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 しん、と静まった室内。花梨は穏やかな寝息を立てており、その横には寄り添うようにミケが居た。

 その目はうっすらと開いており、金色の瞳が闇の中に光る。花梨が寝ている際、起きている事は花梨ですら知らない事だった。

 がさ、と微かな音とともに、漏れる光。ミケが耳を立てて、そちらを睨みつければ複数の影があった。

 うぅ~、と低い唸り声を上げて、ミケは元の姿に戻る。ミケの姿に、影が小さな悲鳴を漏らした。

「ひっ! お、おい。嘘じゃなかったのかよ」

「確かに、ドヒュル様からはそう聞いたんだ!」

 ミケは花梨を起こすとともに、城の者を呼ぶために大きく咆哮をあげた。

「ミ、ケ?」

 一体こんな時間にどうしたんだろう、と花梨は眠たそうに瞳を開けた。

「花梨!」

「え?」

 突然聞こえたヴィラの声に、完全に目を覚ます。飛び込んできた光景は、ミケと対じする複数の男。そして、扉から息を切らしたように入ってきたヴィラ。

「くそっ!」

 ヴィラの姿を見ると、男達はすぐに走り出した。

 しかし、この部屋には扉は一つしかない。窓は花梨のベットを超えなければならない。扉の前には、すでに剣を構えたヴィラ。逃げられるはずがない。

 ヴィラは全てを捕らえようとはせず、一人の剣をすばやく叩き落すとそのまま押さえつけた。

「どうしたっ」

 駆けつけたのはゼフィルド、その後ろにはライヤが居た。珍しく息を切らすゼフィルドがの姿。ミケの唸り声に花梨の身に何かが起こったと思ったのだろう。

「これは……」

 ぐっと眉を顰めて、ライヤが押さえつけられている男を見つめた。

『ドヒュル、という人が関係してます!』

「兄上、か」

 ミケの声に、ヴィラは怒りを隠しきれないように唇を噛んだ。

「お兄さん、いるの?」

 確か前王が死んでしまったため、第一王位継承者のヴィラが継いだはずじゃなかった? と首を傾げる。

「えぇ、まぁ」

 苦虫を噛み潰したような表情のヴィラに、何となく花梨も口を閉ざした。

「ドヒュル殿が関係しているなら、早々に事を進めたほうがいいですね」

 ライヤの言葉にヴィラは無言で頷いた。

「それと、花梨はここで眠るのは危険ですね。もっと良い場所があればいいのですが……」

 ため息交じりの言葉に、花梨は慌てて首を横に振った。

「大丈夫だよ、多分」

「多分じゃ駄目ですよ。花梨、私に二つほど良い部屋が浮かんでいるんですよ。
一つは私の部屋、というよりも王の部屋と考えてください。もう一つは牢屋。どっちがいいですか?私にしてみれば、牢でなんて寝かせたくないんですが」

 俯いたままで、捲くし立てるように言われた言葉に少し混乱する。俯いているため、ヴィラの表情は花梨には見えない。

「え、でも。悪いよね」

「いいえ。何よりも警備が整ってますし」

 ヴィラの言葉に、ライヤが少し笑う。

「警備ねぇ」

「何か間違っているか?」

 ふん、と花梨への態度とは全く違う態度で、不機嫌そうに聞き返す。

「いいえ、合ってますね」

 肩をひょい、とあげるライヤ。その後ろでは誰にも知られずゼフィルドが暴れる男をまだ押さえている。

「それじゃあ、お邪魔しようかな」

(――これ以上断ったら、寧ろ悪いしね)

「そうですか」

 花梨の言葉に、ヴィラは嬉しそうに微笑んだ。

「ネル、早くしないと大変な事になりますよ」

 ゼフィルドの下で暴れる男を指差して、にっこりと楽しそうにライヤが笑みを浮かべた。

「分かっている。それじゃあ、花梨さん。また後で来ますね」

「ん。またね」

 まるで嵐が去ったようだ。

「あ、そうだ。ミケ、ありがとうね」

 ミケの頭を撫でながら、心から感謝する。

『えへへ。どうってことないですー』

 扉の前に残されたゼフィルドが、無言で去っていこうとした。それを元の姿に戻ってミケが肩に飛びつき、阻止する。

「……どうしろと?」

 微かに困ったような顔で、じっと猫と見つめあう姿に花梨が噴出した。その様子に、ゼフィルドはミケを引き剥がした。

「わわ、ちょっと待って! ねぇ、ゼフィルドはさっきの、ドなんたら知ってる?」

「ドヒュルだ」

「そう、そのドヒュルって人。何でお兄さんなのにヴィラが王様なの?」

 困ったことはゼフィルドに聞け、という方程式がいつのまにやら花梨の中では出来てるようだ。

「単純なことだ。ヴィラーネルト王の母君が正室、ドヒュルの母が側室。そういうことだ。まぁ、元々はもう一人正室の子が居た。今はもう死んでしまっていないがな」

「そうなんだ……」

 正室の子。といえばヴィラの血の繋がった兄か弟っていう事か、と腕を組んで花梨は考え始めた。その様子を見たゼフィルドは、今度こそ部屋を去っていった。

 ふぅ、と一つ息をついて、目を擦る。

「今何時くらいだろう……ん~。眠い」

『少し寝たらどうですか~。ヴィラさんが来たら僕がしっかり運びますから!』

 にゃん、と少し強めにミケが鳴いた。

「ん。それじゃあ運ばなくて良いからヴィラが来たら起こして」

 言葉尻には既に瞼は閉じ、再び部屋にはしん、と静まり返った。
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