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設計図 1
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夕食は大急ぎで済ませた。
ルオード様が戻られた後は、きっとこの話は続けてられない。
急かすマルに促され、執務室の長椅子にそれぞれ落ち着いてから、話を始める。
そうしてまずサヤは、サヤの世界の病気。菌による感染の話を、マルに聞かせた。
サヤがこの世界に来た初めの日に、俺たちに教えてくれた話。
大気の中には、菌……サヤの世界ではウィルスと呼ばれているそれが、沢山いること。それが体内に入り、排除しきれないと病になるという。
「これは、一般的な病になる経路です。菌によってなる病を、私たちの世界は感染症と呼んでました。
ですが、クリスタ様の病は、この菌による感染症ではないと思うんです。
けれど、その説明をする前に、クリスタ様の病の特性について説明しますね。
えっと、あくまで、この病である可能性が高い……という段階なので、それを踏まえておいて下さい」
サヤは少し考えてから、まずこんな話を始める。
「えっと、太陽の光って、何色だと思いますか?」
「……色?」
「太陽の光の色……」
「……夕方なら、赤味がかってたりしますが……?」
「虹を、空に見たことは?」
「そりゃあるさ」
「水の入った水槽などを通した光が、虹みたいになっているのを見たことは?」
「あー……あった気がする」
何が言いたいんだ……。いまいちよく分からない。
首を傾げていると「虹って、太陽の光を、色別に分けたものなんです」と、意味不明なことを言い出した。
「陽の光というものは、沢山の色彩が重なっている構造なんです。
硝子の三角柱があれば再現できるのですけど……無いので、図で描きますね」
サヤはそう言って、執務机の失敗書類を持ってきて、裏に図を描く。
三角形を一つ、その三角に刺さる線を一つ描き、三角を通る時、線が折れ曲がり、三角を突き抜けた時、その線が広がる。そんな図を記していった。
「光は、色によって波長が違います。波長が違うと、屈折率が変わります。
虹は、必ず曲線の外側が赤、内側が紫となります。これは、その波長の差によって分かれた結果なんです」
「あ、あの……クリスタ様のご病気の話が、なんで光の話……?」
「今からその話に移りますから。
で、その虹の七色。実は色の視認が出来ない、更に外側にも、人には見えない波長の光が存在します。
今回は……紫の色の内側にある、紫外線について。これが、クリスタ様のご病気に関わってくるものです」
ちんぷんかんぷんの俺。
その様子を見て、サヤはまた頭を悩ませる。
「ええっと……レイシール様は、日焼けしますよね?」
「そりゃまぁ……するよ」
「紫外線は、おおよその生命体にとって毒なんです。なので、菌と同じように、体内に多量に入らないよう、身体は防衛します。
人の体内にはメラニンという物質があるのですが、それが紫外線を吸収したり、身体の表層に出て黒く変色し、紫外線が体の奥底に入ってこない様にしたりします。これのお陰で、光の毒は大半が、身体への侵入を阻まれます。つまり日焼けって、紫外線から体を守る機能なんです」
「光に、毒…………」
俄かには信じがたいな。
陽の光は一生浴びて生きていくものなのに、毒があると言われてもな……。
「冗談……では、無いのですね」
「はい。それで、クリスタ様ですが……多分……そのメラニンを、体内で生成することが出来ない体質です。先天性異常の一つなのですけれど、そんな方が、たまに生まれるのです。私の国では、二万人に一人と、言われていたと思うのですが……ちょっとうろ覚えですね……。
メラニンが生成出来ない方は、日焼けが出来ないお身体です。陽に当たると、すぐに火傷してしまう……つまり、陽に焼けて、肌が黒くなったりなさいません。クリスタ様は、常に、白磁の様に白い肌をされていませんか? 陽に焼けても一時赤くなるだけなのじゃないですか?」
「……あ、ぁ……赤くなって、水ぶくれが起こるだけだと、伺っている……」
「この病の怖い部分は、その火傷ではなく、体内に溜まっていく毒です。
火傷は、毒が体内に入っている証のようなもの。多量に摂取しすぎると、別の病を引き起こします。
……とはいえ、その病が起こるには、相当量の毒を体内に取り込まなければなりませんし、個人の許容量にも差があります。実際起こるかどうかは、半分運みたいなところがあって……必ず起こるとも言えません。
けれど、普通に、陽の光の下を歩ける私たちよりは、ずっとその病になる可能性が、高いお身体だということです」
身体に、光の毒を溜めてしまう病……。それは、酷く恐ろしいもののように聞こえた。
更にサヤは、生まれつきの、身体の構造自体に関わるものなので、この病を治す方法は、サヤの国にもまだ無いと言ったのだ。その言葉に、頭を殴られたような衝撃を受ける。サヤほどの文明世界においても、直せない病……それは、絶望するしかない事実だ。
「クリスタ様は……そんな……そんな大変な、病なのか……⁈」
「……この病は、もう一つの特徴が、瞳に現れます。
瞳も、光の影響を多く受ける場所なんです。
クリスタ様は、赤い瞳をされているのですよね? 赤い瞳は、メラニンが全く生成されない人の特徴だったと思うんです……けど……」
そう言い置いてから、サヤは一度、顔を俯けた。少し眉間にしわを寄せ、不安そうな表情を一瞬だけ覗かせる。
「……この世界の人は、私の世界の人とは違う色素をお持ちの様ですし……赤い瞳だからといって、一概に、メラニンが生成出来ないとは限らない気がしていて……。ただ、クリスタ様は……。陽の光で火傷をする……私たちより、光を強く感じる。と、お聞きする限りは、その病の可能性が高い。そう、思っています。
クリスタ様は濃い目の灰髪……私が考える病の方の特徴としては……髪の色が、いまいち特徴とそぐわない……でも、個人差がある病ですし、レイシール様がそうであった様に、本来の髪色が違うのだとしたら、一応、特徴の範囲内となるのですが……」
「サヤくん、センテンセイイジョウというものの意味を教えて下さい」
急にマルが、話に横槍を入れて来た。
ああ、その単語は俺も気になった。
「先天性異常というのは、命として宿った段階から、何がしかの原因によって身に付いてしまった欠損や変異を指します。
クリスタ様の病でいうところの、メラニンを作れないというのが、これに当たりますね」
「……なら、獣人も、先天性異常の可能性が?」
ルオード様が戻られた後は、きっとこの話は続けてられない。
急かすマルに促され、執務室の長椅子にそれぞれ落ち着いてから、話を始める。
そうしてまずサヤは、サヤの世界の病気。菌による感染の話を、マルに聞かせた。
サヤがこの世界に来た初めの日に、俺たちに教えてくれた話。
大気の中には、菌……サヤの世界ではウィルスと呼ばれているそれが、沢山いること。それが体内に入り、排除しきれないと病になるという。
「これは、一般的な病になる経路です。菌によってなる病を、私たちの世界は感染症と呼んでました。
ですが、クリスタ様の病は、この菌による感染症ではないと思うんです。
けれど、その説明をする前に、クリスタ様の病の特性について説明しますね。
えっと、あくまで、この病である可能性が高い……という段階なので、それを踏まえておいて下さい」
サヤは少し考えてから、まずこんな話を始める。
「えっと、太陽の光って、何色だと思いますか?」
「……色?」
「太陽の光の色……」
「……夕方なら、赤味がかってたりしますが……?」
「虹を、空に見たことは?」
「そりゃあるさ」
「水の入った水槽などを通した光が、虹みたいになっているのを見たことは?」
「あー……あった気がする」
何が言いたいんだ……。いまいちよく分からない。
首を傾げていると「虹って、太陽の光を、色別に分けたものなんです」と、意味不明なことを言い出した。
「陽の光というものは、沢山の色彩が重なっている構造なんです。
硝子の三角柱があれば再現できるのですけど……無いので、図で描きますね」
サヤはそう言って、執務机の失敗書類を持ってきて、裏に図を描く。
三角形を一つ、その三角に刺さる線を一つ描き、三角を通る時、線が折れ曲がり、三角を突き抜けた時、その線が広がる。そんな図を記していった。
「光は、色によって波長が違います。波長が違うと、屈折率が変わります。
虹は、必ず曲線の外側が赤、内側が紫となります。これは、その波長の差によって分かれた結果なんです」
「あ、あの……クリスタ様のご病気の話が、なんで光の話……?」
「今からその話に移りますから。
で、その虹の七色。実は色の視認が出来ない、更に外側にも、人には見えない波長の光が存在します。
今回は……紫の色の内側にある、紫外線について。これが、クリスタ様のご病気に関わってくるものです」
ちんぷんかんぷんの俺。
その様子を見て、サヤはまた頭を悩ませる。
「ええっと……レイシール様は、日焼けしますよね?」
「そりゃまぁ……するよ」
「紫外線は、おおよその生命体にとって毒なんです。なので、菌と同じように、体内に多量に入らないよう、身体は防衛します。
人の体内にはメラニンという物質があるのですが、それが紫外線を吸収したり、身体の表層に出て黒く変色し、紫外線が体の奥底に入ってこない様にしたりします。これのお陰で、光の毒は大半が、身体への侵入を阻まれます。つまり日焼けって、紫外線から体を守る機能なんです」
「光に、毒…………」
俄かには信じがたいな。
陽の光は一生浴びて生きていくものなのに、毒があると言われてもな……。
「冗談……では、無いのですね」
「はい。それで、クリスタ様ですが……多分……そのメラニンを、体内で生成することが出来ない体質です。先天性異常の一つなのですけれど、そんな方が、たまに生まれるのです。私の国では、二万人に一人と、言われていたと思うのですが……ちょっとうろ覚えですね……。
メラニンが生成出来ない方は、日焼けが出来ないお身体です。陽に当たると、すぐに火傷してしまう……つまり、陽に焼けて、肌が黒くなったりなさいません。クリスタ様は、常に、白磁の様に白い肌をされていませんか? 陽に焼けても一時赤くなるだけなのじゃないですか?」
「……あ、ぁ……赤くなって、水ぶくれが起こるだけだと、伺っている……」
「この病の怖い部分は、その火傷ではなく、体内に溜まっていく毒です。
火傷は、毒が体内に入っている証のようなもの。多量に摂取しすぎると、別の病を引き起こします。
……とはいえ、その病が起こるには、相当量の毒を体内に取り込まなければなりませんし、個人の許容量にも差があります。実際起こるかどうかは、半分運みたいなところがあって……必ず起こるとも言えません。
けれど、普通に、陽の光の下を歩ける私たちよりは、ずっとその病になる可能性が、高いお身体だということです」
身体に、光の毒を溜めてしまう病……。それは、酷く恐ろしいもののように聞こえた。
更にサヤは、生まれつきの、身体の構造自体に関わるものなので、この病を治す方法は、サヤの国にもまだ無いと言ったのだ。その言葉に、頭を殴られたような衝撃を受ける。サヤほどの文明世界においても、直せない病……それは、絶望するしかない事実だ。
「クリスタ様は……そんな……そんな大変な、病なのか……⁈」
「……この病は、もう一つの特徴が、瞳に現れます。
瞳も、光の影響を多く受ける場所なんです。
クリスタ様は、赤い瞳をされているのですよね? 赤い瞳は、メラニンが全く生成されない人の特徴だったと思うんです……けど……」
そう言い置いてから、サヤは一度、顔を俯けた。少し眉間にしわを寄せ、不安そうな表情を一瞬だけ覗かせる。
「……この世界の人は、私の世界の人とは違う色素をお持ちの様ですし……赤い瞳だからといって、一概に、メラニンが生成出来ないとは限らない気がしていて……。ただ、クリスタ様は……。陽の光で火傷をする……私たちより、光を強く感じる。と、お聞きする限りは、その病の可能性が高い。そう、思っています。
クリスタ様は濃い目の灰髪……私が考える病の方の特徴としては……髪の色が、いまいち特徴とそぐわない……でも、個人差がある病ですし、レイシール様がそうであった様に、本来の髪色が違うのだとしたら、一応、特徴の範囲内となるのですが……」
「サヤくん、センテンセイイジョウというものの意味を教えて下さい」
急にマルが、話に横槍を入れて来た。
ああ、その単語は俺も気になった。
「先天性異常というのは、命として宿った段階から、何がしかの原因によって身に付いてしまった欠損や変異を指します。
クリスタ様の病でいうところの、メラニンを作れないというのが、これに当たりますね」
「……なら、獣人も、先天性異常の可能性が?」
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