異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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夜会 13

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 本日二度目の、耳飾について説明する時間となった。
 はじめのうちは俺から説明していたのだけど、どうにもクオンティーヌ様の風当たりが強い……。で、結局見かねたサヤが、途中から話を引き継いだ。
 アギー公爵家……俺とは相性が悪いのだろうか……。学舎の時はひたすら男性陣としか触れ合う機会が無かったのだけど、結構友好な関係を築いてこれていたのだ。
 だのに、女性陣……やたらとぶつかる……。なんか胃が痛い……。

「ふーん……穴を開けない耳飾……そんなものがあったのね。
 面白いじゃない。でもそれどうなってるの?    どこまでが耳飾?」
「外しましょうか?」
「……え、いいの?    うん。見たい」

 話の流れでそのようになり、少々首を傾げ、左耳に手をやったサヤはそれを簡単に外そうとしたのだけど……。

「あ、待ってサヤ、髪に引っかかってる!」

 三つ編みに引っかかった箇所があり、そのまま外せば髪も崩してしまいそうだったから、サヤを押しとどめて俺が外すことにした。

「じっとしてて。
 ……うん。もういいよ。どうぞ、クオンティーヌ様」
「…………」

 胡散臭そうな顔された……。俺が何をするのも駄目らしい……。
 けれど、耳飾への興味が優ったようで、そのまま飾りに手を伸ばす。

「大きいし重い……」
「耳に密着させますから、付けてみれば思いの外軽いですよ。
 あ、でもそれは、目立つようにあえて大きく作ってあるので、多少重たいですけど」
「……私が付けてみても良い?」
「ええ。でも私仕様に調節してありますから、多分グラグラすると思いますよ。
 これは全て、その人専用に職人が調節する感じになります」
「へぇ……他の人が身につけても駄目なのね。面白い……」

 サヤの耳飾を付けてみたクオンティーヌ様の感想は、「思っていたよりも重くない」だった。

「でもやっぱりグラつくのね。ありがとう」
「きっちり密着させると、びっくりするくらい軽く感じますよ」
「ふーん…………で。あんたのその襟飾はなに」
「え、これですか?」

 なんで俺を見る時いちいち怒ってくるんだろう……。

 サヤが付けてくれた襟飾に手をやると、取らなくて良いわ。と、言われてしまった。風当たり強い……。

「…………どう見ても、耳飾と揃いよね……」

 その言葉にサヤが、頬を染めてしまう。
 首を傾げた俺に、サヤは少々言いにくそうにしながら、この襟飾の意味を教えてくれた。

「は、はい。実は……その……繋がりが分かる方が、嬉しいな……って。
 私の国では、ペアアクセサリーって、結構普通で、色々あるんです。
 あっ、ペアアクセサリーっていうのは、お揃いの装飾品って意味です。
 指輪だったり、耳飾りだったり、首飾りだったり……。
 でもこちらの国の方は、男性ってあまり装飾品は身に付けてらっしゃらないでしょう?
 だから、難しいかなって思ったのですけど……襟飾なら、所有権を知らしめるという意味でも理にかなっているって、ルーシーさんが提案してくださって……」

 頬を染めながらそう言ったサヤが、可愛くってどうしようかと思った。
 それはつまり、俺と揃いの何かを身に付けたいと、サヤ自身が思ってくれたということだから。
 俺の所有権を、主張したいって、サヤが思ってくれたと、いうこと。

「ここの……耳の前に出る部分の真珠を、半分に割ったんです。それを……」

 俺の、襟飾に、使ったのだという。
 一粒の真珠を、半分ずつ。

「これもあの……私の国では、さして珍しくないことで……。
 二つを合わせると読める文字になるとか、意味ある形が見えるとか、そういった隠し装飾というのも多くて。
 それをお伝えすると、面白いって、その……それで……」
「なにそれ⁉︎    うん、面白い!」

 あ、食いついた。

「隠し装飾⁉︎    二つを合わせると意味が出てくるってこと⁉︎」
「は、はい。例えば、同じ植物の花と葉をそれぞれが身に付けるとか、二つの飾りをくっつけると一つの図になるとか、文字や言葉を半分に割るっていうのもあります。二人だけの秘密というか……」
「えええぇぇ、お揃い、半分こ、なんか萌える!    二人だけの秘密まで⁉︎」
「あ、あの……はぃ…………」
「それ浪漫だわ!    良いわ!    断然興味が湧いてきた!」
「……実はなこやつ、本当は、ひときわ憧れが強いのよ」

 急に人が変わったように叫び出したクオンティーヌ様に面喰らっていたら、姫様よりそんな耳打ちがあった。

「きついことを言うし、やたらと男性評価が辛辣だが、期待の裏返しということだ。
 安心しろ、お前だけにあの態度なのではなく、大抵にきつい。
 特に、期待が高いほど辛辣になるな……。つまり其方の見た目は好評価ということだ」
「はぁ……」

 全くもって嬉しくない……。
 先程リヴィ様がおっしゃっていた、クオンティーヌ様の好みとやらを鑑みるに、ようは男らしくない方が好まれるということで、それって全然、嬉しい要素じゃないよね……。
 渋面になった俺に、姫様は可笑しそうに笑った。そして、秘密を打ち明けるから耳を寄越せと仕草で促され、耳元で囁かれたのは……。

「クオンなのだぞ。五年前に襟飾を作り上げ、見事定着させたのは」
「……っ、ぇ⁉︎」

 五年前って……この方、十歳ですよね⁉︎

「まぁ、色々こやつにも思うところがあったのよ。
 耳年増なのもそれが絡んでおる。
 色魔というわけではないから、あの言動には目を瞑ってやってくれ」

 それだけ言うと、姫様は俺から身を離した。
 俺も、姫様に向けていた視線を、話に盛り上がるクオンティーヌ様に戻す。

 ……人は……俺が思っている以上に色々を、抱えているものなのかもしれない。
 サヤに、乗り越えたい壁があったように。
 姫様に、強い決意があったように。
 リヴィ様が剣を握ったことにも、きっと何かしらの理由が隠れているのだろう。
 そんな風に考えていたら、クオンティーヌ様が使用人を呼び、紙と筆を用意させた。
 サヤの話を聞きながら、それにひたすら何かを書き殴りだす。

「興に乗ってきたようだな……」

 呟き口角を釣り上げた姫様に、ほっと胸をなでおろすリヴィ様。
 ここまで漕ぎ着けたことに安堵を滲ませる様子に、目的が半ば成功してきたことを知った。

「良いわね。穴を開けずに包み込む……まさしく『我がかいなで護れり珠玉の華』ってことね。
 襟飾に絡めてあるからそっちも利用できるし出発地点としては悪くない……。
 じゃあとりあえずあれね、不遇の恋人たちをどれだけ引っ張り出せるかと、耳飾をどれだけ用意できるか……戴冠式まででは難しいかしら……。
 ねぇ!    これを作れる職人は何人なの?」

 おっと、こっちに話を振られてしまった。

「今のそれは、試作で、職人は一人きりです。
 ですが……作り方が難しいとは聞いていませんし、幾人か心当たりはありますね……五人から十人くらいは確保できるかと。
 装飾も、そこまで大きくしなければ、制作期間はさほど長くかかりません。十日ほどです」

 確か、ロビンの勤めていた工房がそれなりの規模だ。貴族との取引経験もあり、抱える新人も多いと聞く。
 ロビンにお願いして、技術的に問題無い職人を選び、外注を出すことは可能だろう。
 秘匿権に絡むが、まあそこは交渉次第かな。

「調整が必要ってことだけど、その職人を呼び寄せると間に合わないわね……出向く方が早いか。
 ねぇ、私一人すら歓待できないって話だけど、屋敷等を一つ借りたりってことも無理なの?」
「貴族対応のできる屋敷なんてあの村にはありませんよ……」

 まだ村自体が未完成なのに……。
 あぁでも……領主の館があそこになる以上、使用人は増やさなきゃならないし、交易路計画だってあるから、貴族の要人を歓待する備えも必要になるな……。
 でもそれは今すぐどうにかできる問題でもないし……。
 どうしたものかと頭を悩ませていたら、サヤが「あの」と、声を上げて。

「レイシール様、ギルさんに相談しましょう。バート商会ならば貴族対応には慣れてらっしゃいますし、メバックならば拠点村とも程々に近いですし……」
「バート商会⁉︎    あんたあそこに伝手あるんだ!」
「はぁ、伝手というか……」

 自分の部屋まで持ってますね。

 ギルの名が出たことに、リヴィ様がピクリと反応した。
 瞳を揺らし、そわそわと落ち着かない様子を見せるものだから、あー……と、内心で苦笑する。
 ギルは公爵家のご令嬢にだって惚れられるんだもんなぁ。なんかやたらと嫌われてる俺と雲泥の差だ……いや、別に俺は、サヤにだけ好かれていれば良いのだけど。
 だけどせっかくバート商会にお願いするのなら、この機会をうまく利用できないものか……。
 そう思いつつ、ちらりと隣に視線をやると……姫様も、似たようなことを考えていた様子。
 俺が、リヴィ様がギルに想いを寄せていることを理解していると悟った様子で、またニヤリと口元を歪めた。……それ、凄く悪い顔ですよ……。

「あー……サヤよ。バート商会だが、今手隙かな?」
「え……と。はい、比較的余裕はあると思います。
 越冬中の仕事の納品後は、閑散期だと、おっしゃっていたかと……」

 社交界が済めば、大きな行事は戴冠式等の、春の行事。それの後は暫く空くことが多い。
 わざわざそれをサヤに確認したのは、サヤがバート商会専属の意匠師だと承知しているからだろう。
 それを聞き、姫様はまたちらりと俺に視線をやった。

「実はな……女近衛の正装を、バート商会に依頼しようかと、思うておるのだ」
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