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少し前の話 14
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そこからまずやったことは、貰った熊の解体作業だ。
正確には皮剥ぎを行なった。無論、片手の俺にできる作業ではないので、達人にお願いし、その技術と皮の保存法を伝授してもらったのだ。
その時の話を少ししよう。
吊るされた首無しの熊に群がる子供達が、キラキラした瞳で俺を見上げている……。
「熊、おいしくするの?」
「どんなふうにするの?」
俺が念願の熊を手に入れたということで、先日の麵麭みたいな凄いものができるのだろうか⁉︎ と、期待満々で見上げてくるところ、大変申し訳ないのだけど……。
「いや……これは食べるんじゃなく、加工しようと思ってるんだよ」
そう言うと、ええぇぇぇ……という、落胆の声。
いや……肉は残るから、また何かご馳走にしてもらったら良いんじゃないかな……うん。
「熊肉は美味しいけど……量が多いから、食べ切るまで結構かかってしまうんだよな。
ここのように大所帯ならば良いんだけど、村なんかだと、何頭も買えない。だけど熊皮はね、大きいから加工幅も広いし、暖かいから良い値で売れる。本当はもっと需要があると思うんだよ」
「よくわかんない」
「言葉むずかしい……」
「ねー……」
まぁ……金銭感覚の乏しい子供らには、まだちょっと、理解しにくいかぁ……。
おいしくならないことにガックリし、興味が大幅に失せた子供達に苦笑。
そもそもが物々交換で、金銭感覚と言い難いものでもあるし……。だけど彼らも、社会の動きを理解できないと、今回みたいに取り残されていくことになる。
これからを担うことになる若い彼らにこそ、教えておかなきゃいけないことでもあるし……。
じゃぁ、どう言えば伝わるだろうかと考え……。
「この熊の皮だけが、小麦四袋になるようにしようと、思ってるんだ」
「お肉無いのに⁉︎」
「たべられないのに⁉︎」
うん。ものによってはいけると思ってる。そのためには……。
「お前が頼りなんだからなっ、ウォルテール!」
隣で所在なげに佇んでいた背を力強く叩くと、微動だにしなかったものの。
「えぇ……? 俺まだ……そんなに上手くない……」
居心地悪そうに視線を逸らしつつ、頼りない返事。
セイバーンでも狩りをしていたし、鹿の解体だって手伝っていたから、経験が無いわけではないだろうに。
「大丈夫。今日は最高のお手本……先生にその手業を見せてもらうだけだから。
まぁゆくゆくは、その技術を習得してほしいんだけどね」
溜息を吐くウォルテールを見て、子供達は頑張ってと労いの声を掛けているけれど、いやいや、お前達もだよと伝えた。
「ぼくら?」
「そっス」
ウォルテールとは反対、俺の右側に立つ、小柄なオーキスがそう言って「俺っちもそれくらいの年からやってたんで」とのこと。
そうなんですよ。
猟師という仮姿を持つオーキスに、獣の解体をご教授願うのだ。
「因みに……頑張ったら熊肉での宴会が待ってるっス」
◆
狩猟民という生き方は独特だ。
まず、生まれた直後、獣人だと分かる特徴を持っていた者は、もれなくその地域の、定められた場所に捨てられる……。
災厄に育たぬよう、悪事を重ねる前に、狼の餌にするのだと言われているそうだ。
けれど実際は、巡回していた狩猟民らが拾い、育て、時が来れば戦力として、狩猟民に組み込まれる……。
頭蓋の仮面で顔を覆い、獣人の特徴をひた隠し、人のふりをして生きるのだ。
災厄に育つどころか彼らは……豊かではないこの北の地で、命を削って人の生活を支える礎となっていた……。
勿論、幼いうちは戦力にならないため、獣人らに育てられつつ、手伝いをし、訓練を受け大人に育っていく。
物々交換に子供を向かわせていたのも、彼らには猟が難しく、やれることが限られるからだった。
彼らの生活は、とにかく過酷だ……。
寿命も短すぎる。
どの群れにも現在五十代は存在しないという話で、大抵が三十代から、長くても四十代で命を散らす……。
それというのも、彼らの猟が、身の危険を伴うものであるからだ。
オブシズたちに聞くと、彼らは組織的な連携で獲物を追い込み仕留めるが、その猟の殆どが近接から、せいぜい槍を使った中距離戦。
ほぼ身体を張った猟をしているのだ……。
まぁ弓を使うのは無理だろうとは思っていた……何せ手袋無しではあっという間に凍えてしまうような寒さだ。
とはいえ……投槍の射程は然程長くないし、足場の悪い雪の中では踏ん張りも効かず、威力も落ちる……。
仲間の狼らを避けて使うにもあまり有効とはいえず、結局接近戦となることが多いのだそう。
そんな狩猟法であるから、怪我も絶えない……。
そして獣傷は、刃物傷より凶悪だ。抉られた肉は治癒しにくく、傷口から入り込む病も圧倒的に多い。獣に傷を負わされることは、死に直結していた……。
「まぁ、それもこの近年、変わってきてんだけどな……」
そう教えてくれたのは、俺に絡んできた長……グラニット。
犬橇同様、ウルヴズ行商団からある程度、有効な武器を仕入れることが可能になったからであるそう。
それまでの狩猟民は、人とほぼ接点を持っていなかったため、武器や防具も劣悪なものばかりであったそうだ。
「石や骨を削ったものだって使ってたんだ。それが普通だった……。
狩った獲物を加工して狩りをする。その加工だって自然にあるものを使ってた。
まぁ……獣だってバレるわけにゃいかねぇもん」
人との接点を極力削ってきた彼らには、命を守るための武具を得るよりも、本当の姿を知られないことの方が重要だったのだ。
たまにやむにやまれず、金属の武器を、獲物と交換する程度。とはいえ高値であるし、なかなか手は出せない。
血抜きや皮剥ぎが行われてこなかったのも道理だった……。そんな余裕すら、無かったのだろう……。
「それが……もう七、八年くらい前かな……ローシェンナの姉御経由で、武器を仕入れられるようになったんだ。
姉御は元々狩猟民だったって。それで俺たちの生活を理解していた。
良い金蔓を得たから、少し融通してやれるって……その代わり、役立ちそうな者と情報を引き取らせてくれって約束……」
獣の特徴が薄い者や、獣化できる者等、豺狼組で使えそうな人材を確保。その見返りとして、鉄製の武器を用意してもらう。そんな間柄になった。
鉄の武器が手に入るようになり、猟の危険性はかなり減った。怪我人もだ。
獣人だとバレて狩猟民を追われたローシェンナを記憶している者もいたから、初めは警戒している者が多かったのだが……リアルガーが主となった時から約定を交わす仲となった。
「リアルガーは変わり者なんだよ。人みたいな考え方しやがるっつーか……頭が複雑。賢い? みたいな。
あいつが長になってから、あいつのところでの死人が格段に減った。獲物の仕留め方を変えたとかで……。
実際あいつの言う通りにやると上手くいくしよ。まだ若いが、あいつが主になるのは皆が合意だったんだぜ」
自慢げにグラニットがそう言うくらい、リアルガーは信頼されている。
締めるところは締めるが、普段はへらへらしてあまりキツくないのも良いらしい。
「まぁとにかく、リアルガーは俺らの中でも別格。今や荒野の狩猟民の束役だしな!」
「……? 主とは違うの?」
「主だぜ。狩猟民の主の主なんだ」
リアルガー……大物でした……。
「そのリアルガーが是と言うならまぁ、大抵のことは良いんだよ」
それをおしても怪しかった俺と言う存在を、ちょっと考えさせられたよね……。
まぁそんな風に、狩猟民の生活は少しずつ改善されてはいたそうだ。
橇を手に入れ、怪我人・女・子供の仕事であった物々交換が、怪我人・子供に任せられるようになり、天幕の質も上がり、薪の確保もしやすくなった。
食うに困らない量の食料は何とか得られる。少し余裕が出れば、他の狩猟民らへの支援に回した。これはリアルガーが束役になってしまったから課せられた役割でもあった。
「そのうえで、その適正価格ってやつで交換できたら……むちゃくちゃスゲェ。
だからこれ以上を良くする……つったって、ピンとこねぇ」
そう言うから……。
「適正価格はあくまで、ただ獲物を小麦と交換する料金を正しただけの話だ。
俺が提案してるのは、付加価値を付けること。
お前たちはもっと肉を食って力を付ける。そして、獣も交換するが、毛皮のみも交換するようにするってこと」
「…………肉ねぇと交換なんて無理だろ」
「できる。実は肉の需要も、今までよりは減ってる」
その証拠が、子供達が持ち帰ってきた、本来ならば希少な食材だ。
少しゆとりが出た分を、普段は買わない希少な品に換えていた。家によっては、そこに手が出せる程度には、生活の余裕が出ているのだ。
今まで必要最低限しか言葉を交わしていなかった狩猟民が、交流を図ろうとしてきたことで、親近感も湧いたのだろう。
それが希少品との物々交換という形で出て来ていたのだ。
北にはそれだけ産業が増えた。働く場が増え、収入も当然増え、流通網の確保により品も安定し、若干割安に確保できるようになった。
それでも民らが獣を交換するのは、当然食べていくためだが、冬場の内職である加工品製作に、毛皮や角、骨が必要だからだ。
「それでも、そこまで余裕があるわけじゃないだろう……。
嗜好品は本当に、冬の生活を支えてくれている貴方たちへの、感謝や、労いの気持ちの現れなんだよ」
交換に来ているのが幼い子供たちだから余計、それを強く感じたのだと思う。
また、今まで適正価格での取引を誤魔化して来たことへの罪悪感も、絡んでいるかもしれない。
人探しという理由があったからこそ、今までしなかったことを始めた……。それが良い方向に動く切っ掛けとなったのだ……。
「人が……俺らに?」
「そうだよ! 皮剥ぎをこちらで行い、皮のみを交換品に出すことだって、確実に歓迎される。
皮剥ぎの労力は村人らも知っているから、金額に関してはきっと不満も然程出ないだろう。
嫌なら、肉付きと交換すれば良いんだしね」
「…………成る程」
「だから、傷の少なかった獲物のみで良い。皮剥ぎを行なってみないか。
交換先は俺が吟味する。必ず良い取引になるよう、頑張るから」
そんなやりとりを得て、俺の貰った熊の皮を先ずは、加工し、村に持ち込む試験運用の運びとなったのだ。
正確には皮剥ぎを行なった。無論、片手の俺にできる作業ではないので、達人にお願いし、その技術と皮の保存法を伝授してもらったのだ。
その時の話を少ししよう。
吊るされた首無しの熊に群がる子供達が、キラキラした瞳で俺を見上げている……。
「熊、おいしくするの?」
「どんなふうにするの?」
俺が念願の熊を手に入れたということで、先日の麵麭みたいな凄いものができるのだろうか⁉︎ と、期待満々で見上げてくるところ、大変申し訳ないのだけど……。
「いや……これは食べるんじゃなく、加工しようと思ってるんだよ」
そう言うと、ええぇぇぇ……という、落胆の声。
いや……肉は残るから、また何かご馳走にしてもらったら良いんじゃないかな……うん。
「熊肉は美味しいけど……量が多いから、食べ切るまで結構かかってしまうんだよな。
ここのように大所帯ならば良いんだけど、村なんかだと、何頭も買えない。だけど熊皮はね、大きいから加工幅も広いし、暖かいから良い値で売れる。本当はもっと需要があると思うんだよ」
「よくわかんない」
「言葉むずかしい……」
「ねー……」
まぁ……金銭感覚の乏しい子供らには、まだちょっと、理解しにくいかぁ……。
おいしくならないことにガックリし、興味が大幅に失せた子供達に苦笑。
そもそもが物々交換で、金銭感覚と言い難いものでもあるし……。だけど彼らも、社会の動きを理解できないと、今回みたいに取り残されていくことになる。
これからを担うことになる若い彼らにこそ、教えておかなきゃいけないことでもあるし……。
じゃぁ、どう言えば伝わるだろうかと考え……。
「この熊の皮だけが、小麦四袋になるようにしようと、思ってるんだ」
「お肉無いのに⁉︎」
「たべられないのに⁉︎」
うん。ものによってはいけると思ってる。そのためには……。
「お前が頼りなんだからなっ、ウォルテール!」
隣で所在なげに佇んでいた背を力強く叩くと、微動だにしなかったものの。
「えぇ……? 俺まだ……そんなに上手くない……」
居心地悪そうに視線を逸らしつつ、頼りない返事。
セイバーンでも狩りをしていたし、鹿の解体だって手伝っていたから、経験が無いわけではないだろうに。
「大丈夫。今日は最高のお手本……先生にその手業を見せてもらうだけだから。
まぁゆくゆくは、その技術を習得してほしいんだけどね」
溜息を吐くウォルテールを見て、子供達は頑張ってと労いの声を掛けているけれど、いやいや、お前達もだよと伝えた。
「ぼくら?」
「そっス」
ウォルテールとは反対、俺の右側に立つ、小柄なオーキスがそう言って「俺っちもそれくらいの年からやってたんで」とのこと。
そうなんですよ。
猟師という仮姿を持つオーキスに、獣の解体をご教授願うのだ。
「因みに……頑張ったら熊肉での宴会が待ってるっス」
◆
狩猟民という生き方は独特だ。
まず、生まれた直後、獣人だと分かる特徴を持っていた者は、もれなくその地域の、定められた場所に捨てられる……。
災厄に育たぬよう、悪事を重ねる前に、狼の餌にするのだと言われているそうだ。
けれど実際は、巡回していた狩猟民らが拾い、育て、時が来れば戦力として、狩猟民に組み込まれる……。
頭蓋の仮面で顔を覆い、獣人の特徴をひた隠し、人のふりをして生きるのだ。
災厄に育つどころか彼らは……豊かではないこの北の地で、命を削って人の生活を支える礎となっていた……。
勿論、幼いうちは戦力にならないため、獣人らに育てられつつ、手伝いをし、訓練を受け大人に育っていく。
物々交換に子供を向かわせていたのも、彼らには猟が難しく、やれることが限られるからだった。
彼らの生活は、とにかく過酷だ……。
寿命も短すぎる。
どの群れにも現在五十代は存在しないという話で、大抵が三十代から、長くても四十代で命を散らす……。
それというのも、彼らの猟が、身の危険を伴うものであるからだ。
オブシズたちに聞くと、彼らは組織的な連携で獲物を追い込み仕留めるが、その猟の殆どが近接から、せいぜい槍を使った中距離戦。
ほぼ身体を張った猟をしているのだ……。
まぁ弓を使うのは無理だろうとは思っていた……何せ手袋無しではあっという間に凍えてしまうような寒さだ。
とはいえ……投槍の射程は然程長くないし、足場の悪い雪の中では踏ん張りも効かず、威力も落ちる……。
仲間の狼らを避けて使うにもあまり有効とはいえず、結局接近戦となることが多いのだそう。
そんな狩猟法であるから、怪我も絶えない……。
そして獣傷は、刃物傷より凶悪だ。抉られた肉は治癒しにくく、傷口から入り込む病も圧倒的に多い。獣に傷を負わされることは、死に直結していた……。
「まぁ、それもこの近年、変わってきてんだけどな……」
そう教えてくれたのは、俺に絡んできた長……グラニット。
犬橇同様、ウルヴズ行商団からある程度、有効な武器を仕入れることが可能になったからであるそう。
それまでの狩猟民は、人とほぼ接点を持っていなかったため、武器や防具も劣悪なものばかりであったそうだ。
「石や骨を削ったものだって使ってたんだ。それが普通だった……。
狩った獲物を加工して狩りをする。その加工だって自然にあるものを使ってた。
まぁ……獣だってバレるわけにゃいかねぇもん」
人との接点を極力削ってきた彼らには、命を守るための武具を得るよりも、本当の姿を知られないことの方が重要だったのだ。
たまにやむにやまれず、金属の武器を、獲物と交換する程度。とはいえ高値であるし、なかなか手は出せない。
血抜きや皮剥ぎが行われてこなかったのも道理だった……。そんな余裕すら、無かったのだろう……。
「それが……もう七、八年くらい前かな……ローシェンナの姉御経由で、武器を仕入れられるようになったんだ。
姉御は元々狩猟民だったって。それで俺たちの生活を理解していた。
良い金蔓を得たから、少し融通してやれるって……その代わり、役立ちそうな者と情報を引き取らせてくれって約束……」
獣の特徴が薄い者や、獣化できる者等、豺狼組で使えそうな人材を確保。その見返りとして、鉄製の武器を用意してもらう。そんな間柄になった。
鉄の武器が手に入るようになり、猟の危険性はかなり減った。怪我人もだ。
獣人だとバレて狩猟民を追われたローシェンナを記憶している者もいたから、初めは警戒している者が多かったのだが……リアルガーが主となった時から約定を交わす仲となった。
「リアルガーは変わり者なんだよ。人みたいな考え方しやがるっつーか……頭が複雑。賢い? みたいな。
あいつが長になってから、あいつのところでの死人が格段に減った。獲物の仕留め方を変えたとかで……。
実際あいつの言う通りにやると上手くいくしよ。まだ若いが、あいつが主になるのは皆が合意だったんだぜ」
自慢げにグラニットがそう言うくらい、リアルガーは信頼されている。
締めるところは締めるが、普段はへらへらしてあまりキツくないのも良いらしい。
「まぁとにかく、リアルガーは俺らの中でも別格。今や荒野の狩猟民の束役だしな!」
「……? 主とは違うの?」
「主だぜ。狩猟民の主の主なんだ」
リアルガー……大物でした……。
「そのリアルガーが是と言うならまぁ、大抵のことは良いんだよ」
それをおしても怪しかった俺と言う存在を、ちょっと考えさせられたよね……。
まぁそんな風に、狩猟民の生活は少しずつ改善されてはいたそうだ。
橇を手に入れ、怪我人・女・子供の仕事であった物々交換が、怪我人・子供に任せられるようになり、天幕の質も上がり、薪の確保もしやすくなった。
食うに困らない量の食料は何とか得られる。少し余裕が出れば、他の狩猟民らへの支援に回した。これはリアルガーが束役になってしまったから課せられた役割でもあった。
「そのうえで、その適正価格ってやつで交換できたら……むちゃくちゃスゲェ。
だからこれ以上を良くする……つったって、ピンとこねぇ」
そう言うから……。
「適正価格はあくまで、ただ獲物を小麦と交換する料金を正しただけの話だ。
俺が提案してるのは、付加価値を付けること。
お前たちはもっと肉を食って力を付ける。そして、獣も交換するが、毛皮のみも交換するようにするってこと」
「…………肉ねぇと交換なんて無理だろ」
「できる。実は肉の需要も、今までよりは減ってる」
その証拠が、子供達が持ち帰ってきた、本来ならば希少な食材だ。
少しゆとりが出た分を、普段は買わない希少な品に換えていた。家によっては、そこに手が出せる程度には、生活の余裕が出ているのだ。
今まで必要最低限しか言葉を交わしていなかった狩猟民が、交流を図ろうとしてきたことで、親近感も湧いたのだろう。
それが希少品との物々交換という形で出て来ていたのだ。
北にはそれだけ産業が増えた。働く場が増え、収入も当然増え、流通網の確保により品も安定し、若干割安に確保できるようになった。
それでも民らが獣を交換するのは、当然食べていくためだが、冬場の内職である加工品製作に、毛皮や角、骨が必要だからだ。
「それでも、そこまで余裕があるわけじゃないだろう……。
嗜好品は本当に、冬の生活を支えてくれている貴方たちへの、感謝や、労いの気持ちの現れなんだよ」
交換に来ているのが幼い子供たちだから余計、それを強く感じたのだと思う。
また、今まで適正価格での取引を誤魔化して来たことへの罪悪感も、絡んでいるかもしれない。
人探しという理由があったからこそ、今までしなかったことを始めた……。それが良い方向に動く切っ掛けとなったのだ……。
「人が……俺らに?」
「そうだよ! 皮剥ぎをこちらで行い、皮のみを交換品に出すことだって、確実に歓迎される。
皮剥ぎの労力は村人らも知っているから、金額に関してはきっと不満も然程出ないだろう。
嫌なら、肉付きと交換すれば良いんだしね」
「…………成る程」
「だから、傷の少なかった獲物のみで良い。皮剥ぎを行なってみないか。
交換先は俺が吟味する。必ず良い取引になるよう、頑張るから」
そんなやりとりを得て、俺の貰った熊の皮を先ずは、加工し、村に持ち込む試験運用の運びとなったのだ。
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