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 目を開けると、花梨は深くため息を吐く。

(――もう少し、話してたかったなぁ)

 目線だけを動かして、時間を確認する。時計の針は七時を差していた。

「うわっ」

 どれだけ寝てたんだ、と心の中でツッコミを入れた。

 ドンドンドンと床から音が鳴り、苦笑する。何時もこの時間になると、ご飯に呼ばれるのだ。それも、叔母は無理やりに。七時には叔父が帰ってくるからだった。

 昔、ご飯を花梨に食べさせなかった事があったのだが、その時叔父に色々と言われたようだった。

「今日眠れるかなぁ」

 明日も学校があるのだから。思わずため息。何だか今日は良くため息をついている気がする、と花梨は思った。


















「あ、叔父さん。お帰り」

「あぁ、ただいま」

 少し猫背の男、花梨の叔父である正樹がにっこりとする。彼だけが、今のところ花梨に優しかった。

 テーブルの上に並ぶご飯は二人分だけ。叔母はもう一人で食べたのだろう。
その姿は見えない。別の部屋からはテレビの音量がわざとらしく上げられていた。

「全く、あいつは」

 苦々しく正樹が呟く。その言葉に花梨は困ったように笑うだけ。

「食べようか?」

「うん」

 そう言って椅子に座ったとき、ぐちゃぐちゃのスカートが見えて花梨は自分の失敗を後悔した。

 何も言わない正樹。その態度に不思議に思いじっと見つめる。

「……聞いて欲しいのか?」

 悲しそうに笑って言われた言葉に、花梨は顔を真っ赤に染め上げた。

(――気を使ってくれたのに、恥ずかしい!)

 正樹の心遣いを無駄にした自分が、どうしようもなく恥ずかしかった。

「うぅん。そんな事ないよ」

 そう何とか笑みを浮かべて、正樹に言った。

「なら、食べよう。あ、でも。明日は大丈夫なのか?」

 箸は止めずに、軽い感じで正樹は花梨へたずねた。

「うん。体操服で行くよ。先生には汚れたって言うし」

 花梨もなんでもないことのように、そう言った。

 そこからは何時も通り。二人の会話する時間がこの夕食の時間だけだからだろうか?会話は弾み、楽しい時間を花梨はすごした。





















 カーテンから漏れた光が、花梨の顔を照らす。目を閉じたままベットに横になっている彼女は、ゆっくりと動き出した。

「あ~。寝れなかった」

 目元を擦り、花梨はぐぐっと両手を伸ばした。

 そのまま立ち上がると、机の上のパンを取る。朝ごはんは何時もパン。これは正樹に頼んだ事だった。

 毎朝、毎朝。叔母はご飯中に花梨に冷たく当たり、その叔母の態度に正樹が怒る。そんな毎朝にいい加減疲れ、花梨が正樹に頼んだのだった。

 花梨が正樹からもらえるお小遣いは、こういった食べ物や、飲み物に使われていた。

「面倒だなぁ。学校」

 ふぅと最近癖になり始めたため息を吐く。行けば再び虐められると分かっているが、それでも高校卒業したかった。そして、そのまま家を出るのだ。

「よし、頑張ろう!」

 ぱんっと両手で顔を叩いて、にこっと笑って見せた。
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