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仮面 11
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「レイ様から離れようとしている様子は、僕も見かけてましたから分かります。
けど、あの娘の性格上、自分の利益の為にというのではなく、レイ様の為……なんでしょうねぇ。
きっと、自分がレイ様にとって重荷なのだと感じたんでしょう」
言われた言葉に血の気が引く。
そんな、重荷だなんて、そんなことあるわけないのに‼︎
咄嗟に、誤解を解かなきゃと思った。だから急いで、サヤの元に行こうと思ったのだが、
「最後まで聞かないと失敗しますよ?」
そう言われて、足が止まる。
「今、サヤくんのところに行って、誤解だって一生懸命説明したところで、サヤくんには響かないと思いますよ。
もうあの娘の中で、結論が出ているんです。貴方の元を離れるべきと。
彼女のことですから、決めてしまったら、レイ様が何を言ったって変わりませんって」
「だからって、何も言わずにいられる筈がないだろ⁉︎」
「落ち着いて下さい。今はまだ、大丈夫ですよ。
サヤくんがここを離れるのは、彼女が何らかの形で、納得できた時でしょうから」
そう言って、何か、苦いものを含んでしまった様に、表情を苦笑に近いものにしたマルは、小さな声で「僕も、やり直せたら良いのにねぇ……」と、言った。
「覚悟を決めておくことです。
本当に、手放したくないと思うなら、もう手放さないのだと覚悟しなきゃ、彼女はずっと宙ぶらりんのままです。
帰すまでなんて言わず、ここに繫ぎ止めるくらいの覚悟を、ですよ。
サヤくんは多分、傷付いたんですよ。ここに居ちゃいけないと、思ってしまったんです。
貴方と同じに」
「……どういう意味?」
「言葉通りですよ。
自分とレイ様は、生きる世界が違う。
ここは自分の、居ていい場所じゃない。
自分を隠す為に、レイ様が沢山無理をする。
帰らなければ、レイ様は責任をずっと、背負ったままだ。そんな風に思ったんですよ」
言葉が出て来なかった。
それは確かに、俺が毎日の様に考えていたことだったけれど、それをサヤが思っていたのだと思うと、まるで違う痛みを伴った。
まるで、存在を否定されているかの様な痛みだ。
俺が毎夜、夢に感じていることと、一緒。
だけどサヤは違う。サヤはかけがえのない存在だ。ここに、繋ぎ止めておきたくて、仕方がないのに! そんなことを考えてしまえば、サヤを不幸にすると思えばこそ、俺は……!
「まあ、人の思惑なんて、見えやしませんからね。
僕が本当は何を考え、何を求めているのか、レイ様には分からない。当然です、僕は口にしてないですからねぇ。
レイ様がどれだけサヤくんのことを考えて、そうしていたとしても、言葉にしなきゃ、態度にしなきゃ、伝わらないんです。
まあ、サヤくんだって一緒ですけどねぇ。
あの娘が本当は何を望んでいるのか、どうしたいのか、レイ様にも分からないんでしょう?」
分からない……。
サヤは、どうしたいのかを、口にしたことが、ない。
帰りたいと駄々をこねたことがない。
俺の前で、家族や、カナくんのことを、語ったことすら、殆どない。
唯一知っているのは、ここの世界も好きで、帰りたいと言ってしまえば、帰らなきゃならなくなる気がして、口に出来ないと言った、あの、時だけ。
この世界も好きだと、帰ることと、ここに居ることを、天秤にかけてくれた、あの時だけだ。
あれはもしかして…………気持ちを、押し隠して、口にした言葉だったのか?
ここに居たい。そう言えば、俺の負担になると思って?
「王家のことを探っていた……ね。
サヤくんには、ある程度情報を絞っていたつもりだったのに、侮れませんねぇ。
とにかく、サヤくんがどう行動するかは、僕にも分かり兼ねます。彼女、あまり私欲で動かないから、行動読みにくいんですよねぇ。
まあ、サヤくんが動いた時に、どうとでもできる様に、心構えをしておくしかありません。気付けばサヤくんが消えた後だった……なんてことの無い様に」
「どうせ、レイ様の為にと思って、動くんでしょうけど」と、マルが付け足すから、俺はまた、口を噤むしかなかった。
サヤは、いつも俺の為にって動く……。
姫様のことを調べるのも、俺の為なのか? なんでそんな風に思ったんだ?
俺になくて、サヤにある知識があるとしたら、それは耳で拾ったこと……? サヤは、何かを聞いたのだろうか……。
「僕も、意識しておきますよ。
僕の思惑にとってもサヤくんは不確定要素なんで。
教えてくれてありがとうございます。じゃあ、また何かあったらお互い、報告し合いましょうね」
にっこりと笑ってマルが言い、この話の終わりを告げた。
礼を言って部屋を後にする。
扉が閉まる直前に、マルが俺をじっと見続けていることに気付き、ちらりと視線をやった。基本的に陽気で、どこか飄々として見えるマル。
俺より十も年上なのに、それを感じさせなかったりするのだけれど、一瞬見たマルは、歳相応だった。いつもそうしていればしっかりして見えるのになぁ。そんな風に思って視線を外したから、そのあとマルの口が、何を紡いだかは見ていない。
「サヤくん、僕の思惑、知っちゃってるんですかねぇ?」
けど、あの娘の性格上、自分の利益の為にというのではなく、レイ様の為……なんでしょうねぇ。
きっと、自分がレイ様にとって重荷なのだと感じたんでしょう」
言われた言葉に血の気が引く。
そんな、重荷だなんて、そんなことあるわけないのに‼︎
咄嗟に、誤解を解かなきゃと思った。だから急いで、サヤの元に行こうと思ったのだが、
「最後まで聞かないと失敗しますよ?」
そう言われて、足が止まる。
「今、サヤくんのところに行って、誤解だって一生懸命説明したところで、サヤくんには響かないと思いますよ。
もうあの娘の中で、結論が出ているんです。貴方の元を離れるべきと。
彼女のことですから、決めてしまったら、レイ様が何を言ったって変わりませんって」
「だからって、何も言わずにいられる筈がないだろ⁉︎」
「落ち着いて下さい。今はまだ、大丈夫ですよ。
サヤくんがここを離れるのは、彼女が何らかの形で、納得できた時でしょうから」
そう言って、何か、苦いものを含んでしまった様に、表情を苦笑に近いものにしたマルは、小さな声で「僕も、やり直せたら良いのにねぇ……」と、言った。
「覚悟を決めておくことです。
本当に、手放したくないと思うなら、もう手放さないのだと覚悟しなきゃ、彼女はずっと宙ぶらりんのままです。
帰すまでなんて言わず、ここに繫ぎ止めるくらいの覚悟を、ですよ。
サヤくんは多分、傷付いたんですよ。ここに居ちゃいけないと、思ってしまったんです。
貴方と同じに」
「……どういう意味?」
「言葉通りですよ。
自分とレイ様は、生きる世界が違う。
ここは自分の、居ていい場所じゃない。
自分を隠す為に、レイ様が沢山無理をする。
帰らなければ、レイ様は責任をずっと、背負ったままだ。そんな風に思ったんですよ」
言葉が出て来なかった。
それは確かに、俺が毎日の様に考えていたことだったけれど、それをサヤが思っていたのだと思うと、まるで違う痛みを伴った。
まるで、存在を否定されているかの様な痛みだ。
俺が毎夜、夢に感じていることと、一緒。
だけどサヤは違う。サヤはかけがえのない存在だ。ここに、繋ぎ止めておきたくて、仕方がないのに! そんなことを考えてしまえば、サヤを不幸にすると思えばこそ、俺は……!
「まあ、人の思惑なんて、見えやしませんからね。
僕が本当は何を考え、何を求めているのか、レイ様には分からない。当然です、僕は口にしてないですからねぇ。
レイ様がどれだけサヤくんのことを考えて、そうしていたとしても、言葉にしなきゃ、態度にしなきゃ、伝わらないんです。
まあ、サヤくんだって一緒ですけどねぇ。
あの娘が本当は何を望んでいるのか、どうしたいのか、レイ様にも分からないんでしょう?」
分からない……。
サヤは、どうしたいのかを、口にしたことが、ない。
帰りたいと駄々をこねたことがない。
俺の前で、家族や、カナくんのことを、語ったことすら、殆どない。
唯一知っているのは、ここの世界も好きで、帰りたいと言ってしまえば、帰らなきゃならなくなる気がして、口に出来ないと言った、あの、時だけ。
この世界も好きだと、帰ることと、ここに居ることを、天秤にかけてくれた、あの時だけだ。
あれはもしかして…………気持ちを、押し隠して、口にした言葉だったのか?
ここに居たい。そう言えば、俺の負担になると思って?
「王家のことを探っていた……ね。
サヤくんには、ある程度情報を絞っていたつもりだったのに、侮れませんねぇ。
とにかく、サヤくんがどう行動するかは、僕にも分かり兼ねます。彼女、あまり私欲で動かないから、行動読みにくいんですよねぇ。
まあ、サヤくんが動いた時に、どうとでもできる様に、心構えをしておくしかありません。気付けばサヤくんが消えた後だった……なんてことの無い様に」
「どうせ、レイ様の為にと思って、動くんでしょうけど」と、マルが付け足すから、俺はまた、口を噤むしかなかった。
サヤは、いつも俺の為にって動く……。
姫様のことを調べるのも、俺の為なのか? なんでそんな風に思ったんだ?
俺になくて、サヤにある知識があるとしたら、それは耳で拾ったこと……? サヤは、何かを聞いたのだろうか……。
「僕も、意識しておきますよ。
僕の思惑にとってもサヤくんは不確定要素なんで。
教えてくれてありがとうございます。じゃあ、また何かあったらお互い、報告し合いましょうね」
にっこりと笑ってマルが言い、この話の終わりを告げた。
礼を言って部屋を後にする。
扉が閉まる直前に、マルが俺をじっと見続けていることに気付き、ちらりと視線をやった。基本的に陽気で、どこか飄々として見えるマル。
俺より十も年上なのに、それを感じさせなかったりするのだけれど、一瞬見たマルは、歳相応だった。いつもそうしていればしっかりして見えるのになぁ。そんな風に思って視線を外したから、そのあとマルの口が、何を紡いだかは見ていない。
「サヤくん、僕の思惑、知っちゃってるんですかねぇ?」
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