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九の月のはじめ 2
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「図面? あぁ、下図ですね。見せましたよ」
カラッとあっさり返されて、これですと、俺の前に差し出された図面。
何やら色々装飾が施された、爪先まで布で覆われたようになっている、まさに全身を飾り立てた衣装だった。
身体に沿うようにできているのか?
上半身は強調するけれど、下半身は隠すことの多い我が国の衣装とは、全く異なる法則の中にある装束だと一目瞭然で分かる。
まず、腰に帯も、切り替えも、何ひとつ無かった。これは繋がっているのか? ワンピースと言っていた、あれの亜種だろうか。
襟も無い。いや、襟だけじゃなく……鎖骨が大胆に晒されており、そこに薄布の上着を纏っているようだ。なんとこちらに襟がある。
肩掛けのように短い、胸の半分も覆っていない上着。けれど手の甲まで掛かる長い袖……。
胸の辺りから太腿まで、女性特有の優美な曲線を隠しもしておらず、膝上辺りから布が開き、広がっているのだが、裾は靴先も見えぬほどに長い。だが驚いたのは更に後方が長かったことだ。
敢えて引きずるつもりなのか、明らかに長くしてあり、裾が地面で広がっている。これは何のためだ?
そして何よりも気になったのは……む、胸の谷間もあらわというか……。これはサヤが気絶した、あの礼服に近くないか?
「サヤさんの国の礼装について、色々お話ししている時に、描いてくださったんです。
あ、婚礼用だとおっしゃってたのじゃないんですよ。
これではまるでウェディングドレスですねっておっしゃったから、どんな意味ですかって聞いたら、結婚式の、女性の礼装だって、教えて下さって。
その時はふーん、そうなんだって、そう思っただけだったのですけど……」
ムフフと意味深に笑い「内緒にするのは良いですね!」と、ご機嫌な様子でルーシー。
「サヤさんの国で言う、サプライズっていうやつですね!」
「……どういう意味?」
「意味としては驚きとか、不意打ちとからしいんですけど、相手を喜ばせようと秘密にして準備した演出のことを指すそうですよ!
良いじゃないですか、二年後の婚姻、サヤさんをびっくりさせちゃいましょう!」
サヤを、びっくりかぁ……。
ロジェ村で思い掛けず、サヤの国の料理に似た味を食べた時、サヤは感激して涙を零した。
また泣かせてしまうかもしれないけれど……でも、嬉しい涙であるならば、悪いことじゃないよなと思う。
あの時サヤは俺に、帰れなくても良いのだと。自分の居場所はもう、ここだと思っていると、そう言ってくれた……。
そうして、抱きしめて……俺に身を、委ねてくれて……。
あの時の蕩けるような口づけを思い出すと、胸が締め付けられたような心地になる……。
あぁ、触れたい……。
「秘密ねぇ……。じゃあ、一応この国の婚礼衣装も、用意してるふりをしておくべきじゃないかしら。
何も知らされないままで婚礼ってわけにも、いかないじゃない?」
「それもそうだな。……いやもう、いっそ作るか。どうせそのつもりで生地集めはしてたんだし」
「あらぁ、初めっからそのつもりだったの?」
「サヤはうちから嫁に出すって思ってたんだよ。あいつはうちの専属だし、天涯孤独の身だし……。家は、いるだろ」
この国の様式で婚姻を結ぶなら、花嫁の家に、花婿が妻となる女性を迎えに行くことになる。
何も言っていなかったけれど、ギルはサヤの家役を、引き受けてくれるつもりだったらしい。
サヤの国の、婚姻か……。
あんな風に、感激してくれるだろうか……。
それとも、苦しくなってしまう? 故郷を思い出して、帰りたいと、思ってしまわないかな……。
だけど……。
サヤ本人が、人生に一度しかないと力説していた結婚……。
夢見るようにうっとりと、頬を染めて語っていたあの姿を思えば……。
その憧れを、夢を、俺の手で、叶えてやれるならば……。
「あぁっ、今から楽しみです! この衣装をどんな色にします⁉︎
レイ様の瞳と同じ深い藍?
私が最もサヤさんに似合うと思っている薄桃色⁉︎」
両手を組んで、瞳にギラギラ闘志を燃やしつつもうっとりした表情で、着飾ったサヤを妄想しているらしいルーシー。
その頭をポカリと叩くギル。
「人の婚姻をお前の好みに染めるな。
サヤが最も美しく引き立つ色味を選べ馬鹿野郎。俺なら深緑色だな」
サヤは落ち着いた雰囲気で大人の色香を出す方が良いとギルが言うが、その手を乱暴に振り払ってルーシーは、支店店主である叔父に噛み付いた。
「地味!」
言葉に殴られたような表情になるギル。そんな二人を見てくすくすと笑うヨルグ。
「似合ってても地味です。お祝いなんですからね!」
「阿呆がっ! 分かってねぇなお前はっ、一生皆の記憶に刻み込まれるような、最も美しいサヤをだな……!」
「白だよ」
全く見当違いの色で論争を始めようとする二人に、そう口を挟んだら、ピタリと口論が止まった。
「……白……ですの?」
こてんと首を傾げてヨルグ。
サヤの国の花嫁衣装、せっかく形を真似るのに、色が伴っていないでは話にならない。
「サヤの国の婚儀は、全身を白い衣装、白い装飾品で纏めるそうなんだ。
頭には薄衣を掛けて。手には花束を持って……それも全部白。宝飾品も何もかも、全て白にすることに意味があって、相手色に染まるとか、新たな生活を二人で、真っ白から始めるという意味があるんだって……」
そう言って、頬を染めていたのだ。
だけど俺の言葉に、三人は困惑を露わにして顔を見合わせる。
「いや、でもお前、白のみってのは……」
「王家の色……ですわね」
「しかも神殿の白ですよね?」
ん?
「それはお前……不敬を咎められるんじゃないのか?」
そう言われてみれば……。
白は、別段禁止されているわけではない。
日常的にも色々な場面で使われているし、王家主催の祭りなどは、敢えて衣装の一部に白を取り入れたりするほどだ。
だが普段から、全身を同じ色に統一したりはしない。上下の色合わせに凝ることが、装いの醍醐味であるからだ。
衣装の色合わせを楽しむ習慣は、祝いの席で特に、重要視される。
女性の間では更に顕著だ。
配色の趣味が悪かったり、釣り合いが取れていなかったりすると、教養が無いと陰口を叩かれたりもする。
そういう意味でも、全身を一色に統一するというのは、かなりの冒険なのだ。
冬の社交界や祝賀会で、サヤは同色の上下を揃えたけれど、あれは刺繍を使って色に段階をつけたことと、袴のひだの中に、白い刺繍をふんだんに仕込んであったから、同色とはみなしにくかった。
それに、身につけた全てのものが、一分の隙もないほどに整えられていたからこそ、許されていたのだ……。
全身を白に統一するなんていうことは、王家と神殿しか、していない。
「部分的に白なんじゃなくて、全身が白なんだろ?」
「飾っても埋没して何一つ見えませんね」
「法服を模しているとか、そんな類の文句を言われたりしないかしら?」
不安を隠しきれない様子で三人が言うから……。
「……分かった。じゃあ、各方面に確認してみることにする」
できないかもしれない……。
と、言われると、俄然やらなければという決意が込み上げてきて、俺はそう宣言していた。
サヤを娶るのだ。俺のできる全力で、彼女の願いを叶えるべきじゃないか。
彼女の着飾る姿を、両親にも誰にも、見せてやれない……。けれど、ならば尚のこと、サヤが納得できるものにしなければ駄目だ。
誰に見せても恥ずかしくないよう、最高の式に、しなければ……!
「ルーシー、その衣装の下図、二枚ほど写してもらえるかな」
そう言うと、畏まりました! と、図を持って部屋を飛び出すルーシー。
残ったギルとヨルグは、やはり不安そうな顔で「各方面って、どこに確認するんだよ?」と、俺に問うてきたから……。
「勿論、王家と神殿だよ」
陛下と、アレクセイ殿に確認を取ろうと思ったのだ。
◆
後日、その二方から返信が届いた。
サヤが席を空けている隙に、ハインがこっそり運んできてくれたのだけど……。
「……早馬で届いた?」
「はい。二件とも早馬で書簡が届きました」
急ぎでもないのに、何故早馬……。
…………なんだろう。そんな重大な禁忌にでも抵触してしまっていたか?
アレクセイ殿の方は、もしかしたら上役に掛け合わなければならなかったかもしれない。
またあの大司教辺りに、無体な要求をされてしまったりしていないだろうか。それとも、それより以前に絶対駄目と慌てて返事を送り返してきたのかな。
俺が早まる前に押し留めようと思ったのだろうかと、ドキドキしながら書簡を開いてみたのだが。
「…………え」
まずアレクセイ殿の方はというと。
大変結構なことと思います。是非ともどうぞ。
念のため、婚儀には私が立ち会わせていただきます。
司教が参列すれば、神殿の許可が出ていることは一目瞭然。
とやかく言う者もないでしょう。
貴族特有の飾った文体になっていたけれど、ざっくり纏めるとそんな内容。
ほっと胸を撫で下ろしつつ、司教参列……という、ちょっと男爵家らしからぬ待遇に微妙な気分になる……。
バンスの司祭辺りに行ってこい。で、済む話だと思うんだけど……。いや、有難いとは思うけどね。
式、ちょっと規模の見直しを考えなきゃなと思いつつ、陛下からの書簡を開くと……こちらは陛下の直筆だった。しかもたったの二行。
無駄に大きな用紙の全面を使ってでかでかと記されていた。
許す。
が、私も行く。
…………え、行く?
「どうされましたか?」
「…………いや…………なんでもない……」
行く………………。
しまった。陛下じゃなく、ルオード様にお伺いを立てるべきだったか……。
人選を間違えてしまったと重たい気持ちになって溜息を吐いた。
でもルオード様だってきっと陛下に確認をとったろうし、結果は同じだったかな……いやいや、あの方ならうまく誤魔化したかも。
あ、でもどうせ式を上げることはサヤの成人後と伝えていたし、あの人のことだ、最終的にはこうなったよな、うん……。
早めに覚悟を決められるのだから、良かったと思おう……。
「アレクセイ殿と、陛下が……式に参列するらしい……」
「…………陛下はともかくアレクセイ殿もですか」
「陛下はともかく⁉︎」
「あの人は来ます」
「…………そうだね」
なんかもうそれ以上の返事を返す気力が湧かず、顔を両手で覆って深い深い、息を吐いた。
腹を括るしかないか………………。
カラッとあっさり返されて、これですと、俺の前に差し出された図面。
何やら色々装飾が施された、爪先まで布で覆われたようになっている、まさに全身を飾り立てた衣装だった。
身体に沿うようにできているのか?
上半身は強調するけれど、下半身は隠すことの多い我が国の衣装とは、全く異なる法則の中にある装束だと一目瞭然で分かる。
まず、腰に帯も、切り替えも、何ひとつ無かった。これは繋がっているのか? ワンピースと言っていた、あれの亜種だろうか。
襟も無い。いや、襟だけじゃなく……鎖骨が大胆に晒されており、そこに薄布の上着を纏っているようだ。なんとこちらに襟がある。
肩掛けのように短い、胸の半分も覆っていない上着。けれど手の甲まで掛かる長い袖……。
胸の辺りから太腿まで、女性特有の優美な曲線を隠しもしておらず、膝上辺りから布が開き、広がっているのだが、裾は靴先も見えぬほどに長い。だが驚いたのは更に後方が長かったことだ。
敢えて引きずるつもりなのか、明らかに長くしてあり、裾が地面で広がっている。これは何のためだ?
そして何よりも気になったのは……む、胸の谷間もあらわというか……。これはサヤが気絶した、あの礼服に近くないか?
「サヤさんの国の礼装について、色々お話ししている時に、描いてくださったんです。
あ、婚礼用だとおっしゃってたのじゃないんですよ。
これではまるでウェディングドレスですねっておっしゃったから、どんな意味ですかって聞いたら、結婚式の、女性の礼装だって、教えて下さって。
その時はふーん、そうなんだって、そう思っただけだったのですけど……」
ムフフと意味深に笑い「内緒にするのは良いですね!」と、ご機嫌な様子でルーシー。
「サヤさんの国で言う、サプライズっていうやつですね!」
「……どういう意味?」
「意味としては驚きとか、不意打ちとからしいんですけど、相手を喜ばせようと秘密にして準備した演出のことを指すそうですよ!
良いじゃないですか、二年後の婚姻、サヤさんをびっくりさせちゃいましょう!」
サヤを、びっくりかぁ……。
ロジェ村で思い掛けず、サヤの国の料理に似た味を食べた時、サヤは感激して涙を零した。
また泣かせてしまうかもしれないけれど……でも、嬉しい涙であるならば、悪いことじゃないよなと思う。
あの時サヤは俺に、帰れなくても良いのだと。自分の居場所はもう、ここだと思っていると、そう言ってくれた……。
そうして、抱きしめて……俺に身を、委ねてくれて……。
あの時の蕩けるような口づけを思い出すと、胸が締め付けられたような心地になる……。
あぁ、触れたい……。
「秘密ねぇ……。じゃあ、一応この国の婚礼衣装も、用意してるふりをしておくべきじゃないかしら。
何も知らされないままで婚礼ってわけにも、いかないじゃない?」
「それもそうだな。……いやもう、いっそ作るか。どうせそのつもりで生地集めはしてたんだし」
「あらぁ、初めっからそのつもりだったの?」
「サヤはうちから嫁に出すって思ってたんだよ。あいつはうちの専属だし、天涯孤独の身だし……。家は、いるだろ」
この国の様式で婚姻を結ぶなら、花嫁の家に、花婿が妻となる女性を迎えに行くことになる。
何も言っていなかったけれど、ギルはサヤの家役を、引き受けてくれるつもりだったらしい。
サヤの国の、婚姻か……。
あんな風に、感激してくれるだろうか……。
それとも、苦しくなってしまう? 故郷を思い出して、帰りたいと、思ってしまわないかな……。
だけど……。
サヤ本人が、人生に一度しかないと力説していた結婚……。
夢見るようにうっとりと、頬を染めて語っていたあの姿を思えば……。
その憧れを、夢を、俺の手で、叶えてやれるならば……。
「あぁっ、今から楽しみです! この衣装をどんな色にします⁉︎
レイ様の瞳と同じ深い藍?
私が最もサヤさんに似合うと思っている薄桃色⁉︎」
両手を組んで、瞳にギラギラ闘志を燃やしつつもうっとりした表情で、着飾ったサヤを妄想しているらしいルーシー。
その頭をポカリと叩くギル。
「人の婚姻をお前の好みに染めるな。
サヤが最も美しく引き立つ色味を選べ馬鹿野郎。俺なら深緑色だな」
サヤは落ち着いた雰囲気で大人の色香を出す方が良いとギルが言うが、その手を乱暴に振り払ってルーシーは、支店店主である叔父に噛み付いた。
「地味!」
言葉に殴られたような表情になるギル。そんな二人を見てくすくすと笑うヨルグ。
「似合ってても地味です。お祝いなんですからね!」
「阿呆がっ! 分かってねぇなお前はっ、一生皆の記憶に刻み込まれるような、最も美しいサヤをだな……!」
「白だよ」
全く見当違いの色で論争を始めようとする二人に、そう口を挟んだら、ピタリと口論が止まった。
「……白……ですの?」
こてんと首を傾げてヨルグ。
サヤの国の花嫁衣装、せっかく形を真似るのに、色が伴っていないでは話にならない。
「サヤの国の婚儀は、全身を白い衣装、白い装飾品で纏めるそうなんだ。
頭には薄衣を掛けて。手には花束を持って……それも全部白。宝飾品も何もかも、全て白にすることに意味があって、相手色に染まるとか、新たな生活を二人で、真っ白から始めるという意味があるんだって……」
そう言って、頬を染めていたのだ。
だけど俺の言葉に、三人は困惑を露わにして顔を見合わせる。
「いや、でもお前、白のみってのは……」
「王家の色……ですわね」
「しかも神殿の白ですよね?」
ん?
「それはお前……不敬を咎められるんじゃないのか?」
そう言われてみれば……。
白は、別段禁止されているわけではない。
日常的にも色々な場面で使われているし、王家主催の祭りなどは、敢えて衣装の一部に白を取り入れたりするほどだ。
だが普段から、全身を同じ色に統一したりはしない。上下の色合わせに凝ることが、装いの醍醐味であるからだ。
衣装の色合わせを楽しむ習慣は、祝いの席で特に、重要視される。
女性の間では更に顕著だ。
配色の趣味が悪かったり、釣り合いが取れていなかったりすると、教養が無いと陰口を叩かれたりもする。
そういう意味でも、全身を一色に統一するというのは、かなりの冒険なのだ。
冬の社交界や祝賀会で、サヤは同色の上下を揃えたけれど、あれは刺繍を使って色に段階をつけたことと、袴のひだの中に、白い刺繍をふんだんに仕込んであったから、同色とはみなしにくかった。
それに、身につけた全てのものが、一分の隙もないほどに整えられていたからこそ、許されていたのだ……。
全身を白に統一するなんていうことは、王家と神殿しか、していない。
「部分的に白なんじゃなくて、全身が白なんだろ?」
「飾っても埋没して何一つ見えませんね」
「法服を模しているとか、そんな類の文句を言われたりしないかしら?」
不安を隠しきれない様子で三人が言うから……。
「……分かった。じゃあ、各方面に確認してみることにする」
できないかもしれない……。
と、言われると、俄然やらなければという決意が込み上げてきて、俺はそう宣言していた。
サヤを娶るのだ。俺のできる全力で、彼女の願いを叶えるべきじゃないか。
彼女の着飾る姿を、両親にも誰にも、見せてやれない……。けれど、ならば尚のこと、サヤが納得できるものにしなければ駄目だ。
誰に見せても恥ずかしくないよう、最高の式に、しなければ……!
「ルーシー、その衣装の下図、二枚ほど写してもらえるかな」
そう言うと、畏まりました! と、図を持って部屋を飛び出すルーシー。
残ったギルとヨルグは、やはり不安そうな顔で「各方面って、どこに確認するんだよ?」と、俺に問うてきたから……。
「勿論、王家と神殿だよ」
陛下と、アレクセイ殿に確認を取ろうと思ったのだ。
◆
後日、その二方から返信が届いた。
サヤが席を空けている隙に、ハインがこっそり運んできてくれたのだけど……。
「……早馬で届いた?」
「はい。二件とも早馬で書簡が届きました」
急ぎでもないのに、何故早馬……。
…………なんだろう。そんな重大な禁忌にでも抵触してしまっていたか?
アレクセイ殿の方は、もしかしたら上役に掛け合わなければならなかったかもしれない。
またあの大司教辺りに、無体な要求をされてしまったりしていないだろうか。それとも、それより以前に絶対駄目と慌てて返事を送り返してきたのかな。
俺が早まる前に押し留めようと思ったのだろうかと、ドキドキしながら書簡を開いてみたのだが。
「…………え」
まずアレクセイ殿の方はというと。
大変結構なことと思います。是非ともどうぞ。
念のため、婚儀には私が立ち会わせていただきます。
司教が参列すれば、神殿の許可が出ていることは一目瞭然。
とやかく言う者もないでしょう。
貴族特有の飾った文体になっていたけれど、ざっくり纏めるとそんな内容。
ほっと胸を撫で下ろしつつ、司教参列……という、ちょっと男爵家らしからぬ待遇に微妙な気分になる……。
バンスの司祭辺りに行ってこい。で、済む話だと思うんだけど……。いや、有難いとは思うけどね。
式、ちょっと規模の見直しを考えなきゃなと思いつつ、陛下からの書簡を開くと……こちらは陛下の直筆だった。しかもたったの二行。
無駄に大きな用紙の全面を使ってでかでかと記されていた。
許す。
が、私も行く。
…………え、行く?
「どうされましたか?」
「…………いや…………なんでもない……」
行く………………。
しまった。陛下じゃなく、ルオード様にお伺いを立てるべきだったか……。
人選を間違えてしまったと重たい気持ちになって溜息を吐いた。
でもルオード様だってきっと陛下に確認をとったろうし、結果は同じだったかな……いやいや、あの方ならうまく誤魔化したかも。
あ、でもどうせ式を上げることはサヤの成人後と伝えていたし、あの人のことだ、最終的にはこうなったよな、うん……。
早めに覚悟を決められるのだから、良かったと思おう……。
「アレクセイ殿と、陛下が……式に参列するらしい……」
「…………陛下はともかくアレクセイ殿もですか」
「陛下はともかく⁉︎」
「あの人は来ます」
「…………そうだね」
なんかもうそれ以上の返事を返す気力が湧かず、顔を両手で覆って深い深い、息を吐いた。
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