異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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懇話会 4

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 うら若き乙女たちの囀りで場の空気が緩み、それ以後サヤを非難する意図でもって発せられる言葉は無かった。
 元より、政治的なことを意識する女性は少ないのかもしれない。その若き乙女らにつられてか、少々返答に詰まる質問が増えて、ある意味こちらの方が難儀しているかもしれない状況だった。

「サヤ様は、レイシール様のどのような所を好まれましたの?」
「……え……と…………や、優しい、所……です」
「今までで一番嬉しかった贈り物はなんですの?」
「襟かざ……あ、いえ、香水瓶……です」
「逢瀬はどのようなことをされて過ごしますの?」
「…………あ、あの……今は、時期的に忙しく、あまり、時間は取れないのです……」
「レイシール様の格好良いなって思う仕草は?」

 なんかどんどん質問が細かくなっていくな……。
 今現在サヤに対して質問が集中しており、これまた俺について聞くものだから、俺も興味津々で聞いている。
 普段サヤは、そういったことをあまり口に出して言ってくれないのだ。

「…………も、物凄く…………真剣に考えている時…………です」
「では逆に、可愛いなと思ってしまう時は?」
「…………………………笑った時……」
「レイシール様にしてほしいことってありますか?」
「もう少し、根を詰めないでほしいです……その、お仕事漬けなので」
「逢瀬を楽しむ時間くらい確保してほしいですわね!」
「あっ、いえっ、そうではなくてっ!    お身体を休めていただきたくて……あ、あのっ」
「お二人で過ごされる時間で、一番落ち着く時って、どんな時ですの?」
「レイシール様の御髪を、結っている間は、とても……」
「サヤ様が毎日結ってらっしゃるの?    素敵。独特の結い方ですわね。麦の穂みたいで、とても綺麗」

 答えられることは答える。という約束を一生懸命守っているのか、真っ赤になりながらも真面目に返事を返すものだから、皆が面白がって質問が止まらない。おかげでこっちまで顔が熱くなってしまう。
 なんか、初めは楽しかったんだけど、だんだん居た堪れなくなってきたな……。

「では、レイシール様が、サヤ様の好ましいと思うところは……」

 興に乗った女性の一人が、今度は標的を俺に切り替えてきた。
 しかし、返事をする前に別の声が割って入る。クオンティーヌ様だ。

「それは聞かなくてよろしくてよ!    この方、それに関しては、延々といくらだって語るそうですから、胸焼けしてしまいますわ!」
「まぁ!」

 ……いや、そこまでじゃないでしょう。

「本当に愛してらっしゃるのね」
「国も身分も超えた愛、素晴らしいですわ!」
「すでにサヤ様への愛はかなり垂れ流してらっしゃるものね」
「サヤ様への愛が溢れてらっしゃるのだわ」
「もう今日は胸がいっぱいで食事も喉を通りそうにないわ……」
「あぁ、分かります。なにかこう、胸のあたりがキュッとして、恋がしたいわっていう、衝動が!」
「そう、それです!」

 ……女性って、よく分からない衝動に駆られるんだな……。なんで人の恋路で盛り上がって恋がしたくなるんだろう。

 正直この会場にいる男性はもう胸焼けがしていると思う。皆の視線が少々虚ろになっている気がするのだ。
 貴族社会では立場の弱い女性であるけれど、こうしてひとところに集まると、共鳴し合って何か得体の知れない力を発揮するのかもしれない。
 そんな脈略のないことを頭の端の方で考えていたら、部屋の隅で給仕のため待機していた使用人が、そっとクオンティーヌ様のお耳に何かを囁いた。
 すると彼女が立ち上がり、パンパンと手を叩く。

「皆様、誠に残念ながら、刻限となりましたわ」

 ホッとした男性陣に対し、女性陣は不満げな悲鳴。まだ全然話し足りないといった雰囲気……疲れてない様子なのがなんかもう、凄い。

「最後にひとつ、ここにいらっしゃる方々は皆様、お家の方に念を押されていると思うのですけど……。
 レイシール殿、血の縁は望まれぬとしても、縁を繋ぐこと自体は別段、拒否されていらっしゃらないのね?」

 クオンティーヌ様ま言葉に、ハッと緊張した女性陣。大半がすっかり忘れていた様子だな……。

「無論。そういった縁は、歓迎しております」

 そう言って笑っておくと、ホッと空気が緩む。一応これで、面目は立つという感じだな。

「残念ですわ……次は装飾品のお話を、お聞きしたかったのに……」
「本当に。あの髪に散りばめてある真珠、どうやってあそこにあるのか、とても気になっていましたのに……」
「髪に穴あきの真珠を通してらっしゃるのじゃなくて?」
「それならば落ちてきてしまうわ」
「耳飾だって、私、とても好ましく思いますの。欲しいわ」
「あらぁ、ならば捧げてくださるお相手ができなければね」

 そんな風に囀り、笑い合う女性方。
 それを耳にしていたであろうサヤが、物言いたげに俺に視線を向けてくる。

「あぁ、装飾品……。
 皆様、戴冠式より賜る役職により、私はセイバーンで、今までに無い新たな道具、装飾品、大災厄前の文明、文化の検証、再現を研究していく予定であります。
 もし宜しければ、交易路計画とともに、そちらでお声掛けいただけることも、お待ちしております」

 疲れ切っていた男性陣が少々鋭さを取り戻した気がした。
 しかし、女性陣から一気に燃え上がった熱気のようなものに、あっという間に圧倒されてしまった。

「装飾品⁉︎」
「まああぁぁ!    まさかサヤ様が身につけていらっしゃるものもございますの⁉︎」
「はい。それ以外も……」
「それ以外⁉︎」

 こ、怖い……。

 装飾品に関しては、正直貴族うけするものはあまり無いと思うのだが……まあ良いか。
 嘘は言ってないものな。あるにはある……うん。

 部屋を退室する皆様を、送り出すため、扉近くに陣取った。
 楽しかったですと声を掛けてくださる方、無言でさっさと前を通り過ぎる方、色々な反応が混じるのは当然なのだが、中でひとり、豪奢に着飾った方がギッとサヤを睨み口を開こうとした。

「本日は、ありがとうございました」

 それは雰囲気で察していたため、サヤの前に半歩踏み出し、その女性の言葉を遮ると、俺にも鋭い視線が突き刺さった。
 取り巻きか、女中か……複数の女性を従えて、さっさと前を通り過ぎるその女性は、服装的に伯爵家かな。

「あの……大丈夫ですから」
「うん。分かってるけどね」

 サヤを傷つけてほしくないと思ったら、体が勝手に動くのだから、仕方がない。

 そんなこんなで参加者全員を送り出し、やっと静かになった部屋の中に残ったのは、俺たちとアギー家と、王家関係者。
 皆が出た後、使用人らが部屋の灯りを半分ほど消していき、ほの暗くなった室内から、使用人らすら退室させて……姫様が溜息を吐いた。

「やはりいなかったか……。ヴァーリンを頼るほかないかな……」
「民にまで裾野を広げれば、もう少し増えるやもしれませんが……」
「それは信頼度がな……」

 姫様とディート殿の会話で、女近衛の候補者を探していた件だということはすぐに分かった。

「女近衛、やはりなり手が少ないのですか……」
「まずは十人を確保したいのだがな。一向に目処が立たん。
 本当は、越冬前に女近衛の正装に関しても注文を出すつもりであったのだ……。
 まぁ、私が女王になるという話も、神殿がゴネて少々遅れた。
 その結果ゆえ、致し方ないのだがな」
「我がヴァイデンフェラーからもひとり推挙されているのだが、それを除きまだ二名。
 サヤ殿を含めても五名でな」

 それでサヤを女近衛にと強く望んでいたのか……。
 まぁ……式典の時は確かにサヤを王都まで伴うだろうし、式典自体には連れて行けないわけだからな……。

「……サヤは、構わない?」
「姫様のお力になれるのでしたら、私は構いません」
「……では、正式な採用はともかく……式典の時は、サヤをお貸ししますね」
「とりあえず、式典を乗り切れるならばなんでも良い。有難く借り受けよう。
 最悪、六人でなんとか誤魔化しはできるかな……。近衛の配置を男女十名ずつ両端にではなく、男近衛の間に挟む感じにすればどうだろう」
「その辺りはルオード様に相談していただきたいですな」

 ディート殿は男女比なんてどうでも良いと思ってそうだな……。

 そんな風に雑談を交わし、頃合いだと思ったのだろう。姫様がまず席を立った。

「まあ良いわ。とりあえず目的は果たした。
 夜会の残り時間も少なくなったろうし、これくらいならば其方らも乗り切れよう。
 私はそろそろ戻って休む」

 姫様がそう言って、ディート殿を伴い退室する。
 なんだかんだ言って……女近衛候補を探すのはもののついでで、俺たちがアギーの社交界で浮かないようにっていう配慮が主な理由だったんだろうなぁ……と、その後ろ姿を見送って思う。
 クオンティーヌ様にくっついていらっしゃったのも、きっとそういうことだったのだろう……。
 多分リヴィ様との関係とかも、口で言うより気にかけてくださってたんだろうなぁ。

「じゃ、私も今日の目的は果たしたから帰る」

 そんな風に思っていたらクオンティーヌ様もさっさと立ち上がった。

「あ、いけません、お送りします……」
「いらないわよ。庭を抜けていくもん」
「尚更危ないですよ!」
「ちゃんと護衛捕まえるわよ。警備いるんだから。それよりも貴方、今日はここまでにしてあげるけど取材、逃げるんじゃないわよ!」

 慌てる俺など意に介さず、クオンティーヌ様もさっさと部屋を出てしまう。後を追おうとしたのだが「大丈夫ですわ」とリヴィ様。

「あの子の従者なら部屋の近場に待機しておりますわ。常習犯ですから」

 サヤの方を見ると、こくりと小さく頷いたから、気配があるのは察していたのだろう……。
 ほっと息を吐いて、俺たちも立ち上がる。

「サヤは、体調大丈夫?」
「ちょっと始めの方はどうしようかと思いました」

 う……。耳に口づけしたことかな……。
 少々狼狽えたのだけど、そんな俺の様子に溜息を吐いて「分かってます」とひと言。

「でも、次はせめて、心の準備はさせてください」
「……分かった」

 致し方ない……。そう思いつつ頷くと、やっと表情を緩めてくれた。
 サヤのお怒りは静まったようなので、リヴィ様と共に、俺たちも退室することにする。

「リヴィ様、アギー公爵様のところまでお送り致します」
「そうね。もうあちらも落ち着いている頃合いでしょうから……お願いするわ」
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