異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

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夜会 9

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「おーおーおー!    何年振りかと思えば……なんだその姿!    その椅子⁉︎    随分様変わりしたではないかセイバーンの!」

 部屋に通された人は、ズカズカと大股でやってきた。
 さして大きくない……リヴィ様と変わらぬくらいの背丈なのだが、横幅といかつさは段違いな人だった。
 禿頭とくとうで、そこら中に散りばめられた、傷、傷、傷……。
 ぎょろりと大きな目をしていて、口髭どころか眉もほぼ無い……大きな傷で、殆ど削れてしまっている様子だ。
 男爵様……と、いうよりは、山賊の頭領か大蛇の親分といった雰囲気だな……と、一瞬考えてしまい、失礼だろう⁉︎    と、頭から追い出した。
 だけどこう……貴族の礼装より毛皮を纏って戦斧を担いでいる方がしっくりきそうな人だ。いかにも武将といった風態。

 お隣には、こちらの方がディート殿の面影があるなと伺える女性。若干ふくよかで優しげに見える方だった。
 その後方に、やはり武人だと伺わせる男性。父上似だ。ヴァイデンフェラーの後継殿だと思われる方。
 男爵様よりは若干細身で若干背が高い。けれど、腕の太さと胸の厚み……この人も、歴戦の勇者なのだろう。
 やはり隣には女性を伴っていて、凛々しい顔立ちの、勝気そうな方。
 どちらの女性も、耳飾を両耳に飾っていた。

「いるとは思っていたが……久しいなヴァイデンフェラー殿。また傷が増えておらぬか」
「増えた増えた!
 一向に減らん罪人に、この年寄りも駆り出されてかなわんわ!」
「嘘をおっしゃい。自ら一番に飛び出していくくせに」
「もう前線はやめてくださいと何度言っても聞きやしないんですよ」

 奥方様と息子殿に口を挟まれ、ヴァイデンフェラー男爵様はあっという間に不機嫌そうな顔になる。けれど……。

「でも、お館様が最前線に立たれると、やはり皆さんの士気が違いますから……」

 唯一、ヴァイデンフェラー男爵様を擁護した若奥様の言葉に、一気にデレた。

「そうだろう、そうだろう!    まだまだ若いもんには任せておけんものなぁ!」

 満更でもないと言った様子。

 ……なんか、豪快さが、凄い……。
 半ば呆然としていたのだけど、サヤが必死で俺を押しやるので、恥ずかしいのだと理解した。
 仕方なしにサヤを解放し、慌てて立ち上がるサヤに倣って、俺も席を立つ。

「貴殿がおるというから探しておったのに、全く目につかんし、聞いてみれば休憩室というし、まだ体調が思わしくないのかと心配したのだが……。
 まるで鶏ガラのようだな!    ワシのくしゃみで吹き飛びやせんかと心配になるわ!」
「これでもだいぶん、良くなっている。冬もほぼ越せたし、もう心配はいらぬさ。
 春の戴冠式には、もう少しマシになっていよう。
 それから、体調を崩したのは私ではない」

 それでようやっと、父上以外の在室者に意識がいった様子。
 まず明らかに煌びやかなリヴィ様に視線がいって、ヴァイデンフェラー一行は慌てて頭を下げた。

「これは、アギーの……!    失礼!」
「気になさらないでくださいまし。面をおあげになって。
 オリヴィエラですわ、お久しゅう、ヴァイデンフェラー様」

 サッと簡単な挨拶を済ませて、オリヴィエラ様は綺麗に微笑まれた。子供だけで三十人以上いらっしゃるアギーの方なので、名前と顔を一致させるだけで一苦労だ。こうして名前のみ名乗るのは相手への配慮なのだろう。そして、場の空気を乱さぬように気を使ってくださったのだな。サッと後方に下がってしまわれた。
 礼を述べたヴァイデンフェラー男爵様の視線が、今度は俺とサヤに向かう。

「この度セイバーン後継となりました、二子のレイシールと申します。お初にお目にかかります、ヴァイデンフェラー様。
 こちらは、私の華、サヤと申します」
「鶴来野    小夜でございます」

 練習通りの綺麗な礼をしたサヤに、ほっと胸をなでおろす。
 唇の震えも落ち着き、顔色もそこまで悪くはない様子だ。

 これはご丁寧に。と、相貌を崩したヴァイデンフェラー男爵様が、お連れの方々の紹介をしてくださってちょっと恐縮してしまった。

「はて……レイシールと……最近聞いた名だ」
「ディートからと、王家からだよ。うちの愚弟が随分とお世話になったようですね。色々と無作法な男でご迷惑をお掛けしておりませんか」
「いえ!    とても、とても良くしていただいております!」
「此度は、セイバーンの後継となられたこと、おめでとうございます」
「……ありがとう、ございます……」

 ディート殿の兄上、ヴァイデンフェラー後継のイグナート様より言祝ぎをいただき、慌てて頭を下げた。
 兄上のことには、敢えて触れない。
 皆様のその態度に、俺も礼だけを述べて応える。……大体のことは、察していらっしゃるのだろう……。
 それにしても、父上とヴァイデンフェラー男爵様が親しかったとは……。俺はセイバーンのことを何も知らないのだなぁと、改めて実感した。

「そうそう。王家で思い出した。セイバーンの。交易路計画についての通達があったのだ。詳しくはそちらで確認せよとのことでな。
 それを聞きたくて探しておったのだが……責任者は貴殿か?    病み上がりに無体な通達だな……」
「ふふ、私ではないよ。息子、レイシールの方だ。これは通達に記してあったと思うがな」
「馬鹿を言え、貴殿の後継はまだ成人前だろうが。そっちの方が更に無体だ!」
「そうだな。……本来であればそうなのだろうな」

 苦笑してから父上は、俺に視線を寄越した。

「丁度良い、レイシール、私はヴァイデンフェラー殿と会場に戻る。交易路計画に関しても説明しておこう。其方らはオリヴィエラ様をアギー様の元へご案内してさしあげよ。
 サヤ、車椅子の扱い方をヴァイデンフェラー殿に少々伝授してやってくれぬか。……触りたくて仕方がないのだろう?    その顔は」
「やはり、車輪が付いておるし、動くのだな⁉︎    面白いものを持っておるな、セイバーンの!」
「足を悪くしたのでな。その辺はまた説明する。まずは扱いを覚えてくれるか」

 自分のことはヴァイデンフェラー殿に任せて若者は若者で交流してこいと促された。
 いや、でもそれ、良いのかな?
 俺の心配が顔に出ていたのだと思う。奥方様が「うちは兄弟も多いので、人手は余ってますの」と、父上のことは案ずるなと促してくれた。
 その腕に、とても豪奢な腕輪が嵌っていて……成る程、これが例の腕輪かと感心する。

「ではレイ殿。サヤの体調も心配なのでしょうから、私が一席ご用意致しますわ。
 せっかく縁を結んだのですもの、お付き合いくださるでしょう?」

 話にけりがついたと思ったのだろう。リヴィ様がとても優雅に口元に手をやって、私のお願い事、聞いてくださる?    と、ばかりに首を傾げる。
 それ、断れないやつですよね……。
 でも、サヤをこのまま会場にやるのは心配だし、どうせ帰って休めと言っても聞きはしないのだろう。

「……畏まりました。リヴィ様にお任せします」

 そう言うと、満足げな笑顔になった。

「ヴァイデンフェラー殿……父上を、よろしくお願い致します」
「任せておけ!    久しぶりだし、旧友巡りでもしておるさ!」

 うーん……父上の変貌ぶりを見ても、車椅子を珍しいと思っても、気にしない感じなのがディート殿の血縁だな……。
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