異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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後始末 1

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 それから然程の日数もかからず、雨季が明けた。

「今年も、氾濫が無かったか。喜ばしいことだ」
「あの堤は充分機能を発揮するということが実証されましたね。おめでとうございます」

 報告に来たアーシュとクロードを前に、長雨の中の職務遂行、大変有難かったと礼を伝えた。
 アーシュは無言で一礼するのみであったけれど、クロードは「大変有意義な経験でした」と言葉を添えてくれた。

「水の逆巻く荒れ川は、凄い迫力でした。これを制御しうることに成功したというのは、なんという偉業かと」
「制御できているかどうかは、まだ分からないよ。今年も無事であったというだけだしな」
「……まだ、氾濫の可能性があると?」
「無い。となる理由が無い。堤だって緩むし摩耗する。雨量だって、川の水量だって変化する」
「そうですね。確かにそうです」

 長く緊張を強いられる激務をこなしてくれた二人だ。暫くゆっくり休みを取りなさいと伝えた。
 去年、俺は十日の休みを全く有意義に利用できなかったし、長すぎて疲れたので五日ほどで良いか? と、伝えたところ……。

「娘とゆっくりさせていただきます」

 嬉しそうにクロードは笑ったのだけど、アーシュは……。

「私は必要ございません。休む理由がありませんので」

 いやいやいやいや……。

「休もう。最低二日は休もうか」

 とりあえず二日間の休みはゴリ押ししておいた。

「休んで目を離した隙に、主が野盗にでも襲われたらと思うと、休まりません」

 嫌味を忘れないアーシュさんです。

「もうない。あってたまるか」

 俺だって命は惜しいしね。


 ◆


 カーリンとエクラの退院が間近となった。
 なんとか徘徊許可をもぎ取り、今日は運動がてら、杖をつきつきカーリンの様子を伺いに来たのだけど、本日は片付けの真っ最中。
 エクラは小さいものの、特に不調もなくスクスクと育った。
 ひと月程度でこんなにか! というほど大きさが変わる。

「本当なら今くらいの大きさになってから出産になる予定だったんだけどねー」
「…………出てこれるの?」

 え、この大きさで? と、思ったのでそう聞いたのだが、ナジェスタとカーリンは声を上げて笑って……。

「出てこれないでどうするの!
 だから大抵のお母さん大変なんだってば!」
「人によってはもっと大きな子産むこともあるけど、流石に産道が裂けたりするし、事前に切ったりするよー」

 とか、なんか怖いこと言ってる!

「裂けるより切る方が治りが早いしね」

 いや、理屈は分かるけども!
 身体が裂ける痛みに耐えて出産って、相当だと思うのは俺だけ⁉︎

「だからレイ様も、サヤさんの時はほんと、大切にしてあげなきゃだよ。
 出産は命がけって、そこんとこほんと、肝に銘じてね」
「お腹大きくなって働くのはほんと危ないからね」
「それはカーリンが悪いんだからね! 貴女ほんと楽観視し過ぎ」
「もうしませんっ! いやもう、ほんとに……次はもっと気をつけるから」
「ヤダァ、もう次とか考えてるんだーっ!」

 キャッキャと楽しそうな女性二人。凄い仲良くなってる……。
 俺とダニルは顔を見合わせて、まぁ、悪いことじゃないよねと苦笑した。
 退院しても、子供の経過を診察するため、ふた月に一度はここに通うとのこと。

 その前に一旦戻り、結婚式の準備をしなければならない。
 雨季が明けたらって約束になっていたからね。


 ◆


 野盗襲撃の時も、治療院は大工や石工たちによって守られた。
 たまたま早くに鉢合わせした彼らが、最優先で治療院の守りを固めてくれたのだ。
 そのお陰で、カーリンたちの安全は守られ、怪我人の治療も滞ることなく、村は治安は守られた。本当に有難いことだ。
 日々食事処の世話になっている彼らは、ダニルの環境を理解しており、あそこが一番無防備だと考え、動いてくれたという。

「初めっからキナ臭い連中だと思ってたもんなー」
「ゴロツキみたいな目ぇしやがってと思ってたら、マジでゴロツキだったわ」
「まぁこの村には金がありそうって思ったんだろううけどよ……」
「とりあえず、俺らの方でも見回りくらいならすっから。なんか困ったら声掛けてくれよ」

 そんな風に言ってくれるのが有難いやら、申し訳ないやら。彼らにとっても、ここは自分たちの村! という意識があるのだという。だだっ広い野っ原の状態からここまで立派なものにしてきたのだ。その自負は当然強いのだろうな。

 大工らにも怪我人はいたけれど、皆元気。
 雨季が明けて、また工事再開だから、そういう意味でも張り切っているようだ。

 そうそう、雨季の間って基本的に仕事ができないことが多い。けれどここはまだ建設途中の村で、時間はいくらあっても足りない。だから、雨季に入るまでに、屋根までを完成させた家屋を量産しておき、雨季の間に内装作業や建材加工を行うよう、計画を組んでいた。
 空き倉庫のひとつを作業場として提供し、村の拡張計画なんかもここで。だから土建組合員らも通い詰めだ。

「普通なら雨季の間は滅多に仕事ねぇのに、ここじゃ仕事あるんだもん。ほんと有難ぇよ」
「あと一区切りごとに支払いが入るっていうのがほんと助かります。大抵終わってからだから、借金の利子も馬鹿になんねぇんだよな」
「雨季の間は建材加工。これ確かにありだわ。規格揃ってっから使うって分かってるしできるんだなぁ」

 ウーヴェは職人の生活をよく知っており、それを踏まえて建設計画を纏めてくれている。
 更に、大工らと相談し、雨季にできる作業というのを事前準備。長雨の間も工事を続けるということをこなしてくれていた。
 お陰で村の建設は順調そのもの。少し遅れていた分も、この期間に取り戻してくれたよう。
 それどころか、この先必要であろう建材の加工を雨季に行うことで、大幅な時間の短縮を果たしていた。

 人材探しも、職人の管理もあるのに……働きすぎじゃないかと心配になる……。

「職人の管理はリタがやってくれているようなものですし、村建設の方はシェルトがだいたい担ってくれますから、手間は然程でもないのですよ」

 ちょくちょく使用人を増やしたりもしているそう。
 現在ブンカケンは、領主の館と成り果ててしまったここをそのまま領主の館とし、ブンカケンを新たに新設しようと考えている。
 なにせ兵舎やらなんやら、当初よりかなり規模が違ってきているものな。
 とはいえ、場所が離れてしまうとそれはそれでやりにくい。なので、増築という形で領主仕事用の場所と、ブンカケン仕事用の場所を分けようとしていた。

「でもこれ会合後だな……」
「ですね。今考えている余裕無いです。一応予定だけは頭に入れておいてください」

 一年でこんなことになるなんて、当初は考えてなかったなぁ……。
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