693 / 1,121
閑話 夫婦 13
しおりを挟む
マルのこと……。好奇心を満たすまで、情報を得るだけの相手のつもりだったと、ローシェンナは言った。
「だけどあいつ、私の予想以上に変人で、好奇心の塊だった。しかも知識欲に見境がないじゃない?
あたしが獣化を初めて見せた時すら、どうやって身体を変形させるのかって、そっちの興味ばかりでねぇ。
まさか人に、あそこまで無条件に受け入れられるだなんて、想像していなかったから……線を引く機会を逃しちゃったのよねぇ……」
新たな知識に大興奮してむしゃぶりつくマルと、それに翻弄されるローシェンナ。
二人の若かりし頃を想像すると、なんだかおかしかった。
笑えるような気分じゃなかったはずなのに、ささくれていた気持ちがほんの少しだけ、癒された気がした。
「あんな風に獣人を受け入れられる変人、あいつくらいのものだと思ったのに……世の中って本当、予想の上をいくわぁ」
「…………」
「マルクスが、どこで何をしているかは、ずっと知ってた。
仕事柄、そういうのは調べ易かったから……。それがまた良くなかったのよねぇ。どうしても最後は、あの目に看取ってもらいたいって、思っちゃったの。
人とか獣とかじゃなく、あたしを見てくれる目で……見てほしかった……。
それに、あいつがあたしを探していることも、獣人を調べていることも知ってたわぁ。
どこかで区切りをつけてやらないと、踏み込んじゃいけないところにまで、踏み込んでしまいそうだった。
だから……ちゃんと踏ん切りがつくように、あたしの最後を教えておいてやらないと……って、そんな風に言い訳して……最後の場所をあいつのところにしようって……選んだの」
淡々としたその声音では、苦しみを吐き出しているのか、後悔を吐き出しているのか、それともただ思い出を語っているのか……分からなかった。
岩の上に置かれたの灯りはひとつきりで、ローシェンナの表情は、朧げにしか見えなかったし……。
「そうしたらあいつ、聞いていた以上に壊れてた……。もう、狂ってしまってるのかしらって、何度も疑ったわぁ。
あたしが死ねば、あいつもコロッと死ぬんだろうって、分かってしまったら死ねなくて……。だからそれだけで、獣人を人と証明するだとか、そんなのはあたし、本当はどうでもよかったの……。
あたしはあいつより歳も上だったし、種も違う……。だけど、たまに会って、少しだけ一緒に過ごして……死なないよう見張っておくだけなら、許されるかしらって。
………………あたしもほんと馬鹿、反省してないわねぇ……」
種が違う。それは越えられない隔たりだと思っていた。と、ローシェンナ。
マルはそれを区別しなかった。彼にはそこにある垣根を認識する気が無かった。だから余計に、輝いて見えたのだと……。
きっとサヤも、そう思っているのだろう。
俺とサヤの間には、俺には認識できない垣根がある。
特別な知識を持つサヤにしかそれは、見えやしないのだ……。
だけどローシェンナは、そうしたらねぇ……と、俺の方を見ずに、ただ闇に染まった空を見上げ……空の向こうの、マルを想って……。
「この村には無いはずのものが、あったの……。
ノエミを獣人だって、当然理解して、結婚したホセ。生まれたロゼ……。こんな境遇で、それでも幸せそうに笑って暮らす……。姿すら違うのに。
当たり前の家族みたいにするのよぅ、あの二人。ノエミの頬にね、口づけするのよ、ホセは。
レイルを愛しそうに見つめるの……。獣の姿なのに……全然気にしない。
サナリを抱いて、自分と瞳の形が似てるとか、口元がノエミに似てて可愛いとか言うのよぅ。
そんな様子にね、初めは戸惑いしかなかったわぁ。そんなわけない、あるはずないって……でも…………」
あそこには、幸せしか、ないの……。
そう吐き出したローシェンナ。
泣くのかと思った。だけど、彼女の瞳は涙を流さなかった……。
「手を汚す前に願っていたら……あたしにもあったのかしら……」
マルとの先が……あったのかしら……と、そう言っているのが、手に取るように分かったら……黙ってなど、いられなかった。
「マルは、今だって貴女しか、見ていないよ」
手を汚したとか、そんなこともマルは、全然見ていない。
「あいつは、あたしとの先なんて、考えてすらいないわよぅ」
「それはそうだよ。貴女が望まないのに、それをマルが望もうとするわけがない。
マルは貴女が良ければ良いと思ってる。貴女がおばあちゃんになるまで、それなりの距離を保ちつつ近くにいる。それが貴女が許してくれた距離だから。それであいつは満足なんだ。
マルは……サヤに平気で交配とか、孕むとか、とんでもない言葉を使う……。だけど貴女に対しては言わないでしょう?
あいつは貴女の全部を知ってる。貴女の知らない貴女だって知ってるんだ。
貴女に家庭を匂わせることは、しないよ……。
貴女が傷付くことを、貴女に向かって言うわけがない。苦しむことは、当然排除するんだよ、徹底的に」
俺の根幹にサヤがあるように、マルの行動理由は全て、ローシェンナなのだ。
だから、ローシェンナを苦しめるようなことを、あいつはしない。ローシェンナには、家庭を拒む気持ちがあるって分かっているから。
「なのにあいつは、貴女の望まないことをひとつだけ、譲らない……。
獣人を人だと証明する。それだけは、きっと貴女が何を言っても譲らないよ。
何故だと、思う。どうしてそれだけ、譲らないのか……」
急に畳み掛けるみたいに喋り出した俺に、ローシェンナはびっくりしたのだろう。
瞳を大きく見開いて、寝転がったまま、俺を食い入るように見ていた。
「俺も、マルと同じ風に思うから、あいつの気持ちがよく分かるよ……。
マルが譲らないのは、貴女の隣に、並びたいから……。
貴女がマルを、自分と同じだと思ってくれないから……同じだって、分からせないとって、そう思っているからだ……」
言葉で伝えたって、無意味だと理解しているのだ。
だから、貴女ひとりを納得させるために、世界を動かそうとする。
「あんな自分勝手な男が、獣人を人と認めさせるなんてことを、世を正すためにしてるわけないでしょう?
元から、貴女の名誉を回復するためだけに始めた戦いなんだよ。
全部、貴女ひとりのため。そして貴女を納得させるためなんだ。
だけど、今は少し違うかな……。貴女は貴女ひとりだけの納得では、幸せになってくれないから……貴女の吠狼も幸せにしなきゃと思ってる。
変人だけど、懐は本当に深いから……なんというかこう……ほんと変人だけど……」
結婚とかはどうでも良いのだ……。あいつは、そういう枠で考えてない。
ローシェンナが大切にしているものが、あいつにとっても大切ものなのだ。
あまりに荒唐無稽な話にぽかんとしてしまっているローシェンナ。嘘みたいだけどね、これは本当だよ。
だってマルが俺と共闘すると決めた時、あいつははっきり、自分の目的は、貴女の名誉を回復することだと、口にしたからね。
「それに俺、前に一度だけ、マルの本音を聞いたことがあるんだ。
サヤが俺の婚約者に定まった時、サヤには、幸せになってほしいって。……種の違いなんかに、煩わされてほしくないって……」
あの時感じたのだ。
これは、マルの願いなのだと。マルの、ローシェンナに対する想いなのだと。
種に煩わされてほしくない……あれがマルの本音だ。
「…………俺は、マルみたいに無欲にはなれない。一緒に生きるという確約が欲しい。俺とサヤがちゃんと繋がってるって分かる約束が。
俺は自分に自信がないから……共にあるだけじゃ、不安で立っていられない……。
いつでも触れられなきゃ、確認できなきゃ、怖い。俺は本当に矮小な人間なんだよ。
喜んでほしい人が、幸せだって思ってほしい人が、隣にいてくれなきゃ……サヤが、俺の隣で笑ってくれなきゃ……俺は、なんのために…………」
なんのために、頑張れば良いのか、分からなくなる……。
だってな……自分の幸せを考えてなきゃ駄目だって……俺も幸せにならなきゃ駄目だって、サヤが言ったんだ。
「俺が幸せだって思うためには、サヤが必要なのに……サヤにそれが、伝わらない……。
サヤと出会うまで、俺には何もなかったんだ……。俺は世界の何とも、歯車を噛み合わせずに空回りしてたんだと思う。繋がれば壊される……そう思ってたしね……。
越えられない垣根は、俺を取り囲んでた……俺は息をすることすら、苦しかった……。
それが、サヤと出会ってから、世界が変わったんだ……。越えられないと思ってた垣根が、ただ線を引いただけだったみたいに、脆くなった。
そこを越えたら、景色が色付いたんだ。音が増えた。色んなものが、美しく感じる、大切に思える。同じものを見て生きてきたはずなのに、まるで変わったんだ。それこそ、異界に来たくらいに、俺の世界が変わった……。
豊かになった。大切だって思えるものが、愛しく感じれるものが、どんどん世界に増えていくんだ。それを恐れなくて良い……怖がらなくて良いんだ!
だから今は、サヤだけじゃない。たくさん大切にしたいものが増えた。義務や責任としてじゃなく心から、ハインやギルや、ここのみんなのためにも頑張りたいって思えるようになった。
だけどそれはやっぱり、サヤがそう思う心を、俺に与えてくれたから、支えてくれるからなんだ……。
俺もサヤを支えたいと思うから、強くなりたいと思うんだ……。サヤの幸せのために、自分や周りの全てを幸せにしたいと思えるんだ。
全部サヤがいてこそなのに……それが、伝わらない……俺の幸せは、全部根幹に、サヤがあるのに……っ」
俺が世界を愛するためには、サヤが必要なんだ。
「血のためとか、家名のためとか、俺にはそれじゃ駄目なんだ。
義務や責任としてじゃなくて、心から愛したい、大切にしたいって、思えるんだよ、サヤといれば……」
サヤが俺の世界の鍵なんだ。
俺は、鎖で雁字搦めだった俺を、解き放ってくれたサヤこそを愛したいんだ。俺の手で幸せにしたいんだ。そのためにこの世界があるんだとさえ、思うのに。
俺の全てをそのために捧げたって良いとすら、思うのに……。
「………………ですって、サヤ」
「だけどあいつ、私の予想以上に変人で、好奇心の塊だった。しかも知識欲に見境がないじゃない?
あたしが獣化を初めて見せた時すら、どうやって身体を変形させるのかって、そっちの興味ばかりでねぇ。
まさか人に、あそこまで無条件に受け入れられるだなんて、想像していなかったから……線を引く機会を逃しちゃったのよねぇ……」
新たな知識に大興奮してむしゃぶりつくマルと、それに翻弄されるローシェンナ。
二人の若かりし頃を想像すると、なんだかおかしかった。
笑えるような気分じゃなかったはずなのに、ささくれていた気持ちがほんの少しだけ、癒された気がした。
「あんな風に獣人を受け入れられる変人、あいつくらいのものだと思ったのに……世の中って本当、予想の上をいくわぁ」
「…………」
「マルクスが、どこで何をしているかは、ずっと知ってた。
仕事柄、そういうのは調べ易かったから……。それがまた良くなかったのよねぇ。どうしても最後は、あの目に看取ってもらいたいって、思っちゃったの。
人とか獣とかじゃなく、あたしを見てくれる目で……見てほしかった……。
それに、あいつがあたしを探していることも、獣人を調べていることも知ってたわぁ。
どこかで区切りをつけてやらないと、踏み込んじゃいけないところにまで、踏み込んでしまいそうだった。
だから……ちゃんと踏ん切りがつくように、あたしの最後を教えておいてやらないと……って、そんな風に言い訳して……最後の場所をあいつのところにしようって……選んだの」
淡々としたその声音では、苦しみを吐き出しているのか、後悔を吐き出しているのか、それともただ思い出を語っているのか……分からなかった。
岩の上に置かれたの灯りはひとつきりで、ローシェンナの表情は、朧げにしか見えなかったし……。
「そうしたらあいつ、聞いていた以上に壊れてた……。もう、狂ってしまってるのかしらって、何度も疑ったわぁ。
あたしが死ねば、あいつもコロッと死ぬんだろうって、分かってしまったら死ねなくて……。だからそれだけで、獣人を人と証明するだとか、そんなのはあたし、本当はどうでもよかったの……。
あたしはあいつより歳も上だったし、種も違う……。だけど、たまに会って、少しだけ一緒に過ごして……死なないよう見張っておくだけなら、許されるかしらって。
………………あたしもほんと馬鹿、反省してないわねぇ……」
種が違う。それは越えられない隔たりだと思っていた。と、ローシェンナ。
マルはそれを区別しなかった。彼にはそこにある垣根を認識する気が無かった。だから余計に、輝いて見えたのだと……。
きっとサヤも、そう思っているのだろう。
俺とサヤの間には、俺には認識できない垣根がある。
特別な知識を持つサヤにしかそれは、見えやしないのだ……。
だけどローシェンナは、そうしたらねぇ……と、俺の方を見ずに、ただ闇に染まった空を見上げ……空の向こうの、マルを想って……。
「この村には無いはずのものが、あったの……。
ノエミを獣人だって、当然理解して、結婚したホセ。生まれたロゼ……。こんな境遇で、それでも幸せそうに笑って暮らす……。姿すら違うのに。
当たり前の家族みたいにするのよぅ、あの二人。ノエミの頬にね、口づけするのよ、ホセは。
レイルを愛しそうに見つめるの……。獣の姿なのに……全然気にしない。
サナリを抱いて、自分と瞳の形が似てるとか、口元がノエミに似てて可愛いとか言うのよぅ。
そんな様子にね、初めは戸惑いしかなかったわぁ。そんなわけない、あるはずないって……でも…………」
あそこには、幸せしか、ないの……。
そう吐き出したローシェンナ。
泣くのかと思った。だけど、彼女の瞳は涙を流さなかった……。
「手を汚す前に願っていたら……あたしにもあったのかしら……」
マルとの先が……あったのかしら……と、そう言っているのが、手に取るように分かったら……黙ってなど、いられなかった。
「マルは、今だって貴女しか、見ていないよ」
手を汚したとか、そんなこともマルは、全然見ていない。
「あいつは、あたしとの先なんて、考えてすらいないわよぅ」
「それはそうだよ。貴女が望まないのに、それをマルが望もうとするわけがない。
マルは貴女が良ければ良いと思ってる。貴女がおばあちゃんになるまで、それなりの距離を保ちつつ近くにいる。それが貴女が許してくれた距離だから。それであいつは満足なんだ。
マルは……サヤに平気で交配とか、孕むとか、とんでもない言葉を使う……。だけど貴女に対しては言わないでしょう?
あいつは貴女の全部を知ってる。貴女の知らない貴女だって知ってるんだ。
貴女に家庭を匂わせることは、しないよ……。
貴女が傷付くことを、貴女に向かって言うわけがない。苦しむことは、当然排除するんだよ、徹底的に」
俺の根幹にサヤがあるように、マルの行動理由は全て、ローシェンナなのだ。
だから、ローシェンナを苦しめるようなことを、あいつはしない。ローシェンナには、家庭を拒む気持ちがあるって分かっているから。
「なのにあいつは、貴女の望まないことをひとつだけ、譲らない……。
獣人を人だと証明する。それだけは、きっと貴女が何を言っても譲らないよ。
何故だと、思う。どうしてそれだけ、譲らないのか……」
急に畳み掛けるみたいに喋り出した俺に、ローシェンナはびっくりしたのだろう。
瞳を大きく見開いて、寝転がったまま、俺を食い入るように見ていた。
「俺も、マルと同じ風に思うから、あいつの気持ちがよく分かるよ……。
マルが譲らないのは、貴女の隣に、並びたいから……。
貴女がマルを、自分と同じだと思ってくれないから……同じだって、分からせないとって、そう思っているからだ……」
言葉で伝えたって、無意味だと理解しているのだ。
だから、貴女ひとりを納得させるために、世界を動かそうとする。
「あんな自分勝手な男が、獣人を人と認めさせるなんてことを、世を正すためにしてるわけないでしょう?
元から、貴女の名誉を回復するためだけに始めた戦いなんだよ。
全部、貴女ひとりのため。そして貴女を納得させるためなんだ。
だけど、今は少し違うかな……。貴女は貴女ひとりだけの納得では、幸せになってくれないから……貴女の吠狼も幸せにしなきゃと思ってる。
変人だけど、懐は本当に深いから……なんというかこう……ほんと変人だけど……」
結婚とかはどうでも良いのだ……。あいつは、そういう枠で考えてない。
ローシェンナが大切にしているものが、あいつにとっても大切ものなのだ。
あまりに荒唐無稽な話にぽかんとしてしまっているローシェンナ。嘘みたいだけどね、これは本当だよ。
だってマルが俺と共闘すると決めた時、あいつははっきり、自分の目的は、貴女の名誉を回復することだと、口にしたからね。
「それに俺、前に一度だけ、マルの本音を聞いたことがあるんだ。
サヤが俺の婚約者に定まった時、サヤには、幸せになってほしいって。……種の違いなんかに、煩わされてほしくないって……」
あの時感じたのだ。
これは、マルの願いなのだと。マルの、ローシェンナに対する想いなのだと。
種に煩わされてほしくない……あれがマルの本音だ。
「…………俺は、マルみたいに無欲にはなれない。一緒に生きるという確約が欲しい。俺とサヤがちゃんと繋がってるって分かる約束が。
俺は自分に自信がないから……共にあるだけじゃ、不安で立っていられない……。
いつでも触れられなきゃ、確認できなきゃ、怖い。俺は本当に矮小な人間なんだよ。
喜んでほしい人が、幸せだって思ってほしい人が、隣にいてくれなきゃ……サヤが、俺の隣で笑ってくれなきゃ……俺は、なんのために…………」
なんのために、頑張れば良いのか、分からなくなる……。
だってな……自分の幸せを考えてなきゃ駄目だって……俺も幸せにならなきゃ駄目だって、サヤが言ったんだ。
「俺が幸せだって思うためには、サヤが必要なのに……サヤにそれが、伝わらない……。
サヤと出会うまで、俺には何もなかったんだ……。俺は世界の何とも、歯車を噛み合わせずに空回りしてたんだと思う。繋がれば壊される……そう思ってたしね……。
越えられない垣根は、俺を取り囲んでた……俺は息をすることすら、苦しかった……。
それが、サヤと出会ってから、世界が変わったんだ……。越えられないと思ってた垣根が、ただ線を引いただけだったみたいに、脆くなった。
そこを越えたら、景色が色付いたんだ。音が増えた。色んなものが、美しく感じる、大切に思える。同じものを見て生きてきたはずなのに、まるで変わったんだ。それこそ、異界に来たくらいに、俺の世界が変わった……。
豊かになった。大切だって思えるものが、愛しく感じれるものが、どんどん世界に増えていくんだ。それを恐れなくて良い……怖がらなくて良いんだ!
だから今は、サヤだけじゃない。たくさん大切にしたいものが増えた。義務や責任としてじゃなく心から、ハインやギルや、ここのみんなのためにも頑張りたいって思えるようになった。
だけどそれはやっぱり、サヤがそう思う心を、俺に与えてくれたから、支えてくれるからなんだ……。
俺もサヤを支えたいと思うから、強くなりたいと思うんだ……。サヤの幸せのために、自分や周りの全てを幸せにしたいと思えるんだ。
全部サヤがいてこそなのに……それが、伝わらない……俺の幸せは、全部根幹に、サヤがあるのに……っ」
俺が世界を愛するためには、サヤが必要なんだ。
「血のためとか、家名のためとか、俺にはそれじゃ駄目なんだ。
義務や責任としてじゃなくて、心から愛したい、大切にしたいって、思えるんだよ、サヤといれば……」
サヤが俺の世界の鍵なんだ。
俺は、鎖で雁字搦めだった俺を、解き放ってくれたサヤこそを愛したいんだ。俺の手で幸せにしたいんだ。そのためにこの世界があるんだとさえ、思うのに。
俺の全てをそのために捧げたって良いとすら、思うのに……。
「………………ですって、サヤ」
0
お気に入りに追加
838
あなたにおすすめの小説
恋文を書いたらあんなことがおきるなんて思わなかった
ねむたん
恋愛
あなたがどこで何をしているのか、ふとした瞬間に考えてしまいます。誰と笑い合い、どんな時間を過ごしているんだろうって。それを考え始めると、胸が苦しくなってしまいます。だって、あなたが誰かと幸せそうにしている姿を想像すると、私じゃないその人が羨ましくて、怖くなるから。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる