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リルに連れられた花梨は、真っ赤な顔で俯いて歩いている。
(――この格好は、ちょっと……)
花梨の髪は綺麗に結い上げられ、白色のドレスを着ていた。
胸元の刺繍にあわせるような、清楚なネックレス。唇には、薄い紅がひいてある。
出来上がった瞬間に「合格です!」と興奮した様子でリルが言ったように、絶世の美女、まではいかないものの。とても可愛らしく仕上がっている。
本当は、胸元が開いたドレスを着せられそうになったのだが、それは必死で花梨が断った。
「花梨様」
リルの声に顔を上げれば、大きな扉が目の前にあった。
「此処が謁見の間でございます。さぁ」
扉を開けたことを、花梨はすぐに後悔した。
突き刺さる視線。訝しげなものが多い。あまり好意的な視線は、存在していなかった。
中心にある王座は、誰も座っていない。その前に跪く形で待っているのは、ゼフィルドだった。
「ゼフィルド」
走ってしまいたいのをぐっと堪えて、なるべく姿勢良くゼフィルドの元まで歩み寄る。
ゼフィルドの傍まで行くと、同じように跪いた。
「黙っていろ」
そう静かな声で言われ、花梨はわけも分からずに眉を寄せる。
「ヴィラ、王は?」
「もう来るはずだ」
その言葉のすぐ後、静まっていた部屋が微かにざわつき始めた。
花梨が視線を上げた先には、ゆったりと王座へ腰を下ろしたヴィラの姿。
思わず声を上げかけたが、ゼフィルドの鋭い視線で牽制させられる。
「ゼフィルド・ツザカ。ツザカ国領主、オールドの命を受け使者としてやって参りました」
そう言うと、ヴィラの横に座る男性にゼフィルドは紙を渡した。
その男性の手から、ヴィラの元へ渡る。
(――国の名前を、苗字にしちゃって良いのかなぁ)
「……これが、オールド殿の考えだと受け取るが、問題は無いな?」
憮然とした表情で、ヴィラが言う。その喋り方に、少しだけ花梨は驚いてしまう。
「はい」
「そうか。その者は」
ヴィラの視線が、花梨の方へ移る。
「私の妻、花梨でございます。花梨、顔を」
ゼフィルドの聞きなれない敬語に少しだけ笑いそうになりながら、顔を上げた。
びくっとヴィラの頬が引きつるが、表情は全く変わることが無い。
「長旅、ご苦労だった。ゆるりと休まれるが良い」
その言葉が合図のように、ゼフィルドが立ち上がる。
(――ヴィラ?全く反応が無い)
何故無視するのか、分からずに花梨は立ち上がらない。
顔を見れば、何かしらのアクションを取ってくれると花梨は思っていたのだ。
「立て」
小声で言って、ゼフィルドが花梨の腕を掴んで立たせる。
「ゼフィルド、ヴィラが」
「黙れ、その名を出すな」
動揺していたため、思わず『ヴィラ』と呼んでしまう。
花梨はただ困惑顔のまま、ゼフィルドに引かれていく。
二人が去った謁見の間では、微かに不満の声が上がっていた。
「何故、わざわざこの場に女を」
そう誰かが言った途端に、皆が賛成の言葉を発する。
誰もがゼフィルドの意図を掴むことが出来なかった。
それと同時に、何故王であるヴィラが深く聞かなかったのか。疑問が膨らんでいく。
「王、まだお仕事が」
その疑問を誰かが口を開くより早く、ヴィラの傍に居た男性がそう告げる。先ほど、ゼフィルドから紙を受け取った者だ。
「あぁ。ライヤ……そろそろ動くぞ」
ライヤ、と呼ばれた男性は、ヴィラの含むような言葉に薄く笑った。
「えぇ、そのようですね。それよりも、次はルファムア殿との謁見、楽しみですねぇ」
「楽しんでいるのは、お前くらいだろう」
そう吐き捨てるように言って、ヴィラは花梨が出て行った扉の方を見つめた。
「時が動くのは嬉しい事だが……花梨さん」
複雑そうな表情で呟いた言葉に、ライヤが訝しげな表情を浮かた。
(――この格好は、ちょっと……)
花梨の髪は綺麗に結い上げられ、白色のドレスを着ていた。
胸元の刺繍にあわせるような、清楚なネックレス。唇には、薄い紅がひいてある。
出来上がった瞬間に「合格です!」と興奮した様子でリルが言ったように、絶世の美女、まではいかないものの。とても可愛らしく仕上がっている。
本当は、胸元が開いたドレスを着せられそうになったのだが、それは必死で花梨が断った。
「花梨様」
リルの声に顔を上げれば、大きな扉が目の前にあった。
「此処が謁見の間でございます。さぁ」
扉を開けたことを、花梨はすぐに後悔した。
突き刺さる視線。訝しげなものが多い。あまり好意的な視線は、存在していなかった。
中心にある王座は、誰も座っていない。その前に跪く形で待っているのは、ゼフィルドだった。
「ゼフィルド」
走ってしまいたいのをぐっと堪えて、なるべく姿勢良くゼフィルドの元まで歩み寄る。
ゼフィルドの傍まで行くと、同じように跪いた。
「黙っていろ」
そう静かな声で言われ、花梨はわけも分からずに眉を寄せる。
「ヴィラ、王は?」
「もう来るはずだ」
その言葉のすぐ後、静まっていた部屋が微かにざわつき始めた。
花梨が視線を上げた先には、ゆったりと王座へ腰を下ろしたヴィラの姿。
思わず声を上げかけたが、ゼフィルドの鋭い視線で牽制させられる。
「ゼフィルド・ツザカ。ツザカ国領主、オールドの命を受け使者としてやって参りました」
そう言うと、ヴィラの横に座る男性にゼフィルドは紙を渡した。
その男性の手から、ヴィラの元へ渡る。
(――国の名前を、苗字にしちゃって良いのかなぁ)
「……これが、オールド殿の考えだと受け取るが、問題は無いな?」
憮然とした表情で、ヴィラが言う。その喋り方に、少しだけ花梨は驚いてしまう。
「はい」
「そうか。その者は」
ヴィラの視線が、花梨の方へ移る。
「私の妻、花梨でございます。花梨、顔を」
ゼフィルドの聞きなれない敬語に少しだけ笑いそうになりながら、顔を上げた。
びくっとヴィラの頬が引きつるが、表情は全く変わることが無い。
「長旅、ご苦労だった。ゆるりと休まれるが良い」
その言葉が合図のように、ゼフィルドが立ち上がる。
(――ヴィラ?全く反応が無い)
何故無視するのか、分からずに花梨は立ち上がらない。
顔を見れば、何かしらのアクションを取ってくれると花梨は思っていたのだ。
「立て」
小声で言って、ゼフィルドが花梨の腕を掴んで立たせる。
「ゼフィルド、ヴィラが」
「黙れ、その名を出すな」
動揺していたため、思わず『ヴィラ』と呼んでしまう。
花梨はただ困惑顔のまま、ゼフィルドに引かれていく。
二人が去った謁見の間では、微かに不満の声が上がっていた。
「何故、わざわざこの場に女を」
そう誰かが言った途端に、皆が賛成の言葉を発する。
誰もがゼフィルドの意図を掴むことが出来なかった。
それと同時に、何故王であるヴィラが深く聞かなかったのか。疑問が膨らんでいく。
「王、まだお仕事が」
その疑問を誰かが口を開くより早く、ヴィラの傍に居た男性がそう告げる。先ほど、ゼフィルドから紙を受け取った者だ。
「あぁ。ライヤ……そろそろ動くぞ」
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「えぇ、そのようですね。それよりも、次はルファムア殿との謁見、楽しみですねぇ」
「楽しんでいるのは、お前くらいだろう」
そう吐き捨てるように言って、ヴィラは花梨が出て行った扉の方を見つめた。
「時が動くのは嬉しい事だが……花梨さん」
複雑そうな表情で呟いた言葉に、ライヤが訝しげな表情を浮かた。
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