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バート商会 1
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メバックを出てから八日。
俺たちは無事王都へと到着した。
王都を囲う外壁にある大門は、父上の印綬と、俺の印綬でもって難なく通過。
俺が印綬を持っていることを示したのは、これにて俺が無事到着したことが、王宮に知らされるためである。
……と、いうか、知らなくて普通に父上に任せていたら、出しなさいと窘められた。そんな風になっていたのか……。
そのまま馬車列は王都に入り、中央通りを進む。
今は貴族の往来が多いと分かっている時期だから、中央通りの馬車利用は制限がかけられており、通り沿いにも、衛兵や騎士がちらほらと見受けられる。
王都に入ってからも、二つの大門を通過した。
二千年近い歴史を持つフェルドナレン王都は、段階ごとに拡張されてきた経緯があり、王宮に行き着くまでに、三つの門を通過する必要がある。その拡張のたびに区画整理も行われてきて、現在王都は貴族街、高級住宅街、平民街が二つと、分けられている。
因みに最後、三つめの門の内側が、貴族街だ。王宮に勤める貴族や士族の宿舎や邸宅、上位貴族の別邸、貴族相手の高級店舗などが集まっている。
庶民の生活する区域としては、二つめの門をくぐった、この区域が最も地価が高く、老舗や高級店が多い高級住宅街。目的の店は、その中でも一等地にあった。
店に到着したのは、日の暮れる直前。
本日の到着は書面で知らせていたため、速やかに裏口まで通され、俺たちは裏庭で馬車を降り、早速荷解きにかかったのだが……。
「ギルううううウゥゥゥ!」
「…………お袋……」
屋敷から飛び出してきた初老の婦人。
ギルの腰に体当たりする勢いで抱きついて来たその人を、ギルはげんなりした顔で受け止めた。
もう諦めたといった表情……。
学舎に通っていた頃も、そうだった。迎えに来るたびこんな感じで抱擁から始まるのは変わらない。
「もうっ、この子ったら本当に三年間帰ってこないんだから!」
「手紙だって売上報告だって送ってんだから、帰る必要ねぇだろ……」
「まぁっ、なんて言い草! 息子の顔を見たいと思う母の気持ちをなんだと思っているのかしら!」
ぷんぷんと怒って頬を膨らませる姿が、とても若々しい。
もう離せよ! と、嫌がるギルにまだ足りないわよ! としがみつく。元気そうで良かった。
「あのなぁ! 来客前だろうが!
いくらレイでも、もうちょっと落ち着き見せろよ。自分の年齢いくつだと思ってんだ!」
「レイくん?」
どうやら俺に気付いていなかったらしい。そんなに様変わりしただろうか?
ぺこりとお辞儀をすると、瞳がまん丸に見開かれ、ギルの腰に巻き付いていた腕が緩む。
「…………まぁ。まぁまぁ! なんて久しぶり、まああぁぁ、こんなに大きくなって、もっとお顔をよく見せてちょうだいな!」
そして、その人が俺に飛びついてくる前に、ギルがサッと手でそれを制した。
「もうそれやめとけって」
立場考えろよとギル。
だけど俺は笑って、その婦人を抱き寄せる。
「お久しぶりです、アリスさん……」
「レイくん、本当にレイくんなのね……⁉︎
こんなに大きくなって……しかも、すっごい男前になってる!」
え、それ本当?
「私と同じくらいの背だったのに、女の子みたいに可愛かったのに、たった三年で……まああぁぁぁ!」
かなり興奮したご様子の母君に、ギルが呆れ顔だ。
「あのなぁ……散々レイの衣装作ってんだから、大きさくらいとっくに分かってるだろうが」
「それとこれとは別! レイくん、もうちょっとしゃがんでちょうだい、お顔が高くてよく見えないから」
「だから、それやめろって!」
アリスさんの要望により、俺は腰をかがめた。
すると、俺の顔を両手で包んだアリスさんが、じっくりと俺の顔を観察して、お顔は変わらないわねぇ。と、呟くように言い、不意に瞳を潤ませる。
「元気そうで、本当に良かった。凄く心配したんだから……」
「不義理をして、ごめんなさい。
だけどこの通り、ちゃんと元気です」
「ええそうね。思っていたよりも、ずっと良いお顔。ちゃんと笑ってるわね」
「うん……ちゃんと、笑えるようになりました」
そう言うと、そのままキュッと、頭を抱き寄せられる。
「あぁもう! だからレイにそれすんなっつってんのに!」
ギルがそう言って頭を抱え、次に、申し訳ありません! と、慌てて謝る声。
「良い。これほどまでにレイシールを慈しみ、大切にしていただいていたのだと、実感しただけだ。不敬などと、誰が思うものか」
「あら、まぁ!」
「アリスさん、我が父、アルドナンです」
車椅子に乗った父上がやって来ていた。補助はサヤだ。
するとアリスさんは、すぐに俺から手を離し、首部を垂れる。
「無作法を致しました。ご子息様に対し、非礼をお許しください」
「ご母堂、それを言ってくれるな。立つ瀬がない。
このレイシールを、このように立派に育ててくれたのは其方らだ。アリス殿は、言わば育ての母であろう。
ならば謝罪など不要。寧ろ、それは私が言うべきこと。不甲斐ない親で、息子に当然のことをしてやれなかった。それを代わりに、其方らが与えてくれた。
レイシールを、我が子のように慈しんでくださったこと、感謝に堪えぬ」
父上が頭を下げると、アリスさんは滅相もございません。と、更に頭を下げた。俺は、そのアリスさんの肩をそっと押して、頭を上げさせる。
「アリスさん、俺も一言謝りたい。
あんなに世話になったのに、俺、三年前…………」
「良いのよ、そんなこと……。
あの時大変だったの、ちゃんと知ってるもの。こうして元気な顔を見せてくれたのだから、それでもう充分」
「ギルのことも……」
「それはこの子が好きでしたことでしょ。レイくんには何の責任もないわよ!」
めっ! と、拳を作り、頭を叩く真似をするアリスさん。
父上を前にしても変わらずそうしてくれることが、とても有難く、嬉しかった。
三年という年月を感じさせない、昔のままの態度だったけれど、髪には白いものが多く混じり、ひとまわりも、ふたまわりも小さくなったように感じる……。
これは俺の背が伸びたからなのか……それとも、三年という年月のせいか…………。
「ハインも一緒よね?」
「ええ。恥ずかしがって荷解きに行ってしまいましたけど」
「まぁ、あの子ったら!」
逃げられると思っているのかしら⁉︎ と、言うものだから、それに笑ってしまう。
ハインはアリスさんの抱擁がとても苦手なのだ。
ギルになら罵詈雑言浴びせて殴るくらいのことを平気でするのだが、流石にアリスさんに、それはできない。
孤児のハインすら、息子と一括りにして扱ってくるのだ。彼の性質的に、アリスさんは難敵だった。
「あぁ、今日はなんて素晴らしい日なのかしら。
ギルも帰ってきてくれて、レイくんにも会えて、ルーシーも一緒なんでしょう?」
そこで気が付く。
そうだ。ルーシー、どこだ?
一番に飛び出してくるかと思ってたのに、姿が見えない……。
「あれ、ルーシー?」
視線を彷徨わせていると、背後からツン……と、上着が引かれる。振り返ると、サヤ。
どうしたの? と、耳を貸すと「ルーシーさん、馬車の所です……」という声。
それで視線をやってみると、馬車の陰から、顔だけ覗かせてこちらを伺う、この店の後継の姿があった。……何してるんだ?
恥ずかしがってるのかな? と、思い、そちらに呼びに行く。
「……ルーシー、そんなとこにいないで、早くおいでよ」
「え……えっと……お、お父様は……」
「アルバートさん?」
そういえば、こういう礼儀的なことには特にきっちりしているアルバートさんが来ないなんて珍しい……。
アリスさんに視線をやると「今抜けられない商談中なの」とのこと。それを何故か俺が、ルーシーへと伝言係のように仲介する。
「商談中だって」
「あ、いないんですね! 良かった!」
それを聞いた途端、意気揚々と弾む足取りでこちらにやって来るルーシー。
「お祖母様! お久しぶりです!」
「ルーシー! 貴女ったら、ちょっと買い物して来るって出たっきり、行方知れずになるんだから!」
………………ん?
「あ、あれはその……ああでもしないと、多分出してもらえないと思って……えへっ」
可愛く笑って誤魔化すルーシー。
ギルはそんな姪を、冷めた視線で見下ろしている……。
「十日以上所在がしれないものだから、衛兵の詰所に張り紙までしてもらったのよ?
誘拐されたか、事件に巻き込まれでもしたかって、それはもう大騒ぎして。なのになんの手掛かりもないんだもの」
本当にもぅ、この子ったら。くらいの軽さでアリスさん。
いや、貴女が口にしていること、そんな軽いものじゃないですよね……。
「もう色々を覚悟をしなきゃって話してた時に、まさかのメバックから報せが来るじゃない、本当に慌てたんだから!
何事も無かったから良かったものの……女の子が一人で、何かあったらどうするつもりだったの? というより、メバックまでの道中はどうしてたの!」
「あ、辻馬車乗り継いだし、使用人風に男装して、お使いのふりしてたから全然平気」
へ、平気って何が⁉︎
え……つまりルーシー、ガチで家出してきてたってこと⁉︎
「ちょ、ルーシー⁉︎ 本気の家出をしてたのか⁉︎」
「あれ、言ってませんでしたっけ?」
「聞いてたけどそんな本気のやつっぽく言ってなかっただろ⁉︎ 半分って言ってた!」
「…………えへっ?」
「えへっじゃないからな⁉︎」
笑って誤魔化したって駄目だ!
男装までしてって、明らかに下準備済ませてる確信犯じゃないか! 通りでサヤの男装化粧にも詳しかったはずだよ!
「私の男装、結構な完成度だったんですよ!」
「そこ、威張る所じゃないから!」
「胸無いから補整着いらねぇしな……」
「あっ、あるもん! 私にだってあります! ちょっと慎ましいだけです!」
「今、そんな話じゃ、ないだろ⁉︎」
そんな感じで。
王都到着の一日目は、商談を終えてやって来た、アルバートさんへの挨拶もそこそこに、ルーシーのお説教時間へと突入。
無論、俺も参加した。
「なんでレイ様まで怒るんですかあああぁぁ⁉︎」
「怒るよ! そりゃ怒るだろ⁉︎」
俺たちは無事王都へと到着した。
王都を囲う外壁にある大門は、父上の印綬と、俺の印綬でもって難なく通過。
俺が印綬を持っていることを示したのは、これにて俺が無事到着したことが、王宮に知らされるためである。
……と、いうか、知らなくて普通に父上に任せていたら、出しなさいと窘められた。そんな風になっていたのか……。
そのまま馬車列は王都に入り、中央通りを進む。
今は貴族の往来が多いと分かっている時期だから、中央通りの馬車利用は制限がかけられており、通り沿いにも、衛兵や騎士がちらほらと見受けられる。
王都に入ってからも、二つの大門を通過した。
二千年近い歴史を持つフェルドナレン王都は、段階ごとに拡張されてきた経緯があり、王宮に行き着くまでに、三つの門を通過する必要がある。その拡張のたびに区画整理も行われてきて、現在王都は貴族街、高級住宅街、平民街が二つと、分けられている。
因みに最後、三つめの門の内側が、貴族街だ。王宮に勤める貴族や士族の宿舎や邸宅、上位貴族の別邸、貴族相手の高級店舗などが集まっている。
庶民の生活する区域としては、二つめの門をくぐった、この区域が最も地価が高く、老舗や高級店が多い高級住宅街。目的の店は、その中でも一等地にあった。
店に到着したのは、日の暮れる直前。
本日の到着は書面で知らせていたため、速やかに裏口まで通され、俺たちは裏庭で馬車を降り、早速荷解きにかかったのだが……。
「ギルううううウゥゥゥ!」
「…………お袋……」
屋敷から飛び出してきた初老の婦人。
ギルの腰に体当たりする勢いで抱きついて来たその人を、ギルはげんなりした顔で受け止めた。
もう諦めたといった表情……。
学舎に通っていた頃も、そうだった。迎えに来るたびこんな感じで抱擁から始まるのは変わらない。
「もうっ、この子ったら本当に三年間帰ってこないんだから!」
「手紙だって売上報告だって送ってんだから、帰る必要ねぇだろ……」
「まぁっ、なんて言い草! 息子の顔を見たいと思う母の気持ちをなんだと思っているのかしら!」
ぷんぷんと怒って頬を膨らませる姿が、とても若々しい。
もう離せよ! と、嫌がるギルにまだ足りないわよ! としがみつく。元気そうで良かった。
「あのなぁ! 来客前だろうが!
いくらレイでも、もうちょっと落ち着き見せろよ。自分の年齢いくつだと思ってんだ!」
「レイくん?」
どうやら俺に気付いていなかったらしい。そんなに様変わりしただろうか?
ぺこりとお辞儀をすると、瞳がまん丸に見開かれ、ギルの腰に巻き付いていた腕が緩む。
「…………まぁ。まぁまぁ! なんて久しぶり、まああぁぁ、こんなに大きくなって、もっとお顔をよく見せてちょうだいな!」
そして、その人が俺に飛びついてくる前に、ギルがサッと手でそれを制した。
「もうそれやめとけって」
立場考えろよとギル。
だけど俺は笑って、その婦人を抱き寄せる。
「お久しぶりです、アリスさん……」
「レイくん、本当にレイくんなのね……⁉︎
こんなに大きくなって……しかも、すっごい男前になってる!」
え、それ本当?
「私と同じくらいの背だったのに、女の子みたいに可愛かったのに、たった三年で……まああぁぁぁ!」
かなり興奮したご様子の母君に、ギルが呆れ顔だ。
「あのなぁ……散々レイの衣装作ってんだから、大きさくらいとっくに分かってるだろうが」
「それとこれとは別! レイくん、もうちょっとしゃがんでちょうだい、お顔が高くてよく見えないから」
「だから、それやめろって!」
アリスさんの要望により、俺は腰をかがめた。
すると、俺の顔を両手で包んだアリスさんが、じっくりと俺の顔を観察して、お顔は変わらないわねぇ。と、呟くように言い、不意に瞳を潤ませる。
「元気そうで、本当に良かった。凄く心配したんだから……」
「不義理をして、ごめんなさい。
だけどこの通り、ちゃんと元気です」
「ええそうね。思っていたよりも、ずっと良いお顔。ちゃんと笑ってるわね」
「うん……ちゃんと、笑えるようになりました」
そう言うと、そのままキュッと、頭を抱き寄せられる。
「あぁもう! だからレイにそれすんなっつってんのに!」
ギルがそう言って頭を抱え、次に、申し訳ありません! と、慌てて謝る声。
「良い。これほどまでにレイシールを慈しみ、大切にしていただいていたのだと、実感しただけだ。不敬などと、誰が思うものか」
「あら、まぁ!」
「アリスさん、我が父、アルドナンです」
車椅子に乗った父上がやって来ていた。補助はサヤだ。
するとアリスさんは、すぐに俺から手を離し、首部を垂れる。
「無作法を致しました。ご子息様に対し、非礼をお許しください」
「ご母堂、それを言ってくれるな。立つ瀬がない。
このレイシールを、このように立派に育ててくれたのは其方らだ。アリス殿は、言わば育ての母であろう。
ならば謝罪など不要。寧ろ、それは私が言うべきこと。不甲斐ない親で、息子に当然のことをしてやれなかった。それを代わりに、其方らが与えてくれた。
レイシールを、我が子のように慈しんでくださったこと、感謝に堪えぬ」
父上が頭を下げると、アリスさんは滅相もございません。と、更に頭を下げた。俺は、そのアリスさんの肩をそっと押して、頭を上げさせる。
「アリスさん、俺も一言謝りたい。
あんなに世話になったのに、俺、三年前…………」
「良いのよ、そんなこと……。
あの時大変だったの、ちゃんと知ってるもの。こうして元気な顔を見せてくれたのだから、それでもう充分」
「ギルのことも……」
「それはこの子が好きでしたことでしょ。レイくんには何の責任もないわよ!」
めっ! と、拳を作り、頭を叩く真似をするアリスさん。
父上を前にしても変わらずそうしてくれることが、とても有難く、嬉しかった。
三年という年月を感じさせない、昔のままの態度だったけれど、髪には白いものが多く混じり、ひとまわりも、ふたまわりも小さくなったように感じる……。
これは俺の背が伸びたからなのか……それとも、三年という年月のせいか…………。
「ハインも一緒よね?」
「ええ。恥ずかしがって荷解きに行ってしまいましたけど」
「まぁ、あの子ったら!」
逃げられると思っているのかしら⁉︎ と、言うものだから、それに笑ってしまう。
ハインはアリスさんの抱擁がとても苦手なのだ。
ギルになら罵詈雑言浴びせて殴るくらいのことを平気でするのだが、流石にアリスさんに、それはできない。
孤児のハインすら、息子と一括りにして扱ってくるのだ。彼の性質的に、アリスさんは難敵だった。
「あぁ、今日はなんて素晴らしい日なのかしら。
ギルも帰ってきてくれて、レイくんにも会えて、ルーシーも一緒なんでしょう?」
そこで気が付く。
そうだ。ルーシー、どこだ?
一番に飛び出してくるかと思ってたのに、姿が見えない……。
「あれ、ルーシー?」
視線を彷徨わせていると、背後からツン……と、上着が引かれる。振り返ると、サヤ。
どうしたの? と、耳を貸すと「ルーシーさん、馬車の所です……」という声。
それで視線をやってみると、馬車の陰から、顔だけ覗かせてこちらを伺う、この店の後継の姿があった。……何してるんだ?
恥ずかしがってるのかな? と、思い、そちらに呼びに行く。
「……ルーシー、そんなとこにいないで、早くおいでよ」
「え……えっと……お、お父様は……」
「アルバートさん?」
そういえば、こういう礼儀的なことには特にきっちりしているアルバートさんが来ないなんて珍しい……。
アリスさんに視線をやると「今抜けられない商談中なの」とのこと。それを何故か俺が、ルーシーへと伝言係のように仲介する。
「商談中だって」
「あ、いないんですね! 良かった!」
それを聞いた途端、意気揚々と弾む足取りでこちらにやって来るルーシー。
「お祖母様! お久しぶりです!」
「ルーシー! 貴女ったら、ちょっと買い物して来るって出たっきり、行方知れずになるんだから!」
………………ん?
「あ、あれはその……ああでもしないと、多分出してもらえないと思って……えへっ」
可愛く笑って誤魔化すルーシー。
ギルはそんな姪を、冷めた視線で見下ろしている……。
「十日以上所在がしれないものだから、衛兵の詰所に張り紙までしてもらったのよ?
誘拐されたか、事件に巻き込まれでもしたかって、それはもう大騒ぎして。なのになんの手掛かりもないんだもの」
本当にもぅ、この子ったら。くらいの軽さでアリスさん。
いや、貴女が口にしていること、そんな軽いものじゃないですよね……。
「もう色々を覚悟をしなきゃって話してた時に、まさかのメバックから報せが来るじゃない、本当に慌てたんだから!
何事も無かったから良かったものの……女の子が一人で、何かあったらどうするつもりだったの? というより、メバックまでの道中はどうしてたの!」
「あ、辻馬車乗り継いだし、使用人風に男装して、お使いのふりしてたから全然平気」
へ、平気って何が⁉︎
え……つまりルーシー、ガチで家出してきてたってこと⁉︎
「ちょ、ルーシー⁉︎ 本気の家出をしてたのか⁉︎」
「あれ、言ってませんでしたっけ?」
「聞いてたけどそんな本気のやつっぽく言ってなかっただろ⁉︎ 半分って言ってた!」
「…………えへっ?」
「えへっじゃないからな⁉︎」
笑って誤魔化したって駄目だ!
男装までしてって、明らかに下準備済ませてる確信犯じゃないか! 通りでサヤの男装化粧にも詳しかったはずだよ!
「私の男装、結構な完成度だったんですよ!」
「そこ、威張る所じゃないから!」
「胸無いから補整着いらねぇしな……」
「あっ、あるもん! 私にだってあります! ちょっと慎ましいだけです!」
「今、そんな話じゃ、ないだろ⁉︎」
そんな感じで。
王都到着の一日目は、商談を終えてやって来た、アルバートさんへの挨拶もそこそこに、ルーシーのお説教時間へと突入。
無論、俺も参加した。
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