上 下
36 / 51

36

しおりを挟む
計10回。これはヴィラの部屋までに花梨がぶつかった回数。

 相手も相手で避ければいいのだが、龍の娘がふらふらと歩いていたら避けることも出来ないみたいだ。

(――考えながら歩ける人って器用だよね)

 鼻っ面を軽く撫でて、一つため息。
そろそろ考え事をしながら何かをする癖は、やめようと密かに誓う。

「ヴィラ、入るよ」

 軽くノックをして、そう言うが、何故か返事が帰ってこない。

 不在なのかな? と思いながらドアを開けてみれば、ベットの上にどっかりと座るヴィラの姿。
その横には、うとうととまどろむミケが居る。

『おかえりなさいです~』

 上機嫌で寄ってきたミケとは違い、ヴィラは憮然とした表情で花梨の方も見ない。

「怒ってる?」

 慌てて寄り、ヴィラの隣に腰を下ろす。
花梨が傍に寄るのが分かると、ヴィラは俯いた。

「ヴィラ?」

 反応のないヴィラに不安になった花梨は、ヴィラの顔を覗き込んだ。

「……どっち?」

 思わず言ってしまった言葉に、慌てて口を塞ぐ。

 花梨の反応も無理もなかった。
俯いたヴィラの表情は相変わらずの憮然としたものだが、顔は真っ赤。とにかく複雑そうな表情。

「え~と。ルーファの熱もう下がったよ」

「気にしてません」

 つん、というようにヴィラが言えば、少し花梨の瞳が潤んだ。

 悲しいわけではなく。怒ってるのか照れてるのか。よく分からない反応に困ってしまったのだ。
そんな花梨の考えなんて、ヴィラに分かるわけもなく。
花梨が泣き出しそう、という事実だけが分かり、ヴィラの表情がぴくっと引きつった。

「か、花梨。本当に気にしてませんから」

 完全に花梨の方を向いて、引きつった微笑を浮かべてヴィラが言った。

「そっか。良かった」

 にっこりと花梨が嬉しそうに笑みを浮かべれば、ほっとヴィラは胸を撫で下ろす。

『そうですー。ヴィラさんの場合は嫉妬です~』

「ミケ!」

「え?」

 ミケの言葉に、空気が固まる。

(――嫉妬ってあれだよね。ヤキモチとかそんなアレだよね。いやいや、えー!)

 パチパチと数度瞬きをして、そのまま花梨は俯いた。じわじわと気恥ずかしいような、嬉しいような感情がこみ上げてくる。

(――落ち着け、私。本人が言ったわけじゃないし。あ、あれだ子供がおもちゃを取られて、それ俺のなのにぃ。ってぷうって膨れるみたいな!そんな感じだ! 可愛いなぁじゃなくて!……なんだ、びっくりしたなぁ)

 勝手な結論にたどり着いた花梨は、ほっと息をついた。しかし、胸の動機はまだ落ち着かない。

 ぎゅっとベットのシーツを握って、意を決したように顔を上げた。

 ヴィラも同じタイミングで顔を上げ、同時に目が合う。に、にこ。と引きつった笑みを花梨が浮かべれば、ヴィラも同じような笑みを返してくる。

(――こ、これはまずい。別の話題を出さなきゃ。え~と)

「あ!」

 思わず大きな声を上げた花梨は、恥ずかしそうに頬を染めた後。わざとらしく咳をしてみせた。

「前の龍の娘の事なんだけど、一度会ってみたいな」

「前の、ですか?」

 ヴィラの言葉に神妙な表情で頷いてみせる。

「ちょうど良かった。実は来週までには来ると文が来ているんですよ」

「え? 本当?」

「えぇ」

 やった! とガッツポーズをとって、ヴィラに抱きついた。突然の行動に、ヴィラは身動きが出来ない。

「実は龍の娘で、ちょっと分からないこととか相談したかったんだ~。これで相談できる!」

「そ、そうですか」

 嬉しそうな花梨に対し、ヴィラは顔を真っ赤に染め上げて困ったように目を彷徨わせていた。

「どんな人かなぁ。あ~楽しみ」

 うずうずとする体を抑えられずに、花梨はそのまま突然立ち上がった。そのままくるっとヴィラの方を振り返ると、嬉しそうに微笑んだ。

「来たら教えてね」

「はい。勿論」

 ヴィラの顔が何故か真っ赤なことに、少し首を傾げるが今の上機嫌の花梨にとっては、あまり気にならなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】スクールカースト最下位の嫌われ令嬢に転生したけど、家族に溺愛されてます。

永倉伊織
恋愛
エリカ・ウルツァイトハート男爵令嬢は、学園のトイレでクラスメイトから水をぶっかけられた事で前世の記憶を思い出す。 前世で日本人の春山絵里香だった頃の記憶を持ってしても、スクールカースト最下位からの脱出は困難と判断したエリカは 自分の価値を高めて苛めるより仲良くした方が得だと周囲に分かって貰う為に、日本人の頃の記憶を頼りにお菓子作りを始める。 そして、エリカのお菓子作りがエリカを溺愛する家族と、王子達を巻き込んで騒動を起こす?! 嫌われ令嬢エリカのサクセスお菓子物語、ここに開幕!

虐げられていた黒魔術師は辺境伯に溺愛される

朝露ココア
恋愛
リナルディ伯爵令嬢のクラーラ。 クラーラは白魔術の名門に生まれながらも、黒魔術を得意としていた。 そのため実家では冷遇され、いつも両親や姉から蔑まれる日々を送っている。 父の強引な婚約の取り付けにより、彼女はとある辺境伯のもとに嫁ぐことになる。 縁談相手のハルトリー辺境伯は社交界でも評判がよくない人物。 しかし、逃げ場のないクラーラは黙って縁談を受け入れるしかなかった。 実際に会った辺境伯は臆病ながらも誠実な人物で。 クラーラと日々を過ごす中で、彼は次第に成長し……そして彼にまつわる『呪い』も明らかになっていく。 「二度と君を手放すつもりはない。俺を幸せにしてくれた君を……これから先、俺が幸せにする」

溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!

恋愛
 男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。  ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。  全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?! ※結構ふざけたラブコメです。 恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。 ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。 前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。 ※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。

【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど

monaca
恋愛
前世で目立って嫌だったわたしは、女神に「モブに転生させて」とお願いした。 でも、なんだか周りの人間がおかしい。 どいつもこいつも、妙にキャラの濃いのが揃っている。 これ、普通にしているわたしのほうが、逆に目立ってるんじゃない?

処理中です...