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幼少期の推し編
作戦会議をする妖精
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私の話を真剣な表情で聞いていたベルるんは、全ての話が終わるとふーと大きなため息をついた。
「よかった。本当によかった。お母様が浮気なんてするわけないから」
真っ先に自分の母親の心配をするベルるんに、思わずうるっとする。
もちろんベルるんには、このままだと母親が自殺してしまうことは話してない。
「それで、これからのことなんだけどね。ベルるんの目を戻すには2つの方法があるんだけど。まず1つ目は強い癒しの力を持っている人に目を治してもらう方法ね」
「強い癒しの力?大司祭様とかじゃないと難しいのかな?」
「うーん。そうだね。大司祭様って呼べるの?」
ゲームでのヒロインは世界を救う聖女だ。その癒しの力がどれくらいの力量なのか分からないけれど、確実に治すならできるだけ地位の高い神官の方が安心だった。
「お父様なら呼べるとは思うけど、呼んでくれるか分からないよ」
基本的には家に帰ってこないベルるんの父親か。あんまり時間をかけると、今度は母親の自殺が心配になって来るから大司祭を呼ぶのは難しいな。
「もう1つの方法は、叔父に自分がやったことを自白させる方法だよ」
「自白?」
「うん。自分がベルるんの目の色を変えたって言ってもらうの。叔父さんはいつこの家に来るの?」
これも叔父が家に来るタイミングが大切だった。もし時間がかかるならそれも難しいから、この2つの方法以外を考える必要があった。
「2週間後に建国記念の祭りがあるんだけど、その時にいつも来るよ。叔父さんはいつも家に来ると夜に一人で僕の部屋に来て、たくさん悪いことを言ってくるからその時がいいかな」
ちょうどいいタイミング!と喜んでいたけれど、ベルるんが暗い表情で話す姿に胸が痛む。
え、わざわざ大の大人がこんな可愛くて小さい子の部屋に来て、ネチネチ悪口を吹き込むわけ?
「ベルるーん!次に叔父さんが来るのが最後だからね!もうそんな悲しい思いしなくていいからね!」
ベルるんの人差し指をぎゅっと両手で握りしめてそう言うと、ベルるんが嬉しそうに笑った。
「ありがとうアリサ。僕はなにをしたら良いの?」
「私がやるから大丈夫!ベルるんは」
「坊っちゃま。ご飯の用意ができました。入りますよ」
ベルるんはそのまま可愛い笑顔でいてくれたら十分だよ!と言おうとしたら、途中で誰かがドアを乱暴にノックして入ってきた。
入ってきたのはお盆を持ったニナだった。先ほど私が飛ばしたリボンは回収できたらしく、再びキュッと1つに髪の毛を結んでいる。
「ここに置いときます」
「うん。ありがとう」
お盆を乱暴にテーブルに置くと、ニナはずかずかとベルるんの方へ近づいてくる。怒ったような表情を浮かべているのは、ベルるんを萎縮させるためだろう。
「坊っちゃまは本当に悪い子ですね。先ほど貴方の顔を見てから、奥様は体調を崩されましたよ」
ベルるんの目の前に来ると、上から見下すようにしてそう言った。小柄な女性だが、まだまだ幼いベルるんからすれば大きな存在だ。
「奥様のことがお嫌いですか?」
「そんなことないよ!僕はお母様のことを愛してるよ」
必死にそう答えるベルるんを見て、ニナは鼻で笑う。
「どうだか。本当に奥様のことを愛しているなら、2度とそのお顔を見せない方がいいでしょうね」
ニナの言葉にベルるんは目に涙をためて俯いた。
「ベルるん!そんなおばさんの話聞かなくて良いからね!」
耳元でそう話しかけると、ベルるんは私を見て頷く。その表情は暗いままだ。
「それじゃあ私も忙しいので失礼しますね。これ以上役立たずな坊っちゃまにお時間を使えないので」
そう言うとニナは部屋を出て行った。
「リボンじゃなくてあいつの髪の毛むしってくる。許すまじ」
「アリサ!待って!」
あまりにも腹が立ってニナを追いかけようとすると、ベルるんに腕を掴まれる。
「僕気にしないよ。だって本当の目の色は銀色なんでしょう。それよりも、アリサもお腹すいたよね。僕と一緒にご飯にしよう」
ベルるんは私を励ますように笑顔を見せて、テーブルの方へ歩き出す。
「え、これがベルるんのご飯?」
テーブルの上を見てびっくりする。野菜や肉きれが少しだけ入ったスープに、褐色の固そうなパン、チーズのかけらがそこにはあった。
どう見ても侯爵の後継に出すようなご飯じゃない。過去編では触れられてなかったけれど、もしかして使用人みんなからいじめられてる?
「アリサはパンは食べられるの?チーズは?」
私の動揺には気が付かずにベルるんは椅子に座ると、私を見上げてニコニコしながら言う。
これはいかん。母親の自殺も目の色もやることは山積みだけど、まずは推しの生活環境を整えないと!
「パンもチーズも食べられるけど、私すごい量を食べるから取ってくる!ちょっと待ってて!」
こんな大きなお屋敷なんだから、絶対に調理場へ行けばもっと美味しいものがあるはず。とにかく美味しい料理を持ってこよう。屋敷になければ、外に出て探してこよう!
「そうなの?じゃあ僕食べずに待ってるね」
「ごめんねベルるん。すぐに戻るから!」
ビュンと部屋から急いで出て、屋敷内の調理場を探す。調理場をイメージすると脳内にマップが現れたため、すぐに辿り着けそうだ。
ニナの髪の毛をむしるのは今度にして、とりあえず推しに美味しいご飯届けないと!
「よかった。本当によかった。お母様が浮気なんてするわけないから」
真っ先に自分の母親の心配をするベルるんに、思わずうるっとする。
もちろんベルるんには、このままだと母親が自殺してしまうことは話してない。
「それで、これからのことなんだけどね。ベルるんの目を戻すには2つの方法があるんだけど。まず1つ目は強い癒しの力を持っている人に目を治してもらう方法ね」
「強い癒しの力?大司祭様とかじゃないと難しいのかな?」
「うーん。そうだね。大司祭様って呼べるの?」
ゲームでのヒロインは世界を救う聖女だ。その癒しの力がどれくらいの力量なのか分からないけれど、確実に治すならできるだけ地位の高い神官の方が安心だった。
「お父様なら呼べるとは思うけど、呼んでくれるか分からないよ」
基本的には家に帰ってこないベルるんの父親か。あんまり時間をかけると、今度は母親の自殺が心配になって来るから大司祭を呼ぶのは難しいな。
「もう1つの方法は、叔父に自分がやったことを自白させる方法だよ」
「自白?」
「うん。自分がベルるんの目の色を変えたって言ってもらうの。叔父さんはいつこの家に来るの?」
これも叔父が家に来るタイミングが大切だった。もし時間がかかるならそれも難しいから、この2つの方法以外を考える必要があった。
「2週間後に建国記念の祭りがあるんだけど、その時にいつも来るよ。叔父さんはいつも家に来ると夜に一人で僕の部屋に来て、たくさん悪いことを言ってくるからその時がいいかな」
ちょうどいいタイミング!と喜んでいたけれど、ベルるんが暗い表情で話す姿に胸が痛む。
え、わざわざ大の大人がこんな可愛くて小さい子の部屋に来て、ネチネチ悪口を吹き込むわけ?
「ベルるーん!次に叔父さんが来るのが最後だからね!もうそんな悲しい思いしなくていいからね!」
ベルるんの人差し指をぎゅっと両手で握りしめてそう言うと、ベルるんが嬉しそうに笑った。
「ありがとうアリサ。僕はなにをしたら良いの?」
「私がやるから大丈夫!ベルるんは」
「坊っちゃま。ご飯の用意ができました。入りますよ」
ベルるんはそのまま可愛い笑顔でいてくれたら十分だよ!と言おうとしたら、途中で誰かがドアを乱暴にノックして入ってきた。
入ってきたのはお盆を持ったニナだった。先ほど私が飛ばしたリボンは回収できたらしく、再びキュッと1つに髪の毛を結んでいる。
「ここに置いときます」
「うん。ありがとう」
お盆を乱暴にテーブルに置くと、ニナはずかずかとベルるんの方へ近づいてくる。怒ったような表情を浮かべているのは、ベルるんを萎縮させるためだろう。
「坊っちゃまは本当に悪い子ですね。先ほど貴方の顔を見てから、奥様は体調を崩されましたよ」
ベルるんの目の前に来ると、上から見下すようにしてそう言った。小柄な女性だが、まだまだ幼いベルるんからすれば大きな存在だ。
「奥様のことがお嫌いですか?」
「そんなことないよ!僕はお母様のことを愛してるよ」
必死にそう答えるベルるんを見て、ニナは鼻で笑う。
「どうだか。本当に奥様のことを愛しているなら、2度とそのお顔を見せない方がいいでしょうね」
ニナの言葉にベルるんは目に涙をためて俯いた。
「ベルるん!そんなおばさんの話聞かなくて良いからね!」
耳元でそう話しかけると、ベルるんは私を見て頷く。その表情は暗いままだ。
「それじゃあ私も忙しいので失礼しますね。これ以上役立たずな坊っちゃまにお時間を使えないので」
そう言うとニナは部屋を出て行った。
「リボンじゃなくてあいつの髪の毛むしってくる。許すまじ」
「アリサ!待って!」
あまりにも腹が立ってニナを追いかけようとすると、ベルるんに腕を掴まれる。
「僕気にしないよ。だって本当の目の色は銀色なんでしょう。それよりも、アリサもお腹すいたよね。僕と一緒にご飯にしよう」
ベルるんは私を励ますように笑顔を見せて、テーブルの方へ歩き出す。
「え、これがベルるんのご飯?」
テーブルの上を見てびっくりする。野菜や肉きれが少しだけ入ったスープに、褐色の固そうなパン、チーズのかけらがそこにはあった。
どう見ても侯爵の後継に出すようなご飯じゃない。過去編では触れられてなかったけれど、もしかして使用人みんなからいじめられてる?
「アリサはパンは食べられるの?チーズは?」
私の動揺には気が付かずにベルるんは椅子に座ると、私を見上げてニコニコしながら言う。
これはいかん。母親の自殺も目の色もやることは山積みだけど、まずは推しの生活環境を整えないと!
「パンもチーズも食べられるけど、私すごい量を食べるから取ってくる!ちょっと待ってて!」
こんな大きなお屋敷なんだから、絶対に調理場へ行けばもっと美味しいものがあるはず。とにかく美味しい料理を持ってこよう。屋敷になければ、外に出て探してこよう!
「そうなの?じゃあ僕食べずに待ってるね」
「ごめんねベルるん。すぐに戻るから!」
ビュンと部屋から急いで出て、屋敷内の調理場を探す。調理場をイメージすると脳内にマップが現れたため、すぐに辿り着けそうだ。
ニナの髪の毛をむしるのは今度にして、とりあえず推しに美味しいご飯届けないと!
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