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探れない過去 7
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「まぁ、現在は倡を統べる役……つまり斡旋役の意味で使われていることが多いみたいです。
あ、少しややこしいので、斡旋役を芸妓官、奉仕者を倡と使い分けますね。
この芸妓官という役割は、神殿を任された司祭の役割だと思われます。全ての神殿でそうとは限りませんが、それなりに多いとは考えています。
彼らは、孤児や信者を使いますから、中から良さげな者を見繕って斡旋すれば良い。当然神殿の収入にもなっていることでしょうし。
倡役からしても、上手くすれば使い潰されることを免れられるし、立場を脱し、神職者への道が切り開かれる可能性が得られる。
ただ……倡役は必然的に若い女性が多いので、司祭になってからアレクセイ殿の名が知られだした……というのは、些かおかしいんですよねぇ」
司祭となるまでにだって、功績の積み重ねは必要ですから。と、マル。
自分自身を切り売りしていたからだ……と、俺には分かったけれど……そこを口にはできない。
また、これはサヤにも聞かせられない内容だと思った。
あの人が何故ああも頑なか……肌を晒すことをあそこまで厭うたか……。それの答えがここにあるように思えた。
「それでも一応は調べたんですが、これという功績は引っかかりませんでした。
まぁ……執行官であった場合、調べすぎるとこちらの首が締まりますし、芸妓官であった場合、司教に上り詰めるなんて無理なんで、どっちにしてもまだ彼の過去を特定できていないんですよね」
「そうなの?」
「芸妓官はお聞きの通り、表向きにできない貢献です。それで周りを納得させるのは難しい。数少ないでしょうが、清貧・潔白を貫いている方々の心証も悪いですからね。
仮に倡であったと仮定しても同じです。倡の出世は侍祭までという話なんで」
「……?」
「出世されては使いにくいですから」
自分よりも地位が上に行った者を、組み敷くわけにいかないじゃないですか。と、サヤには絶対聞かせられないことを言い、けたけた笑う。
そこは笑うところじゃないと思うのだけども……マルがアレクを倡だとは考えていないからこその、軽い発言なんだろう。
だから、この可能性はまぁ低いんですよ。と、マルは締め括った。
「仮に、神官の頃からこの芸妓官のようなことをしていた場合、司祭らの職権侵害です。逆に出世が遠退いてしまう。
生まれの地位が高かった場合を考えても……神殿に入る時点で、貴族としての地位はほぼ肩書以外に使い道が無い。家とは縁を切らなければ、聖職者とはなれませんからね。
あー……やっぱり執行官説が有効ですねぇ。そうすると情報収集もお手上げになってしまうんですが……」
「……それだけ絞れるだけで、随分と違うよ。
ありがとうマル、話してくれて……」
「……これを聞いても、お気持ちは変わりませんか」
「うん。申し訳ないけど……」
そう言うと、マルは溜息を吐き、怒りや苛立ちではなく、ただ心配し、そして諦めたのだろう……諦観の瞳で、俺を見る。
「危険だと、何度言ってもご理解いただけませんかねぇ?」
「危険かな? 俺はむしろ、神殿の中枢に近い人材であるならば、信頼を勝ち得るよう努力する方が良いと思ったけど」
「……危険が少ないならば僕もそれを勧めますよ。
ですが……王家の白を神の祝福ではないと否定したのは、レイ様、貴方です。
もしその事実を神殿が把握した場合、貴方は敵とみなされてしまう。
神殿の勢力を大きく削ぐ要因を、作ってしまったわけですから。
その上でこれから我々は、教義に真っ向から歯向かうんですよ?」
「うん……」
分かっている。
「もしそうなったとしても、分かってもらえるように説明する。説得する。
王家が滅べば神殿だって共倒れだ。それを喜ぶはずもないから。
それに今、アレクは俺の神殿での発言権を高めることに協力してくれている。
これをこのまま利用できれば、万が一マルの懸念通りになったとしても、神殿を説得する足掛かりにできるのじゃないかって思うんだ」
常日頃から神殿に貢献していれば、ただ神殿に仇なすための行動とは取られないと思うのだ。
俺たちは別に、神殿を潰そうだなんて思っていない。
ただひとつ、獣人を蔑ろにした政策を、正したいだけ。
「このまま内部で発言力を高めていけば、穏便に獣人政策を変えていくことだって、できるかもしれない。
だからマル……協力して欲しい。アレクのことは、俺に任せてくれないか」
そう言うと、また深い溜息。
「……仕方がありませんね。
僕たちが争っては、本末転倒ですし……。
ですがどうか、身辺にはお気をつけください。必ず武官を伴って、身を守る術を手放さないでください。
貴方に何かあったら、全てが台無しになってしまうんです。そのことだけはご理解ください」
万が一は、自分の命を最優先にしろ。
例え武官の誰かを失う事になったとしてもと、そういう意味……。
「それをお約束いただけるならば、承知します。
あ、言っておきますけどね、武官とは本来、そういう役職なんですからね!」
最大限の譲歩だぞと、言外に言うマルに苦笑して、俺も「分かった。約束する」と告げた。
うん……彼らの命を無駄にできない。慎重に、無茶をしないようにするから。
それでやっと、マルは納得してくれた。
孤児を連れ帰る件も受け入れ、孤児の前歴も、探れるだけ探るとのこと。
そこまでしなくても……と、思わなくもなかったけれど、やりたいようにやらせておこうと思い直した。
神殿関係には、過剰なくらいにしておく方が、皆も安心できるのだろう。
マルが部屋を辞していき、夕飯までの暇つぶしがてら考えたのは、やはり……アレクのこと。
俺の中では、アレクが何であったかが、ほぼ固まった。
貴族出身で、身を公にはできない方なのだ、きっと。
例えば、クロードの奥方、セレイナのように……。
それならば、合点がいく。存在を公にできない理由になる。公爵家のような高貴な方々の血ならば、影を使って情報を俺たちの目から隠すことも可能だろう。
と、考えれば……ジェスルと、どこかの公爵家の落とし胤……その可能性が高いか。
アレクの麗しい顔に、何か名残や血筋は窺えないかと考えてみる。
誰かに似ている……という印象は無い。これといって思い浮かばなかった。
では、アレクが公爵家の落とし胤と仮定して、家々の対応を考えてみる。
少なくとも、アギーではないだろう……。アギー公爵様であれば、きっと隠したりなどしない。
ジェスルの血の方だろうと妻に迎え、認知する方を選ぶだろう。
ヴァーリンである可能性も、低いように思えた。
シルヴィの白を隠していたヴァーリン……長老や前領主殿の思考を考えれば、アレクが血に連なるならば、利用しようとするに違いない。
それに、シルヴィを得てあそこまで舞い上がったのは、白を得たことが無かったからこそだと思う。
オゼロ……オゼロはどうだろう。
エルピディオ様の場合、年齢的に孫にあたるのかな……。
でも……王宮でアレクと見えた時も、特別な反応は無かったように思う……。
あ、そうか。
そもそも公爵家だと、会合等で司教以上の方々と席を同じくすることは多々あるはずだ。
存在を隠しているならば、アレクがあのような場に立つことは好ましくないだろう……。
望まぬ血であったからこそ、神殿へと向かわせたのだろうし……あれ、そうなると公爵家の血を引く可能性は低いのか?
いや、まだベイエルを追求してないうちから結論は出せないだろ。
とはいえ、ベイエルのことは殆ど知らない……。特別な縁は賜っていないしな……。
そんな風に思考を巡らせていたら、随分と時間が経っていたよう。
肩に触れる手の感触で我に返ると、サヤが俺の顔を覗き込んでいた。
「夕飯の準備が整いましたよ。ハインさんが、苛々して待ってます」
「あぁ、ごめん。全然気付いてなかった」
そう言い机に手を掛けたものの、立ち上がることを止めて、サヤの手首を掴む。
「どうした?」
サヤの表情が……随分と暗いように見受けられて……俺がそう問うた途端、とっさに顔を背けて見せまいとするものだから、確信を持った。
「なんでもないは通用しないから。
何があった? ……違うか。マルかな、何か言われた?」
「………………」
「言われたんだね。俺を止めろとか、そういうこと?」
「違う」
サヤはその言葉だけで、泣きそうなほどに表情を歪めてしまった。
そうして、顔を俯けて呟くように教えてくれたのは……。
「レイが……神殿に関わる以上、命の危険があると仮定して、護衛に努めるようにって……。
何かあったら、命を賭してでも、守り通せって……」
マルううぅぅ……。
それ今言わなきゃ駄目だったかああぁぁ⁉︎
「大袈裟! まだ全然、そんな話にはなってないし、危険なんて無いから大丈夫。
それは、王家の白が病だってことを俺が進言したとバレたら危険だって話だし、王家からそれが漏れる可能性は限りなく低いから」
そう言ったのだけど、サヤは俯いたままだ。
そうして、ギュッと拳を握る。
王家の白が病だと進言したのは確かに俺だけれど、その知識を授けてくれたのは、サヤだ……。
だからサヤは、怖いのだろう。己の知識が俺を危険に向かわせるのだと、考えてしまうのだろう。
だけど、そのサヤの知識が無かったら、フェルドナレンは近い未来に終わりを迎えていたろうし、陛下だって、リカルド様だって、きっとずっと、苦しんでいた……。
何も間違っていない。サヤは正しいことをしてる。皆が望む形で幸せに向かうために、これは必要なことだった。
「大丈夫。そんな風にはならないよう、俺も気をつけるから」
「……私に何かあった場合も、レイが役に立たんようになる可能性が高いから、私も身の回りにはくれぐれも気をつけてって……。
単独行動は控え、必ず誰かを伴うようにって、言わはった……」
「……うん。だけどそれ、今までだってそうだったし、領主一族としては当然のことだろ?
マルは念を押しただけだよ。今までと何も違わない」
サヤは俺の妻になるんだから、それが当然になるんだよ。
サヤを守るために、皆が危険に身を晒すわけじゃない。領主一族とは、元からそういう立場なんだ。
だけど、誰かを犠牲になんてしたくないって考えてしまうのは分かる。俺だって同じ気持ちだ。
「俺たちは、皆を無駄に危険に向かわせたりしないよう、気を付けていこう?
そして、皆に命を張らせるぶん、幸せにしてやれるよう、頑張ろう」
サヤを抱きしめて。そう言い聞かせた。
誰かに守られるということに、そんな風に罪悪感を抱かなくて良いんだ。
俺たちは皆に守られるけれど、俺たちも皆を守る。いざとなったら矢面に立つ。それが領主だから。
だけど……皆のことを、そんな風に大切に思ってくれるサヤが、愛おしい。
そんな道を、俺と共に歩んでくれるサヤを、大切にしなきゃ……。
あ、少しややこしいので、斡旋役を芸妓官、奉仕者を倡と使い分けますね。
この芸妓官という役割は、神殿を任された司祭の役割だと思われます。全ての神殿でそうとは限りませんが、それなりに多いとは考えています。
彼らは、孤児や信者を使いますから、中から良さげな者を見繕って斡旋すれば良い。当然神殿の収入にもなっていることでしょうし。
倡役からしても、上手くすれば使い潰されることを免れられるし、立場を脱し、神職者への道が切り開かれる可能性が得られる。
ただ……倡役は必然的に若い女性が多いので、司祭になってからアレクセイ殿の名が知られだした……というのは、些かおかしいんですよねぇ」
司祭となるまでにだって、功績の積み重ねは必要ですから。と、マル。
自分自身を切り売りしていたからだ……と、俺には分かったけれど……そこを口にはできない。
また、これはサヤにも聞かせられない内容だと思った。
あの人が何故ああも頑なか……肌を晒すことをあそこまで厭うたか……。それの答えがここにあるように思えた。
「それでも一応は調べたんですが、これという功績は引っかかりませんでした。
まぁ……執行官であった場合、調べすぎるとこちらの首が締まりますし、芸妓官であった場合、司教に上り詰めるなんて無理なんで、どっちにしてもまだ彼の過去を特定できていないんですよね」
「そうなの?」
「芸妓官はお聞きの通り、表向きにできない貢献です。それで周りを納得させるのは難しい。数少ないでしょうが、清貧・潔白を貫いている方々の心証も悪いですからね。
仮に倡であったと仮定しても同じです。倡の出世は侍祭までという話なんで」
「……?」
「出世されては使いにくいですから」
自分よりも地位が上に行った者を、組み敷くわけにいかないじゃないですか。と、サヤには絶対聞かせられないことを言い、けたけた笑う。
そこは笑うところじゃないと思うのだけども……マルがアレクを倡だとは考えていないからこその、軽い発言なんだろう。
だから、この可能性はまぁ低いんですよ。と、マルは締め括った。
「仮に、神官の頃からこの芸妓官のようなことをしていた場合、司祭らの職権侵害です。逆に出世が遠退いてしまう。
生まれの地位が高かった場合を考えても……神殿に入る時点で、貴族としての地位はほぼ肩書以外に使い道が無い。家とは縁を切らなければ、聖職者とはなれませんからね。
あー……やっぱり執行官説が有効ですねぇ。そうすると情報収集もお手上げになってしまうんですが……」
「……それだけ絞れるだけで、随分と違うよ。
ありがとうマル、話してくれて……」
「……これを聞いても、お気持ちは変わりませんか」
「うん。申し訳ないけど……」
そう言うと、マルは溜息を吐き、怒りや苛立ちではなく、ただ心配し、そして諦めたのだろう……諦観の瞳で、俺を見る。
「危険だと、何度言ってもご理解いただけませんかねぇ?」
「危険かな? 俺はむしろ、神殿の中枢に近い人材であるならば、信頼を勝ち得るよう努力する方が良いと思ったけど」
「……危険が少ないならば僕もそれを勧めますよ。
ですが……王家の白を神の祝福ではないと否定したのは、レイ様、貴方です。
もしその事実を神殿が把握した場合、貴方は敵とみなされてしまう。
神殿の勢力を大きく削ぐ要因を、作ってしまったわけですから。
その上でこれから我々は、教義に真っ向から歯向かうんですよ?」
「うん……」
分かっている。
「もしそうなったとしても、分かってもらえるように説明する。説得する。
王家が滅べば神殿だって共倒れだ。それを喜ぶはずもないから。
それに今、アレクは俺の神殿での発言権を高めることに協力してくれている。
これをこのまま利用できれば、万が一マルの懸念通りになったとしても、神殿を説得する足掛かりにできるのじゃないかって思うんだ」
常日頃から神殿に貢献していれば、ただ神殿に仇なすための行動とは取られないと思うのだ。
俺たちは別に、神殿を潰そうだなんて思っていない。
ただひとつ、獣人を蔑ろにした政策を、正したいだけ。
「このまま内部で発言力を高めていけば、穏便に獣人政策を変えていくことだって、できるかもしれない。
だからマル……協力して欲しい。アレクのことは、俺に任せてくれないか」
そう言うと、また深い溜息。
「……仕方がありませんね。
僕たちが争っては、本末転倒ですし……。
ですがどうか、身辺にはお気をつけください。必ず武官を伴って、身を守る術を手放さないでください。
貴方に何かあったら、全てが台無しになってしまうんです。そのことだけはご理解ください」
万が一は、自分の命を最優先にしろ。
例え武官の誰かを失う事になったとしてもと、そういう意味……。
「それをお約束いただけるならば、承知します。
あ、言っておきますけどね、武官とは本来、そういう役職なんですからね!」
最大限の譲歩だぞと、言外に言うマルに苦笑して、俺も「分かった。約束する」と告げた。
うん……彼らの命を無駄にできない。慎重に、無茶をしないようにするから。
それでやっと、マルは納得してくれた。
孤児を連れ帰る件も受け入れ、孤児の前歴も、探れるだけ探るとのこと。
そこまでしなくても……と、思わなくもなかったけれど、やりたいようにやらせておこうと思い直した。
神殿関係には、過剰なくらいにしておく方が、皆も安心できるのだろう。
マルが部屋を辞していき、夕飯までの暇つぶしがてら考えたのは、やはり……アレクのこと。
俺の中では、アレクが何であったかが、ほぼ固まった。
貴族出身で、身を公にはできない方なのだ、きっと。
例えば、クロードの奥方、セレイナのように……。
それならば、合点がいく。存在を公にできない理由になる。公爵家のような高貴な方々の血ならば、影を使って情報を俺たちの目から隠すことも可能だろう。
と、考えれば……ジェスルと、どこかの公爵家の落とし胤……その可能性が高いか。
アレクの麗しい顔に、何か名残や血筋は窺えないかと考えてみる。
誰かに似ている……という印象は無い。これといって思い浮かばなかった。
では、アレクが公爵家の落とし胤と仮定して、家々の対応を考えてみる。
少なくとも、アギーではないだろう……。アギー公爵様であれば、きっと隠したりなどしない。
ジェスルの血の方だろうと妻に迎え、認知する方を選ぶだろう。
ヴァーリンである可能性も、低いように思えた。
シルヴィの白を隠していたヴァーリン……長老や前領主殿の思考を考えれば、アレクが血に連なるならば、利用しようとするに違いない。
それに、シルヴィを得てあそこまで舞い上がったのは、白を得たことが無かったからこそだと思う。
オゼロ……オゼロはどうだろう。
エルピディオ様の場合、年齢的に孫にあたるのかな……。
でも……王宮でアレクと見えた時も、特別な反応は無かったように思う……。
あ、そうか。
そもそも公爵家だと、会合等で司教以上の方々と席を同じくすることは多々あるはずだ。
存在を隠しているならば、アレクがあのような場に立つことは好ましくないだろう……。
望まぬ血であったからこそ、神殿へと向かわせたのだろうし……あれ、そうなると公爵家の血を引く可能性は低いのか?
いや、まだベイエルを追求してないうちから結論は出せないだろ。
とはいえ、ベイエルのことは殆ど知らない……。特別な縁は賜っていないしな……。
そんな風に思考を巡らせていたら、随分と時間が経っていたよう。
肩に触れる手の感触で我に返ると、サヤが俺の顔を覗き込んでいた。
「夕飯の準備が整いましたよ。ハインさんが、苛々して待ってます」
「あぁ、ごめん。全然気付いてなかった」
そう言い机に手を掛けたものの、立ち上がることを止めて、サヤの手首を掴む。
「どうした?」
サヤの表情が……随分と暗いように見受けられて……俺がそう問うた途端、とっさに顔を背けて見せまいとするものだから、確信を持った。
「なんでもないは通用しないから。
何があった? ……違うか。マルかな、何か言われた?」
「………………」
「言われたんだね。俺を止めろとか、そういうこと?」
「違う」
サヤはその言葉だけで、泣きそうなほどに表情を歪めてしまった。
そうして、顔を俯けて呟くように教えてくれたのは……。
「レイが……神殿に関わる以上、命の危険があると仮定して、護衛に努めるようにって……。
何かあったら、命を賭してでも、守り通せって……」
マルううぅぅ……。
それ今言わなきゃ駄目だったかああぁぁ⁉︎
「大袈裟! まだ全然、そんな話にはなってないし、危険なんて無いから大丈夫。
それは、王家の白が病だってことを俺が進言したとバレたら危険だって話だし、王家からそれが漏れる可能性は限りなく低いから」
そう言ったのだけど、サヤは俯いたままだ。
そうして、ギュッと拳を握る。
王家の白が病だと進言したのは確かに俺だけれど、その知識を授けてくれたのは、サヤだ……。
だからサヤは、怖いのだろう。己の知識が俺を危険に向かわせるのだと、考えてしまうのだろう。
だけど、そのサヤの知識が無かったら、フェルドナレンは近い未来に終わりを迎えていたろうし、陛下だって、リカルド様だって、きっとずっと、苦しんでいた……。
何も間違っていない。サヤは正しいことをしてる。皆が望む形で幸せに向かうために、これは必要なことだった。
「大丈夫。そんな風にはならないよう、俺も気をつけるから」
「……私に何かあった場合も、レイが役に立たんようになる可能性が高いから、私も身の回りにはくれぐれも気をつけてって……。
単独行動は控え、必ず誰かを伴うようにって、言わはった……」
「……うん。だけどそれ、今までだってそうだったし、領主一族としては当然のことだろ?
マルは念を押しただけだよ。今までと何も違わない」
サヤは俺の妻になるんだから、それが当然になるんだよ。
サヤを守るために、皆が危険に身を晒すわけじゃない。領主一族とは、元からそういう立場なんだ。
だけど、誰かを犠牲になんてしたくないって考えてしまうのは分かる。俺だって同じ気持ちだ。
「俺たちは、皆を無駄に危険に向かわせたりしないよう、気を付けていこう?
そして、皆に命を張らせるぶん、幸せにしてやれるよう、頑張ろう」
サヤを抱きしめて。そう言い聞かせた。
誰かに守られるということに、そんな風に罪悪感を抱かなくて良いんだ。
俺たちは皆に守られるけれど、俺たちも皆を守る。いざとなったら矢面に立つ。それが領主だから。
だけど……皆のことを、そんな風に大切に思ってくれるサヤが、愛おしい。
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