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後日談
雪遊び 2
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彼らは人の親が引く橇よりずっと速いです。
そのため庭の真ん中に用意された辻橇用の道は使いません。庭の端を、結構な速度で走るのです。
前庭を半周したら校舎裏へ。そして校舎の裏をつっきり、また前庭へ。
初めのうちこそ怖がって必死でしがみついていたジルヴェスター様ですが、一周を走り終える頃にはキャッキャとはしゃいでおりました。
橇が元の場所に到着した時には、孤児らもここを駅と定めたよう。雪の上に線を引き、持ってきた旗を立てて、いつもの手順にのっとって、列をなしています。
走り終えた橇が戻ってきて、カロンが橇を降りると、ジルヴェスター様も慌てて降ります。
「うしろは大きな子だけね!」
そう言ったカロンの言葉通り、前の座席には小さな子が、後ろの立ち乗り席には大きな子が乗り、また出発。
三人乗りでもなんなくレイルは走ります。
その姿をジルヴェスター様は物欲しげに見送り、何か言いたそうにもじもじとしておりますのを、カロンがわしっと手を握り、列の最後に。
「またじゅんばんきたらのるの!」
それでなるほど! と、理解したよう。
「ジル様どうでしたか」
そう聞いたレイシール様に……。
「はやいっ。ほっぺ、ちめたいなる」
と言いつつ、にこにこ笑顔。
とりあえずレイルの体力が続く間はこれが繰り返されます。
レイルが走り疲れたら、休憩。その間に孤児らに手を引かれたジルヴェスター様は、カマクラに入ったり、小さな雪人形をつくったりと忙しなく動き回り、もう怖さも何も感じていないよう。
それを見守っていたレイシール様は、頃合いと思ったのでしょう。ゆっくりと距離を取り、親の集まる校舎入り口へと足を向けました。
ここからは親との交流を図るのです。
「やぁいらっしゃい。初めての方が多くて嬉しいね。ここの遊び方はもう皆に説明してもらったのかな?」
「昼過ぎには湯屋が開くから、好きな時に抜けて大丈夫だよ。温まる方が良い。風邪を引きにくくなるんだ」
「彼らは私の大切な友人だよ。二人は兄妹なんだ」
獣人である彼らをことさら売り込んだりなどはなさいません。
怖くないと言っても怖がるのが人ですから。
ですが質問があれば、それに丁寧に答えて返します。
親たちは、傷まみれで片腕の無い私を怖がっている様子もございましたが、レイシール様の護衛だと考えているのでしょう。特に言及はありません。本来なら領主というのは、そう易々民と言葉を交わす立場ではございませんから。
そんなふうに気さくに口をきくレイシール様に、母親らもだんだんと、本音が見え隠れし始めます。
「レイルは私の名前から音を取ってくれたんだ。双子の妹のサナリはサヤからだね。
うん、そうだよ。長く懇意にしている」
「彼らはこの越冬の食糧を支えてくれていると知っているかい?
獣人は鼻がとても良いんだ。彼らがいなかったら、干し野菜はもっと日持ちせず、質も悪かったろう。
彼らが全面的に協力してくれて、色々なものが改善されている。獣人もね、この世界の大切な歯車のひとつなんだよ」
穏やかに話すレイシール様のこれは、もう何年と繰り返されているものです。
だからこそ幼年院に行く子を持っている親は、多少なりとも獣人を受け入れているのでしょう。
口には出しませんが、私はレイシール様のこういったささやかな努力、その積み重ねを、高く評価しております。
無理をせず、焦らず、ゆっくりと確実に、結果が見えずとも淡々と積み重ねていく努力。
これが間近で見れる私には、焦りなど無いのです。
だからいつかロゼも、笑顔を取り戻せる日が来るのではと、思っています。
◆
親との語らいをしている間にも、庭の様子は移り変わります。
レイルの引く橇を見ていた子らが、親に向かいあれに乗りたいと言いだし、子供に付き合っていた親が我々の目を気にし、やめなさいとも言えず……という……まぁ、いつもの展開ですね。
レイルは充分それを承知しており、協力してくれる聡明な子です。……人の言葉は相当理解していると思うのですが、人の姿を取れないのが不思議でなりませんね。
その様子が確認できると、時を図ってからレイシール様は、庭の狼に声を掛けます。
「すまないが、少し協力してくれ」
それにより警備から一、二頭狼が進み出て、大型の橇を引いたり、子供らと戯れる役を担ってくれます。
「そのかわり約束は守っておくれ。
彼らは狼の姿でも犬じゃない。君らの言葉は理解している。だから言葉で言えば通じるから、思うようにしようと無理に毛を引っ張ったり、尻尾を掴んだりしてはだめだぞ。
君らも急に髪を引っ張ったりされたら痛いし怖いだろう?
それから、人の姿になってと無理を言うのも駄目だ。人には体毛が生えてないから寒いし、この雪の中で急に裸になれと言われるのと一緒だからね。
それから君らも、万が一嫌なことを要求されたら私に報告に来るように」
そう注意をし、遊びの場へと向かわせます。
大抵の子は約束を守ってくれるのですが、まぁ中にはやんちゃなのもおりますからね。
大人すら乗れてしまう大狼に、子供らははじめ怖がって泣いてしまったりもするのですが、孤児院にある大橇を年長らが納屋から引っ張り出してくると、ワクワクに変わるよう。中衣に繋げて橇が引けるよう準備しますと、わらわらと寄ってきます。
たった一頭で、子供を十人以上も乗せて橇をなんなく引くのですから、子供らは喧嘩もせずキャッキャと騒ぎ橇に群がります。
そしてその頃には、遊びに疲れた孤児らが休憩に来だし、お茶を飲みながらレイシール様と言葉を交わし始めます。
「ノアはもう文字を全部覚えたってな。凄いじゃないか」
「ウリヤーナは来春から実習が始まるな。やってみたい仕事はあるのかい?」
幼児を膝に座らせ、孤児にたかられてニコニコ話すレイシール様の姿を、民らは不思議そうに見ているのですが、そのうちそれも当たり前になっていきます。
レイシール様が孤児らの名前を全て覚えているのも当然のこと。彼らは皆、セイバーンの子であるからです。
「ねぇレイ様、サヤ様赤ちゃんできたんでしょ」
「そうなんだ。だから今までみたいに遊べなくなってしまうが、我慢してもらえるか?」
「いいよ。お手伝いもするよ」
「赤ちゃん楽しみね」
「お名前もう決めてるの?」
「おとこのこ、おんなのこ、どっちだろうね!」
そんな風に楽しく語らっていたのですが、そのうち……。
「ねぇ……レイ様の本当の子ができたら、ここには来なくなる?」
そんな不安をつい訴えてしまう子が現れ、慌てて年長者が口を塞ぎます。
多かれ少なかれ思っていたことなのでしょう。それが音になった途端、シンと静まる子供ら。
けれどレイシール様は、そんな寂しさを見せた子を抱き寄せるのです。
「そんなわけないだろう?
お前たちに新しい弟か妹が加わるだけじゃないか。それに、毎年沢山兄弟が増えているのも一緒だよ。
サヤが子を授かり産んでくれるのは本当に嬉しい。だけどおまえたちだって、俺たちの子なんだからね」
歯が浮くような言葉ですが、この方が言うこの言葉は本心なのです。
それが子供らにも分かっているのでしょう。恥ずかしそうに、でも嬉しそうに、赤ちゃん楽しみねとまた言葉を口にしました。
「男の子か、女の子か……うーん……どっちだろうなと思うけど……女の子だったら決めてる名前はある」
「そうなの?」
「でも内緒だ。男の子でも来てくれたら嬉しいし、どっちだって良いんだよなぁ」
「……きぞくのひとはたいへんなんじゃないの?」
「男の子じゃないといけないんじゃないの?」
「どうして? 陛下は女性で王になったのに?」
「…………そういえばそうだ!」
下手な貴族が聞くと蒼白になりそうな話も平然となさいます。
そうこうしてるうちにレイルが走ってきて、ジルヴェスター様が遊び疲れて眠くなっていると知らせてくれました。
こんな時のために、孤児院の部屋を温めてあるのです。小さな子は体力を使い果たすのも、また回復するのも早いですからね。
ジルヴェスター様を着替えさせてから、部屋で仮眠を取っていただきます。私も室内へ入り、まだ外にいるレイシール様の代わりに眠る王子を見守ります。
他にも着替えをする子や、寝ている子と、付き添う親がちらほらおりますが、外見の恐ろしい私にわざわざ話しかけて来る者はおりません。
そのうちヴェネディクト様がこちらを訪ねて来られ、やはり弟君と共に仮眠へ。起きたら今度はご兄弟で犬橇遊びを楽しむ様子。
「怖くは、なくなってきたと、思う……。
だけどまだ分からないことも多いゆえ、ふれ合うことにするのだ」
レイシール様の言葉を思った以上親身に受け止めておられたのですね。私はやはり怖いようですが、まぁ見た目がこれですからね。
そうやって恙無い一日を終えようという頃合い。
笛の音が響きました。
「レイシール様、緊急連絡です」
本日ずっと黙っていた私が不意に口を開いたため、親らがギョッとこちらを振り向きました。
「流民の一団を保護したとのこと。セイバーン領内を目指し伝手は持たない様子。男七、女四、幼児二」
「この時期にか?」
「食糧はほぼ持たぬようだと。数日中にアヴァロンへと到着するそうですが」
「……受け入れる。場所の確保を」
「畏まりました」
人の身である者らには何が始まっているのかさっぱり理解できなかったでしょう。
しかしレイルとカロン、そして警備の吠狼は音を拾っております。私が笛を咥えて吹く音も、耳を塞いで聞いておりました。
レイルの様子に孤児らも察したよう。
「レイ様、お仕事?」
「そのようだ。本日はそろそろ終いにしよう。
王子、申し訳ありませんが……」
「心えた。戻るじゅんびをする。ジル」
「うん」
幼くとも、聞き分けは良い。
きっと日々、こういったことが起こるのでしょうね。
「王子、戻ったら、まず風呂を使うようにしてください。
考えている以上に身体の芯が冷えておりますから、悪い病を寄せやすくなっております」
「そのようにしよう」
「それから、また次の晴れにこのような遊びをします」
「また、来たい」
「仰せのままに」
「それからレイ殿。
私は……学びの会も、こういったことも、全て参加したく思っている」
普通は王子の望みであっても、諸々の調整が必要であったり、安全に配慮が必要であったり、大変手間のかかることです。
それを王子は理解していたのでしょう。どこか遠慮がちに、瞳を伏せて仰ったのですが……。
「左様ですか。では今後は前置きなしにお誘いすることにしましょう」
全く躊躇なく、即決したレイシール様。
それにヴェネディクト様は、頬を紅潮させて珍しく、子供らしい笑顔を向けてくださいました。
そのため庭の真ん中に用意された辻橇用の道は使いません。庭の端を、結構な速度で走るのです。
前庭を半周したら校舎裏へ。そして校舎の裏をつっきり、また前庭へ。
初めのうちこそ怖がって必死でしがみついていたジルヴェスター様ですが、一周を走り終える頃にはキャッキャとはしゃいでおりました。
橇が元の場所に到着した時には、孤児らもここを駅と定めたよう。雪の上に線を引き、持ってきた旗を立てて、いつもの手順にのっとって、列をなしています。
走り終えた橇が戻ってきて、カロンが橇を降りると、ジルヴェスター様も慌てて降ります。
「うしろは大きな子だけね!」
そう言ったカロンの言葉通り、前の座席には小さな子が、後ろの立ち乗り席には大きな子が乗り、また出発。
三人乗りでもなんなくレイルは走ります。
その姿をジルヴェスター様は物欲しげに見送り、何か言いたそうにもじもじとしておりますのを、カロンがわしっと手を握り、列の最後に。
「またじゅんばんきたらのるの!」
それでなるほど! と、理解したよう。
「ジル様どうでしたか」
そう聞いたレイシール様に……。
「はやいっ。ほっぺ、ちめたいなる」
と言いつつ、にこにこ笑顔。
とりあえずレイルの体力が続く間はこれが繰り返されます。
レイルが走り疲れたら、休憩。その間に孤児らに手を引かれたジルヴェスター様は、カマクラに入ったり、小さな雪人形をつくったりと忙しなく動き回り、もう怖さも何も感じていないよう。
それを見守っていたレイシール様は、頃合いと思ったのでしょう。ゆっくりと距離を取り、親の集まる校舎入り口へと足を向けました。
ここからは親との交流を図るのです。
「やぁいらっしゃい。初めての方が多くて嬉しいね。ここの遊び方はもう皆に説明してもらったのかな?」
「昼過ぎには湯屋が開くから、好きな時に抜けて大丈夫だよ。温まる方が良い。風邪を引きにくくなるんだ」
「彼らは私の大切な友人だよ。二人は兄妹なんだ」
獣人である彼らをことさら売り込んだりなどはなさいません。
怖くないと言っても怖がるのが人ですから。
ですが質問があれば、それに丁寧に答えて返します。
親たちは、傷まみれで片腕の無い私を怖がっている様子もございましたが、レイシール様の護衛だと考えているのでしょう。特に言及はありません。本来なら領主というのは、そう易々民と言葉を交わす立場ではございませんから。
そんなふうに気さくに口をきくレイシール様に、母親らもだんだんと、本音が見え隠れし始めます。
「レイルは私の名前から音を取ってくれたんだ。双子の妹のサナリはサヤからだね。
うん、そうだよ。長く懇意にしている」
「彼らはこの越冬の食糧を支えてくれていると知っているかい?
獣人は鼻がとても良いんだ。彼らがいなかったら、干し野菜はもっと日持ちせず、質も悪かったろう。
彼らが全面的に協力してくれて、色々なものが改善されている。獣人もね、この世界の大切な歯車のひとつなんだよ」
穏やかに話すレイシール様のこれは、もう何年と繰り返されているものです。
だからこそ幼年院に行く子を持っている親は、多少なりとも獣人を受け入れているのでしょう。
口には出しませんが、私はレイシール様のこういったささやかな努力、その積み重ねを、高く評価しております。
無理をせず、焦らず、ゆっくりと確実に、結果が見えずとも淡々と積み重ねていく努力。
これが間近で見れる私には、焦りなど無いのです。
だからいつかロゼも、笑顔を取り戻せる日が来るのではと、思っています。
◆
親との語らいをしている間にも、庭の様子は移り変わります。
レイルの引く橇を見ていた子らが、親に向かいあれに乗りたいと言いだし、子供に付き合っていた親が我々の目を気にし、やめなさいとも言えず……という……まぁ、いつもの展開ですね。
レイルは充分それを承知しており、協力してくれる聡明な子です。……人の言葉は相当理解していると思うのですが、人の姿を取れないのが不思議でなりませんね。
その様子が確認できると、時を図ってからレイシール様は、庭の狼に声を掛けます。
「すまないが、少し協力してくれ」
それにより警備から一、二頭狼が進み出て、大型の橇を引いたり、子供らと戯れる役を担ってくれます。
「そのかわり約束は守っておくれ。
彼らは狼の姿でも犬じゃない。君らの言葉は理解している。だから言葉で言えば通じるから、思うようにしようと無理に毛を引っ張ったり、尻尾を掴んだりしてはだめだぞ。
君らも急に髪を引っ張ったりされたら痛いし怖いだろう?
それから、人の姿になってと無理を言うのも駄目だ。人には体毛が生えてないから寒いし、この雪の中で急に裸になれと言われるのと一緒だからね。
それから君らも、万が一嫌なことを要求されたら私に報告に来るように」
そう注意をし、遊びの場へと向かわせます。
大抵の子は約束を守ってくれるのですが、まぁ中にはやんちゃなのもおりますからね。
大人すら乗れてしまう大狼に、子供らははじめ怖がって泣いてしまったりもするのですが、孤児院にある大橇を年長らが納屋から引っ張り出してくると、ワクワクに変わるよう。中衣に繋げて橇が引けるよう準備しますと、わらわらと寄ってきます。
たった一頭で、子供を十人以上も乗せて橇をなんなく引くのですから、子供らは喧嘩もせずキャッキャと騒ぎ橇に群がります。
そしてその頃には、遊びに疲れた孤児らが休憩に来だし、お茶を飲みながらレイシール様と言葉を交わし始めます。
「ノアはもう文字を全部覚えたってな。凄いじゃないか」
「ウリヤーナは来春から実習が始まるな。やってみたい仕事はあるのかい?」
幼児を膝に座らせ、孤児にたかられてニコニコ話すレイシール様の姿を、民らは不思議そうに見ているのですが、そのうちそれも当たり前になっていきます。
レイシール様が孤児らの名前を全て覚えているのも当然のこと。彼らは皆、セイバーンの子であるからです。
「ねぇレイ様、サヤ様赤ちゃんできたんでしょ」
「そうなんだ。だから今までみたいに遊べなくなってしまうが、我慢してもらえるか?」
「いいよ。お手伝いもするよ」
「赤ちゃん楽しみね」
「お名前もう決めてるの?」
「おとこのこ、おんなのこ、どっちだろうね!」
そんな風に楽しく語らっていたのですが、そのうち……。
「ねぇ……レイ様の本当の子ができたら、ここには来なくなる?」
そんな不安をつい訴えてしまう子が現れ、慌てて年長者が口を塞ぎます。
多かれ少なかれ思っていたことなのでしょう。それが音になった途端、シンと静まる子供ら。
けれどレイシール様は、そんな寂しさを見せた子を抱き寄せるのです。
「そんなわけないだろう?
お前たちに新しい弟か妹が加わるだけじゃないか。それに、毎年沢山兄弟が増えているのも一緒だよ。
サヤが子を授かり産んでくれるのは本当に嬉しい。だけどおまえたちだって、俺たちの子なんだからね」
歯が浮くような言葉ですが、この方が言うこの言葉は本心なのです。
それが子供らにも分かっているのでしょう。恥ずかしそうに、でも嬉しそうに、赤ちゃん楽しみねとまた言葉を口にしました。
「男の子か、女の子か……うーん……どっちだろうなと思うけど……女の子だったら決めてる名前はある」
「そうなの?」
「でも内緒だ。男の子でも来てくれたら嬉しいし、どっちだって良いんだよなぁ」
「……きぞくのひとはたいへんなんじゃないの?」
「男の子じゃないといけないんじゃないの?」
「どうして? 陛下は女性で王になったのに?」
「…………そういえばそうだ!」
下手な貴族が聞くと蒼白になりそうな話も平然となさいます。
そうこうしてるうちにレイルが走ってきて、ジルヴェスター様が遊び疲れて眠くなっていると知らせてくれました。
こんな時のために、孤児院の部屋を温めてあるのです。小さな子は体力を使い果たすのも、また回復するのも早いですからね。
ジルヴェスター様を着替えさせてから、部屋で仮眠を取っていただきます。私も室内へ入り、まだ外にいるレイシール様の代わりに眠る王子を見守ります。
他にも着替えをする子や、寝ている子と、付き添う親がちらほらおりますが、外見の恐ろしい私にわざわざ話しかけて来る者はおりません。
そのうちヴェネディクト様がこちらを訪ねて来られ、やはり弟君と共に仮眠へ。起きたら今度はご兄弟で犬橇遊びを楽しむ様子。
「怖くは、なくなってきたと、思う……。
だけどまだ分からないことも多いゆえ、ふれ合うことにするのだ」
レイシール様の言葉を思った以上親身に受け止めておられたのですね。私はやはり怖いようですが、まぁ見た目がこれですからね。
そうやって恙無い一日を終えようという頃合い。
笛の音が響きました。
「レイシール様、緊急連絡です」
本日ずっと黙っていた私が不意に口を開いたため、親らがギョッとこちらを振り向きました。
「流民の一団を保護したとのこと。セイバーン領内を目指し伝手は持たない様子。男七、女四、幼児二」
「この時期にか?」
「食糧はほぼ持たぬようだと。数日中にアヴァロンへと到着するそうですが」
「……受け入れる。場所の確保を」
「畏まりました」
人の身である者らには何が始まっているのかさっぱり理解できなかったでしょう。
しかしレイルとカロン、そして警備の吠狼は音を拾っております。私が笛を咥えて吹く音も、耳を塞いで聞いておりました。
レイルの様子に孤児らも察したよう。
「レイ様、お仕事?」
「そのようだ。本日はそろそろ終いにしよう。
王子、申し訳ありませんが……」
「心えた。戻るじゅんびをする。ジル」
「うん」
幼くとも、聞き分けは良い。
きっと日々、こういったことが起こるのでしょうね。
「王子、戻ったら、まず風呂を使うようにしてください。
考えている以上に身体の芯が冷えておりますから、悪い病を寄せやすくなっております」
「そのようにしよう」
「それから、また次の晴れにこのような遊びをします」
「また、来たい」
「仰せのままに」
「それからレイ殿。
私は……学びの会も、こういったことも、全て参加したく思っている」
普通は王子の望みであっても、諸々の調整が必要であったり、安全に配慮が必要であったり、大変手間のかかることです。
それを王子は理解していたのでしょう。どこか遠慮がちに、瞳を伏せて仰ったのですが……。
「左様ですか。では今後は前置きなしにお誘いすることにしましょう」
全く躊躇なく、即決したレイシール様。
それにヴェネディクト様は、頬を紅潮させて珍しく、子供らしい笑顔を向けてくださいました。
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