異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

文字の大きさ
515 / 1,121

夜会 11

しおりを挟む
「承知しましたわ。
 ……では私も、貴族社会に生きる者の一人として、お力になれればと思います。
 それに、私にとっても人ごとではないですわ……。私だって、囲いのない蝶……などと言われている身ですもの」

 耳飾を得るためには自分の今後の人生を決定しなければならない。あのライアルドのような者にも、身を任せなければならない……。
 なのに、そのような重大な事柄が、自分の意思で選べないどころか、政略に使われる場合もあるのが貴族社会だ。
 全部が悪いとは言わない。それによってしか進めなかった道もあったろうし、守れなかったものもあったろう。
 だけど、やはり『それしか選べない』は、違うと思う。
 また、その政略の一環として、女性を追い詰め、貶める行為を肯定するのは、絶対に間違っている。

「ありがとうございます……」

 だから、こうやって賛同してくれる一人が、貴重だ。とても有難いと思った。
 その思いから礼を述べたのだけど、リヴィ様は「で、どうやって周知を広げるおつもりでしたの?」と、俺に問うてきた。

「それは……。
 このまま夜会に参加して、まずは、見知っていただいて……そこから理解を広めていこうと……」
「遅いですわ。
 それではサヤが成人するまでかけたところで、終わらなくってよ」
「……まぁ、正直厳しいとは思いますが、そうやって少しずつでも、実績を積み上げていくしか方法が……」

 無い。
 俺もサヤも、夜会への参加自体が初めてだし、自領に閉じこもって生活していた俺には、そういった伝手も無いのだ。
 とにかくアギーの社交界でお披露目しておいてから、バート商会や拠点村の活動を通して周知を広げていこう。そんな風に考えていた。
 その間中サヤを危険に晒しているのだと思うと身を切られる思いだが、無理やりでも一歩ずつ、進んでいくしかない。
 けれどリヴィ様は、そんな俺たちに溜息を吐いて。

「レイ殿、社交界において流行とは、どこから発信されるものだと思いまして?」
「…………どこ?」
「礼服の意匠然り、襟飾のような、新しい習慣然り、どこから発せられ、広がっていくのだと思われます?」
「…………え……と……」

 そんなの、分かるわけがない……。
 答えられない俺に対し、リヴィ様は厳しい表情。
 ご教授いただけますか?    と、問うと、また溜息を吐いて、居住まいを正した。

「必ず成功する。という手段は無くってよ。けれど、いく筋かの道筋がありますの。
 私は……アギーとはいえど、さしたる権威は持ち合わせておりませんし、あまりお力にはなれませんけれど、その道筋について、少々伝手を持つ身内ならば、おりますわ。
 今、その者を呼びにいかせているのですけれど……遅いですわね」

 頬に手をやり、ふぅ……と、息を吐く。
 呼びに行かせてるって……クオンティーヌ様をだろうか?
 先ほど名が出たクオン様というのは、おそらくそうだと思う。

「まぁ、ならば来るまでに、こちらも勝率を上げるための打ち合わせをしておきましょうか」
「勝率……ですか?」
「ええ。ではレイ殿、よくお聞きになって」

 真剣な表情で身を乗り出したリディ様に、俺とサヤも居住まいを正した。
 そうして、まず大切なことは……と、リディ様が口にしたのは……。

「恥ずかしい言動ほど、クオンは喜びますわ」
「…………はい?」
「甘い言葉や、絵物語の王子様のような所作などです。幸いレイ殿は女性的で見目も麗しいと思いますし、威圧感もございませんから、外見に関しては、クオン好みの王子様だと思いますの」
「……………………あの…………?」
「お茶会の時のような感じでよろしくってよ。
 できればもう少し、サヤと密着して……あ、でもクオンはまだ十五ですから、あまり破廉恥な行為は慎んでいただけます?」
「いや……えぇ?」

 俺たちは今……いったい何を真剣に語られているのだろう……?

 意味が分からず困惑するしかない俺たちに、リヴィ様は想像を膨らませる余地を残した言動が鍵だと念を押す。

「全部を語ってしまわずとも良いのですわ。思わせぶりな隠語で誤魔化す等もクオンは好みます。
 とにかく、あの娘の興味を引くことが肝要。気に入れば、そこかしこで吹聴して回りますし、話の種とネタ帳に記しますわ。でもそれだけでは一過性で終わるか、ネタの備蓄にされていつ日の目を見るやら分からぬことになってしまいますから、それ以上の興味を引き出す必要がございましてよ」
「あっあのですね……確認しますが、今俺たち、耳飾周知の手段について話し合っているのですよね⁉︎」
「ええ、その通りですわ」

 いや、ならなおのこと意味が分かりませんが⁉︎

 正直なところ、もう困惑を通り越して、この人どうしちゃったんだろうと不安を掻き立てられるまでに思考が進んでしまっていたのだけど、そこでコンコンと扉が叩かれた。
 で、返事も待たず開いたかと思うと、何故か女装版クリスタ様がズカズカと部屋に踏み込んできたので、唖然とする……。

「……あの……何か?」
「クオンに用があると聞いてな。ほれ」
「もぅ!    姉様のバカッ。折角どこぞのお貴族様の逢瀬を盗み見る絶好の機会だったのに!」
「覗きの現場を抑えてな、説教しておったところだったのだ。遅れてすまぬな」

 ディート殿に担がれた女性。ディート殿が担いでいるという時点でなんかこう……え?    と、なったのだけど、皆様驚いていらっしゃらないご様子。
 それどころか、リヴィ様は大きな溜息を吐いて……。

「クオン…………貴女まだ夜会に紛れ込もうとしていらしたの?」
「だって!    折角夜会に出れると思ってたのに直前で鞍替えよ⁉︎    男爵家ごときの小倅が私を捨てたせいで絶好の機会を逃したのよ⁉︎
 ならそいつの顔を拝んでやろうと思うのが普通じゃなくって?    で、忍び込んでみたら丁度中庭の露台で逢瀬を楽しんでる人たちがいたから、後学のために見ておこうと思って!」
「そもそもお主、その男爵家の小倅に全く興味無かったではないか。それであっさり縁を繋げる話を切ることも承諾しておいて、今更なんだ」
「知らなかったのよ!   もう夜会参加は決定だと思ってたのにそれも無しなんて!    それに例のディート様とやりあう美麗幼従者の主人だって先に言っててくれてたら断らなかったもんっ!」
「とまぁ、こんな具合でな。手を焼いておるのよ」
「………………」

 担がれた女性……というか少女が喚く言葉の内容が、なんか俺のこと言ってませんか……。
 そしてなにその『美麗幼従者びれいおさなじゅうしゃ』って。そんな言葉初めて聞いたんですけど……。

 どう反応して良いのかも分からず呆然と見ていたのだけれど、その視線に気付いた少女はギッと俺を睨んで「何見てんのよ!    見世物じゃないわよ!」と、噛み付いてきた。
 そしてジタバタ暴れ出したのだが、ディート殿は当然、こ揺るぎもしない。

 ………………え……今ここ、修羅場?

「とりあえずどうする。話にならんようならこのまま持ち帰るぞ。
 折角その、男爵家小倅と美麗幼従者を目の前にしてもこれではな。話もできんだろうし」

 絶対に分かってて言っていますよね、それ。
 姫様の言葉にピタリと暴れるのをやめた少女。目を皿のようにして部屋を見回し始めた。
 その様子にほくそ笑みながら姫様は、固唾を飲んで状況を見守っていたサヤに視線をやって……。

「あぁでも、丁度二人が揃うておるし、ここで話しておくのも良いな。
 オリヴィエラ。サヤとは仲良うやっていけそうか?」
「ええ。元よりサヤは気に入っておりましたし、強さも、勇気も、心根の優しさも、尊敬できる方でしてよ。
 ただ……それを考えれば、私はまだまだ未熟……本当に、宜しいのでしょうか……そちらの方が、不安ですわ」

 また意味のわからない会話が始まった。
 だけど俺はともかくサヤの名が出たことで、思考の放棄をしている場合ではないと、自分を奮い立たせた。

「あ、あの……クリスタ様。うちのサヤが、何か?」
「ん?    んー……まぁ良いか。ここで伝えておこう。
 先日渡した襟飾だがな、あれは新たに設けることとなった近衛部隊の襟飾なのだよ。
 それで、その近衛部隊にそこなオリヴィエラも推挙しておるのだが、まだ本人の気持ちが定まらぬようでな」

 新たな近衛?…………え?    でもリヴィ様は女性……。

「流石にこの国では、女性武芸者を探すこと自体がなかなか難しくてな。とはいえ貴族が一人もおらぬでは困るし……本当に其方が頼りなのだ。
 どうか引き受けてもらえぬものかな、オリヴィエラ。サヤも確かに所属させるが、こやつはまだ成人しておらぬのだ。
 どうせレイシールとともに行動させることになろうし、私の守りにはならぬ。せいぜい、式典の時などに借受けるくらいしか無理だろう」
「ちょっと待ってください⁉︎    サヤの引き抜きはやめてくださいって前にも言いましたよ⁉︎
 そもそも俺はサヤを手放す気なんてありませんし、彼女は俺の将来の妻です‼︎    成人したって王都にやりはしませんからね⁉︎」
「分かっておるわ!    だが、其方が参列する式典の時などはどうせついてくるではないか!    その時ちょっと仕事を任せるくらいは承知してもらうぞ!」
「拒否権無し⁉︎    サヤに無理強いなんてそんなの許さないですよ!」
「ちょっと手伝わせるだけだろうが!」
「あ、あの……あの、ちょっと待ってください。話が分からないです。もう一回、初めから説明していただけませんか⁉︎」
「サヤ……サヤってあのサヤよね⁉︎……でもこの人女性……あ、でも黒髪!    お身内⁉︎    あああぁぁ、もう離してよこの手!」
「クオン、慎みがなくってよ。ディート殿にも失礼ですわ!」
「こんな体勢なのにどうやって慎み持てっていうの⁉︎」

 ギャーギャー始めてしまった俺たちを、ただ黙って見守るディート殿。
 一通りが騒ぎ疲れて落ち着いてきた頃に、爽やかな笑顔を振りまいて言ったことは……。

「言いたいことは出尽くしたかな?
 ではとりあえず、自己紹介から始めることを勧めよう。その方が、話が早いぞ」
しおりを挟む
感想 192

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...