんでいるように見えた。

「ありがとう!それじゃあ、建国記念の祭りの日までに、侯爵家のある街まで来てもらえないかな?そこで、侯爵に出産の日の様子を聞かれたら、素直に答えてほしいの」

 分かりました、と頷いてくれたエリザの手に、そっとお金を渡す。これは今朝イーライに会った際に、手持ちの気つけ薬を換金してもらったお金だ。流石に推しのお金ばかり使うのは、オタクの信条に反する!

「これは?」

「街までの交通費と、宿代だよ。足りなかったら、侯爵に言ってね」

 この村での生活にお金はさほど必要ないように見えるが、街へ向かうなら話は別だ。行くだけでも金はかかるし、建国記念日に滞在をするなら宿代も多くかかる。

「ありがとうございます。必ず、お祭りの日までには宿の方に着いておきます」

「うん!よろしくね」

 そう言ってエリザに片手を差し出すと、恐る恐るといった様子ではあるが手を握ってくれた。

 目標を達成し、エリザの家から出る。叔父側の人間ではなくて、本当によかった。

 これで下準備は完了だ。

 祭り当日の日、絶対に叔父の悪事を暴いて、叔父も何なら放置した侯爵にも、ベルるんに謝ってもらうぞ!私は一人拳を突き上げると、ベルるんにお土産になりそうなお花を探しに飛んだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

聖女を巡る乙女ゲームに、いないキャラクターの神子(私)がいる。

木村 巴
恋愛
 ヒロイン、ライバル令嬢、政略対象の王子様達、騎士、魔術師、神官といった面々が、震えている私を見つめている。その人達をみて、その絵が完成している事に衝撃を受けた。  私のポジションのキャラクターなんて居なかったよね?  聖女を決める試験を通して攻略するのよね?…聖女候補でもないし、居ないキャラクターの神子が私ってどういう事―?  大好きだったキャラクターも、三次元イケメンとなった彼らを、そのキャラクターだと認識出来なかった残念な私だけど…やっぱり推しに恋して推しと結ばれたい!そんなお話し。 ※本編10話で完結済みです。 ※番外編の聖女7話完結 ☆ヘンリー、侍女、神子とリオンの番外編を落ち着いたら更新予定です。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

俺と蛙さんの異世界放浪記~八百万ってたくさんって意味らしい~

くずもち
ファンタジー
変な爺さんに妙なものを押し付けられた。 なんでも魔法が使えるようになったらしい。 その上異世界に誘拐されるという珍事に巻き込まれてしまったのだからたまらない。 ばかばかしいとは思いつつ紅野 太郎は実際に魔法を使ってみることにした。 この魔法、自分の魔力の量がわかるらしいんだけど……ちょっとばっかり多すぎじゃないか? 異世界トリップものです。 主人公最強ものなのでご注意ください。 *絵本風ダイジェスト始めました。(現在十巻分まで差し替え中です)

モブだけど推しの幸せを全力サポートしたい!

のあはむら
恋愛
大好きな乙女ゲーム「プリンスオブハート」に転生した私。でも転生したのはヒロインじゃなくて、ヒロインの友達ポジション!推しキャラであるツンデレ王子・ディラン様を攻略できるはずだったのに、私はただの脇役…。ヒロインに転生できなかったショックで一度は落ち込むけど、ここでめげてどうする!せめて推しが幸せになるよう、ヒロインを全力でサポートしようと決意。 しかし、肝心のヒロインが天然すぎてシナリオが崩壊寸前!?仕方なく私が攻略対象たちと接触して修正を試みるけど、なぜか推しキャラのディラン様が「お前、面白いな」と興味津々で近寄ってくる。いやいや、ヒロインに集中してくれないと困るんですが!? ドタバタ転生ラブコメ、開幕! ※他のサイトでも掲載しています。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

悪役令嬢に転生したので、人生楽しみます。

下菊みこと
恋愛
病弱だった主人公が健康な悪役令嬢に転生したお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...