403 / 1,121
死の予感 1
しおりを挟む
傷の治療を終え、しばらくしたら、部屋を移されることとなり……。
「……落ち着かない……」
「我慢してください」
すごく機嫌の悪いハインに、否やなど言えるはずもない……。シザーに止められたことを、いまだ根に持っており、ずっとこんな感じだ。
本館三階の、客間のひとつ。
別館では警備に不安があるということで、ここに移された。
ジェスルはだいたい捕らえたのだけど、逃げた執事長や、バンス別邸の管理に残っていた者らもいるから、油断はできない。
兵士長の取り計らいで、各地域にジェスルよりセイバーン奪還という知らせが向かい、バンス周辺には残党の警戒と捕縛。別邸の捜索も命じるよう、手配がされた。
その辺りで、俺の意識が途切れている。
出血と、体力の消耗とで飛んだらしい。
そもそもが寝不足であったし、食事もまともに摂っていなかったからだろう。
痛みで何度か意識が覚醒したものの、そのまますぐに闇に落ちる。それを繰り返した。
それから暫く……多分、結構な時間が経ったのだと思う。
「レイシール様、起きてください!」
切羽詰まった声のハインに叩き起こされ、半覚醒のまま、寝台から無理やり引き下ろされて……。
「うあっ、あっ、あああぁぁ!」
予期してなかった激痛に、蹲って悲鳴を上げた。
「申し訳ありません。ですが、急いでください。
早く逃げなれば、火に巻かれてしまいます!」
何を言われているのかが、いまいち飲み込めない。
兄上の部屋は、もう鎮火してたよな? 今どうして、また火に巻かれてしまうなんてことに、なっている?
「夜襲です。
残党が潜んでいたらしく、一階数カ所から出火したのですが、鎮火に駆け回っている間に、上階にも火玉が投げ込まれました」
火玉⁉︎
ハインの早口な報告に、ギョッとして顔を上げた。
火玉というのは、危険な道具だ。
かつては戦などで使われていたこともあったが、あまりに非人道的な成果を上げるため、これを作ること自体が禁忌とされている。
作り方自体はいたって単純で、小ぶりの壺や瓶等に油や強い酒など、燃えやすいものを詰め、口を布等で塞ぎ、そこに火をつけるだけ。それを目標に投げて使う。
液体が飛散した場所を瞬時に燃やし、消しにくいのが特徴で、人などにぶつければ、まず確実に焼け死んでしまう、悲惨で残酷な道具だ。
それが使われたという発言に、耳を疑った。
「死傷者は⁉︎」
「若干名……。ですがそれよりまず、避難です。このままでは我々も危ないです」
「異母様やジェスルの者はもう避難させたのか」
「貴方が先です!」
「駄目だ、俺は自力でまだ動ける。閉じ込められたままでは、火に巻かれてしまえば助からないんだぞ⁉︎」
ハインを叱りつけ、俺は自力で下に向かうから、まずは皆にそう指示してきてくれと告げた。
俺が命じなければ、きっと誰も動けない。俺の避難に時間をかけて、三階の異母様が手遅れになってはいけないと思った。
渋るハインだったが、早く行かないと動かないぞと脅すと、眉間のシワ三割増で睨まれ、まったく畏まってない顔で「畏まりました」と指示に従う。
ハインを見送り廊下に出てみれば、結構な騒動である様子。階下がかなり騒がしい。よく気付かず寝ていたなと、自分に呆れてしまう。
三階には火玉が投げ込まれていないのか、まだあまり、危険を認識できない。
階下から駆けつけてきた衛兵らに、まずは異母様を頼み、重度の負傷者や女性の避難を優先と指示して、俺は壁伝いに、階段に向かった。
ずきん、ずきんと傷口が痛む。発熱もしているのか、少々だるい……。
階段に来てみたけれど、まだ火は回っていない様子。一つ息を吐いて、そこを一旦、通り過ぎた。
向かったのは、兄上の部屋。
天に召されてしまった兄上の遺品を、少量でも得ておかねばと、そう思ったのだ。
異母様に、兄上の死は、まだ伏せられている。
だけどいつかは、伝えなければならない……その時、面影を偲ぶものが何もないのは、きっと辛い。
それから、父上……。
死の間際の兄上は、父上について、何も語らなかった。
けれど、二十七年という時間を、共に過ごしたのだ。何も思っていないなどどいうことは、決して無い。
父上を無事救出したら、兄上の最後を、父上にも伝えなければならない……。
痛む足を引きずって、なんとか部屋に辿り着いた。
寝室のものは大抵焼け焦げてしまったから、動かされていた家具を漁る。
あまり兄上と接してこなかったから、何が兄上らしいものなのかも、よく分からない……。とりあえず懐にしまっておける、小ぶりな物をいくつか見繕った。
兄上の部屋を出て、来た道を引き返す。
階段まで戻って来た時、ギクリとした。
黒い煙……。それが、思っていた以上の勢いで、昇ってきていた……。
「これは…………」
もう階下は、火の海ということだろうか……。
「…………やってしまったかな……」
呆然と、そう呟くしかなかった。
これは、困った。
領主の館は石造りだ。室内はともかく、外壁は燃えない。
だから、そんな大層なことにはならないと、勝手に思い込んでいたのかもしれない…………。火玉の威力を見誤ったな。
とりあえず、手近な部屋に入り、窓の下を確認してみることにした。
改めて外を見ると、もう時間帯は夜であったらしい。空が真っ暗だ。
下の方が明るいのは、当然燃えているからだろう。
廊下の燭台を一つ拝借し、空き部屋に入り、露台から外に出てみたのだけど……。
「……普段ならともかく、夜に、この脚では無理だな……」
普段でも、いちかばちかの賭けになったろう。何より今日、兄上はここから飛んで、来世へと旅立ってしまったわけで……。
地面は遥か下。思った以上に館は燃えていて、炎によって割れた窓だろうか? この高さからだと、散らばった硝子片がキラキラと輝いてみえた。
走り回る人や、呆然と座り込む人。村人や衛兵らが、井戸から桶を流れ作業で回し、水を掛けていたり……結構なことになっているなぁと、どこか麻痺した思考で考える。
部屋の中に戻り、寝室や部屋を回って、縄の代わりにできそうなものを探した。こんな状況でもいちいち足が痛くて、作業に時間がかかることにイライラしながら。
閉めていた扉の隙間から、もう黒い煙がこの部屋にまで流れ込み始めていて、くじけそうになる気持ちを、必死で奮い立たせ、焦るなと言い聞かせて。
「何か……あっ、小刀」
やっとのことで集めた布地を割いて紐状にしようと思ったのだが、胸元や腰を触っても小刀が無い。当然だ。俺は夜着に着替えていたし、着ていたものは客間に置いてきてしまっていたのだ。
なんで元の部屋まで戻らなかったかな⁉︎ と、要領の悪い自分への怒りが込み上げてきたが、そもそも、ハインの言う通りにせず、いちいち遺品を取りに寄り道をしたのは自分で、全部が全部、自分で招いた結果なのだと思うと、非常に笑えた。もうヤケだった。
「…………は、ははは、は……。よりによってっていうか……俺ってなんでこう、馬鹿なんだろう……」
この大きな布地は、結び合わせたとしても、下まで届かない……。かといって、腕力で割けるようなものでもない……。
つたうことができるとこまで垂らして、怪我を覚悟で落ちるしかないか。
気合いで布を括りにかかったが、帳や敷布は括るのにも難儀した。
布の性質なのか、すぐにするりと解けてしまう。やっとのことで体裁を整え、もう一度露台に戻ったのだが……。
「あー……遅かった感じだな……」
呆然と、そう呟く。
階下から吹き上げる炎が、露台を舐めていた。熱風が噴きあがり、肌をチリチリと刺激する。
布を垂らせば、すぐに燃えてしまうだろう……。
左隣の客室はもう燃えていた。館の左側が特によく燃えていて、右の方の部屋に移動できればあるいは……と、思ったけれど……。
部屋の中から、パチンと、何かの爆ぜる音がする。
たぶん……廊下はもう、火の海だ。もうじき、この部屋の扉も燃えて、炎が侵入してくるだろう。
そして今の俺の足では、隣の露台に飛び移ることも、できやしない。
「レイシール様ーーーーーーッッ」
呆然としていたのだけど、階下からのハインの声に、頬を殴られた心地になった。
失敗を見咎められてしまったような、少々後ろめたい……という思いと、ホッと、何か安堵を覚える。
炎に顔の表面を炙られつつ露台の下を覗くと、狼狽えて叫ぶハインを、必死で押しとどめているシザーやジークらが、すぐに見つかった。
あー……こんなに燃えていても、ハインは中に向かおうとするんだ……。兄上の時も、止めて正解だったな……と、そんな風に思う。
「ハイン……」
さして大きくない声で呟いたのだけど、弾かれたように、ハインが顔を上げた。
目が合ってしまい、苦笑しつつごめんと、手を振ると、目を限界まで見開いて、一瞬絶望したように、表情が抜け落ちる。
けれど、次の瞬間ギラリと瞳が光り……。
「巫山戯るな⁉︎ 何諦めてやがるーーーー‼︎」
敬語もかなぐり捨ててそう叫んだ。
「飛び降りろ、今すぐだ! 受け止める。早くしろ‼︎」
館から吹き出す炎が危ないというのに、ジークらを振りほどいて、階下に近付こうとする。
そんなハインにあぶないからやめろと声をかけようとして、言葉が止まった。
背後から伸びた手が、グッと、ハインの腕を掴んだのだ。
闇と同化した人影。
闇色の袖から覗く、白い手首。
振り返ったハインが、動きを止めた。
「…………サヤ」
幻聴だと思う。遠いのに、呟きまで聞こえた。
面覆いと仮面は外されていた。けれど、闇色の衣装に身を包んだままの、サヤ。
高く結わえた黒髪に、きりりと引き締まった凛々しい目元。
何故かサヤの声は、とてもはっきりと耳に届いた。
「私が行きます」
「……落ち着かない……」
「我慢してください」
すごく機嫌の悪いハインに、否やなど言えるはずもない……。シザーに止められたことを、いまだ根に持っており、ずっとこんな感じだ。
本館三階の、客間のひとつ。
別館では警備に不安があるということで、ここに移された。
ジェスルはだいたい捕らえたのだけど、逃げた執事長や、バンス別邸の管理に残っていた者らもいるから、油断はできない。
兵士長の取り計らいで、各地域にジェスルよりセイバーン奪還という知らせが向かい、バンス周辺には残党の警戒と捕縛。別邸の捜索も命じるよう、手配がされた。
その辺りで、俺の意識が途切れている。
出血と、体力の消耗とで飛んだらしい。
そもそもが寝不足であったし、食事もまともに摂っていなかったからだろう。
痛みで何度か意識が覚醒したものの、そのまますぐに闇に落ちる。それを繰り返した。
それから暫く……多分、結構な時間が経ったのだと思う。
「レイシール様、起きてください!」
切羽詰まった声のハインに叩き起こされ、半覚醒のまま、寝台から無理やり引き下ろされて……。
「うあっ、あっ、あああぁぁ!」
予期してなかった激痛に、蹲って悲鳴を上げた。
「申し訳ありません。ですが、急いでください。
早く逃げなれば、火に巻かれてしまいます!」
何を言われているのかが、いまいち飲み込めない。
兄上の部屋は、もう鎮火してたよな? 今どうして、また火に巻かれてしまうなんてことに、なっている?
「夜襲です。
残党が潜んでいたらしく、一階数カ所から出火したのですが、鎮火に駆け回っている間に、上階にも火玉が投げ込まれました」
火玉⁉︎
ハインの早口な報告に、ギョッとして顔を上げた。
火玉というのは、危険な道具だ。
かつては戦などで使われていたこともあったが、あまりに非人道的な成果を上げるため、これを作ること自体が禁忌とされている。
作り方自体はいたって単純で、小ぶりの壺や瓶等に油や強い酒など、燃えやすいものを詰め、口を布等で塞ぎ、そこに火をつけるだけ。それを目標に投げて使う。
液体が飛散した場所を瞬時に燃やし、消しにくいのが特徴で、人などにぶつければ、まず確実に焼け死んでしまう、悲惨で残酷な道具だ。
それが使われたという発言に、耳を疑った。
「死傷者は⁉︎」
「若干名……。ですがそれよりまず、避難です。このままでは我々も危ないです」
「異母様やジェスルの者はもう避難させたのか」
「貴方が先です!」
「駄目だ、俺は自力でまだ動ける。閉じ込められたままでは、火に巻かれてしまえば助からないんだぞ⁉︎」
ハインを叱りつけ、俺は自力で下に向かうから、まずは皆にそう指示してきてくれと告げた。
俺が命じなければ、きっと誰も動けない。俺の避難に時間をかけて、三階の異母様が手遅れになってはいけないと思った。
渋るハインだったが、早く行かないと動かないぞと脅すと、眉間のシワ三割増で睨まれ、まったく畏まってない顔で「畏まりました」と指示に従う。
ハインを見送り廊下に出てみれば、結構な騒動である様子。階下がかなり騒がしい。よく気付かず寝ていたなと、自分に呆れてしまう。
三階には火玉が投げ込まれていないのか、まだあまり、危険を認識できない。
階下から駆けつけてきた衛兵らに、まずは異母様を頼み、重度の負傷者や女性の避難を優先と指示して、俺は壁伝いに、階段に向かった。
ずきん、ずきんと傷口が痛む。発熱もしているのか、少々だるい……。
階段に来てみたけれど、まだ火は回っていない様子。一つ息を吐いて、そこを一旦、通り過ぎた。
向かったのは、兄上の部屋。
天に召されてしまった兄上の遺品を、少量でも得ておかねばと、そう思ったのだ。
異母様に、兄上の死は、まだ伏せられている。
だけどいつかは、伝えなければならない……その時、面影を偲ぶものが何もないのは、きっと辛い。
それから、父上……。
死の間際の兄上は、父上について、何も語らなかった。
けれど、二十七年という時間を、共に過ごしたのだ。何も思っていないなどどいうことは、決して無い。
父上を無事救出したら、兄上の最後を、父上にも伝えなければならない……。
痛む足を引きずって、なんとか部屋に辿り着いた。
寝室のものは大抵焼け焦げてしまったから、動かされていた家具を漁る。
あまり兄上と接してこなかったから、何が兄上らしいものなのかも、よく分からない……。とりあえず懐にしまっておける、小ぶりな物をいくつか見繕った。
兄上の部屋を出て、来た道を引き返す。
階段まで戻って来た時、ギクリとした。
黒い煙……。それが、思っていた以上の勢いで、昇ってきていた……。
「これは…………」
もう階下は、火の海ということだろうか……。
「…………やってしまったかな……」
呆然と、そう呟くしかなかった。
これは、困った。
領主の館は石造りだ。室内はともかく、外壁は燃えない。
だから、そんな大層なことにはならないと、勝手に思い込んでいたのかもしれない…………。火玉の威力を見誤ったな。
とりあえず、手近な部屋に入り、窓の下を確認してみることにした。
改めて外を見ると、もう時間帯は夜であったらしい。空が真っ暗だ。
下の方が明るいのは、当然燃えているからだろう。
廊下の燭台を一つ拝借し、空き部屋に入り、露台から外に出てみたのだけど……。
「……普段ならともかく、夜に、この脚では無理だな……」
普段でも、いちかばちかの賭けになったろう。何より今日、兄上はここから飛んで、来世へと旅立ってしまったわけで……。
地面は遥か下。思った以上に館は燃えていて、炎によって割れた窓だろうか? この高さからだと、散らばった硝子片がキラキラと輝いてみえた。
走り回る人や、呆然と座り込む人。村人や衛兵らが、井戸から桶を流れ作業で回し、水を掛けていたり……結構なことになっているなぁと、どこか麻痺した思考で考える。
部屋の中に戻り、寝室や部屋を回って、縄の代わりにできそうなものを探した。こんな状況でもいちいち足が痛くて、作業に時間がかかることにイライラしながら。
閉めていた扉の隙間から、もう黒い煙がこの部屋にまで流れ込み始めていて、くじけそうになる気持ちを、必死で奮い立たせ、焦るなと言い聞かせて。
「何か……あっ、小刀」
やっとのことで集めた布地を割いて紐状にしようと思ったのだが、胸元や腰を触っても小刀が無い。当然だ。俺は夜着に着替えていたし、着ていたものは客間に置いてきてしまっていたのだ。
なんで元の部屋まで戻らなかったかな⁉︎ と、要領の悪い自分への怒りが込み上げてきたが、そもそも、ハインの言う通りにせず、いちいち遺品を取りに寄り道をしたのは自分で、全部が全部、自分で招いた結果なのだと思うと、非常に笑えた。もうヤケだった。
「…………は、ははは、は……。よりによってっていうか……俺ってなんでこう、馬鹿なんだろう……」
この大きな布地は、結び合わせたとしても、下まで届かない……。かといって、腕力で割けるようなものでもない……。
つたうことができるとこまで垂らして、怪我を覚悟で落ちるしかないか。
気合いで布を括りにかかったが、帳や敷布は括るのにも難儀した。
布の性質なのか、すぐにするりと解けてしまう。やっとのことで体裁を整え、もう一度露台に戻ったのだが……。
「あー……遅かった感じだな……」
呆然と、そう呟く。
階下から吹き上げる炎が、露台を舐めていた。熱風が噴きあがり、肌をチリチリと刺激する。
布を垂らせば、すぐに燃えてしまうだろう……。
左隣の客室はもう燃えていた。館の左側が特によく燃えていて、右の方の部屋に移動できればあるいは……と、思ったけれど……。
部屋の中から、パチンと、何かの爆ぜる音がする。
たぶん……廊下はもう、火の海だ。もうじき、この部屋の扉も燃えて、炎が侵入してくるだろう。
そして今の俺の足では、隣の露台に飛び移ることも、できやしない。
「レイシール様ーーーーーーッッ」
呆然としていたのだけど、階下からのハインの声に、頬を殴られた心地になった。
失敗を見咎められてしまったような、少々後ろめたい……という思いと、ホッと、何か安堵を覚える。
炎に顔の表面を炙られつつ露台の下を覗くと、狼狽えて叫ぶハインを、必死で押しとどめているシザーやジークらが、すぐに見つかった。
あー……こんなに燃えていても、ハインは中に向かおうとするんだ……。兄上の時も、止めて正解だったな……と、そんな風に思う。
「ハイン……」
さして大きくない声で呟いたのだけど、弾かれたように、ハインが顔を上げた。
目が合ってしまい、苦笑しつつごめんと、手を振ると、目を限界まで見開いて、一瞬絶望したように、表情が抜け落ちる。
けれど、次の瞬間ギラリと瞳が光り……。
「巫山戯るな⁉︎ 何諦めてやがるーーーー‼︎」
敬語もかなぐり捨ててそう叫んだ。
「飛び降りろ、今すぐだ! 受け止める。早くしろ‼︎」
館から吹き出す炎が危ないというのに、ジークらを振りほどいて、階下に近付こうとする。
そんなハインにあぶないからやめろと声をかけようとして、言葉が止まった。
背後から伸びた手が、グッと、ハインの腕を掴んだのだ。
闇と同化した人影。
闇色の袖から覗く、白い手首。
振り返ったハインが、動きを止めた。
「…………サヤ」
幻聴だと思う。遠いのに、呟きまで聞こえた。
面覆いと仮面は外されていた。けれど、闇色の衣装に身を包んだままの、サヤ。
高く結わえた黒髪に、きりりと引き締まった凛々しい目元。
何故かサヤの声は、とてもはっきりと耳に届いた。
「私が行きます」
0
お気に入りに追加
838
あなたにおすすめの小説
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる