【完結】推しの悪役にしか見えない妖精になって推しと世界を救う話

近藤アリス

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幼少期の推し編

料理長と妖精

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 調理場では大柄な男性が、その身体からは想像できないほど繊細な手つきで魚料理を仕上げていた。

 大きなお皿の中心にちょこんと乗っている魚のソテーは、見た目だけではなく味も美味しそうなことが匂いで分かる。

 あんなに美味しそうなご飯作ってるのに、なんでベルるんのご飯は質素なの!

 どうやら料理は完成したようで、そのほかにもクリームスープやサラダなどがテーブル上に並んでいる。

「ヨスさん。坊ちゃまのご飯はできてますか?」

「げ、ニナだ」

 扉を開けて調理場に入ってきたニナを見て、一気に気分が悪くなる。

 先ほどベルるんに見せた嫌な顔の面影はなく、にこにこと愛想よく笑顔を浮かべている。

「ああ。昨日坊ちゃんがあまり寝れてないって聞いたからな。睡眠にも効果的なハーブを使った」

「ありがとうございます!さすがですね。これなら坊ちゃまも喜んで食べてくださるわ」

 そう言うと、いそいそとお盆にお皿を乗せて部屋から出ていく。

 え、あれベルるんのご飯?でもさっきニナが持ってきたから、絶対ベルるんの所には持って行かないよね。

ニナの後ろ姿をじっと見ていたヨスは、一つため息をつくと再び何かを作り始めた。

「もうしばらく坊ちゃんに会ってないが、元気にしているのか」

 調理場にはヨス以外の料理人はおらず、ぽつりと呟いた言葉に返事をする人はいない。

 このヨスって人はいい人ぽいな。けど、こんなに大きなお屋敷なのに料理人が1人っておかしくない?

それに、美味しそうなご飯をニナのせいでベルるんが食べられないことが分かって、悔しい気持ちでいっぱいだ。

 さっきのご飯は、ニナがどこかに持って行って誰かに渡してるのか、自分が食べてるのか。

 気になるけど部屋にベルるんを待たせているから早くしないと。

 きょろきょろと部屋の中を見渡すと、木箱の中に美味しそうなパンが並んでいた。

 これ持ってこう!でも、さっきのニナのリボンみたいに宙を飛んでたら変よね。

 パンの前でうーんと悩む。けど、脳内にご飯を前に私を待ってる推しの姿が浮かび、とにかくパンを持っていくことにした。

「この身体だと2個が限界かな」

 よいしょ、と片手に1つずつ持ってみる。

「周りからパンも見えなくなぁれ。なんてね」

 そう呟くと鏡に魔法をかけた時のように手からパンへと光が移る。

「おお。また光出た。もしかして周りから見えなくなってたりする?」

 試しにパンを持ってヨスの前をふわふわと飛ぶ。ヨスは気づいた様子なく、スープの入った鍋をかき混ぜている。

「これならもっと持っていける!」

 部屋の隅にあるカゴ、果物やチーズなどにも魔法をかけていく。

「よし、これでおっけー。ベルるんのところに戻ろう」

 持ち上げるとずしっと重たいけれど、推しが食べてくれるものを運んでると思えば重みもご褒美でしかない。

 パンや果物がなくなったことにヨスが気がつく前に、とカゴを持ったままベルるんの部屋へと急ぐ。

 部屋に着くと、私を待ってくれていたベルるんとご飯を食べ、そのままベルるんが身体を洗いに行くまでのんびり2人で過ごした。
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