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閑話 料理 2
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程なくして、マヨネーズは無事に完成した。
俺たちの手元にも、若干黄味の強いマヨネーズが出来上がっていた。
「では、味比べをしましょう」
ニッコリと笑ったサヤが、麵麭にマヨネーズをそれぞれ付けて皿に盛る。
明らかに色が違う俺たちの作ったマヨネーズ。
「な……ぜ、全部味が違う……」
「本当……私とガウリィたちの作ったのも味が違う……」
おおぅ、俺たちの作った分が、違う味なのは分かる。が、まさか、二人が作ったものにまで味の差があるとは思わなかった。
ユミルとカーリンが、愕然とする三人を見て、クスクスと笑った。
「サヤさん。もう種明かしをしましょう」
「そうですよ。なんだかびっくりしちゃってるもの」
そう言って、酢の瓶から、中の酢を小皿に少量移す。
同じ瓶に入っていたが、色が違った。これは……?
「種類が、違った?」
「種類は一緒ですよ。けど、酸味が違いました。酢の種類、油の種類を変えても味が変わりますよ。あと、大蒜、蜂蜜、砂糖、辛子、柑橘類の果汁、山葵等々、入れる材料や分量を変えると、また変わってきます。
ちなみに、私たちが作ったのには、辛子と蜂蜜を加えてあります」
俺たちの作ったマヨネーズは、また一層深みがあるというか、とても好みの味だった。
「ハインさんやレイシール様は、私の隠し味調理に慣れてらっしゃいますから、複雑な味の方が好ましくなってるかと」
そんな風にサヤが言う。うん。凄い美味。ピリッとしつつまろやかで、なんとも好ましい。
「どう思いました? 料理の共有。こういった部分に、価値があると、私の国では考えてます。
同じものを作っても、好みや用途で味は変わります。
例えば、今日の賄い、ベーコンタマゴサンドをつくるにしても、子供用なら基本のマヨネーズに蜂蜜を混ぜたもの。大人用なら、ハーブ入りなど、きっと食べる方によっても、好みの味が変わります。
でも、それぞれが皆美味しいでしょう? 自分だけでは思いつけなかった材料の組み合わせを、他の人が見つけるかもしれない。それを教えて貰えたら、作れる料理の幅は、うんと広がります」
サヤの言葉を、料理人三人は、呆然と聞き入っていた。
それでもまだ少し、不安そうな顔をしている三人に、今度はユミルが口を開く。
「あの、私……賄い作りをやらせて頂いてから、二十以上の料理を覚えました」
料理人の面々が、脳天を撃ち抜かれた様に固まった。
まさかそんなにあるんですか。そんな顔ですね。
視線を彷徨わせる三人の考えていることが、手に取るように分かるなぁ。
数十種の料理を教えてもらうのと、自分の技術を教えるの、どっちが得かと必死で考えている。
「半月程度で、同じ材料で、味が全然、違ったりして……おじいちゃんも、元気が無かったのに、最近は明るくなったんです。ご飯が美味しいって、言ってくれます」
「私も、結構沢山覚えました。最近は、家で新しい組み合わせを試してみたり、色々工夫してるんだけど……やっぱり、基本をまだあまり、知らないから……もっとしっかり、沢山のことを覚えて、美味しいものを作りたいんです。あ、あとうち、食べれる雑草は結構詳しいかも。
大家族だから、食べれるもの探しは、子供の頃から日課だったの」
カーリンがそう言って、ニカッと笑う。
あ、これはあれか。サヤだな。交渉する様にって、きっと指導している。
自分の価値を、二人に示せって。ただ一方的な関係ではなく、お互い対等に教え合える関係を作れる様に。
二人の言葉に、眉間にしわを寄せた三人の中から、エレノラが口を開いた。
「乗った! 私は私の技術を提供する。
その代わり、二人の知識を提供してもらう。
こういうの良いね。凄くワクワクする。私の技術を、素人に取られるだけの話じゃないって、分かったし、十分価値を感じたよ」
「あっ、抜け駆け無し! 俺も乗った」
「こらっ、誰がやらねぇっつったよ! 俺もやるに決まってんだろ!」
エレノラに続き、男性陣二人も慌ててそう言った。
その様子を見たサヤが、笑みを深くする。
ちらりと横目で伺うその顔は、とても美しくて、ドキドキした。
優しい表情。男装していても、そんな表情の時のサヤは、本当に美しい。
と、サヤがすっと足を踏み出し、鍋を確認しに行く。
「では、まとまったところで、次です。
賄い作りを進めましょう。先程と同じ要領で、卵黄の数を増やし、マヨネーズを作ります。最後に、全部を混ぜ合わせれば、味も均一化されますから、酢の酸味は気にせず進めちゃいましょう。
それから、食事処の食事とは別に、この食事処の賄いを、作るのはどうかと思うんです。
新しい料理の研究を兼ねて。
よくできたと思う料理は、お客様に提供して行くんです。毎日そうやって新しいものに挑戦していれば、どんどん品数も増やせますよ。
さしあたって、今日は私がマヨネーズを使った新しい料理を提供しておきますね。
刻んだ玉葱と茹で卵、胡瓜の漬物を混ぜ込んだら、白身魚の料理によく合うタルタルソースと呼ぶものになりますので、今日の我々の昼食はそれで」
まだあるんですか⁉︎
料理人三人が、固まったのは言うまでもない。
俺たちの手元にも、若干黄味の強いマヨネーズが出来上がっていた。
「では、味比べをしましょう」
ニッコリと笑ったサヤが、麵麭にマヨネーズをそれぞれ付けて皿に盛る。
明らかに色が違う俺たちの作ったマヨネーズ。
「な……ぜ、全部味が違う……」
「本当……私とガウリィたちの作ったのも味が違う……」
おおぅ、俺たちの作った分が、違う味なのは分かる。が、まさか、二人が作ったものにまで味の差があるとは思わなかった。
ユミルとカーリンが、愕然とする三人を見て、クスクスと笑った。
「サヤさん。もう種明かしをしましょう」
「そうですよ。なんだかびっくりしちゃってるもの」
そう言って、酢の瓶から、中の酢を小皿に少量移す。
同じ瓶に入っていたが、色が違った。これは……?
「種類が、違った?」
「種類は一緒ですよ。けど、酸味が違いました。酢の種類、油の種類を変えても味が変わりますよ。あと、大蒜、蜂蜜、砂糖、辛子、柑橘類の果汁、山葵等々、入れる材料や分量を変えると、また変わってきます。
ちなみに、私たちが作ったのには、辛子と蜂蜜を加えてあります」
俺たちの作ったマヨネーズは、また一層深みがあるというか、とても好みの味だった。
「ハインさんやレイシール様は、私の隠し味調理に慣れてらっしゃいますから、複雑な味の方が好ましくなってるかと」
そんな風にサヤが言う。うん。凄い美味。ピリッとしつつまろやかで、なんとも好ましい。
「どう思いました? 料理の共有。こういった部分に、価値があると、私の国では考えてます。
同じものを作っても、好みや用途で味は変わります。
例えば、今日の賄い、ベーコンタマゴサンドをつくるにしても、子供用なら基本のマヨネーズに蜂蜜を混ぜたもの。大人用なら、ハーブ入りなど、きっと食べる方によっても、好みの味が変わります。
でも、それぞれが皆美味しいでしょう? 自分だけでは思いつけなかった材料の組み合わせを、他の人が見つけるかもしれない。それを教えて貰えたら、作れる料理の幅は、うんと広がります」
サヤの言葉を、料理人三人は、呆然と聞き入っていた。
それでもまだ少し、不安そうな顔をしている三人に、今度はユミルが口を開く。
「あの、私……賄い作りをやらせて頂いてから、二十以上の料理を覚えました」
料理人の面々が、脳天を撃ち抜かれた様に固まった。
まさかそんなにあるんですか。そんな顔ですね。
視線を彷徨わせる三人の考えていることが、手に取るように分かるなぁ。
数十種の料理を教えてもらうのと、自分の技術を教えるの、どっちが得かと必死で考えている。
「半月程度で、同じ材料で、味が全然、違ったりして……おじいちゃんも、元気が無かったのに、最近は明るくなったんです。ご飯が美味しいって、言ってくれます」
「私も、結構沢山覚えました。最近は、家で新しい組み合わせを試してみたり、色々工夫してるんだけど……やっぱり、基本をまだあまり、知らないから……もっとしっかり、沢山のことを覚えて、美味しいものを作りたいんです。あ、あとうち、食べれる雑草は結構詳しいかも。
大家族だから、食べれるもの探しは、子供の頃から日課だったの」
カーリンがそう言って、ニカッと笑う。
あ、これはあれか。サヤだな。交渉する様にって、きっと指導している。
自分の価値を、二人に示せって。ただ一方的な関係ではなく、お互い対等に教え合える関係を作れる様に。
二人の言葉に、眉間にしわを寄せた三人の中から、エレノラが口を開いた。
「乗った! 私は私の技術を提供する。
その代わり、二人の知識を提供してもらう。
こういうの良いね。凄くワクワクする。私の技術を、素人に取られるだけの話じゃないって、分かったし、十分価値を感じたよ」
「あっ、抜け駆け無し! 俺も乗った」
「こらっ、誰がやらねぇっつったよ! 俺もやるに決まってんだろ!」
エレノラに続き、男性陣二人も慌ててそう言った。
その様子を見たサヤが、笑みを深くする。
ちらりと横目で伺うその顔は、とても美しくて、ドキドキした。
優しい表情。男装していても、そんな表情の時のサヤは、本当に美しい。
と、サヤがすっと足を踏み出し、鍋を確認しに行く。
「では、まとまったところで、次です。
賄い作りを進めましょう。先程と同じ要領で、卵黄の数を増やし、マヨネーズを作ります。最後に、全部を混ぜ合わせれば、味も均一化されますから、酢の酸味は気にせず進めちゃいましょう。
それから、食事処の食事とは別に、この食事処の賄いを、作るのはどうかと思うんです。
新しい料理の研究を兼ねて。
よくできたと思う料理は、お客様に提供して行くんです。毎日そうやって新しいものに挑戦していれば、どんどん品数も増やせますよ。
さしあたって、今日は私がマヨネーズを使った新しい料理を提供しておきますね。
刻んだ玉葱と茹で卵、胡瓜の漬物を混ぜ込んだら、白身魚の料理によく合うタルタルソースと呼ぶものになりますので、今日の我々の昼食はそれで」
まだあるんですか⁉︎
料理人三人が、固まったのは言うまでもない。
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