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閑話 木枠
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昼食後の時間は、家具の大移動を行い、各部屋を整えた。
客間を使っていたマルも、ようやっと自分の部屋を利用出来るようになり、サヤの部屋にも寝台が入った為、お役御免となった寝台が、元の客間に戻された。
よって、ギルは本日、その客間に泊まることとなる。
ギルは、今日一日中とくにやる事も無いようで、家具の移動や掃除などを、暇つぶしがてら手伝ってくれた。此処ぞとばかりにハインがこき使い、ギルが途中で怒り出すという、まあ、起こるべくして起こった事件なども挟みつつ、概ね平和に時間を過ごした。
部屋の整理が終わってから、一旦現場から戻ったマルと共に、明日の準備に取り掛かることとなった。サヤにお願いしていた、土嚢に詰める土を測る為の器が、持ち出された訳だが……。
「……木枠……?」
「木枠ですね……」
まさか、器の状態でないものが大量に用意されているとは思わず、唖然とした。
底が無かったのだ。器ですらなかった。形状はただの木枠。
明日から必要なのに⁉︎ と、錯乱状態に陥った俺とマルだったのだが、サヤは俺たちの慌てぶりなどどこ吹く風で、きょとんとしている。特に問題を感じていない顔なのだ。
「さ、サヤ……これ、土が入れられない……」
「え? 入れられますよ?」
入れられないよ⁉︎
底が無かったら、土が全部落ちちゃうだろ⁉︎
なんで伝わらないんだ。一体どんな認識の齟齬が発生しているんだ⁉︎
頭を抱えた俺に、サヤは眉毛の下がった困り顔だ。そして、やはり「入れられますよ」と言い、麻袋を手に取った。
「実演しますね」
おもむろに、麻袋を裏返す。
土嚢を作る手順は、麻袋を裏返し、土を八分目まで入れ、袋の口を縛り、袋の余り部分をもう一度織り込んで縛る。というものだ。
この、土を八分目まで入れるという部分を、器に土を入れ、それを袋に移す。という風に変更する予定だったわけなのだが。
サヤは、麻袋を半ばまで折り返した。
問題の木枠を袋の中に差し入れ、その状態で床に置いた。
「これで、土を入れて、袋を伸ばして、木枠を引き抜けば良いんです。
箱をひっくり返して土を袋に移すよりも簡単ですし、失敗しにくいと思って」
………………ああ!
齟齬があったわけじゃなかったと分かり、一気に脱力した。
びっくりした……。どうしようかと思った……。それにしても、さすが効率化の民族。箱の底を用意しないだなんて、想像してなかった……。
そうか、袋の底を箱の底として利用するのか。その手があったかと感心するしかない。
「箱の状態で作らなかったので、費用が六割に削減できました。
あと、重ねて収納できる形にしてもらったので、送料も半額で済みました。
報告書に詳細は纏めてありますので、確認をお願いします」
そう言われて、木枠の形がやや台形になっていることにもやっと気付いた。
おおぉぉ。そんな細かな部分まで効率化……。
「サヤくんは天才ですねぇ」
そんな風には思い付きもしませんでしたと、マルも感心しきりだ。
しかしサヤは、私の国では、割と普通なんですよと苦笑い。なんでも、椅子やら小道具やらは重ねて収納できる形にするのが定番であるそうだ。
小さな島国の効率化民族は、土地の有効活用として、そんな細かいことまで気を使うのか……。それはまあ、チリも積もれば山となるわけで、こつこつと、まめに実績を積み重ねる姿勢は尊敬するが……。
本当にこれ、普通なのか……?サヤが気が利いているということではないのか?
「いやぁ、これは良い。地面に置ける。つまり、一人で作業ができますね」
「そうですね。
私の世界では確か……一人が袋を持ち、もう一人が土を入れるという二人一組の作業で、一日百袋の土嚢が作れると計算されていましたから、それよりは早く、多く用意できると思います」
ていうか、サヤの世界では二人一組で作業するのが一般的なのか?
なら、一人作業ができる様にしたこれって……サヤの考案……?それってやっぱりサヤの気が利いてるってことなのでは⁉︎
サヤは、凄い……効率化の鬼だ……。二人一組の作業すら、一人で出来るようにしてしまうとか……。
今後、作業効率を上げたい時は、サヤに相談しよう。
俺とマルの中でその様に決まった。
客間を使っていたマルも、ようやっと自分の部屋を利用出来るようになり、サヤの部屋にも寝台が入った為、お役御免となった寝台が、元の客間に戻された。
よって、ギルは本日、その客間に泊まることとなる。
ギルは、今日一日中とくにやる事も無いようで、家具の移動や掃除などを、暇つぶしがてら手伝ってくれた。此処ぞとばかりにハインがこき使い、ギルが途中で怒り出すという、まあ、起こるべくして起こった事件なども挟みつつ、概ね平和に時間を過ごした。
部屋の整理が終わってから、一旦現場から戻ったマルと共に、明日の準備に取り掛かることとなった。サヤにお願いしていた、土嚢に詰める土を測る為の器が、持ち出された訳だが……。
「……木枠……?」
「木枠ですね……」
まさか、器の状態でないものが大量に用意されているとは思わず、唖然とした。
底が無かったのだ。器ですらなかった。形状はただの木枠。
明日から必要なのに⁉︎ と、錯乱状態に陥った俺とマルだったのだが、サヤは俺たちの慌てぶりなどどこ吹く風で、きょとんとしている。特に問題を感じていない顔なのだ。
「さ、サヤ……これ、土が入れられない……」
「え? 入れられますよ?」
入れられないよ⁉︎
底が無かったら、土が全部落ちちゃうだろ⁉︎
なんで伝わらないんだ。一体どんな認識の齟齬が発生しているんだ⁉︎
頭を抱えた俺に、サヤは眉毛の下がった困り顔だ。そして、やはり「入れられますよ」と言い、麻袋を手に取った。
「実演しますね」
おもむろに、麻袋を裏返す。
土嚢を作る手順は、麻袋を裏返し、土を八分目まで入れ、袋の口を縛り、袋の余り部分をもう一度織り込んで縛る。というものだ。
この、土を八分目まで入れるという部分を、器に土を入れ、それを袋に移す。という風に変更する予定だったわけなのだが。
サヤは、麻袋を半ばまで折り返した。
問題の木枠を袋の中に差し入れ、その状態で床に置いた。
「これで、土を入れて、袋を伸ばして、木枠を引き抜けば良いんです。
箱をひっくり返して土を袋に移すよりも簡単ですし、失敗しにくいと思って」
………………ああ!
齟齬があったわけじゃなかったと分かり、一気に脱力した。
びっくりした……。どうしようかと思った……。それにしても、さすが効率化の民族。箱の底を用意しないだなんて、想像してなかった……。
そうか、袋の底を箱の底として利用するのか。その手があったかと感心するしかない。
「箱の状態で作らなかったので、費用が六割に削減できました。
あと、重ねて収納できる形にしてもらったので、送料も半額で済みました。
報告書に詳細は纏めてありますので、確認をお願いします」
そう言われて、木枠の形がやや台形になっていることにもやっと気付いた。
おおぉぉ。そんな細かな部分まで効率化……。
「サヤくんは天才ですねぇ」
そんな風には思い付きもしませんでしたと、マルも感心しきりだ。
しかしサヤは、私の国では、割と普通なんですよと苦笑い。なんでも、椅子やら小道具やらは重ねて収納できる形にするのが定番であるそうだ。
小さな島国の効率化民族は、土地の有効活用として、そんな細かいことまで気を使うのか……。それはまあ、チリも積もれば山となるわけで、こつこつと、まめに実績を積み重ねる姿勢は尊敬するが……。
本当にこれ、普通なのか……?サヤが気が利いているということではないのか?
「いやぁ、これは良い。地面に置ける。つまり、一人で作業ができますね」
「そうですね。
私の世界では確か……一人が袋を持ち、もう一人が土を入れるという二人一組の作業で、一日百袋の土嚢が作れると計算されていましたから、それよりは早く、多く用意できると思います」
ていうか、サヤの世界では二人一組で作業するのが一般的なのか?
なら、一人作業ができる様にしたこれって……サヤの考案……?それってやっぱりサヤの気が利いてるってことなのでは⁉︎
サヤは、凄い……効率化の鬼だ……。二人一組の作業すら、一人で出来るようにしてしまうとか……。
今後、作業効率を上げたい時は、サヤに相談しよう。
俺とマルの中でその様に決まった。
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