異界娘に恋をしたら運命が変わった男の話〜不幸の吹き溜り、薄幸の美姫と言われていた俺が、英雄と呼ばれ、幸運の女神と結ばれて幸せを掴むまで〜

春紫苑

文字の大きさ
277 / 1,121

自覚 4

しおりを挟む
 いや!   そういう問題じゃない⁉︎

 朝、目が覚めた瞬間、俺は飛び起き、頭を抱えて再度、枕に顔を埋めた。
 夢、久しぶりに見なかった……ていうかそれよりももっと酷い問題が!   昨日のあれは何⁉︎

 昨日は混乱の極みの中、帰った途端ハインに説教され、各自部屋に押し込められ、もう寝ろと強要されたのと、考えるのとか無理なくらいに色々が限界で、寝台に倒れこむとすぐ、意識が飛んだ。
 夢も見ずに眠りを貪って、覚醒した瞬間、あの混乱がまだ最中だと自覚したのだ。

 夢か?   あれは何かの妄想⁉︎    だっておかしいだろ、何がどうなったらそんな風に話が転がる⁉︎
 変だよな⁉︎
 あんなこと、サヤが言うとは思えない!
 あんな、決意を固めた時みたいな、騎士みたいな凛とした……あれ?

「……うん……変だ……」

 違和感を自覚したら、混乱はどこかに消失した。
 ……そうだ、あの時のサヤは、なにか決意したみたいな表情だった。
 いつも、何かを覚悟をした時の彼女は、あんな顔をする。今まで何度も見てきたのだ。
 いったい何の覚悟を?
 思い出せ、どこから変だった……途中までは、違った筈なんだ。部屋を飛び出し、夜の闇に逃げ込んだ時の彼女はまだそんな風じゃなかった……。

 暗がりで、表情をきちんと確認できなかったことが悔やまれた。
 ちゃんと見えていれば、彼女の変化に気付けた筈だ。
 ただ言われた言葉に浮かれていただなんて、馬鹿だ俺は……。

 まずはサヤの様子を確認して、探りを入れてみなければ。そんなことを思いながら寝台を出て、身支度を始めた。いてもたってもいられなかったのだ。
 久しぶりの休日一日目。まさかこんな暗澹とした気持ちで始まるとは思わなかった……。

「おはようございま……どうしました、早いですね」

 身支度を整え終わる頃にハインが来た。俺があらかたの準備を済ませているのを見て、やや目を見張る。
 こいつには、悟らせてはいけない。        

「外が明るいからかな、スッキリと目が覚めた」

 にこやかに表情を作りそう伝える。
 ハインも「ああ、それは確かに」などと相槌を打ちつつ、残り少ない朝の準備を素早く済ませていく。

 それも終わり、ハインが朝食の準備に戻ろうとする頃、サヤがおはようございます。と、やって来た。

「……あれ?   尻尾は?」
「尻尾?」

 首を傾げるサヤ。
    髪が、シャランと音を立てそうな感じに、肩から滑り落ちる。
 いつも馬の尻尾みたいにまとめているのに……今日のサヤは髪を括っていなかった。

「休暇なのですよね?   なので」

 そう返事があり、ああ、あれは仕事用の髪型なのか。と、納得した。
 ただ服装は、いつも通りの従者服。補正着だって身につけている様子だ。

「レイシール様の御髪はどうされますか?   いつもと違う感じに致しましょうか?」
「ん……そうだな。じゃあお願い。ただ、ひとまとめにはしといてほしいかな」
「畏まりました」

 ハインが去り、サヤと二人きりになる。
 いつも通り長椅子に座り、サヤが髪を梳いてくれて、それを編みはじめる。
 ……違和感は、髪型以外には無い。いつも通りのサヤだ。
 昨日のあれは、夢を見ただけなのかもしれないと、思えてしまう。

「終わりました」

 そう言われ、現実に引き戻された。
 手鏡を渡されたので確認すると、後頭部が複雑だ。いつもの麦の穂みたいな編み方も、なにやら細かく、手の込んだ感じになっている。

「雨季も明けましたし、そろそろ暑くなってくるでしょうから、首元を涼しくと思いまして」
「ああ……それで。確かに首元が、スッキリした感じだ」

 いつも首の後ろくらいから始まる編み込みが、もう少し上から始まっている。そのおかげで、首元がスッキリと空くみたいだ。風が通る。
 そんな風に思っていたら、今日はどのように過ごしますか?   と、聞かれた。

「サヤはどうするの?」
「午前中は日常業務ですね。あと家具の配送手配。昼以降は空く感じなんです。
 それでその……良ければまた、乗馬を……教えていただけたらと」

 急に顔を俯けて、ゴニョゴニョとそんなことを言う。
 乗馬……ああ、兇手に襲われてからやっていなかったな。
 だけどサヤはもう、充分馬に乗れるまで上達していると思う。

「じゃあハインに確認してみようか。
 マルはメバックに戻るって言ってたし、残りの三人で遠出でもしてみる?」

 兇手の問題もあるし、ハインのことだから多分、簡単に俺たち二人では行かせてくれないだろう。
 そう思って言った言葉だったのだが、何故か……サヤがシュンとしてしまう。

「……どうした?」
「あ、いえ……」

 視線を逸らして少し言い淀む。暫く逡巡していたのだが……。

「レイと……二人で過ごしたい思うて……言うたから」

 言葉に頭を殴られた。
 や、やばい……。何か、思惑があって言われた、昨日のアレなはずで、それが分かっているというのに、攻撃力がハンパない。
 どうした、何があったと、ここで問い詰めるべきか……いやでも、万が一ハインに見られると、大問題になりかねない。

「あ……す、すまない……。
 ただ、二人は無理だと思う。雨季の間は人も多かったし、兇手は襲ってこなかったけど、明けたらまた狙いやすくなる。暫くは三人で、様子見をするのじゃないかな」

 そう言うと、コクリとサヤは頷いた。そして……、

「……さ、サヤ⁉︎」

 距離を詰めて、俺にひっつく様に座り直してきた⁉︎
 慌てる俺に、サヤは上気した顔で、責める様に見上げてきて。

「そないに驚かれると、私も困る……。昨日、今までと同じでええって言うたけど……全く同じやったら、意味があらへんかなって。
 私の知っとる恋人は……こういう感じや」

 と、そんな風に言うのだ。
 恋人という言葉に再度殴られた心地だ……夢じゃなかった。
 だけど彼女は、こういったことは苦痛であるはずなのだ。

「サヤ……無理しなくて良いんだよ。嫌だって思うことを強要する気は無いんだ」

 サヤが身を寄せた分を、俺が下がって間を開ける。するとサヤが、何やらムッと少し怒った顔になる。

「嫌や思うてたらせえへん。触って確認したらええ。はい」

 そう言って右手を差し出してきた。
 逃げ道を絶たれた心地で、その手を見下ろす……。昨日俺が、口づけした手だと思うと、余計触れるのが躊躇われる。
 見た限り、震えている様子も、血の気が引いている様子もない……。

「いや、見れば、分かるよ……」

 ついそう言って、逃げてしまった。
 するとサヤが、更に怒った風になる。

「おかしいやろ?   昨日までは気にせず触れてた。なんで今は、しいひんの。
 今までより、遠くなってどないするつもり?」
「おかしい?   違うよ、今までがおかしかったんだ。サヤの国では、あまり触れ合わないんだよな?」
「ここはフェルドナレンのセイバーンやろ?   ここのやり方でかまへんのやないの?」

 ムムムと、二人で睨み合い、間合いの牽制をしていると、コンコンと扉が叩かれ、二人して飛び上がった。

「支度はお済みですか?朝食の準備が整いましたが」
「い、今行く!」

 慌てて長椅子から立ち上がり、部屋を出る。
 なんだか、色々ややこしいことになりそうな予感に、俺は内心、溜息を吐いていた。





マルは朝一番でメバックに出立したらしい。
土嚢壁の方も一区切りとなった為、一部の土建組合員がメバックに戻るのに便乗したそうだ。
なので朝食は、久しぶりに三人でとなった。

「お二人は、今日早急に成さねばならない予定がございますか」

その最中、ハインがそんなことを言う。
特別予定の無い俺は首を振りかけ、サヤに乗馬を再開したいと言われたことを思い出し、それを伝える。
サヤはというと、なにやら下を向いて頬を膨らませている……。
な、なんでそんな反応になるんだ……?   ほんと、どうしてしまったんだサヤは。
また何か喧嘩かよ……みたいな目のハインが見てくるし……正直空気が苦痛だ……。

「まあそれならば、サヤの乗馬の復習にもなるでしょうし、遠出をしませんか。
サヤも、それで良いですね?」

決定事項みたいな口ぶりで言われる。
聞いてるけど否は求めてない感じに、まあ、良いけどと俺は返事を返し、サヤもこくんと頷いた。

「でも、どこに行くんだ?」
「西です」
「……うん、西のどこ」
「まだ何もないところです」

うーん?
よくわからない返答だが、それ以上の説明は無いらしい。
さっさと食事を済ませたハインが、サヤに日常業務を手伝うから、弁当を頼みます。などと言っている。
あ、そうそう。食事処だが、本日より試験的な通常営業を開始する。
昼の3時間のみの営業だ。
昨日一日、試しに食券を販売してみたら、思いの外売れたらしい。用意していたものが早々に完売となり、買えない者も出たのだとか。
食券の数は、その日の仕入れの内容によって変わるようだが、今日は確か百食の予定であるらしい。
宣伝も何もしていなかったのに、昨日の食券販売は二時間もかからず完売となったそうで、明日の分の食券は、今日の午前中に売り出すとのことだ。
俺たちが休暇の十日間は、百食、三時間の営業を行い、客の入りを見て、その後の予定を決めることとなっている。
まあそんなわけで、賄いをお願いする期間も終了となった。
だから今朝の朝食も、久しぶりにハインの手作りだったのだ。

「畏まりました。食材は……」
「食事処にある程度分けて頂いてますから、サンドイッチでもお願いします」

機嫌を直したサヤが、サンドイッチの具材についてハインと楽しげに会話を始める。
その様子をひっそりと観察して、違和感を探そうと思ったのだが、それを見つけるには至らず、朝食の時間は終了となった。

まあ、休暇といっても、全部を無しになんて出来ないわけで、俺も日常の業務を午前のうちに終わらせようと執務室に篭る。
とはいえ、一通りのことが終わった後なので、今はすべきことも少ない。
小一時間ほどで、やることは終わってしまい、執務室を出た。
さて……時間も頃合いになったな……ハインを探すか。

「ハイン、そろそろ行こうか」

洗濯物を干していたところを発見し、そう声を掛けた。
すると干していた敷布の間から、ひょこりとサヤも顔をのぞかせる。
しまった……居たのか。
奥で洗濯物を洗っていた様子だ。敷布の陰で見えていなかった。

「えっと、どちらへ?」
「……サヤは……」
「サヤはこのまま続きをお願いします。終わったら、弁当作りを始めていて下さい」

俺が何かいう前に、ハインがサヤに仕事を割り振る。
そしてまだ大量に中身のある洗濯籠を託し、こちらにやって来た。さっさと行くぞ。と、目が言っている。

「あっ、い、いってらっしゃいませ」

一瞬狼狽えたサヤだが、ハインには逆らわないらしい。ホッとしつつ、俺はハインと共に、踵を返した。
一度執務室に戻り、資料をひとまとめ持ち出す。
それをハインに託し、俺たちは本館に足を向けた。
そう……異母様への報告だ。
しおりを挟む
感想 192

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...