異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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蜜月 4

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「……、……、……っ……巫山戯るなっ」
「いや……巫山戯てはいないよ……」

 息を切らしたロレン殿。
 対し、俺にはまだ余裕があった。
 さもありなん……短剣と小剣では重さが違う。
 体格差はほぼ無い俺たちだけど、守りに徹していた俺は、剣を振ること自体を極力減らすように意識していた。

「避けるばかりで、一向に攻撃してこないのは、情けのつもりかっ、仕掛けてこい!」
「いや……これでの攻撃は得意じゃなくて……」
「馬鹿にしているのか⁉︎」
「違う……。あー……元から君の体力を削る作戦だったんだ。
 わざと守りに徹して、君に剣を振らせていた」

 そう言った上で……少し悩んだ。それ以上を、言うべきか否か……。
 だけど彼女の今後の成長を考えるなら、伝えておいて然るべきかな……。

「……あと、俺が左を使うから、そのやりにくさも影響してる。左利きは少ないからね。圧倒的に対処方の経験不足な人が多い。
 つまり、元から君が不利になる要素が揃ってたんだ」

 自分が左への対処が苦手であると自覚できれば、その手段を模索できるだろうし、逆に言えば、左に対処できる人間は希少ということになる。
 そこに伸び代を見出してくれれば良いけれど……どうかな。
 だけど、こういった考え方は、この先必ず必要になってくると思うのだ。

 女性である以上、肉体構造的に、力では男性が勝る場合が多い。
 ロレン殿は女性としては体格に恵まれているから、余計にそういった不利を感じたことが少ないのかもしれないけれど、必ずぶち当たることになる、壁のひとつだと思う。
 女近衛の面々は……そういった不利に対処する術と、それをも振り捨てられるほどに凌駕した技術を持ち、自覚し、磨いている。
 ただ闇雲に男性と競うのではなく、これならば誰にも負けないという、突出した能力と、それを磨き上げた自信と矜持を持っている。だから、はたから何を言われようと揺るがない。
 そういった冷静なしたたかさこそが、女性の強みであるとも思うのだ。

 ロレン殿には、まだそれが無い。
 俺に対する怒りには、俺への侮りも見てとれた。
 だから、その過ちに気付く切っ掛けになればという思いもあり……。

 小剣と短剣ならば、短剣が圧倒的に不利だ。……本来ならば。
 だからその不利を逆に利用する作戦を、俺も取り、見せることを選んだ。

 遠心力と荷重により、小剣の重みはかなりのものとなる。それを短剣で受けるのは、小剣同士より数倍体力を削がれる。
 だから一番初め、体力を消耗する前に、敢えて小剣を受けて見せたのだけど、その時彼女の剣を刃の背で絡め取った。
 練習はしてきたけれど、実践経験皆無だから少々不安もあったのだ。けれど……これは成功し、無事一本を勝ち取ることができた。
 しかし、その場で三本勝負だ! と、言われて、現在二本目。

 二本目からは、体力温存を念頭に、極力体捌きで避ける作戦を取り続けているが、受けざるを得ない場合は、短剣の背の部分を使うのが見えるように、敢えて誘導している。
 それにより、ロレン殿は剣を絡め取られたことが脳裏をチラつき、無自覚に攻撃を躊躇い、自ら俺を避けてしまっているのだが……それ自体も……気付いていないのだろうな。
 つまり、俺の作戦はことごとくはまり、現在の状況に至っているのだけど……彼女にはそれが、納得できないよう。
 まぁ、まだ戦況の判断をする余裕は無いのだろう。

 また、武器を取られまいという無意識は、剣を握る手にも無駄な力を込めてしまっており、彼女は更に体力と精神力を削られているのだが……。
 ……ま、言ったら怒るだろうから言わないでおこう。

 そこからやけっぱち気味に踏み込み、小剣を突き出してきた彼女の攻撃を受け流し、足を引っ掛けて転がして、二本となった。
 三本勝負ならこれで俺の勝ち。
 けれど、ロレン殿は納得しない。

「もう一本だ!」
「…………それは止めておこう。もう体力的に限界だよ」
「逃げるのか!」

 いや、俺じゃなく、君が。

 踏み込みも浅くなっていたし、なにより小剣の重みに負け、振った剣が流れていた。
 これでは次は、秒殺できてしまう。
 そうするとロレン殿はきっと、更に侮辱だって怒る…………。

「また後日にしよう。
 俺の戦い方は理解できたろうから、ディート殿に相談して、対策を講じてから来ると良い。
 俺の短剣の師は彼だから、俺の癖も承知しているし」
「なっ、なんだと……、き、貴様っ、敵に塩を贈るなどっ、どこまでボクを侮辱するんだ……っ!」
「いやいや、侮辱じゃないから……。
 ディート殿も、ロレン殿はちょっと俺の鍛錬に付き合ってくれてただけだから、お咎め無しでお願いしますよ」

 急に話す方向を変えた俺に訝しげな顔をしたロレン殿だったけれど、その方向からひょこりと顔を出したディート殿にギョッと目をむく。
 途中からずっといたけど……気付いてなかったんだなぁ……。まぁ、頭に血も登ってたみたいだし……。

「レイ殿は、随分と鍛錬を重ねたようだな。気配を読むのも早くなった」
「防御に関してはね。攻撃面は捨ててるから、からっきしだよ。
 気配も、ディート殿がある程度存在を晒してくれてたからね……」

 彼が本気で隠伏していたのなら、俺になんか気付けません……。
 おおかた、ロレン殿が気付けるかどうか、試していたのだろう。

 短剣を腰の鞘に戻し、座り込んだロレン殿に手を差し出した。
 けれど彼女は、俺の手を借りるなんて嫌なのだろう……プイと顔を背け、自ら立ち上がる。
 それを待っていたディート殿は、だいぶん消耗している風なロレン殿を見て、溜息をひとつ。

「ロレン、レイ殿がああ言うから、訓練を怠けたことは不問にしてやろう。
 だが、今日はここまでだ。レイ殿は蜜月中……本来はサヤ殿と共にいるべき身だ。配慮してやれ」

 その物言いに、食い付くロレン殿。

「この方は、一人でこの辺りを彷徨いていたのですよ⁉︎」
「当たり前だ。厠くらい一人で行かせてやれ」

 不浄場と言わず、厠と表現したのはわざとだな……。あけすけに言った方が、ロレン殿には衝撃だろうから。
 案の定、カッと頬を染めたロレン殿。
 そういうところはやっぱり、女性なんだなぁ。
 苦笑していると、傍までやって来たディート殿が。

「部下の無礼、申し訳なかった」
「いや、気晴らしには良かったですから、お気になさらず」

 おかげで良い運動ができたし、雑念を振り切ることもできたから。有難かったくらいですよ。

「くそっ!」

 けれど……ロレン殿はまだ納得がいかないよう。

「短棒なら……ボクはもっとやれるっ! 貴方などに遅れは取らない!」

 当初の目的は忘れてしまってるのかなぁ……。
 サヤの夫として相応しいかどうか……サヤの足手纏いになるかどうかを見極めてもらう手合わせのつもりだったのに、この台詞。
 俺は苦笑で流そうとしたのだけど、その言葉に反応したのは……。

「…………ロレン」

 ディート殿の声が一段低くなった……。
 あ、これは本格的な叱責が来るな。

「レイ殿の得手も短剣ではない。更に言うなら、本来は左利きでもない!」
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