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拠点村 8
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九の月に入り、相変わらず日差しは暑いものの、拠点村は順調に計画が進んでいる様子だ。
五日に一度くらいの頻度で現場を訪れつつ、俺たちは日々の雑務と、交易路計画遂行の手続きなどに追われていたのだが……。
「……え……?」
「はい、一応」
長衣の釦をとめるのも忘れ、呆然と、サヤの返答に沈黙……。
朝の身支度の最中、ちょっと始めた雑談だった。
九の月の終わりに、ギルの誕生日が来るから、何かお祝いしなきゃなぁって話を……。で、そういえばサヤの誕生日は? と、さり気なく聞いてみたのだが、そうしたら「あ、過ぎましたね」という……びっくりな返事が。
「十七⁉︎ いつ⁉︎」
「えっと……二日ほど前に……?」
気付かぬうちに、サヤの誕生日が過ぎていた。
いや、知らなかったんだけど……ていうか、全然そういう話はしなかったから……ていうか!
「なんでもっと早く言わない⁉︎」
「私も忘れていました」
そんな返答に、膝が崩れた。
い、忙しくしてたよ、確かに。ここ最近特に、色々やることが増えたし。
だけど……だけどね⁉︎
「そんな……過ぎたなんて…………」
「あの……そんなに大変なことなんですか? この世界の、誕生日……」
悲嘆に暮れる俺の態度をどう解釈したのか、サヤが恐る恐るといった様子で問うてくる。
別に、大変なことは何もない。そうじゃなくて、サヤの誕生日を祝うのは、俺の使命みたいなものじゃないかってこと!
サヤはこの世界に迷い込んだ、たった一人の異界人だ。家族は遠い次元の向こうで、彼女を祝うことができない。だから俺たちが、ご家族の分も、彼女を祝うつもりでいたのだ。贈り物だって用意したかった。なのにだ!
なんでそんな、適当に流すんだ……。
「レイシール様、過ぎたものは仕方がありませんから、早く支度を済ませてください」
俺の脇に手をやって無理やり立たせたハインが、上着を強引に着せてくる。
お前俺の扱いが雑すぎるぞ⁉︎
「異母様のお見送りに遅れます。早くしてください」
ギロリと睨まれた。
確かにそれが最優先事項だ。渋々と従い、着替え終わると、サヤがせっせと髪を結う。
「レイシール様の誕生日は、いつですか?」
「……四の月のはじめ……」
「ハインさんは?」
「私は分かりませんから、祝詞日の中で祝って頂いてますね」
「……しゅくしび?」
こてんとサヤの首が傾く。
「祝詞日……分かりませんか?」
「祝日ですか?」
「……年の移り変わりの、どこにも属さない十日間ですが……」
「どこにも属さない?」
あれ?
しばらく沈黙の後、ハッと気付いたのはやはりハインだった。
「その話は後です。早く、お見送りに遅れます」
「そ、そうでしたっ!」
三人で慌てて館を出た。
いつも通り厩の前を通り過ぎ、庭の一角、いつもだいたい俺たちが陣取る場所が空いていて、そこに並ぶ。
「先ほどの話は、帰ってから確認しましょう」
ハインは最後にそう言い、表情を物騒なものに切り替えた。
……いや、異母様方にその顔は向けないでくれ……。
「見えないのですから構わないではないですか」
「構うよ⁉︎ お前雰囲気まで険悪になるんだから絶対それは駄目!」
小声でそんなやりとりをする俺たちの横で、サヤがクスクスと笑う。
彼女のおかげで、険悪な雰囲気は尾を引かずにすむ。ほんとサヤには助けられっぱなしだ。
とはいえ……。
ハインが警戒を強める理由は、よく分かっている。
別館に侵入し、何かしらを調べた相手は、十中八九異母様であるだろうし、多分サヤの性別は知られてしまったと思う。
なのに、何も言ってこない……仕掛けてこない…………それが、とても不気味だった。
けど、黙っているからには、何か思惑があるのだと思う……。あえて、それを追求しない理由が……。
それを考えると、心臓をぎゅっと掴まれたような不安が、身体を支配する。
とにかく、サヤは、極力一人にはしない……。ハインとは、そう話し合っていた。
一番考えられる可能性が、サヤの最も恐れることであるから、彼女を絶対に、不安にさせてはいけない。
彼女を早く、ここから離れさせたかった。
ギルにお願いしてメバックに置いてもらうことも一度、考えたのだけど……。
けれどそうすると、サヤはきっと、怒るだろうし、不安にさせてしまうから…………。
「いらっしゃいました」
ハインの声で、意向を無理やり、切り離す。
これを考えると、心が重くなる。だから極力、長く囚われないようにしなければいけない。
頭を下げて、馬車が目の前を通過するのを待った。
何も、起こらない……ガラガラという車輪の音と、馬の足音が、順調に通り過ぎていく。
それが、たまらなく不安を煽った。
不安ばかりが募る見送りを済ませ、別館に戻る。
すると、調理場から食欲を刺激する香りが漂ってきていて、そのまま三人で食堂に向かった。
「おかえり。早く朝食にしよう」
見送りのために朝食のおあずけをくらっていたディート殿が、待ちきれないとばかりに席で伸びていて、その光景につい笑ってしまう。
急ぎますね! と、サヤが言い、ハインとともに調理場へ向かい、中から微かに、食器などの音が聞こえてきだす。
そうすると今度は、マルを起こしてくれたらしいジェイドが、マルを引きずるようにしてやってきた。
「もうちょっと寝たいんですけど……」
「食ってから寝直せ」
大変優秀なジェイドに礼を言って、二人に「おはよう」と挨拶した。
さて、本日も一日が始まる。
◆
ここのところの朝の日課は、心臓に悪すぎていつも辛い。
見ていたくないのだけど、見ておかないとより不安を煽られてしまうため、見るしかない……。
朝食を終え、雑多なことを済ませると、そこから玄関広間で鍛錬の時間となるのだ。
袖無しの短衣に、膝丈の細袴。お情け程度の防具……籠手と臑当をつけたサヤと、もろ肌脱ぎで、細袴しか身に付けていないディート殿が殺り合う。いや、ほんと文字通り、殺る気満々にしか見えなくって悲鳴を嚙み殺すのに必死だ。
あまり俺が叫ぶと、二人の集中を邪魔してしまうし、逆に危険だとハインに窘められ、見るんなら黙ってろ、嫌なら引っ込んでろと、言われてしまったため、必死で我慢している。
因みに、ジェイドとマルは興味ないということで、それぞれの仕事に行ってしまっている。
大股で踏み込んだディート殿の鋭い突きを、サヤが風に流されるような最小限の動きで避けた。
これだけの猛者を相手にしても、サヤは最小限しか逃げない。それが恐ろしくて仕方がない要因の一つなのだけど、そのまま躊躇なくディート殿の懐に飛び込む。
顔と腹部に残像のようなものが一瞬だけ見えたから、サヤは突きを放ったのだろう。けれど、ディート殿もそれは分かっていた様子で、顔への打撃は少し顔を反らすだけでかわし、腹部への打撃は左肘でもって庇う。剣を握り伸ばしていた腕を、とっさに離して防御に使い、サヤの打撃に流されるように距離を空けると、そのまま彼の足がサヤの腹部に鋭い蹴りを放つ。
足刀蹴りとサヤが呼ぶものだ。ディート殿は剣を扱っていようと、体のいたるところを武器にする。卑怯な手を駆使するハインに近いものがあるのだが、彼の技は捕縛術という、罪人を捉えるために編み出された武術であるらしい。
体格の良い彼が躊躇なく蹴りだした足は、過たずサヤの腹部に吸い込まれるかに見えた。けれど、サヤはその足に手をつき、あろうことか反動で飛び上がる。足に着地するという、軽業師のような動きを見せたが、ディート殿は揺るがない。彼の体勢を崩すのには失敗した様子だ。
けれどサヤはもう次の動きに移っていた。
更に跳躍し、ディート殿の肩に足を踏み降ろす。それでも彼は揺るがない。その踏み降ろした足を掴みにきたので、サヤは更に体重をかけて跳躍。大きく距離を取ったが、着地と同時にまた剣が薙ぎ払われる。
またもやサヤの腰の辺りを狙ったその一撃は、より低くしゃがんだサヤにかわされるが、流れのままに弧を描き、今度は上段から振り下ろされた。
もう、無理だろ⁉︎
しゃがんで体勢を崩していたサヤには避けられないと、悲鳴を上げそうになったのだが、彼女はそのまま飛び込むように前転。刃のない内側に逃げ込んだ。
そして流れるように立ち上がりつつ、剣を握るディート殿の手首に裏拳を見舞い、軌道を逸らして立ち位置を確保。更に、腕をそのまま握り、自身の体を回すように捌いた。
「うおっ⁉︎」
ディート殿の驚愕の声と共に、彼の足が地を離れる。
「ひゃっ⁉︎」
けれど、ただで投げられてやる気はなかった様子だ。
転がりつつも、左腕を振り回して、サヤの足を払いつつ、サヤに掴まれていた方の腕も強引に振り解く。
「もらった!」
更に体当たりするみたいに、跳ね起きると同時にサヤに飛びかかる!
「あっ……!」
あそこまで体勢を崩しておいたのに、まさか飛び掛かってくるとは想定していなかったようで、サヤはそのままディート殿に組み敷かれた。
サヤに跨るように片膝をついたディート殿の左足は、サヤの右腕を踏みつけて抑え、右手は左腕を抑えている。そして、右手の剣で首を……。
「そ、そこまでにしてください⁉︎」
我慢できず、とうとう声を上げてしまった。
「よしっ!」
「……参りました……」
ディート殿が勝鬨をあげ、サヤは力を抜いてだらんと寝転がる。激しく動いたため、息を切らし、頬を紅潮させており、汗で髪が額に張り付いていた。
「……そういていると女にしか見えぬな」
軽口だと分かっていても、どきりとする。
サヤは補整着も身に付けているから、余計に暑い。鍛錬をしていると、当然汗を掻くし、化粧が落ちる。
当初それを指摘されたのだが、女顔を隠すために化粧をしていると言って、無理やり誤魔化した。
ディート殿は「レイ殿も学舎では散々間違われていたと聞いたぞ!」と、姫様方に聞いたという俺の過去を引き合いに出し、女顔の男に疑問を感じなかった様子で誤魔化された。……女顔が役に立って良かった……。
「もっとしっかり食え! こんな細腕では折れてしまうぞ!」
「私の民族は、こういった体型なんです」
苦笑するサヤに手を貸して、引き起こす。
サヤは礼を言って立ち上がり、有難うございましたと一礼。礼儀正しい……。
「そうは言っても、背丈が近いとはいえ、姫様と体型が変わらんのは細すぎるだろう。女の細腰に張り合ってどうする」
「……好きで細いんじゃ、ないんですけどね……」
「まあ、その分身体はしなやかだし、柔軟性もある。サヤは軽さと速さを信条にしておるようだし、それも一つの強さだとは思うが、一撃を食らえばそれで終わってしまう。今のようにな。
相手の動きを封じるまで、気は抜かないことだ」
「はい。気を付けます」
一撃……。
その言葉が重い……。
ディート殿の腕なら、サヤに刃が当たりそうになれば寸前で止めてくれるだろうが、それでも生きた心地がしない。
もっと身を守る防具を身に付けてほしいのだが、それは身体の動きを阻害すると言い、サヤは最低限しか身に付けようとしない。
けれど、剣を相手にする以上、剣を受けられないというのは、不利だ。
「あとはあれだな。やはり防具なりは、考えた方が良い。
一撃も受けられぬのは、やはり問題だぞ。今回は上手く避けたが、それもままならん時というのは、どうしてもある。奥の手としてでも良いから、刃を受け止められる手段を講じておく方が良い。其方に何かあれば、レイ殿がただでは済まんぞ」
あっちの方が死にそうな顔をしていた。と、指摘された……。見てる余裕があるんだな……。
「レイ殿は心配症のようだしな。主人を安心させてやるのも従者の勤めだぞ」
「うーん……動きを阻害しないものって、あるのでしょうか……。一応、色々試させてもらったんですけどね、何かしら支障が……」
「むぅ……フェルドナレンは素手での攻防というのは主流ではないからな。サヤに適した防具というのは見つけにくいかもしれん」
「と、なると……特注ですか」
二人のもとに、手拭いを持っていったハインが話に加わる。
礼を言って手拭いを受け取った二人が汗を拭いつつ、うーんと唸る……。
「そうだな。そうするしかなかろうな。我々の身に付ける鎧などでは、サヤは多分、動きづらい。関節の動きが阻害されるのは良くなかろう」
「サヤ、その籠手と臑当は邪魔にならないのですか?」
「そうですね。ギリギリなんとか。籠手は少し、手首の動きを阻害されるので、掌底が打ちづらいですが」
「手の甲の防御は捨てた方が良さそうですね……」
「更に薄くなるの却下!」
とっさにそう口を挟んだら、ディート殿とサヤには苦笑され、ハインには睨まれた。
「動きが阻害されてサヤに危険が増えるのと、どちらが良いですか」
「お前それ卑怯だぞ⁉︎」
「手首は捨てても、手の甲は守れば良いのではないか?」
ディート殿が助け舟を出してくれたので、それならと頷いた。
「従軍することはなかろうが、そういった状況も想定して武具を開発すべきだ。サヤの動きを阻害しない上で、最大限に守るものをな。
それと、常日頃から隠して身に付けておけるものがあると、更に良い。
折角無手で戦えるのだから、その利点は最大限活かすべきだろう。
これよりレイ殿は公の場に出ることも増えるだろうし、ハインを同行できぬ場合も考えられる。特に、戴冠式は無理だぞ。ヴァイデンフェラーの者にはバレるからな。下手な詮索はされたくなかろう?」
そう指摘され、ハインの眉間にシワが寄った。その状況は想定していなかった……。
「忍のジェイドもやめておく方が良かろうな。そうなると、サヤしか公の場には出られん。子供だからな、本来はあまり良くないが……レイ殿も成人しておらぬし、そこは目を瞑ってもらえるだろう。念のため、近衛の襟飾は身につけておいたほうが良いぞ。保証になる」
公の場にあまり出たことのない俺には分からないことだらけだな。ディート殿に感謝を伝え、考えることが増えたなと、内心憂鬱だった。
サヤを伴うのか……。彼女も女性であることを偽っている身であるから、不安だ……。
けれど、俺は武官も持っていないし、一人で参加するわけにもいかないだろうし……ギルに使用人を借りるわけにもいかない。人手不足が痛いな……。
「さて、一汗かいたことだし、湯屋に行ってこよう。しばらく護衛を離れるが良いか?」
放り出してあった長衣を手に取り、適当に身につけつつディート殿がそう言ったから、どうぞと促す。
「サヤも一緒にどうだ? 俺は傷など気にせぬぞ?」
「いえ……その……」
「まあ、無理強いはせぬがな。あまり気にしないことだ。ではまた後でな」
戸惑いを見せたサヤにあっさりと譲って、ディート殿は外に向かい、それを見送ってからハインが口を開いた。
「サヤ、風呂は沸かしてありますからどうぞ」
「有難うございます。いただきます」
ディート殿が戻るまでに身支度を済ませなければならないからな。
サヤが鍋風呂を使っている間に、俺は投擲練習に使った小刀を回収し、着替えのため部屋に戻った。俺たちは風呂に入るほどには汗を掻いていないしな。冷や汗はすごく掻いた気がするけど。
「で、サヤの祝いをしたいという話ですが」
ハインはそこまで計算してサヤを誘導したらしい。相変わらず、優秀なのだけど……サヤには若干、お前も甘いよな。
「うん。祝ってやりたい……。何か贈りたいけど、どうする?」
「サヤは物欲が無いですからね……装飾品などは必要としなさそうですが……」
「けど、簡素で美しいものは好きみたいだぞ?ゴテゴテは趣味じゃないみたいだけど」
唯一の例外は蝶の髪飾りだが、あれだってそんなに派手なものではない。
サヤが欲しがりそうなもの……うーん……。
「明日は拠点村の視察でしたね。でしたら、馬車はディート様に任せて良いですか? 私は少し、メバックに行ってきます。
ギルにも言っておかなければ、どうせ後で揉めますよ」
あ、自分だけ抜け駆けずるい!
「俺はいつ買いに行けば良いんだよ⁉︎」
「じゃあ明日までに決めてください。近いものを探してきますから」
どうせ一人で買い物には行けないでしょう?と、指摘されてしまった。う……それは、そうだけど……。
「明日急には無理ですし、三日後くらいにしますか。
食事処に連絡をやります。あちらを昼に貸し切って、祝うというのはどうですか? 別館で準備をしたのではすぐに見つかってしまうでしょうし」
やる気のある時のハインは本当に優秀だ!
サヤに悟られないように万端整えるつもりである様子に、俺もホッとする。頓着してくれて良かった。
「では、足りないものの買い出しに行くとしておきます。悟られないでくださいよ」
「分かった。全力で演技する」
サヤが戻るまでに打ち合わせを済ませ、俺たちは何食わぬ顔でサヤを迎えた。
五日に一度くらいの頻度で現場を訪れつつ、俺たちは日々の雑務と、交易路計画遂行の手続きなどに追われていたのだが……。
「……え……?」
「はい、一応」
長衣の釦をとめるのも忘れ、呆然と、サヤの返答に沈黙……。
朝の身支度の最中、ちょっと始めた雑談だった。
九の月の終わりに、ギルの誕生日が来るから、何かお祝いしなきゃなぁって話を……。で、そういえばサヤの誕生日は? と、さり気なく聞いてみたのだが、そうしたら「あ、過ぎましたね」という……びっくりな返事が。
「十七⁉︎ いつ⁉︎」
「えっと……二日ほど前に……?」
気付かぬうちに、サヤの誕生日が過ぎていた。
いや、知らなかったんだけど……ていうか、全然そういう話はしなかったから……ていうか!
「なんでもっと早く言わない⁉︎」
「私も忘れていました」
そんな返答に、膝が崩れた。
い、忙しくしてたよ、確かに。ここ最近特に、色々やることが増えたし。
だけど……だけどね⁉︎
「そんな……過ぎたなんて…………」
「あの……そんなに大変なことなんですか? この世界の、誕生日……」
悲嘆に暮れる俺の態度をどう解釈したのか、サヤが恐る恐るといった様子で問うてくる。
別に、大変なことは何もない。そうじゃなくて、サヤの誕生日を祝うのは、俺の使命みたいなものじゃないかってこと!
サヤはこの世界に迷い込んだ、たった一人の異界人だ。家族は遠い次元の向こうで、彼女を祝うことができない。だから俺たちが、ご家族の分も、彼女を祝うつもりでいたのだ。贈り物だって用意したかった。なのにだ!
なんでそんな、適当に流すんだ……。
「レイシール様、過ぎたものは仕方がありませんから、早く支度を済ませてください」
俺の脇に手をやって無理やり立たせたハインが、上着を強引に着せてくる。
お前俺の扱いが雑すぎるぞ⁉︎
「異母様のお見送りに遅れます。早くしてください」
ギロリと睨まれた。
確かにそれが最優先事項だ。渋々と従い、着替え終わると、サヤがせっせと髪を結う。
「レイシール様の誕生日は、いつですか?」
「……四の月のはじめ……」
「ハインさんは?」
「私は分かりませんから、祝詞日の中で祝って頂いてますね」
「……しゅくしび?」
こてんとサヤの首が傾く。
「祝詞日……分かりませんか?」
「祝日ですか?」
「……年の移り変わりの、どこにも属さない十日間ですが……」
「どこにも属さない?」
あれ?
しばらく沈黙の後、ハッと気付いたのはやはりハインだった。
「その話は後です。早く、お見送りに遅れます」
「そ、そうでしたっ!」
三人で慌てて館を出た。
いつも通り厩の前を通り過ぎ、庭の一角、いつもだいたい俺たちが陣取る場所が空いていて、そこに並ぶ。
「先ほどの話は、帰ってから確認しましょう」
ハインは最後にそう言い、表情を物騒なものに切り替えた。
……いや、異母様方にその顔は向けないでくれ……。
「見えないのですから構わないではないですか」
「構うよ⁉︎ お前雰囲気まで険悪になるんだから絶対それは駄目!」
小声でそんなやりとりをする俺たちの横で、サヤがクスクスと笑う。
彼女のおかげで、険悪な雰囲気は尾を引かずにすむ。ほんとサヤには助けられっぱなしだ。
とはいえ……。
ハインが警戒を強める理由は、よく分かっている。
別館に侵入し、何かしらを調べた相手は、十中八九異母様であるだろうし、多分サヤの性別は知られてしまったと思う。
なのに、何も言ってこない……仕掛けてこない…………それが、とても不気味だった。
けど、黙っているからには、何か思惑があるのだと思う……。あえて、それを追求しない理由が……。
それを考えると、心臓をぎゅっと掴まれたような不安が、身体を支配する。
とにかく、サヤは、極力一人にはしない……。ハインとは、そう話し合っていた。
一番考えられる可能性が、サヤの最も恐れることであるから、彼女を絶対に、不安にさせてはいけない。
彼女を早く、ここから離れさせたかった。
ギルにお願いしてメバックに置いてもらうことも一度、考えたのだけど……。
けれどそうすると、サヤはきっと、怒るだろうし、不安にさせてしまうから…………。
「いらっしゃいました」
ハインの声で、意向を無理やり、切り離す。
これを考えると、心が重くなる。だから極力、長く囚われないようにしなければいけない。
頭を下げて、馬車が目の前を通過するのを待った。
何も、起こらない……ガラガラという車輪の音と、馬の足音が、順調に通り過ぎていく。
それが、たまらなく不安を煽った。
不安ばかりが募る見送りを済ませ、別館に戻る。
すると、調理場から食欲を刺激する香りが漂ってきていて、そのまま三人で食堂に向かった。
「おかえり。早く朝食にしよう」
見送りのために朝食のおあずけをくらっていたディート殿が、待ちきれないとばかりに席で伸びていて、その光景につい笑ってしまう。
急ぎますね! と、サヤが言い、ハインとともに調理場へ向かい、中から微かに、食器などの音が聞こえてきだす。
そうすると今度は、マルを起こしてくれたらしいジェイドが、マルを引きずるようにしてやってきた。
「もうちょっと寝たいんですけど……」
「食ってから寝直せ」
大変優秀なジェイドに礼を言って、二人に「おはよう」と挨拶した。
さて、本日も一日が始まる。
◆
ここのところの朝の日課は、心臓に悪すぎていつも辛い。
見ていたくないのだけど、見ておかないとより不安を煽られてしまうため、見るしかない……。
朝食を終え、雑多なことを済ませると、そこから玄関広間で鍛錬の時間となるのだ。
袖無しの短衣に、膝丈の細袴。お情け程度の防具……籠手と臑当をつけたサヤと、もろ肌脱ぎで、細袴しか身に付けていないディート殿が殺り合う。いや、ほんと文字通り、殺る気満々にしか見えなくって悲鳴を嚙み殺すのに必死だ。
あまり俺が叫ぶと、二人の集中を邪魔してしまうし、逆に危険だとハインに窘められ、見るんなら黙ってろ、嫌なら引っ込んでろと、言われてしまったため、必死で我慢している。
因みに、ジェイドとマルは興味ないということで、それぞれの仕事に行ってしまっている。
大股で踏み込んだディート殿の鋭い突きを、サヤが風に流されるような最小限の動きで避けた。
これだけの猛者を相手にしても、サヤは最小限しか逃げない。それが恐ろしくて仕方がない要因の一つなのだけど、そのまま躊躇なくディート殿の懐に飛び込む。
顔と腹部に残像のようなものが一瞬だけ見えたから、サヤは突きを放ったのだろう。けれど、ディート殿もそれは分かっていた様子で、顔への打撃は少し顔を反らすだけでかわし、腹部への打撃は左肘でもって庇う。剣を握り伸ばしていた腕を、とっさに離して防御に使い、サヤの打撃に流されるように距離を空けると、そのまま彼の足がサヤの腹部に鋭い蹴りを放つ。
足刀蹴りとサヤが呼ぶものだ。ディート殿は剣を扱っていようと、体のいたるところを武器にする。卑怯な手を駆使するハインに近いものがあるのだが、彼の技は捕縛術という、罪人を捉えるために編み出された武術であるらしい。
体格の良い彼が躊躇なく蹴りだした足は、過たずサヤの腹部に吸い込まれるかに見えた。けれど、サヤはその足に手をつき、あろうことか反動で飛び上がる。足に着地するという、軽業師のような動きを見せたが、ディート殿は揺るがない。彼の体勢を崩すのには失敗した様子だ。
けれどサヤはもう次の動きに移っていた。
更に跳躍し、ディート殿の肩に足を踏み降ろす。それでも彼は揺るがない。その踏み降ろした足を掴みにきたので、サヤは更に体重をかけて跳躍。大きく距離を取ったが、着地と同時にまた剣が薙ぎ払われる。
またもやサヤの腰の辺りを狙ったその一撃は、より低くしゃがんだサヤにかわされるが、流れのままに弧を描き、今度は上段から振り下ろされた。
もう、無理だろ⁉︎
しゃがんで体勢を崩していたサヤには避けられないと、悲鳴を上げそうになったのだが、彼女はそのまま飛び込むように前転。刃のない内側に逃げ込んだ。
そして流れるように立ち上がりつつ、剣を握るディート殿の手首に裏拳を見舞い、軌道を逸らして立ち位置を確保。更に、腕をそのまま握り、自身の体を回すように捌いた。
「うおっ⁉︎」
ディート殿の驚愕の声と共に、彼の足が地を離れる。
「ひゃっ⁉︎」
けれど、ただで投げられてやる気はなかった様子だ。
転がりつつも、左腕を振り回して、サヤの足を払いつつ、サヤに掴まれていた方の腕も強引に振り解く。
「もらった!」
更に体当たりするみたいに、跳ね起きると同時にサヤに飛びかかる!
「あっ……!」
あそこまで体勢を崩しておいたのに、まさか飛び掛かってくるとは想定していなかったようで、サヤはそのままディート殿に組み敷かれた。
サヤに跨るように片膝をついたディート殿の左足は、サヤの右腕を踏みつけて抑え、右手は左腕を抑えている。そして、右手の剣で首を……。
「そ、そこまでにしてください⁉︎」
我慢できず、とうとう声を上げてしまった。
「よしっ!」
「……参りました……」
ディート殿が勝鬨をあげ、サヤは力を抜いてだらんと寝転がる。激しく動いたため、息を切らし、頬を紅潮させており、汗で髪が額に張り付いていた。
「……そういていると女にしか見えぬな」
軽口だと分かっていても、どきりとする。
サヤは補整着も身に付けているから、余計に暑い。鍛錬をしていると、当然汗を掻くし、化粧が落ちる。
当初それを指摘されたのだが、女顔を隠すために化粧をしていると言って、無理やり誤魔化した。
ディート殿は「レイ殿も学舎では散々間違われていたと聞いたぞ!」と、姫様方に聞いたという俺の過去を引き合いに出し、女顔の男に疑問を感じなかった様子で誤魔化された。……女顔が役に立って良かった……。
「もっとしっかり食え! こんな細腕では折れてしまうぞ!」
「私の民族は、こういった体型なんです」
苦笑するサヤに手を貸して、引き起こす。
サヤは礼を言って立ち上がり、有難うございましたと一礼。礼儀正しい……。
「そうは言っても、背丈が近いとはいえ、姫様と体型が変わらんのは細すぎるだろう。女の細腰に張り合ってどうする」
「……好きで細いんじゃ、ないんですけどね……」
「まあ、その分身体はしなやかだし、柔軟性もある。サヤは軽さと速さを信条にしておるようだし、それも一つの強さだとは思うが、一撃を食らえばそれで終わってしまう。今のようにな。
相手の動きを封じるまで、気は抜かないことだ」
「はい。気を付けます」
一撃……。
その言葉が重い……。
ディート殿の腕なら、サヤに刃が当たりそうになれば寸前で止めてくれるだろうが、それでも生きた心地がしない。
もっと身を守る防具を身に付けてほしいのだが、それは身体の動きを阻害すると言い、サヤは最低限しか身に付けようとしない。
けれど、剣を相手にする以上、剣を受けられないというのは、不利だ。
「あとはあれだな。やはり防具なりは、考えた方が良い。
一撃も受けられぬのは、やはり問題だぞ。今回は上手く避けたが、それもままならん時というのは、どうしてもある。奥の手としてでも良いから、刃を受け止められる手段を講じておく方が良い。其方に何かあれば、レイ殿がただでは済まんぞ」
あっちの方が死にそうな顔をしていた。と、指摘された……。見てる余裕があるんだな……。
「レイ殿は心配症のようだしな。主人を安心させてやるのも従者の勤めだぞ」
「うーん……動きを阻害しないものって、あるのでしょうか……。一応、色々試させてもらったんですけどね、何かしら支障が……」
「むぅ……フェルドナレンは素手での攻防というのは主流ではないからな。サヤに適した防具というのは見つけにくいかもしれん」
「と、なると……特注ですか」
二人のもとに、手拭いを持っていったハインが話に加わる。
礼を言って手拭いを受け取った二人が汗を拭いつつ、うーんと唸る……。
「そうだな。そうするしかなかろうな。我々の身に付ける鎧などでは、サヤは多分、動きづらい。関節の動きが阻害されるのは良くなかろう」
「サヤ、その籠手と臑当は邪魔にならないのですか?」
「そうですね。ギリギリなんとか。籠手は少し、手首の動きを阻害されるので、掌底が打ちづらいですが」
「手の甲の防御は捨てた方が良さそうですね……」
「更に薄くなるの却下!」
とっさにそう口を挟んだら、ディート殿とサヤには苦笑され、ハインには睨まれた。
「動きが阻害されてサヤに危険が増えるのと、どちらが良いですか」
「お前それ卑怯だぞ⁉︎」
「手首は捨てても、手の甲は守れば良いのではないか?」
ディート殿が助け舟を出してくれたので、それならと頷いた。
「従軍することはなかろうが、そういった状況も想定して武具を開発すべきだ。サヤの動きを阻害しない上で、最大限に守るものをな。
それと、常日頃から隠して身に付けておけるものがあると、更に良い。
折角無手で戦えるのだから、その利点は最大限活かすべきだろう。
これよりレイ殿は公の場に出ることも増えるだろうし、ハインを同行できぬ場合も考えられる。特に、戴冠式は無理だぞ。ヴァイデンフェラーの者にはバレるからな。下手な詮索はされたくなかろう?」
そう指摘され、ハインの眉間にシワが寄った。その状況は想定していなかった……。
「忍のジェイドもやめておく方が良かろうな。そうなると、サヤしか公の場には出られん。子供だからな、本来はあまり良くないが……レイ殿も成人しておらぬし、そこは目を瞑ってもらえるだろう。念のため、近衛の襟飾は身につけておいたほうが良いぞ。保証になる」
公の場にあまり出たことのない俺には分からないことだらけだな。ディート殿に感謝を伝え、考えることが増えたなと、内心憂鬱だった。
サヤを伴うのか……。彼女も女性であることを偽っている身であるから、不安だ……。
けれど、俺は武官も持っていないし、一人で参加するわけにもいかないだろうし……ギルに使用人を借りるわけにもいかない。人手不足が痛いな……。
「さて、一汗かいたことだし、湯屋に行ってこよう。しばらく護衛を離れるが良いか?」
放り出してあった長衣を手に取り、適当に身につけつつディート殿がそう言ったから、どうぞと促す。
「サヤも一緒にどうだ? 俺は傷など気にせぬぞ?」
「いえ……その……」
「まあ、無理強いはせぬがな。あまり気にしないことだ。ではまた後でな」
戸惑いを見せたサヤにあっさりと譲って、ディート殿は外に向かい、それを見送ってからハインが口を開いた。
「サヤ、風呂は沸かしてありますからどうぞ」
「有難うございます。いただきます」
ディート殿が戻るまでに身支度を済ませなければならないからな。
サヤが鍋風呂を使っている間に、俺は投擲練習に使った小刀を回収し、着替えのため部屋に戻った。俺たちは風呂に入るほどには汗を掻いていないしな。冷や汗はすごく掻いた気がするけど。
「で、サヤの祝いをしたいという話ですが」
ハインはそこまで計算してサヤを誘導したらしい。相変わらず、優秀なのだけど……サヤには若干、お前も甘いよな。
「うん。祝ってやりたい……。何か贈りたいけど、どうする?」
「サヤは物欲が無いですからね……装飾品などは必要としなさそうですが……」
「けど、簡素で美しいものは好きみたいだぞ?ゴテゴテは趣味じゃないみたいだけど」
唯一の例外は蝶の髪飾りだが、あれだってそんなに派手なものではない。
サヤが欲しがりそうなもの……うーん……。
「明日は拠点村の視察でしたね。でしたら、馬車はディート様に任せて良いですか? 私は少し、メバックに行ってきます。
ギルにも言っておかなければ、どうせ後で揉めますよ」
あ、自分だけ抜け駆けずるい!
「俺はいつ買いに行けば良いんだよ⁉︎」
「じゃあ明日までに決めてください。近いものを探してきますから」
どうせ一人で買い物には行けないでしょう?と、指摘されてしまった。う……それは、そうだけど……。
「明日急には無理ですし、三日後くらいにしますか。
食事処に連絡をやります。あちらを昼に貸し切って、祝うというのはどうですか? 別館で準備をしたのではすぐに見つかってしまうでしょうし」
やる気のある時のハインは本当に優秀だ!
サヤに悟られないように万端整えるつもりである様子に、俺もホッとする。頓着してくれて良かった。
「では、足りないものの買い出しに行くとしておきます。悟られないでくださいよ」
「分かった。全力で演技する」
サヤが戻るまでに打ち合わせを済ませ、俺たちは何食わぬ顔でサヤを迎えた。
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