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自覚 12
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ギルの叫びも虚しく、サヤの袴は腰帯ごと、スルリと簡単に落ち、足元に纏まった。
そして麗しいまま、何故が膝丈の細袴を履いた状態のサヤが立っていた…………。
「ほらっ! 凄いでしょ叔父様! 袴を脱ぐだけで戦えるサヤさんに大変身なの!」
……………………何をやっているんだ?
「……ルーシー……お前、こっち来やがれ」
「えっ⁉︎ なんで怒ってるの?」
「怒るよな⁉︎ 当然だろ⁉︎ お前何遊んでやがんだゴルァ‼︎」
「遊んでないわよ! サヤさんの要望に全力で応えたのよ私⁉︎」
ギルがルーシーを追いかけ回し出したところで、俺の限界がきた。立ってられなくて、床に座り込む。
慌てたサヤが袴をそのままに駆けてきて「大丈夫ですか⁉︎」と、俺の肩に手を掛けたが、俺はそのサヤの顔を、見れなかった。
視界に、サヤの出で立ちが当然入ってくる。白い、膝丈の細袴を履いていた。群青色の短衣は、裾を出したままにしてあり、上からベルトで縛ってある。
成る程……腰帯と違って、ゴワつかないベルトだから、袴の下に履いていられたわけだ。
そんな風にどこか他人事に考える思考。
しかし俺は、顔を両手で覆って隠した。
「サヤ……お願いだから、急いで化粧、落として」
「え?……あ、はい……」
どこかシュンとした、サヤの声音。だけど取り繕う余裕なんて無い。
麗しすぎて、見れない。美しかった。もの凄く。もう、どうしようもないくらいに。
こんな美姫、見れない。横に居たらやばい、ルーシーの言葉通りになってしまいそうだ!
「サヤは化粧映えするお顔だったのですね。驚くほどに別人です」
ハインのそんな声が、俺の横からした。狼狽えている様子もない。
「とてもよくお似合いですよ。
ですからそんな風に、落ち込まなくても良いのですが……。
どうやら他の二人には刺激が強すぎる様子ですので、化粧はもう少し落ち着いたものにする方が良さそうですね」
サヤをそんな風に諭す。
どうやら落ち込んでいたらしいサヤは、その言葉で持ち直したのか、化粧を直してきますと、壁際に立って微笑ましく状況を見守っていた女中のもとに向かっていった様子だ。
「……お前、なんで平気なんだ……」
……なんでハインだけ、あのサヤを前に平常通りなんだ……。お前の美的感覚って、俺たちと何か、違うのか?
「さあ? 麗しいと、私も思いましたよ」
指の隙間から見たハインは、全く動揺した様子もなく、やっぱり平常通りだった。解せない……。
◆
サヤの礼服脱衣事件。
あれは遊んでいたわけではなく、いついかなる時も俺を守るために戦える服装でありたいと望んだサヤの要望に応え、あのような状態に至ったらしい。
「サヤさん腰回りが少し細身になったじゃない? それで短衣の腰回りを少し調節しようと思ってたのだけど、それなら中にもう一枚くらい着込めるのじゃないかって話になって……。
ベルトなら腰帯の下でも邪魔にならないからって。
それで、帯や帯締めの括り方とか工夫して、帯を外すだけで全部するりと脱げるように研究して……」
私、頑張ったのに!
と、頬を膨らませたルーシーが恨めしげにギルを見上げる。
只今夕食も終え、お説教のため、応接室の長椅子だ。ルーシーとサヤを並べて座らせて、俺とギルで怒っていた。
サヤはしゅんとしているが、ルーシーは全く反省の色を見せない。むしろ頑張ったんだという主張。
女中たちとああでもない、こうでもないと奮闘した結果、目的も達成でき、俺たちの度肝を抜いたというわけだ。
「あのな……衆人環視の中でサヤに袴を脱がせるな……。いくら下に履いていようともだ!
良くねぇ発想する奴は山といやがるんだぞ⁉︎」
俺も必死で首肯した。
あれは本当に、駄目だ。ただでさえ麗しい姿で絶対に注目を集めてる、なのに、袴を人前で脱ぐだなんて! そもそも脱ぐだなんて‼︎ それが大問題だって気付いて⁉︎
「まあ、念の為細袴は着用しておき、何かあれば物陰で脱げば問題無いということです」
「混ぜっ返すなハイン⁉︎ 俺の話ちゃんと聞いてたのかお前の耳は⁉︎」
「聞いてましたが? それに見えないのですから、細袴を履いておくこと自体は問題にもならないでしょう。
むしろその方が、サヤの情緒が安定するんじゃないですか? 脱がされても見えない安心感で」
ハインがなんか凄いこと言ってるよ⁉︎
脱がされないの大前提にしてくれないかな⁉︎
あああぁぁもう、こんな話したくないのに、説教するにしたってあの姿が脳裏にがっつり焼き付いてるんだよ! 思い出すんだよ‼︎ いつまで経っても全然記憶が薄れてこないじゃないか⁉︎
「良かったじゃないですか。予行演習があって。
本番で何も知らされず、あのサヤと、袴を脱ぐことを強行されていたらこっちの方が問題です。
とりあえず、あのとても麗しいサヤは、今回控えて頂きましょう。
自陣も崩壊しかねないみたいですから。
そして細袴は採用で。いざ袴をめくられても細袴で守られています。サヤの安全がより確実になったというだけです。何の問題も無いと思いますが?」
「もういい、もう分かった……細袴くらい好きに履いとけ……。
だけど絶対に! 人前で脱ぐな⁉︎」
「隠れて脱ぐ分にはお許しが出ましたよ。良かったですね」
結局いつもの如く、言葉の揚げ足を取り、ギルを翻弄して勝ちを捥ぎ取るハイン。
脱力して絶望するしかない俺とギル。
採用となってキャッキャと喜ぶルーシー。
サヤは喜んで良いのかな? と、困っている様子だ。
「見えない部分くらい犠牲にすれば良いのですよ。サヤの従者服でもう経験しているというのに、往生際が悪いですね」
「あれは止むに止まれぬ事情があってだろうがあああぁぁ!」
「似たようなものでしょう。今回も」
ざっくりハインにはあれもこれも似たようなものらしい。
本当に頓着しないにも程がある。だけどもうこのやり取りを続けているのも辛くて流してしまうことにした。
うん、袴の下に何履いてたって、別に困らない……うん。困らない、困らない。
そんな感じで、サヤの女装には秘密が増えた。
そして麗しいまま、何故が膝丈の細袴を履いた状態のサヤが立っていた…………。
「ほらっ! 凄いでしょ叔父様! 袴を脱ぐだけで戦えるサヤさんに大変身なの!」
……………………何をやっているんだ?
「……ルーシー……お前、こっち来やがれ」
「えっ⁉︎ なんで怒ってるの?」
「怒るよな⁉︎ 当然だろ⁉︎ お前何遊んでやがんだゴルァ‼︎」
「遊んでないわよ! サヤさんの要望に全力で応えたのよ私⁉︎」
ギルがルーシーを追いかけ回し出したところで、俺の限界がきた。立ってられなくて、床に座り込む。
慌てたサヤが袴をそのままに駆けてきて「大丈夫ですか⁉︎」と、俺の肩に手を掛けたが、俺はそのサヤの顔を、見れなかった。
視界に、サヤの出で立ちが当然入ってくる。白い、膝丈の細袴を履いていた。群青色の短衣は、裾を出したままにしてあり、上からベルトで縛ってある。
成る程……腰帯と違って、ゴワつかないベルトだから、袴の下に履いていられたわけだ。
そんな風にどこか他人事に考える思考。
しかし俺は、顔を両手で覆って隠した。
「サヤ……お願いだから、急いで化粧、落として」
「え?……あ、はい……」
どこかシュンとした、サヤの声音。だけど取り繕う余裕なんて無い。
麗しすぎて、見れない。美しかった。もの凄く。もう、どうしようもないくらいに。
こんな美姫、見れない。横に居たらやばい、ルーシーの言葉通りになってしまいそうだ!
「サヤは化粧映えするお顔だったのですね。驚くほどに別人です」
ハインのそんな声が、俺の横からした。狼狽えている様子もない。
「とてもよくお似合いですよ。
ですからそんな風に、落ち込まなくても良いのですが……。
どうやら他の二人には刺激が強すぎる様子ですので、化粧はもう少し落ち着いたものにする方が良さそうですね」
サヤをそんな風に諭す。
どうやら落ち込んでいたらしいサヤは、その言葉で持ち直したのか、化粧を直してきますと、壁際に立って微笑ましく状況を見守っていた女中のもとに向かっていった様子だ。
「……お前、なんで平気なんだ……」
……なんでハインだけ、あのサヤを前に平常通りなんだ……。お前の美的感覚って、俺たちと何か、違うのか?
「さあ? 麗しいと、私も思いましたよ」
指の隙間から見たハインは、全く動揺した様子もなく、やっぱり平常通りだった。解せない……。
◆
サヤの礼服脱衣事件。
あれは遊んでいたわけではなく、いついかなる時も俺を守るために戦える服装でありたいと望んだサヤの要望に応え、あのような状態に至ったらしい。
「サヤさん腰回りが少し細身になったじゃない? それで短衣の腰回りを少し調節しようと思ってたのだけど、それなら中にもう一枚くらい着込めるのじゃないかって話になって……。
ベルトなら腰帯の下でも邪魔にならないからって。
それで、帯や帯締めの括り方とか工夫して、帯を外すだけで全部するりと脱げるように研究して……」
私、頑張ったのに!
と、頬を膨らませたルーシーが恨めしげにギルを見上げる。
只今夕食も終え、お説教のため、応接室の長椅子だ。ルーシーとサヤを並べて座らせて、俺とギルで怒っていた。
サヤはしゅんとしているが、ルーシーは全く反省の色を見せない。むしろ頑張ったんだという主張。
女中たちとああでもない、こうでもないと奮闘した結果、目的も達成でき、俺たちの度肝を抜いたというわけだ。
「あのな……衆人環視の中でサヤに袴を脱がせるな……。いくら下に履いていようともだ!
良くねぇ発想する奴は山といやがるんだぞ⁉︎」
俺も必死で首肯した。
あれは本当に、駄目だ。ただでさえ麗しい姿で絶対に注目を集めてる、なのに、袴を人前で脱ぐだなんて! そもそも脱ぐだなんて‼︎ それが大問題だって気付いて⁉︎
「まあ、念の為細袴は着用しておき、何かあれば物陰で脱げば問題無いということです」
「混ぜっ返すなハイン⁉︎ 俺の話ちゃんと聞いてたのかお前の耳は⁉︎」
「聞いてましたが? それに見えないのですから、細袴を履いておくこと自体は問題にもならないでしょう。
むしろその方が、サヤの情緒が安定するんじゃないですか? 脱がされても見えない安心感で」
ハインがなんか凄いこと言ってるよ⁉︎
脱がされないの大前提にしてくれないかな⁉︎
あああぁぁもう、こんな話したくないのに、説教するにしたってあの姿が脳裏にがっつり焼き付いてるんだよ! 思い出すんだよ‼︎ いつまで経っても全然記憶が薄れてこないじゃないか⁉︎
「良かったじゃないですか。予行演習があって。
本番で何も知らされず、あのサヤと、袴を脱ぐことを強行されていたらこっちの方が問題です。
とりあえず、あのとても麗しいサヤは、今回控えて頂きましょう。
自陣も崩壊しかねないみたいですから。
そして細袴は採用で。いざ袴をめくられても細袴で守られています。サヤの安全がより確実になったというだけです。何の問題も無いと思いますが?」
「もういい、もう分かった……細袴くらい好きに履いとけ……。
だけど絶対に! 人前で脱ぐな⁉︎」
「隠れて脱ぐ分にはお許しが出ましたよ。良かったですね」
結局いつもの如く、言葉の揚げ足を取り、ギルを翻弄して勝ちを捥ぎ取るハイン。
脱力して絶望するしかない俺とギル。
採用となってキャッキャと喜ぶルーシー。
サヤは喜んで良いのかな? と、困っている様子だ。
「見えない部分くらい犠牲にすれば良いのですよ。サヤの従者服でもう経験しているというのに、往生際が悪いですね」
「あれは止むに止まれぬ事情があってだろうがあああぁぁ!」
「似たようなものでしょう。今回も」
ざっくりハインにはあれもこれも似たようなものらしい。
本当に頓着しないにも程がある。だけどもうこのやり取りを続けているのも辛くて流してしまうことにした。
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