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終章
十六話 魔獣戦
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腰の剣帯から引き抜いた短剣二本。
それを顔の前で交差させることが、開始の合図。
アラタがそうするのを、元老院階級席から見下ろしていたあの頃は、自分がここに立つことになるだなんて、微塵も考えていなかったわね。
魔獣用の入り口に設置してある鉄格子が、ギャリギャリガラガラと鎖を鳴らして持ち上がっていく。
堅そうな蹄が見えた。太い脚が、大きな鼻が。そして一抱えもあるような角を有す頭が見えたわ。
その上にある特等席に今日いるのは、あの頃の私くらいの、まだ幼さの見える少女だった。
顔を恐怖に歪めて隣の男性に何かを言っている彼女は、私の知らない方だったけれど、必死でこちらを見る視線には、ただただ私を心配し、慌てている様子が見てとれた。
「……大丈夫よ」
だから私は、笑ってみせたわ。彼女にはっきり見えるように、口角を持ち上げて。
確かに十五のあの時、私は剣も握れなかった。
でもね、それでは私らしくあれないって、気づいたの。
だから必死で鍛錬したのよ。
二人と並び立ちたかった。
守られる存在でいたくなかったの。
だってそれは、いつでも置いていかれて、待つことしかできないってことなのよ。
そうやって私は、待つことしか、できなかったってことなのよ……。
何度も歯痒さに嘆いて、自分の力無さに絶望したわ。
お前に何ができるんだって、そう言われた。
だから私――。
「フザケンナ、サクラ! てめぇその裾なんとかしやがれ、死ぬぞバカ!」
罵り声が耳に飛び込んだわ。
あまりの言いようじゃない?
でも、私をサクラと呼んでくれる人は今、もう彼しかいない。
舞台袖から身を乗り出して叫ぶアラタは、警備に羽交締めにされていた。切羽詰まった顔で怒りを露わに叫んでいたわ。
言われた裾を見下ろして……。
「あ」
踏みつけてしまいそうなくらい長い裾に、あ。と、呟くのが精一杯だった。
それを顔の前で交差させることが、開始の合図。
アラタがそうするのを、元老院階級席から見下ろしていたあの頃は、自分がここに立つことになるだなんて、微塵も考えていなかったわね。
魔獣用の入り口に設置してある鉄格子が、ギャリギャリガラガラと鎖を鳴らして持ち上がっていく。
堅そうな蹄が見えた。太い脚が、大きな鼻が。そして一抱えもあるような角を有す頭が見えたわ。
その上にある特等席に今日いるのは、あの頃の私くらいの、まだ幼さの見える少女だった。
顔を恐怖に歪めて隣の男性に何かを言っている彼女は、私の知らない方だったけれど、必死でこちらを見る視線には、ただただ私を心配し、慌てている様子が見てとれた。
「……大丈夫よ」
だから私は、笑ってみせたわ。彼女にはっきり見えるように、口角を持ち上げて。
確かに十五のあの時、私は剣も握れなかった。
でもね、それでは私らしくあれないって、気づいたの。
だから必死で鍛錬したのよ。
二人と並び立ちたかった。
守られる存在でいたくなかったの。
だってそれは、いつでも置いていかれて、待つことしかできないってことなのよ。
そうやって私は、待つことしか、できなかったってことなのよ……。
何度も歯痒さに嘆いて、自分の力無さに絶望したわ。
お前に何ができるんだって、そう言われた。
だから私――。
「フザケンナ、サクラ! てめぇその裾なんとかしやがれ、死ぬぞバカ!」
罵り声が耳に飛び込んだわ。
あまりの言いようじゃない?
でも、私をサクラと呼んでくれる人は今、もう彼しかいない。
舞台袖から身を乗り出して叫ぶアラタは、警備に羽交締めにされていた。切羽詰まった顔で怒りを露わに叫んでいたわ。
言われた裾を見下ろして……。
「あ」
踏みつけてしまいそうなくらい長い裾に、あ。と、呟くのが精一杯だった。
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