異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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式典 1

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 さて。
 本日の俺は、今までに無いほど華美な装いだ。
 青を基調とした配色は相変わらずなのだけど、今まで以上に刺繍が凄い……。
 まず上着は褐返色という、深すぎて紺に近い青緑色。袖口の折り返しや襟ぐりにはこれでもかと金糸の刺繍が施されており、正直普段より重く感じる……。
 長衣は百群色。ほんのりと薄い青緑色で、細袴も褐返。腰帯は紺。髪はサヤに頼み、極力簡素に肩から垂れる三つ編みのみにしてもらった。
 服が凄いから、頭まで凄くなったら怖い……。
 襟には真珠をあしらった、銀の襟飾。腰には銀の丸紐で飾られた印綬。
 本日は正装だから、腰帯の下には剣帯が巻かれており、飾りの長剣も下げている。

 サヤも女近衛の正装に身を包み、凛々しくも美しい。
 短衣のみ白く、その他の上着や袴は全て紺藍色。中衣だけは若干薄い色合いだ。同じく腰に剣を佩いているが、初めての帯剣なので違和感が凄い。
 本日も馬の尻尾のような髪型だが、顔の化粧は男装用ではなく、女性らしく……けれどほんのりと、慎ましい薄化粧だ。
 ルーシーがとてもやる気で、サヤを着飾らせる気満々だったのだが、主役は姫様なのだから注目を集めちゃ駄目だと説得して化粧は抑えてもらった。
 サヤに群がる蜂の視線は極力減らしたいし、注目されては困るのだ。
 サヤの左耳に、俺の襟飾と対になる、銀を基調とした耳飾。魚のひれを思わせる装飾は大きく、やはり人目を引いた。

 因みに、俺の手には一つ手荷物もある。リヴィ様の耳飾だ。少し遅れたが、なんとか届いた。

「サヤ、体調は大丈夫?」

 周りの視線はやはりこちらを見ているけれど……遠巻きだから、俺の耳に声は届かない。

「大丈夫です。どちらかというと、女近衛の正装に注目が集まっている感じなので」

 さもありなん。たった六人しかいない女近衛だものな。

 前を向いたまま、視線のみ周りに巡らせる。女性を伴っているのは領主の方々だろうか……大広間に向かうのだと思われる人の流れに、逆らう方向に進む長髪の俺を、訝しげに見る者もいる様子。でも、サヤを見られるよりは全然平気なので、俺はその視線をあえて無視した。どうせ任命式で、皆に分かるのだし。

 案内されたのは絢爛な待合室。
 部屋には机や長椅子が用意されていた。そのうちの一つに案内され、お飲み物は如何されますかと聞かれ、無難に香茶をお願いする。
 部屋にはまだ人影は無く、どうやら一番乗りできた様子。
 とりあえずそのまま席で待機していると、そのうちちらほらと、招かれた者らが集い出した。
 やはり、初めは若手が来るもので、先日お会いした女近衛の面々が。

「おはようございます」

 そう挨拶すると、彼女らは揃ってこちらに来る。
 ユーロディア殿、メリッサ殿、フィオレンティーナ殿に、マルグレート様。

「サヤ……と、セイバーン後継殿?」
「ここは、上座の者と、新たに役職を賜る者のみが呼ばれると聞いたけど」
「あぁはい。私はその役職関係です」

 そう言い腰の印綬を示す。まさか⁉︎    と、いった顔の方々に、そうなるよね。と、俺は頷く。

「とはいえ、しがない端役です。この通り成人もしておりませんから、色々至らぬ点も多いかと存じますので、どうぞご指導、ご鞭撻の程をよろしくお願い致します」
「えっ、わ、我々より貴方様の方が上役になりますよ⁉︎」
「そこが正直難しいところなんですよね……だって成人前でしょう?」

 フェルドナレンの貴族社会は成人していることがそもそも前提なのだ。
 だからいくら役職を賜るとはいえ、成人した皆様より上の立場だなんて言って良いものか……。

「役職を賜ったのですよ。ならば成人と同じ扱いですもの。レイ殿は一般近衛より上役。当然ですわ」

 と、そこに待ちわびた人の声が割って入った。

「リヴィ様」
「御機嫌よう、レイ殿。貴方は色々遠慮しすぎですわ。
 皆様、御機嫌よう。私、女近衛長を拝命致します、アギー公爵家が二十二子、オリヴィエラと申します」

 これで女近衛六名が全て揃った。やはり、統一された正装で並ぶと壮観だ。
 全員が顔を揃えたのはこれが初めてである様子。其々が出身と身分、名を名乗る。
 俺はバート商会で一通りお聞きしていたので、一応ここで紹介しよう。

 まずヴァイデンフェラー士爵出身、ユーロディア殿。
 士爵なので性は持たない。女性の身でありながら、前線が担当だったらしいので、実力は折り紙付きだろう。使用武器は短槍。
 本日は正装なので腰に剣帯を巻き、小剣を佩いているが、式典に参列といっても護衛役としてなので、短槍もお持ちだ。この短槍、二つに分かれる構造となっており、普段は両腰に佩くのだそうだ。

 次は、ノーデル士爵出身、メリッサ殿。
 領地が南の樹海に接しているため、野生の獣を相手にすることが多い領地であるという。そのため、男女共に弓に長けた者が多い土地柄で、彼女は女性射手の中で早打ちの名手であるとのことだ。
 現在も、腰に小剣を佩いているが、それに加え左肩に短弓を通し。背に矢筒を背負っている。

 そして、ムーレイン男爵家のフィオレンティーナ・フォルフィ・ムーレイン殿。
 裏葉色の髪、萌黄色の瞳で、筋骨隆々……という言葉が褒め言葉となる女性だ……。
 髪は短髪のメリッサ殿より刈り込まれ、ほぼ坊主頭に近い。喋ると声も低く掠れており、正直、男性にしか見えない。男装していないにも関わらず。
 この方も相当異色の方だと思う……。後継は年子の兄上殿であるそうだが、あまり健康ではないとのこと。
 その為、見た目も似ているフィオレンティーナ殿は、兄の代役をしばしば勤めていた。元々兄上殿より男らしいと言われる性格であったそうで、習い事も剣術も兄と同等こなし、成人した途端さっさと髪を兄上殿と同じ髪型に刈り込んでしまい、服装まで男性風に整えた。母親は諦めていたが、父親は絶望したそうだ……あまりに似合いすぎていたから……。
 この度、兄上殿の妻が無事出産を終え、後継が生まれたため、お前もそろそろまともな女性として云々……というようなお説教を喰らっていたらしいのだが、女近衛への打診が入り、飛びついたのだという。刺繍とか舞踊とか、今更無理。という理由で。
 使用武器は長剣。見事な筋肉の持ち主なので、軽々と振り回すそうだ。

 最後はセーデルマン子爵家のマルグレート・カーミ・セーデルマン様。
 波打つ葡萄茶色の髪と、藍色の瞳の、艶やかな方だ。なんというかこう……女性らしい女性。どこか婀娜っぽく、歌姫や踊女だと言われた方が納得できると思う。
 扱う武器は小剣よりも短く、短剣よりも長い剣をふた振り。便宜上短剣扱いだが、俺の持つ短剣より倍ほど長い。本日は左腰に小剣を佩いているが、どうも腰の後ろにもうひと振り、その短剣がある様子。最後に急遽決まったのがこの方。短剣を両手に持ち、まるで舞うように扱うのだという。

「本日、姫様の護衛と申しましても、基本は男性近衛が主となります。
 我々は、姫様のお着替えや休憩、不浄場など、男性近衛の立ち入り難い場を担当致しますので、どうぞ職務に務めてください」

 そう締めくくったリヴィ様に、一同は胸に手を当て、頭を下げた。

「しっかし、使わない小剣が腰にあるってほんと邪魔……」
「文句言わない。正装だもの、仕方ない」

 早速ユーロディア殿とメリッサ殿がそんな風に話を始める。士爵出身同士、接しやすいのかもしれないな。
 俺はリヴィ様の所へ赴き、耳飾を差し出した。

「ご依頼の品、無事完成いたしましたので、どうぞ」
「まぁ……」
「サヤが整え方を聞いて参りましたので、まず付けていただきます。
 本日多少の調節はしますが、後日、時間がある時に、職人に微調整していただく方が良いだろうとのことですよ」
 そう伝えると、リヴィ様はいそいそと長椅子へ移動。サヤが小箱から取り出した耳飾を、リヴィ様の耳に掛けた。

 リヴィ様の耳飾は、耳に引っ掛ける部分は思いの外簡素にできており、ほぼ飾りは無い。その代わり、耳から垂れ下がる飾りが凝っていて、金緑石の珠を蓮型の座金が包んだようになっていた。
 その蓮の飾りの下に、更に磨かれた黄水晶……こちらは剣に見立てて、振り子型に研磨されているものが続いている。
 リヴィ様は、それをとても愛しそうに眺めた。まぁ、お分かりだと思うが、宝石にはギルの色を使っていた。
 逆にギルの指輪には、内側……指を通す部分に、小さなリヴィ様の色の宝石が埋め込まれている。
 女中に手鏡を持って来させたリヴィ様が、鏡越しにそれを確認し、少しぐらつくとのことで、サヤが耳裏を確認。そして、耳飾を一旦外し、力技になるのだが……浮いていると思われる部分をえいっと指で曲げて調節してしまう。
 ……まぁ、こっそりとしゃがんで行われたわけだが。

「……如何ですか?」
「先程より良いわ。もう頭を振ってもぐらつかなくてよ」
「それは良かったです」

 部屋の隅の席でそんなことをしているうちに、新たに人が増えてきた。女近衛の面々は、そのお歴々に萎縮して俺たちの周り……部屋の隅に移動してきて、リヴィ様の耳飾を不思議そうに見ている。
 サヤにも似たようなものが付いているし、なんだろうな?    と、いった雰囲気だ。

「サヤ、ちょっと挨拶に回ってくるから、ここにいて」
「え、でも……」
「サヤはここに。私と共に、レイ殿をお待ちしておきましょう。
 後で、私たち女近衛は揃って挨拶に回ります。その方が、一度で済んで良いわ」

 その言葉に、緊張した様子であった女性陣はホッと息を吐く。

「では、サヤを頼みます」
「承りました」

 サヤの頬をさっと指で撫でてから、俺は席を立った。
 さて。サヤに触れて栄養補給も済ませたし、気合いを入れよう。ここからは戦場だ。
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