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 兵士達に案内されて連れてこられた客室。赤を基調とした、とても素晴らしい部屋だったが花梨の機嫌は悪い。

「何で、何で。私がゼフィルドの奥さんー!」

 その声に、ミケが驚いてベットから落ちた。

 今この部屋には、花梨とミケのしかいない。ゼフィルドは別室へ案内された。

『ゼフィルドさんが、そう言ったからご主人様が入れたんですよー』

 相変わらず間延びした気の抜ける声だ。

「それは分かってるよ。っと、誰か来たみたい」

 ノック音に、花梨は慌てて身なりを整えた。

「失礼します。在城中、お世話させてもらいます。リルと申します」

 入ってきたのは、若い娘。

「あ、花梨です」

 リル、と名乗った少女はとても独特の雰囲気を持っていた。口調は固いのだが、声色が穏やかで気安さを感じる。

「花梨様は、ゼフィルド様とお二人でツザカからいらっしゃったのでしょう?
大変ではありませんでしたか?」

「あ、まぁ。そこそこに」

 我ながら、何ともまぁおかしな返事。花梨はこっそり、ため息をついた。

「ヴィラ……ヴィラーネルト様は」

 ヴィラ、と呼びそうになり、慌てて言い直す。

「はい?」

 リルは気にしてはいないようだ。

「どんな方なんですか?」

 敬語は使いにくい。ちらちらとミケを伺って言葉があっているかを確かめる。

「とても素晴らしい方だと私は思います。ただ、龍の娘には好かれていないのでしょうか」

「どういう意味ですか?」

 私に嫌われている? 意味が分からないと。花梨は首を傾げる。

「以前の龍の娘は、ヴィラーネルト様のお爺様に当たるサーファス様のときに現れた方で。初めて聖獣様をお呼びになられた方です。

 ただ、サーファス様がお亡くなりになられた際には、ヴィラーネルト様のお父様、ラルフ様にも仕えずに暫く城に在住したのち、姿を消されました」

 もしかして、昔にヴィラが言っていた唯一確認された龍の娘、とは彼女のことなんだろうか?

 俯き、考える始めた花梨に気が付かずに、リルは言葉を続ける。

「王家にとっては、とても辛いのですが。民衆達にとってはかなり好かれている話で。今では劇で良く登場するんです。生涯サーファス様を愛した、として」

 聖獣を従えて、ただ一人の王を救った龍の娘。

きっと素晴らしい人だったんだろう、と花梨は感動した。それと同時に、何か機会があるならぜひ劇を見たいとも思った。

「ただ、何故この時期に? と皆に言われておりました。龍の娘が現れたときは、まだ青の王子は生まれておりませんでしたので」

「なら、災害は?」

「ありませんでした」

 首を横に振って、リルが言う。

 話が途切れ、何となくの沈黙が続いていると、突然リルが声をあげた。

「ど、どうしたの?」

 思わず敬語も崩れる。

「私ったら!花梨様の用意を言われておりました」

「用意?」

「はい。花梨様も王の御前へ出てもらいますので。これはゼフィルド様の要求でございます」

(――ゼフィルドが……きっと気を使ってくれたんだね。これでヴィラに会える!)

 嬉しさに頬を緩ませていると、リルが扉を開けて数人の女性を招き入れる。その女性達の手には、装飾類や沢山の服が持たれている。

「さぁ、始めましょう!」

 その言葉に、女性達はピッタリと息の合った返事を返した。

 じりじりと、笑顔で近寄ってくる女性達。

「あ、え。あの。着替えなら自分で」

 なにやら威圧的な物すら感じ、思わず声が震えた。

「ミ、ミケ」

『頑張ってくださいね~』

 ミケは傍観を決めるようだ。花梨と目を合わせると、ベットの上でにゃんと嬉しそうに鳴いた。

「花梨様。大人しくしてくださいませ」

 にっこり笑ったリルに、どこかで見たことある笑みだと頬を引きつらせる。

(――タグミだ、リルはタグミ属性だ!)

「はい」

 その笑顔に逃げるのを諦めて、ガックリと肩を落とした。

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