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オゼロ 8
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そんな風に、サヤの存在は全面的に認められた。
もう誰に憚る必要もなく、誤魔化すこともなく、サヤだけが俺の妻になることを公言できる。そのことが俺の心も、サヤの心も軽くしてくれて、俺たちはとても穏やかな気持ちで雨季を迎えられた。
それでも他家からの横槍はあるだろうけれど、少なくとも父上の存命中は、サヤの立場を脅かすような輩の思惑を、父上は受け入れはしないだろう。
父上の宣言と、俺の役職。それがサヤを守る盾になる。それでこの一年を乗り切れば、俺も成人。成人すれば、俺の立場も一気に強化され、地盤は更に整えられる。
「例の宝石商、先程拠点村を出た」
夕刻前に、アイルから報告があった。
思っていたより早い時間だったな。もっと拠点村の中で粘られるかと思ったが……。
そう思いつつ、手元の書類に落としていた視線を上げると、前に立つアイルの表情がなんとも渋い。……いつも淡々としている彼が、表情に感情……嫌悪感を滲ませているって、珍しいことだ。
「…………どうした?」
「あの商人と、取引するのか?」
「いや? その予定は無い。というか……何かあったのか?」
「何も無い。ただ、ギリギリのところを突きにくる陰湿な奴だった。好かん人種だ」
ブリッジスの嫁探しは、かなり問題があったようだ。
待たせていた使用人も総動員した大掛かりな捜索だったそう。まぁ、それ自体はともかく。
まるで規則のギリギリを突くようなやり方で、注意されれば引き下がる。けれど女性を威圧するかのように口調も態度も悪く、まるで自分たちが来たことを、この地に刻みつけるような、後々までも嫌悪感を拭えないような、とにかく悪質なものであったらしい。
「俺たちが最も嫌悪する人種だ」
約定のギリギリを、まるで表面を撫でるように沿って囲い込み、最後には鎖に絡め取る。
人を殺すことを生業としていた虚の頃に、そういう輩とは嫌という程関わった。
自分たちを手駒として欲した者たちと同じ匂いだったと、アイル。
「だからあれには関わるなと、言うつもりだった。取引が無いのなら良い。
では、あの母娘に長屋へ戻って良いと伝えてくる」
「あ、待ってアイル。……それは俺が伝えに行く。
それよりも、ブリッジスの追跡は……」
「勿論、尾行している」
「ならば良い。一応メバックにちゃんと戻るまでは確認しておいて。長雨の中だし、引き返してくることも考えられるから。
サ……ヤは、ルーシーのところか……。ハイン、手は空きそう?」
ハインを伴い、兵舎の応接室に向かった。
気が重かったけれど、ブリッジスがカタリーナたちを捜しており、ここに手がかりがあると考えている以上、二人に知らせないわけにはいかない。
どれくらい誤魔化していられるかも分からないし、今後のことも考えなければいけないだろう。
現在応接室には警護が付けられ、万が一でもカタリーナらに接触しないよう配慮されていたが、訪を告げて部屋に入ると案の定、カタリーナは相当追い詰められた様子で、ジーナを抱きしめ部屋の隅に縮こまっていた。
ジーナはというと、そんな母親の腕の中で、ただ黙ってされるがまま……。
母親の負担にならぬよう、刺激しないよう、良い子でいようとしているのだというのが手に取るように分かって、苦しくなる……。
長椅子に促そうにも、きっと彼女らはあの場所を動かないだろう……。そう思ったから、敢えてそこには触れないことにした。
ハインを部屋の入り口に残し、俺だけ中に踏み込むことにする。ハインには渋られたけど……仕方ない。だってお前の怖い顔はカタリーナを刺激しちゃうだろうし。
「急に、こんな所へ閉じ込めるようなことをして、申し訳なかったね。
実は、カタリーナを探していると言う男が訪れていたんだ。
急なことだったし、貴女の事情はアレクセイ殿から聞いていたから、念のためと思って避難してもらった。
先程、その男は拠点村を出たと報告があったから、もう安心して良い」
カタリーナを探している男……という言葉だけで、彼女はヒュッと、息を詰めた。
だから、もう帰ったから安心してと、念を押す。
「もうこの村にはいない。また来たとしても、今回同様、村門を通る時点で報せが入る。
それにまだあちらは、カタリーナがこの村にいると断定していない。だから、大丈夫だ。まだ知られていないよ」
嘘をついた。
多分、ブリッジスは、ここにカタリーナが居ることは察知しているのだと思う……。
けれど、実際にカタリーナたちを見つけていない以上、手を出せない。だから今回は、引き下がった。
それと、曲がりなりにも俺は貴族。カタリーナを保護する俺の目的も分からなかったから、きっと探りを入れに来たというのもあったと思う。わざわざ俺に接触したのは、そのためだろう。
今回の俺の対応で、今後の出方を決めてくると思う……が、それを今カタリーナに知らせることは憚られた。彼女の心が、耐えられそうにない……。
「それで、これからのことなんだけど……。
あの長屋に戻ってもらうことは可能だよ。中は探らせたし、貴女の痕跡を彼らに見つけられることも無かったようだ。
だから、ある意味あそこは今、一番安全な場所だと思う。
それでも、あの場所にいることが不安であるなら、もう少し、外の者が接触しにくい場所に、住まう場所を変えても良い。
先日孤児院も完成したから、そちらの職員として、住み込みで働くことにする?
そうすれば、ジーナを長屋に預けて働きに出ることも、必要なくなる。
なんなら特例として、ジーナは孤児らと一緒に遊んだり、学んだりしても良い」
とにかく今は、カタリーナが安心できるように。それだけを考えた。
彼女だけを特別待遇にするなんて、本当は良くない。
だけど……母のような過ちだけは……あんなことにだけは、したくなくて……。
「大丈夫。絶対に守るよ。あんな男に、貴女たちを渡したりしない」
そのための方法を、早く見つけなければ……。
ブリッジスは、多分暫く、ここには来れない……。
今回探りを入れたのは、俺の対応を確認するためと、拠点村の中を探るため。きっとそれを、セーデン子爵家当主に伝えるためだと思われる……。
手紙にしろ、直接面会して報告するにしろ、雨季の間はいちいちに時間が掛かる。オゼロ領までの距離を考えたら、何が決まっても、行動に移せるのは雨季が明けてからだろう。
だから、その間に彼女らを守る方策を考えよう。
「とにかく今日は、長屋に戻るのも、不安だよな……。
うーん……もし嫌でなければ、館の客間を貸すこともできるし、居心地悪いようなら……あ、使用人の宿舎もある。
女中頭に相談してみることになるけど、その方が安心できるかな? 覚えてるだろう? アギー の帰りに同行した女中。彼女らなら、怖くない?
明日、改めて今後のことを決めようか。今日今すぐなんて無理だし、考える時間が必要だよな」
後ろの方でこれ見よがしな咳払いが聞こえた。
ハインの、大盤振る舞いしすぎですっていう忠告の咳払いだろう。
けれどそれにすら、カタリーナは竦み上がった。
「ハイン……女中頭を呼んで来て……」
「貴方をひとり残せと? そんなことを私が承知すると思いますか」
「……なら、警備でもなんでも使って良いから……」
で、女中頭が呼ばれた。
いつも職務外の頼み事ばかりしている気がする。ほんと申し訳ない……。そう言ったけれど、これも職務ですと返事があり、お任せくださいとのこと。頼もしい!
「ですが、宿舎もやはり、不安でしょうし……私の家でも宜しゅうございますか?」
「カタリーナが安心できて安全な場所なら、どこでも良いよ」
それで結局、女中頭のご家庭にお邪魔することとなった。
村内の借家だけど、吠狼の警備もあるし、大丈夫だろう。
何より女中頭が来たら、明らかにカタリーナの表情が変化した。……やっぱり貴族の俺は、信用できないのだろうな……。
とりあえず……。
その時はそれで、当面は凌げると思っていたのだけど…………。
相手の陰湿さは、俺の想像の斜め上をいっていたと、後になって知ることとなる…………。
もう誰に憚る必要もなく、誤魔化すこともなく、サヤだけが俺の妻になることを公言できる。そのことが俺の心も、サヤの心も軽くしてくれて、俺たちはとても穏やかな気持ちで雨季を迎えられた。
それでも他家からの横槍はあるだろうけれど、少なくとも父上の存命中は、サヤの立場を脅かすような輩の思惑を、父上は受け入れはしないだろう。
父上の宣言と、俺の役職。それがサヤを守る盾になる。それでこの一年を乗り切れば、俺も成人。成人すれば、俺の立場も一気に強化され、地盤は更に整えられる。
「例の宝石商、先程拠点村を出た」
夕刻前に、アイルから報告があった。
思っていたより早い時間だったな。もっと拠点村の中で粘られるかと思ったが……。
そう思いつつ、手元の書類に落としていた視線を上げると、前に立つアイルの表情がなんとも渋い。……いつも淡々としている彼が、表情に感情……嫌悪感を滲ませているって、珍しいことだ。
「…………どうした?」
「あの商人と、取引するのか?」
「いや? その予定は無い。というか……何かあったのか?」
「何も無い。ただ、ギリギリのところを突きにくる陰湿な奴だった。好かん人種だ」
ブリッジスの嫁探しは、かなり問題があったようだ。
待たせていた使用人も総動員した大掛かりな捜索だったそう。まぁ、それ自体はともかく。
まるで規則のギリギリを突くようなやり方で、注意されれば引き下がる。けれど女性を威圧するかのように口調も態度も悪く、まるで自分たちが来たことを、この地に刻みつけるような、後々までも嫌悪感を拭えないような、とにかく悪質なものであったらしい。
「俺たちが最も嫌悪する人種だ」
約定のギリギリを、まるで表面を撫でるように沿って囲い込み、最後には鎖に絡め取る。
人を殺すことを生業としていた虚の頃に、そういう輩とは嫌という程関わった。
自分たちを手駒として欲した者たちと同じ匂いだったと、アイル。
「だからあれには関わるなと、言うつもりだった。取引が無いのなら良い。
では、あの母娘に長屋へ戻って良いと伝えてくる」
「あ、待ってアイル。……それは俺が伝えに行く。
それよりも、ブリッジスの追跡は……」
「勿論、尾行している」
「ならば良い。一応メバックにちゃんと戻るまでは確認しておいて。長雨の中だし、引き返してくることも考えられるから。
サ……ヤは、ルーシーのところか……。ハイン、手は空きそう?」
ハインを伴い、兵舎の応接室に向かった。
気が重かったけれど、ブリッジスがカタリーナたちを捜しており、ここに手がかりがあると考えている以上、二人に知らせないわけにはいかない。
どれくらい誤魔化していられるかも分からないし、今後のことも考えなければいけないだろう。
現在応接室には警護が付けられ、万が一でもカタリーナらに接触しないよう配慮されていたが、訪を告げて部屋に入ると案の定、カタリーナは相当追い詰められた様子で、ジーナを抱きしめ部屋の隅に縮こまっていた。
ジーナはというと、そんな母親の腕の中で、ただ黙ってされるがまま……。
母親の負担にならぬよう、刺激しないよう、良い子でいようとしているのだというのが手に取るように分かって、苦しくなる……。
長椅子に促そうにも、きっと彼女らはあの場所を動かないだろう……。そう思ったから、敢えてそこには触れないことにした。
ハインを部屋の入り口に残し、俺だけ中に踏み込むことにする。ハインには渋られたけど……仕方ない。だってお前の怖い顔はカタリーナを刺激しちゃうだろうし。
「急に、こんな所へ閉じ込めるようなことをして、申し訳なかったね。
実は、カタリーナを探していると言う男が訪れていたんだ。
急なことだったし、貴女の事情はアレクセイ殿から聞いていたから、念のためと思って避難してもらった。
先程、その男は拠点村を出たと報告があったから、もう安心して良い」
カタリーナを探している男……という言葉だけで、彼女はヒュッと、息を詰めた。
だから、もう帰ったから安心してと、念を押す。
「もうこの村にはいない。また来たとしても、今回同様、村門を通る時点で報せが入る。
それにまだあちらは、カタリーナがこの村にいると断定していない。だから、大丈夫だ。まだ知られていないよ」
嘘をついた。
多分、ブリッジスは、ここにカタリーナが居ることは察知しているのだと思う……。
けれど、実際にカタリーナたちを見つけていない以上、手を出せない。だから今回は、引き下がった。
それと、曲がりなりにも俺は貴族。カタリーナを保護する俺の目的も分からなかったから、きっと探りを入れに来たというのもあったと思う。わざわざ俺に接触したのは、そのためだろう。
今回の俺の対応で、今後の出方を決めてくると思う……が、それを今カタリーナに知らせることは憚られた。彼女の心が、耐えられそうにない……。
「それで、これからのことなんだけど……。
あの長屋に戻ってもらうことは可能だよ。中は探らせたし、貴女の痕跡を彼らに見つけられることも無かったようだ。
だから、ある意味あそこは今、一番安全な場所だと思う。
それでも、あの場所にいることが不安であるなら、もう少し、外の者が接触しにくい場所に、住まう場所を変えても良い。
先日孤児院も完成したから、そちらの職員として、住み込みで働くことにする?
そうすれば、ジーナを長屋に預けて働きに出ることも、必要なくなる。
なんなら特例として、ジーナは孤児らと一緒に遊んだり、学んだりしても良い」
とにかく今は、カタリーナが安心できるように。それだけを考えた。
彼女だけを特別待遇にするなんて、本当は良くない。
だけど……母のような過ちだけは……あんなことにだけは、したくなくて……。
「大丈夫。絶対に守るよ。あんな男に、貴女たちを渡したりしない」
そのための方法を、早く見つけなければ……。
ブリッジスは、多分暫く、ここには来れない……。
今回探りを入れたのは、俺の対応を確認するためと、拠点村の中を探るため。きっとそれを、セーデン子爵家当主に伝えるためだと思われる……。
手紙にしろ、直接面会して報告するにしろ、雨季の間はいちいちに時間が掛かる。オゼロ領までの距離を考えたら、何が決まっても、行動に移せるのは雨季が明けてからだろう。
だから、その間に彼女らを守る方策を考えよう。
「とにかく今日は、長屋に戻るのも、不安だよな……。
うーん……もし嫌でなければ、館の客間を貸すこともできるし、居心地悪いようなら……あ、使用人の宿舎もある。
女中頭に相談してみることになるけど、その方が安心できるかな? 覚えてるだろう? アギー の帰りに同行した女中。彼女らなら、怖くない?
明日、改めて今後のことを決めようか。今日今すぐなんて無理だし、考える時間が必要だよな」
後ろの方でこれ見よがしな咳払いが聞こえた。
ハインの、大盤振る舞いしすぎですっていう忠告の咳払いだろう。
けれどそれにすら、カタリーナは竦み上がった。
「ハイン……女中頭を呼んで来て……」
「貴方をひとり残せと? そんなことを私が承知すると思いますか」
「……なら、警備でもなんでも使って良いから……」
で、女中頭が呼ばれた。
いつも職務外の頼み事ばかりしている気がする。ほんと申し訳ない……。そう言ったけれど、これも職務ですと返事があり、お任せくださいとのこと。頼もしい!
「ですが、宿舎もやはり、不安でしょうし……私の家でも宜しゅうございますか?」
「カタリーナが安心できて安全な場所なら、どこでも良いよ」
それで結局、女中頭のご家庭にお邪魔することとなった。
村内の借家だけど、吠狼の警備もあるし、大丈夫だろう。
何より女中頭が来たら、明らかにカタリーナの表情が変化した。……やっぱり貴族の俺は、信用できないのだろうな……。
とりあえず……。
その時はそれで、当面は凌げると思っていたのだけど…………。
相手の陰湿さは、俺の想像の斜め上をいっていたと、後になって知ることとなる…………。
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