異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話 外伝

春紫苑

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歯車 1

残された世界の 2

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 で。
 丁度地域課から生活安全課へと移動になったはじめの仕事がこれとなり、仕事まで引っ提げてくるとはなんと有能かと茶化された。
 その当時、地域の派出所勤めだった俺の、痴漢検挙率は群を抜いており、それを買われての引き抜きで、丁度移動のため、色々ごちゃごちゃしてた時期だったのだ。
 話を強引に進めていた上司もご満悦で、その仕事は願い通り俺に割り振られ……。

 調査の結果逮捕したのは、彼女が友人だと思っていた同大学卒業生であり、当時所属していた同好会の先輩だった。
 彼女の部屋にも何度か訪れており、その時に盗聴器を複数個仕掛け、誕生日にプレゼントしたブランドバッグにGPSを仕込み、隙を見てこっそり合鍵まで作っていたというこの男、つまりまぁ、ストーカーだったわけだな。

「キモすぎる……動機までもがキモすぎる……」
「まぁだいぶアレだったなぁ……」

 その先輩は別に、小夜歌さんの恋人でもなんでもなく……。親しいと言うほどもない、友人関係でしかなかった。
 出会った時から彼女のことが気になっており、あちらからアピールしてもらおうと躍起になっていたという。
 そのため彼女を追い詰めようと、生活スタイルを盗聴やGPSを駆使して分析し、彼女の情報を流し、痴漢しやすい女と吹聴した。
 更に彼女が乗る電車に同乗し、縋ってくる機会を待っていた。
 俺と小夜歌さんが出会った日も、同じ車両に同乗していたそうだ。

 いや、分からん……なんで告らない? アピールしてもらおうってなんだそりゃ。と、叫ぶ俺に、報告内容を伝えてくれているのは、いつも頼りにしている俺の上司。あの時はまだ上司じゃなかった、頼れる女性警察官こと、相良殿である。……幼少の頃から面識があって頭が上がらない……。

「だいたい意味が分からんっ。なんで好きな女を痴漢させてんだこの馬鹿は!」
「自分に泣きついてほしかったんだそうだ」
「さらに意味不明! そこまで仲良くなかったろ⁉︎」
「彼女は知人程度の認識だったからなぁ……。
 そもそも異性には相談しにくい案件だ。そこにすら思考が行きつかなかった。
 けどまぁ、そのうち痴漢されてる彼女を視姦するのが興奮するとなったようでな……」
「アアアァァァァぁぁぁぁぁああああ」

 もう聞きたくない! なんだその変態っぷりは!
 痴漢されてる様子を人まで雇って陰ながら撮影させたりもしていたのだそう。
 親の会社である結構大手の企業に勤めるエリートだったのだが、人はストレス溜めるとろくなもんにゃならない。

 まぁとにかく、その奥手で世間ズレした狂気の沙汰ででしかない思慕の念は全く届かず、小野小夜歌さんはその男ではなく、偶然乗り合わせた通りすがりのお巡りさんに泣きついてしまった。
 怪しまれないためそのまま電車に乗ってその場を去った男は、GPSが警察署を示したことに不振を抱いて警戒を強めたそう。

 そして彼女の行動が予測されてる節があるのを分かっていた俺は、色々を違和感ないように時間を掛けて準備し、まずは彼女の彼氏になった風を装って部屋を訪れ捜索、盗聴器を複数個見つけ、いくつかは処分。そしてどうもカバンも怪しいぞと、デートを装って呼び出した時に確認し、縫い込まれた端末を発見し……。
 星を釣ることにして、デートの予定を立てたふりを装い、残してあった盗聴器から情報を流した。
 指定の日の部屋を空け、小夜歌さんにGPS付きの鞄を持たせて外出させて罠を張った。
 焦った男は彼女の部屋の盗聴器を回収しようと、合鍵を使って部屋へと忍び込み…………お縄となったわけだ。勿論、潜伏していた俺の手で。現行犯で。
 小夜歌さんは俺に変装したこの上司に頼み、鞄は別の仲間に持ち歩いてもらっていた。

「にしても都築……今回はお前、体を張ったなぁ……」
「……仕方ないでしょうが。それが一番安全且つ早いと思ったんで……」

 ちょっとドジを踏んで負傷してしまったのはいただけない結果だった。あんなヒョロいののテンパった攻撃をもらってしまうとは……焼きが回った……。
 だけど待ち伏せ役を買って出たことに後悔はしていない。
 この手の輩は陰湿な上にしつこいから問答無用なのが一番じゃないっすか。……若干逸脱した調査だったかもしれませんが。
 それに……小夜歌さんはそんな陰湿な行為に長年晒されてきて、心身ともに参っていたのだ。彼女の今後も考えれば、必要なことだと思った。

 そう説明したのに上司ときたら、なんか凄い悪い顔でせせら笑い……。

「はぁん、誤魔化すってことは怪しいよなぁ。
 ……そういえばお前、この前非番の日、小夜歌ちゃんと駅前に書店巡りデート行ってたって?」
「あんた俺にGPSかなんか仕込んでんのか」

 ついそう言うと、ケタケタ笑ってスマホを見せられる。その小夜歌嬢からつらつらと並ぶ報告…………。

「ダダ漏れじゃねぇか!」
「小夜歌ちゃん悩んでたぞぉ? お前が敬語やめてくれないって。
 年下なのに。居た堪れないっ。名前だって未だ苗字でしか呼んでくれないっ。あれぇ? 私には小夜歌さんって言ってるの、聞いてるんだがなぁ?」

 この上司……っ。

「私のために怪我させて本当に申し訳ないっ。どうすればお詫びになると思いますか⁉︎」
「職務です!」
「……って言ってお詫び受け取ってもらえませんでした! どうしよう、怒らせてしまったかもしれません、嫌われてしまったかも⁉︎」

 読み上げんなっ!
 ヘラヘラ笑いやがってこいつは、ほんとイカれてやがるっ。

「のらりくらり……退院させてもらえないのはあんたの差し金かよっ」
「明日には退院できるじゃないか」

 そう言いつつ、本当はもっと休ませたいんだがなと言うが、顔は言ってない……明らか楽しんでる……。

「そもそもお前一人暮らしだろ。身の回りのこととか帰っても困るだろぉ?」
「困りませんガッ! 全部自分でやってんだよ普段からっ」
「え~、片手で? 食事は? 洗濯は? 無茶すると長引くぞ?」
「コンビニでもデリバリーでもクリーニングでも、なんだって利用できますんでね!」
「制服のクリーニングはやめろ。いろいろ問題が起きかねん……」
「俺ら基本スーツだろうがっ!」

 おちゃらける上司に噛み付くも、暖簾に腕押し状態で疲れるだけだった……あぁもうやだこの人ほんとやだ!
 なまじっか、ガキの頃から面識があるだけにやりづれぇ! 全部知られてる……最悪だ。なんで俺引き抜きを受けちまったんだ。
 だが不貞腐れた俺に、上司は敢えて、踏み込んできた。

「……もう良いのじゃないか。十年前の恋人への義理立ては。
 葬儀だって、行ってきたんだろうが。
 あちらさんはお前のこと責めたのか? 私には……お前を気にする手紙が届いているが」
「…………分かってるでしょう」
「あの方はそうだな。だからお前の踏ん切りのため・・に、葬儀を行なった。
 手紙にも、いつまでもお前を束縛したくない。幸せになってほしいと綴られていたぞ」

 十年経っても変わらず……矍鑠かくしゃくとしていた婆さんは、相変わらずしゃんと背筋を伸ばしていた。
 随分細くしわくちゃになってしまっていた……孫を突然失った悲しみは、人一倍感じているのだろうに。
 心配させまいと、俺にしゃんとして、みせてくれたのだろう……。

「こういう言い方はあまり好かんが……小夜ちゃんの葬儀に行って、小夜歌ちゃんと巡り逢ったのは……偶然かな?
 私には、小夜ちゃんが、お前たちを巡り逢わせたように感じる。雰囲気も少し似ているな……名前も」
「は? 全く似ていませんが」
「何が違う?」
「性格も、行動も、全く違いますよ。小夜は何でもかんでも、全部自分でできるやつだった」
「しっかり者だった。逃げない子だった。強い子だった。そして弱さを見せまいとする子だった……」

 続けられた言葉に俯くと……。

「だけど小夜歌ちゃんは、手助けがいる子じゃないのか? そのうえお前を必要だと思ってくれている。
 お前だって結構惹かれてるんだろう? そうやって彼女を意識して、呼び方を変えるくらいにな」

 この数ヶ月を共に過ごして……小夜歌さんがもう、保護対象として認識できていないことは、自覚していた。けど……。

「あんなん、吊橋効果でしょうが。彼女は別に俺を好きなわけではないでしょう……」
「……それは、当時の小夜ちゃんがお前をどう思ってたかも、自信が無いってことか」
「…………」

 触れられもしない恋人でしたからね……。
 あいつは俺に助けられたと思っていたから、それできっと……。

 ふむ。と、腕を組んだ上司は、そこでこてんと首を傾げた。

「だが、吊橋効果の効力はせいぜいその日のうちだけだぞ。あれは続かん」

 …………え、そうなの?

「小夜歌ちゃんは、お前に会うたび心臓が痛いと報告して来る。あれはお前を好きでたまらんからだろ。
 そりゃ、窮地を救ってくれた王子様だものなぁ。初めは勘違いだったかもしれんが、今は本気だろ。
 じゃなきゃ……毎日ここに来て、扉の横で数時間待ちぼうけなど……」
「びゃっ⁉︎」

 言われた言葉に変な悲鳴が返ってきて、扉の方を見た……。
 うっすら開いてやがる……っ、このっ、クソ上司!

「い、言わないって言ったのにーっ!」
「そんなん状況次第だ。ほら、さっさと入れ!」
「やだーっ、顔べちゃべちゃなんです、直してきますーっ」
「誰も気にしてない」

 結局上司の腕により、強引に病室へと引き摺り込まれた小夜歌さんは、涙でベシャベシャの顔を可愛いウサギ柄のハンカチで隠してしまった。
 小夜は絶対に着なかった、ふわふわひらひらした可愛らしい服装で。一生懸命におしゃれして……毎日って、一日も見てない……。

 勿体無いことをしたな……。

 そう思ってしまった俺の心情に、俺もだいぶやばいと自覚する。
 そしてクソ上司ときたら、その子を強引に俺のベットの横に引っ張ってきて、パイプ椅子に座らせた。

「じゃ、私はそろそろ戻るんで、後よろしく」
「っ⁉︎ あんたマジで鬼か!」
「愛のキューピットだろ、感謝しろ」

 ひらひらと手を振って、さっさと退散していきやがった!
 ここまであからさまに言われてはもう誤魔化すわけにもいかず……。

「あの人に全部報告するのやめた方がいいですよ……マジ鬼畜なんで」
「だっ、だって他に、相談する人、いなくて……」
「いや、あの人に言うくらいなら俺に直接言ってくれませんか……」
「…………俺⁉︎」
「敬語。やめへんって相談したんやろ」
「方言⁉︎」

 どこか噛み合わない会話にあああぁぁっと、髪の毛を掻きむしった。

「これが一番素ぅで……。普通に喋ると方言強うなるんや……」

 どこから話を聞かれてるか分からへん……したらもう、誤魔化すだけ墓穴にしかならん。最悪や……。

「若い頃、よくヤンキーや言われて……口調は気ぃつけとったんや……。仕事柄、特に」

 あの頃の俺は、チャラついてて、髪も染めてた。あいつの横に並ぶ自分に、自信が持てなくて……精一杯の、虚勢を張って。

「……昔の話、ちょっと、聞いてってくらはる……?」
「はい……」

 あれは失敗だったと、今は分かるから……。
 もう、失敗も、後悔も、極力したくない。

「……幼馴染やってん。この前、葬儀に行った相手な……」

 だから、言葉を紡ぐことを、俺は選んだ。
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