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異母様 2
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翌日は朝から快晴。収穫はほぼ終わり、脱穀も始まっており順調だ。
脱穀作業は農民たちに任せて、俺たちは川の様子を見に来ていた。
今日で六の月三日……雨季は間近となってきた。
「やっぱり無理だった……別館使用……」
村人から離れた場所で、俺はしょぼんとそう呟く。
ハインはまあそうでしょうともといった反応で、サヤは溜息をついた。
やはり期待していたのだと思う。
「理由は……なんと仰ったんですか?」
「前例が無い。下賤の者が近くにいるのは身の危険を感じる。
一日二日ならともかく、何ヶ月も住まわせたのでは体裁が悪い。そのまま住み着かれそう……みたいな感じのことを、遠回しにね」
一度氾濫が起きれば、畑も家も流されたり、壊れたりする。
当然、そのまますぐに戻って住むなんてことはできないので、しばらく仮住居での生活を余儀なくされるのだ。
それならいっそ、畑のそばに住まなきゃ良いという話になりそうなものだが、やはり畑の管理というのは休みが無い。近くに住み、連日面倒を見るのが、今のところ一番効率が良い。雨季以外の期間を考えると、離れた場所に住むというのはあまり現実的ではないのだ。
「そもそも、裏山前の広場も別館も、領主の館からの距離はほぼ一緒ですよ。
単に嫌ってことのこじ付けをされているだけです」
まあ概ねそうなんだろうね……。
「まあ、好ましくない結果だとしても、結果は出ました。
これで、川の補強と仮住居の建設をしなければならないとはっきりしたわけです。
それなら、その様に動くだけですよ」
そう言って、ハインは川の様子を見に行く。俺もそれに続こうとして、サヤがついてこないことに気付いて足を止めた。
振り返ると、思案顔のサヤ。
まただ。何か考えてる……。なんでそんな、不安そうな表情をしてるんだろう?
「サヤ?」
名前を呼ぶと、ハッとしたように、考えるのを止める。
そして、小走りに俺の側にやってきた。
「川の補強、この前言ってらっしゃったことを、するんですか?」
「そうだね。毎年やっているのは……板で壁を作り、土を盛って、叩いて固めていくことと、川の蛇行部分に岩などを積んで、簡単に削れないようにする作業だね」
「……それは……この川縁をそのまま、補強していくんですよね……」
「うん? そうだよ」
「水路は、どうされてるんですか?」
「岩なんかを置いて、流れ込む水の量を調節したりする。
とはいえ……溢れてしまえば一緒なんだけどね」
サヤの質問に答えつつ、横目で様子を伺う。
やはり何か、考えている風なのだが、それを口にしようとはしなかった。
ハインに追いつき、どこから補強していくかを相談する横で、やはりずっと考えていて……。
「……やっぱり無理がある……でも……っ。
異母様は、一日二日なら、ともかくって、仰ったんですよね……」
という呟きがこぼれたのを、ずっとサヤを意識していた俺は拾うことができた。
「うん。仰ったね」
「あの……雨季の間、本当に避難しなきゃってなることは、どれくらいあるんですか?」
「うーん……?状況にもよるけど……一ヶ月ずっとってわけじゃない。一度か、二度……多くても五本の指で数えられるほどだ」
去年は二度ほどだったかなと、ハインに確認すると、首肯する。
去年は川の水量もあまり増えている風ではなかったし、仮住居も作らなかった。
一応、村の外れには丘があり、集会場があるので、普段はそちらが避難場所だ。
ただ、一時的な避難なら良いが、住むには狭すぎる。空振りすることもあるが、危険だと思うときは、仮住居を作るというのが今までのやり方なのだ。
「避難場所……ああ、あの外れにある、大きなの小屋ですね」
「丘に農民全員が避難することはできる。ただまぁ、連日寝泊まりできる広さは無いね」
「そうですね」
村の方を見て、川を見て、そしてまた考え出すサヤ。
まだ話す気は無いのだなと思ったので、とりあえずサヤのことは保留にする。
「ギルには連絡を送った。また近いうちに、メバックに行くよ。
今度は大店会議といって、メバックの商人たちに資金援助や物資のお願いに行くんだ。
もし氾濫が起こった場合は……税金を上げて、復旧のためのお金を工面するんだけど、それだと資金が調達できるのが来年以降になる。
だから、メバックの商人たちに寄付をお願いしたり、まとまったお金を借りたりする」
「それで、迷惑をかけるって、仰ってたんですね……」
氾濫を未然に防げるのが、一番良い。
そうすれば、農民たちは畑も家も無くさずにすむし、商人たちも資金繰りに苦慮しなくてすむし、セイバーンの領民は余分な税金を払わずに済む。
だから、川の補強に全精力を注ぎ込みたいのが本音だ。
しかし、雨季の土は緩みやすい。農作業の合間に川の補強も行なっているが、それでも蛇行部分は削れ、氾濫は起きる。
かといって、毎年氾濫が起こるわけでもないから、仮住居を建てておいても劣化するし、なんかもういちいちが中途半端なのだ。
「もう、何十年も、そんな感じでやってきてるんだ。
いい加減、何か良い方策を、見つけなきゃね……」
この氾濫に、何十年もかけて膨大な資金を投入している。
メバックは、アギーの恩恵で比較的高収入が続いてるからまだいい。
他の地域は、自分たちに関係ない場所で、氾濫の度にかかってくる追加の税金に辟易していることだろう。
「あの……ご相談が、あるのですが……」
暗い気持ちで川を見ていた俺に、サヤがそう言った。
ああ、言う気になったんだな。そう思い視線を戻すと、何か……苦しそうな顔をした、サヤが俺を見ていた。
「ここでいい?
それとも、戻ってから、執務室で聞こうか?」
なんでそんな顔をしているのか、それが気になったので、サヤにそう聞いてみたら、暫く考えた後、執務室でと応えが返る。
ハインを見ると、書き出していた覚え書きをざっと確認し「では、戻りましょうか」と促された。
帰る途中、見かけた農民に、氾濫対策の話し合いをしているから、何かあったら別館に知らせて欲しいとお願いしておく。
「川縁の……結構ぎりぎりまで、畑なんですよね……」
何故か重い声でサヤが呟く。
答えを求めている風ではなく、ただ確認している感じだったので、そうだね。とだけ答えておいた。
脱穀作業は農民たちに任せて、俺たちは川の様子を見に来ていた。
今日で六の月三日……雨季は間近となってきた。
「やっぱり無理だった……別館使用……」
村人から離れた場所で、俺はしょぼんとそう呟く。
ハインはまあそうでしょうともといった反応で、サヤは溜息をついた。
やはり期待していたのだと思う。
「理由は……なんと仰ったんですか?」
「前例が無い。下賤の者が近くにいるのは身の危険を感じる。
一日二日ならともかく、何ヶ月も住まわせたのでは体裁が悪い。そのまま住み着かれそう……みたいな感じのことを、遠回しにね」
一度氾濫が起きれば、畑も家も流されたり、壊れたりする。
当然、そのまますぐに戻って住むなんてことはできないので、しばらく仮住居での生活を余儀なくされるのだ。
それならいっそ、畑のそばに住まなきゃ良いという話になりそうなものだが、やはり畑の管理というのは休みが無い。近くに住み、連日面倒を見るのが、今のところ一番効率が良い。雨季以外の期間を考えると、離れた場所に住むというのはあまり現実的ではないのだ。
「そもそも、裏山前の広場も別館も、領主の館からの距離はほぼ一緒ですよ。
単に嫌ってことのこじ付けをされているだけです」
まあ概ねそうなんだろうね……。
「まあ、好ましくない結果だとしても、結果は出ました。
これで、川の補強と仮住居の建設をしなければならないとはっきりしたわけです。
それなら、その様に動くだけですよ」
そう言って、ハインは川の様子を見に行く。俺もそれに続こうとして、サヤがついてこないことに気付いて足を止めた。
振り返ると、思案顔のサヤ。
まただ。何か考えてる……。なんでそんな、不安そうな表情をしてるんだろう?
「サヤ?」
名前を呼ぶと、ハッとしたように、考えるのを止める。
そして、小走りに俺の側にやってきた。
「川の補強、この前言ってらっしゃったことを、するんですか?」
「そうだね。毎年やっているのは……板で壁を作り、土を盛って、叩いて固めていくことと、川の蛇行部分に岩などを積んで、簡単に削れないようにする作業だね」
「……それは……この川縁をそのまま、補強していくんですよね……」
「うん? そうだよ」
「水路は、どうされてるんですか?」
「岩なんかを置いて、流れ込む水の量を調節したりする。
とはいえ……溢れてしまえば一緒なんだけどね」
サヤの質問に答えつつ、横目で様子を伺う。
やはり何か、考えている風なのだが、それを口にしようとはしなかった。
ハインに追いつき、どこから補強していくかを相談する横で、やはりずっと考えていて……。
「……やっぱり無理がある……でも……っ。
異母様は、一日二日なら、ともかくって、仰ったんですよね……」
という呟きがこぼれたのを、ずっとサヤを意識していた俺は拾うことができた。
「うん。仰ったね」
「あの……雨季の間、本当に避難しなきゃってなることは、どれくらいあるんですか?」
「うーん……?状況にもよるけど……一ヶ月ずっとってわけじゃない。一度か、二度……多くても五本の指で数えられるほどだ」
去年は二度ほどだったかなと、ハインに確認すると、首肯する。
去年は川の水量もあまり増えている風ではなかったし、仮住居も作らなかった。
一応、村の外れには丘があり、集会場があるので、普段はそちらが避難場所だ。
ただ、一時的な避難なら良いが、住むには狭すぎる。空振りすることもあるが、危険だと思うときは、仮住居を作るというのが今までのやり方なのだ。
「避難場所……ああ、あの外れにある、大きなの小屋ですね」
「丘に農民全員が避難することはできる。ただまぁ、連日寝泊まりできる広さは無いね」
「そうですね」
村の方を見て、川を見て、そしてまた考え出すサヤ。
まだ話す気は無いのだなと思ったので、とりあえずサヤのことは保留にする。
「ギルには連絡を送った。また近いうちに、メバックに行くよ。
今度は大店会議といって、メバックの商人たちに資金援助や物資のお願いに行くんだ。
もし氾濫が起こった場合は……税金を上げて、復旧のためのお金を工面するんだけど、それだと資金が調達できるのが来年以降になる。
だから、メバックの商人たちに寄付をお願いしたり、まとまったお金を借りたりする」
「それで、迷惑をかけるって、仰ってたんですね……」
氾濫を未然に防げるのが、一番良い。
そうすれば、農民たちは畑も家も無くさずにすむし、商人たちも資金繰りに苦慮しなくてすむし、セイバーンの領民は余分な税金を払わずに済む。
だから、川の補強に全精力を注ぎ込みたいのが本音だ。
しかし、雨季の土は緩みやすい。農作業の合間に川の補強も行なっているが、それでも蛇行部分は削れ、氾濫は起きる。
かといって、毎年氾濫が起こるわけでもないから、仮住居を建てておいても劣化するし、なんかもういちいちが中途半端なのだ。
「もう、何十年も、そんな感じでやってきてるんだ。
いい加減、何か良い方策を、見つけなきゃね……」
この氾濫に、何十年もかけて膨大な資金を投入している。
メバックは、アギーの恩恵で比較的高収入が続いてるからまだいい。
他の地域は、自分たちに関係ない場所で、氾濫の度にかかってくる追加の税金に辟易していることだろう。
「あの……ご相談が、あるのですが……」
暗い気持ちで川を見ていた俺に、サヤがそう言った。
ああ、言う気になったんだな。そう思い視線を戻すと、何か……苦しそうな顔をした、サヤが俺を見ていた。
「ここでいい?
それとも、戻ってから、執務室で聞こうか?」
なんでそんな顔をしているのか、それが気になったので、サヤにそう聞いてみたら、暫く考えた後、執務室でと応えが返る。
ハインを見ると、書き出していた覚え書きをざっと確認し「では、戻りましょうか」と促された。
帰る途中、見かけた農民に、氾濫対策の話し合いをしているから、何かあったら別館に知らせて欲しいとお願いしておく。
「川縁の……結構ぎりぎりまで、畑なんですよね……」
何故か重い声でサヤが呟く。
答えを求めている風ではなく、ただ確認している感じだったので、そうだね。とだけ答えておいた。
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