異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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流民と孤児 14

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 マルが調べてくれたことを踏まえ、今一度子供達に話をすることにし、昼食の後に時間を取った。
 昨日のことを言われるのだろうと分かっていた一同は、とても緊張した様子だったのだけど……。

「……と、いうわけでね。調べ直した結果、職員に刃物等の所持があったことが判明し、職員もそれを認めた。
 これは、ここの規則に違反することで、お前たちを不安にさせることだったと思う。だからそれに関しては、本当に申し訳なかった。こちらの注意不足だったよ。
 お前たちが、武器を振るった事実は消えないし、それは良くないことだったけれど、お前たちが、危険を感じ、身を守るためにそうしたのだろうということは理解した。
 だから、これからは職員の身体検査も実施する。お前たちが不安を感じなくて良いようにするから。
 でも万が一、武器等の所持をしている職員を見つけたら……今回みたいに、自分たちでどうにかしようなんて、しないでおくれ。
 それは間違えば、お前たち自身が大怪我を負うことになってしまう。怪我で済まない場合だってあるんだ。
 だからその時は、俺や警護の騎士に教えてくれたら良い。ちゃんとこちらで対処するし、お前たちを守るって約束する」

 その報告に、一同はぽかんと口を開いている。特に暴れた男児一同。
 まさか自分たちに俺が謝罪する状況になるだなんて、考えていなかったといった様子だ。

「まぁそれでね。お前たちは自分の身を自分で守りたいと、強く思っていることもよく分かったから、警備隊の隊長であるジークハルトより、ある進言があった。
 望む者がいるならば、彼がお前たちに剣術を指南してくれるって。
 彼が非番の日じゃないと駄目だから、五日に一度くらい。いつとは決めれなくて、時間に余裕のある日にってなるのだけど、受けたい者はいる?」

 返事は無い…………。
 しかし、受けたくないというより、戸惑いが優ってどう反応して良いか分からないといった様子だ。
 状況を理解するまで、辛抱強く待っていると、結局最初に口を開いたのはトゥーレ。

「……な、なんで?」
「なんでとは?」
「武器、取り上げといて、なんで剣術を教えるって話に、なるんだよ……」
「今ここで生活するお前たちに、武器は必要無い。
 孤児院は、大人に庇護された場だ。お前たちのことは大人たちで守っていく。ここでお前たち自身が武器を持ち、身を守る必要は無いんだ。
 だけど、お前たちの将来を考えれば、剣術を習うことは決して悪いことじゃないよ。
 例えば、ジークハルトのように……騎士や衛兵を目指すには、一定以上の剣術を身に付けていなければならない。
 他にも剣術の腕を磨いてなければ、就くことのできない職種は色々ある。
 お前たちに武器の扱いを教えないということは、そういった道……将来への夢や可能性を、閉ざすことになるだろう?」
「……………………え?    お、俺たち……騎士に、なれるの?」
「なれるよ。相当な努力や勉強が必要だけど、頑張ればちゃんとなれる。学べる場だって、用意する 」
「孤児なのに?」
「孤児であることは関係ない。だってジークハルトは孤児だったって言っていたろう?    彼はちゃんと正規の騎士だよ。
 あぁ、それからお前たちはセイバーンの子ということになるから、お前たちの庇護者は私となる。推薦が必要な職種は、お前たちにその実力が備わっていると判断できれば、私が責任を持って推薦状を書く。
 だから……そうだね。目指そうと思えば、文官、武官。執事や従者といった、貴族に仕える役職にだって就ける。私の従者のハインだってやっぱり孤児だしね。
 今からの時代、男の子だけじゃない。女の子にだって、可能性はあるよ。
 例えばサヤは、女性だけど従者をしているし、女近衛の推薦も受けている。彼女はね……実は、セイバーンの中でも屈指の勇者なんだよ」

 凄い秘密を打ち明けるみたいに、俺はにっこりと笑ってそう伝えた。
 だけど、女児たちはこの人何を言ってるんだろうみたいな顔だし、男児も呆れ顔。でも……サヤに投げられたと思しき一名だけは、納得の顔をしている。

「良い機会だ。お前たちにも見せてあげよう。
 武器を持つことは、強くなったことにはならない。本当の強さはね、身に宿るんだよ」

 サヤに目配せすると、彼女はにこりと笑い、オブシズを見た。オブシズも笑って、腰の剣をガチャリと鳴らす。
 この子たちに、見せるのは……サヤとオブシズによる真剣を使った模擬戦だ。


 ◆


 上着を脱ぎ、巻き袴を外したサヤ。対するオブシズは、鈍く光る小剣を構えている。
 広場に子供達と移動し、護衛の騎士らを全てここに集めた。
 騎士らは万が一の場合に、子供達を守るために配置されている。まあこの二人にそんな心配はいらないと思うけど。
 サヤの脱いだ衣服は俺が預かっており、開始の号令も俺が発することとなっている。

「では、従者サヤと、武官オブシズによる模擬戦を行う。
 武器は、サヤ無手。オブシズ小剣。一本勝負。双方、準備は良いか?」
「宜しくお願いします」
「お相手願う」

 一礼ののち、各々が構えを取った。そして、ふた呼吸……。

「はじめっ!」

 見慣れている俺でも、この二人の動きには圧倒される。
 足元を薙ぐ剣先を跳ねて避け、刃が戻る前に間合いを詰めたサヤ。
 腹部への打撃を左腕で受けたオブシズは、その反動を利用して反転し、その動きを無駄にせず、サヤに蹴りを放つ。
 傭兵であったオブシズの戦い方は、まさに実戦形式。形に拘らず、隙を作らない。
 極めて正確な剣筋に、織り込まれる蹴りや体当たりが、正規の騎士らからしたら想定外の動きで追えず、大抵一本を取られる。
 しかしサヤは、喰らわない。
 踏み込みかけていたサヤは、その蹴りを横に身をずらして避け、蹴りをそのまま踏み込みに変えて接敵したオブシズの胸元から、顎に向けて掌底。
 間合いを離してくると思っていたサヤが、まさか攻撃に来るとは想定外だったようで、オブシズは必死の形相サヤの掌を避け、横手に逃げた。
 が、それだけで終わらせるつもりは毛頭無い。引き寄せた右手の剣で胴を薙ぐ。
 本来ならそれで深手を負うところなのだが、サヤは小手でそれを受け止め、弾く。弾かれた剣は、そのまま空を旋回し、反動を利用して、サヤの頭上から振り下ろされた。

「……うっ……え?」
「しっ、死ぬ、死んじゃう!」
「……………………⁉︎」

 子供たちの絶叫。
 頭上からの攻撃を、サヤは横に避け、追って繰り出された突きを、頬をかすめるギリギリで回避、その手首に自らの左手を添えた。
 身体を腹部に密着させるように寄せ、オブシズの右脚を、サヤの右脚が払う。
 一瞬傾いだように見えたオブシズ。でもそれは、腰の短剣を引き抜いた動作を誤魔化すためのもので、でも広の視点を使いこなすサヤには当然、見えていて。
 振るわれた短剣。
 けれど、手首の中心にサヤの拳が高速で振るわれ、短剣を持ったまま、左手は高く跳ね上がった。その隙を逃さず、まだ掴んだままのオブシズの右腕を軸にして、身体を回転させるように捻ると、剣を握ったままのオブシズの身体が宙を舞う。

「それまで!」

 投げと同時に手首の関節を固められ、剣を取り落としたオブシズ。地面に背を打ち付けたけれど、サヤは手首を固めたまま、右足を振り上げ、踵を喉へと振り下ろし、俺の号令で紙一重。触れるか触れないかの位置で、動きを止めた。

「サヤ、一本」

 腕を払い、一瞬で間合いの外へと移動。隙を見せず構えを取り直す。万が一に対応できるように、即座に緊張は緩めない。
 そうして、立ち上がったオブシズが参ったと言い、剣を鞘に収めてようやっと、サヤは構えを解いた。

 素手のサヤが、男のオブシズに勝ち、けれどそれは、手加減など微塵も無い。決して生半可な戦いではなかったと、皆が身体で理解していた。
 それなりの経験者であれば、オブシズに殺気が無いことを理解できようが、今この場にそれを判断できる子供はいない。
 だから、ただ唖然と、サヤを見る。

「これで理解できたろう?
 武器を持つことが絶対的な強さではない。
 私はお前たちが、力の何たるかを正しく理解して、己を過信せず、謙虚に鍛錬に励んでくれたら嬉しく思う。
 己を高めることに性別は関係ない。持つ武器の強さも関係ない。本当の強さは、身に宿るんだ」

 それを正しく理解し、精進した時お前たちは、きっと立派な、大人になれているよ。
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