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3.お披露目の儀、それから結婚式
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とうとう、やっと?
お披露目の儀がやってきました!
領地からやってきた母上と意気投合し、僕の二人目の母になったようなバーネット様は、まるでオーケストラの指揮者のように、我がタウンハウス内で采配を振るい、僕の見た目の十割増しを目指し、美容家兼女官長と大活躍です。
そしてクリメイソン公爵は、「王太子殿下の目の色と同じだから」という理由で、公爵家の家宝「龍(ドラゴン)の涙」という大きなエメラルドのブローチを貸してくださいました!
このブローチは国宝級の代物で、これまで一度も他家に貸すことはなかったそうです。これを僕が付けることで、クリメイソン公爵家は全面的に未来の王太子妃を支持するという表明にもなるとおっしゃってくださいました。
さらにドランスバルノ公爵家のトーリオ様も、同じく国宝級のパパラチアサファイアのブローチ、別名で「蓮華の女王」と呼ばれる宝石を貸してくれました。このサファイアは桃色と橙色のまざったような色で、産出量がとても少ない貴重な宝石だそうです。トーリオ様曰く「ラミエル様の瞳の色と同じだから、セオドア殿下が身に着けたら、それは美しい対になるし、ドランスバルノ公爵家として王太子妃を全面支持するという証になる」とのことです。
この二つの宝石だけで、警護にさく人数が倍になりました。セオドア様は「宝石にかこつけて、警護が増やせるからちょうどいい」と、不敵に笑いました。
お披露目は、王宮で一番大きな広間を使用する予定ですが、その広間をそのまま使うなんてこと、バーネット様が許すはずがありません。なんと10日前から内装専門の職人を雇い、大鏡をいくつも広間に運ばせ、なんと即席で「鏡の間」に仕立ててしまいました!すごい!
そして―。
僕は今、セオドア様と並び立って、国王陛下と王妃に婚約の挨拶を終えたところです。
次に二人で振り返り、居並ぶ貴族たちにも正式に挨拶します。セオドア様に目配せすると、彼は頷き前を向いて、一歩前に出ました。
「偉大なるガリア王国の貴族家に紹介しよう。我が婚約者ラミエル・ラザフォード!」
セオドア様から紹介され、僕も一歩前に出て彼と並びます。
「ジェラルド・ラザフォード侯爵が末子、ラミエル・ラザフォードと申します。以後、お見知りおき願います」
僕は右手をお腹に、左手を広げて、ボウ・アンド・スクレープをしました。顔をあげると、自然に笑みがこぼれます。左後ろに控えたトーリオ様が「合格」と小声でいい、右後ろのバーネット様からは「貴族家に頭を下げるのは、これが最後」と言われました。
即席の鏡の間は、セオドア様と僕が身につけた宝石を輝かせ、シャンデリアと相まって、きらきらと光が降り注いでいます。
「皆様、本日の記念にラザフォード侯爵家から、ささやかな贈り物を用意しました」
僕の合図に、銀の物入れを持った侍従たちが一人ひとりにハンカチを配り始めました。
「まあ、なんて美しい!」
「ダイヤモンドで縁取りされている!」
「こんなハンカチ、見たことないわ!」
この日のために、最高級シルク生地に、ダイヤモンドの縁取り入りのハンカチを用意したのです。ダイヤモンドを 研磨する際に出るクズダイヤを使ったものだけど、ダイヤモンドには違いないしね!
僕はセオドア様と離れ、トーリオ様とバーネット様の二人を従えて、公爵家から順番に御夫人方に声をかけていきます。
宰相閣下の奥方・クリメイソン公爵夫人アーシャ様、トーリオ様の母上・ドランスバルノ公爵夫人フェリシア様と挨拶。ここまでは身内同然。
さあ、いよいよ王妃の実母、オレルアン侯爵夫人です。
トーリオ様が、セオドア様は背中に目があるのではないかというくらい、僕の様子を把握していると言っていました。ほんとにそうでした。セオドア様からの心配オーラをひしひしと感じます。でも僕は大丈夫。だから僕も大丈夫オーラを必死で送ります。
オレルアン侯爵夫人はベータの女性で、面差しが王妃に似ていました。
「ごきげんよう、オレルアン侯爵夫人」
「このたびはおめでとうございます、ラザフォード侯爵御令息」
親しい仲ではないので爵位で呼び合います。
侯爵夫人は周囲をチラッと見渡し、「まさか広間を鏡の間になさるなんて、中々、出来ることではありませんわ」と、扇で口元を隠しながら言いました。
「ありがとうございます」
「それにこのハンカチ!…あの噂はほんとかしら…。妃殿下の地位を金で買ったなんて?」
僕の後方から、凄まじい冷気が…。トーリオ・バーネット寒気団です!
「そんな噂があるなんて驚きました。でも、それは王妃様に対する不敬ですね?」
侯爵夫人は扇を閉じ、僕を見据えます。
「え?」
「王妃様はご婚約のお披露目の儀の時、全員に銀製の小物入れを配ったそうですね。恥ずかしながら、実は当家はそれを模倣しただけなのです。ですから、今回の当家のやり方を批判する者は、王妃様のなさったことを批判するのも同じ。…そう思われませんか?」
「…」
僕はにっこり笑って続けました。
「ですから、侯爵夫人。その噂はオレルアン侯爵家に対する侮辱でもあります。口にしない方がよろしいかと…」
「え、ええ」
侯爵夫人は、やっと扇に注意を向けられたようで、パタパタとあおぎ始めました。
「ではごきげんよう」
僕の後方の寒気団は温暖化したようです。良かった!
結局、今回のお披露目の儀において、僕の胸元につけたクリメイソン公爵から借りたエメラルド、「龍(ドラゴン)の涙」を褒めなかった貴族は10家で、オルレアン侯爵家以外は9家の伯爵家だけでした。つまり、王妃派はこの10家だけだと分かりました。思ったよりずっと少ない!
トーリオ様は「国王陛下に対する敬愛と信頼が強い貴族家は、王妃派にはならない」と分析していましたが、その通りだと思います。
本日のお披露目の儀では、セオドア様と僕の結婚式は、セオドア様が16歳になった誕生日に執り行うと発表されました。
あと2年。
あと2年もと言ったら、僕のブレーンたちから「あと2年しかない!」と言われました!頑張ります!
◇◇◇◇◇◇◇◇
あと一週間で、セオドア様との結婚式です!
セオドア様は16歳、僕は17歳になりました。
まだ王太子妃ではないので、この間まで僕はうちのタウンハウスに住んでいましたが、いよいよ式が近づき、昨日、王宮に移りました。
僕の王宮の部屋は、セオドア様の私室の隣で、ドア一つでつながっています。
え、へへへ、ここにきって、やっと結婚するという実感が生まれてます!
「まあ、なんて美しいのでしょう!」
僕の第二の母こと、正式に王太子妃付き女官長に任命されたバーネット様が感嘆の声を上げています。
ここは王太子妃の私室で、本日、結婚式で着用する正装一式が納品され、今、みんなでそれを眺めているところです。
正装は、オフホワイトのシルク生地、襟元、袖口、裾にダイヤモンドをふんだんに散りばめた長めのジャケットとスラックスです。
少しウェストを絞ったジャケットは、ボタンを金で統一。しかもそのボタンの周囲に真珠の縁取りをほどこし、カフスも同デザイン。そしてジャケットの前身ごろには国花である白蓮華が金糸と白糸で刺繍されています。
ジャケットとスラックスのデザインは、セオドア様と完全に同じ。二人の衣装の違いはベストです。ベストにはさらに凝った蓮華の刺繍がほどこされているのですが、セオドア様の蓮華の刺繍は金糸で、僕の刺繍は銀糸なのです。これはジャケットのボタンを外さないと見えないわけですが、見えないところが凝っている、これがいいんです!
そこへ侍従から声がかかりました。
「王妃様がいらっしゃいます」
先触れがあり、来られることは分かっていましたが、一気に緊張が走ります。が、それを見せないバーネット様と侍従たち。ちなみに侍従は全てマリルボーン侯爵家、ダドリー侯爵家、フィッツランド侯爵家の遠戚から選び、王妃の息のかかった者はいません。
「王妃様です」
王妃付き女官長のブーリン伯爵夫人の声です。このブーリン女官長はオレルアン侯爵家の親類。
「ごきげんよう」
王妃はにこやかです。この2年間、どんな罠を仕掛けてくるのかと思ってきた僕ですが、ここまでは何事もなく過ごしてきました。
そもそも、この2年間で、王妃に会ったのは10回だけ。新年の挨拶が2回、王妃主催のお茶会が4回、王家主催の晩餐会と舞踏会が4回と、いずれも公式行事の場だけです。プライベートでは一切、王妃は僕に会おうとしませんでした。しかもその10回とも、王妃は一度も僕に笑顔を見せませんでした。徹底的に嫌われているはず。それなのに、この笑顔…。
「いよいよですね、ラミエル」
「はい」
そういって王妃は用意した椅子に腰かけました。僕は目配せで紅茶を用意させます。
「素敵な衣装ですこと」
王妃と対面の位置に座った僕は「ありがとうございます」と、返答しました。
そこへ侍従が紅茶を運び、王妃付き女官が紅茶をカップに注ごうと、ティーポットを持ち上げました。すると、なぜかバランスを崩して、盛大にポットの紅茶が漏れて、結婚式の衣装に飛び散ったのです。
ガチャンと割れたポットの音だけが響きました。
「も、申し訳ございません!」
女官は腰を折って謝り続けます。
誰も声を上げられません。
「まあ、なんていうことを!」
王妃だけが声を上げました。
オフホワイトの結婚衣装にてんてんと付いた茶色のシミ。僕は、ふらっと席を立って衣装に近づきました。
「あと一週間で、同じ物を用意できるのかしら?」
背後から聞こえた王妃の声に、喜色が混じっていると思うのは、僕の妄想ではないと思います。
それが分かって満足。
期待というのは、裏切られた時、期待した者を砕くから。
振り返り、僕は満面の笑顔で「全く問題ありません。どんな不測の事態が起きるやもしれないと思い、同じ衣装をあちらに、もう一着用意しております」と、クローゼットを指すと、すかさずバーレット様がクローゼットの扉を開けました。そこには、まぎれもない婚礼衣装が置いてありました。
さらに僕は王妃に一歩近づき、「ちなみに、これと同じ衣装をさらにもう一着、陛下の私室にも置いて頂いています、念のために。陛下に『どんな事態が起きるかもしれないので』と伝えたら、私室に置く許可を頂きました。陛下は『私の部屋に入る者などいないから、そこが一番安全だ』と、仰せ下さいました」と、付け加えます。
暗に、王妃といえでも陛下の私室に入れないことを知っていると、匂わせたのです。
これが僕の宣戦布告。
王妃は、積もった雪が雨で溶けていくように、表情が消えた。
「さて、そうはいっても、この女官の無作法はひどい。私は王宮で二度と、この女の顔を見たくありません」
この女官は王妃の遠戚の伯爵家の娘です。もうすぐ王太子妃になる僕が「王宮で顔を見たくない」といえば、伯爵家は取り潰しか、準男爵へ降爵。いずれにせよ、当主もろとも王宮から締め出されることになるでしょう。女官(とうじしゃ)は、紅茶をかけた時以上に、真っ青になって言葉を失っています。王妃(うえ)の指示だったのでしょうが、僕はまったく同情しません。
「ええ、もちろん、そうね。ブーリン女官長、ラミエルの指示通りに処理して」
一人の人間の将来を潰す原因を作っておきながら、王妃は飲み物の好みでも伝えるように、あっさり命じました。
「それにしても、これほど見事な衣装を3着も用意できるなんて、実家に財力があるというのは素晴らしいわ。人って、何か一つくらい長所があるものね」
財力以外には長所がないと言いたいのでしょう。でもこれは言ってはいけなかった。つまり王妃にとって僕の実家の財力は、強力な武器だと認めたようなものだから。
「最後の一言に、王妃の本音が出ましたね」
バーネット様も同じように思ったのでしょう、王妃が部屋を出てから呟きました。
「紅茶をかけた後、ブーリン女官長は真っ青になっていた。おそらく紅茶の件については、彼女は知らされていなかったのだと思う」
バーネット様が目を見張ったので、僕の方が驚き、「何?」と言ってしまいました。
「ラミエル様、いえ、今から王太子妃殿下とお呼びいたします。ほんとうにたくましくなられました。この状況で、ブーリン女官長の顔色まで確認されるなんて!」
僕は、もう一度、まじまじとバーネット様を見つめます。バーネット様も僕を見て、二人して吹き出しました。
「王太子妃殿下」
バーネット様が畏まった声で僕を呼びます。
「国王陛下のお心の平安と、我が国の平和、そして王太子殿下と妃殿下の未来の治世のため、私ども一同、誠心誠意、お仕えさせて頂きます」
バーネット様の完璧なカーテシー、そして侍従たちの挨拶に僕は笑顔で答えました。
◇◇◇◇◇◇◇◇
セオドア様の16歳の誕生日。
それは僕たちの結婚式の日でもあります!
セオドア様、春に生まれてきてくれてありがとう!
花が咲き乱れ、空から光が降ってきました。
天気は穏やかで、日差しは暖か。
まるで世界中が祝福してくれるよう!
詩人のように語ってしまった僕、ラミエル・ラザフォードは、本日をもってラミエル・ラ・フェーメルになりました!
結婚式からバルコニーで国民へのお披露目、その後、白馬の豪華馬車で王都をパレード!
僕は周囲から言われるままに、動いて、着替えて、手を振って!笑顔、笑顔、笑顔!
ずっとティアラを付けたままだったので、首が死んでます!それはセオドア様も一緒のはずなのに、なぜかセオドア様は余裕でした!少なくとも、余裕に見えました!
そして、午後から披露宴、夜には王宮舞踏会!ファーストダンスは王太子殿下ご夫妻と紹介されても、赤くならなかった僕を褒めて!
そして今。
初夜です…。
僕は私室のベッドの上に正座。
侍従に、これでもかと洗われた体は、どこもかしこもピカピカ。髪からはふんわりいい匂い。でも心にはブリザードが吹き荒れてる!
閨教育は受けました!受けましたが、ガチガチです!
ガチャ。
セオドア様の私室とつながっているドアが開きました。
ここから入ってくる人は一人しかいません。
ぼ、ぼ、わ、私の王太子殿下、お、夫のセオドア様です。
チラッと僕を見たセオドア様は目の周りが赤くなってます!それに気づいて、僕も赤くなりました!もうボーボー燃えてる!この部屋が燃えちゃうくらい!
どうしよう!どうしよう!
セオドア様が僕の隣に座りました!重みで布団が傾き、僕は固まったまま、ごろんとセオドア様の横に転がってしまいました。僕の手と足はどうなっているんでしょう。
「ラミィ、大丈夫?」
慌てたセオドア様が僕を起こしてくれました。
「だ、大丈夫です」
セオドア様はふっと淡く笑いました。つられて僕も笑います。つられて笑うって、いいなあ。
「座学でね、閨教育は受けたけど…。私も初めてだから、だから、うまくできるか、自信がない…」
この二年の間で、セオドア様はより大きくなりました。体つきは精悍に男らしく、さらに身長も伸びて筋肉質でありながら、美しく!そんなセオドア様が「自信がない」なんて!
「僕も座学で受けましたけど、…もはや思い出せない」
二人で顔を見合わせて笑ってしまう。
「ラミィ、抱きしめても?」
僕が返事する前に、抱きしめられました。あったかくて、気持ちいい。ああ、気持ちいい。ふわふわする。
「ラミィ、すごくいい匂いがする。もしかして、もしかしてヒート?」
「え?」
僕はふんわりして「気持ちいいので、もっと抱きしめてください!」と、彼に抱き着きました。
「ああ、なんて…」
セオドア様がたまらず口づけしてきました。唇だけの合わさったキスから、どんどん濃厚になって、舌が絡まる。どうしよう、どうしてこんなに気持ちいいんだろう。
「ラミィ、ラミィ、息している?」
セオドア様がキスをやめると、寂しくなります。
「してます!だからやめないで!」
「ラミィ!」
気づくと僕は裸でベッドの上で横になっていました。いつの間に?熱を帯びたセオドア様が僕の乳首を吸うたびに、声がでちゃう!
「や、ああ」
「ラミィ、可愛い!」
二人して鍋で溶かしたバターになったよう。僕の体、あるよね?溶けてない?あるよね?
セオドア様が僕の足を持ち上げ、膝を折りたたむようにしました。そしてそして!
「やあ、そこ舐めないで!」
セオドア様の舌が僕の中に入ってくる!何度も何度も舐められて、愛されて、そのたびに体がビクビクする!
「あ、あ、出る、出ちゃう!イっちゃうよ、イっちゃうから!」
それでも舌は僕の秘部をなめ続け、足指がつっぱって、またイっちゃう
「また、また、くるよ、きちゃう!」
「かわいい、かわいい、なんてかわいい、僕のラミエル」
セオドア様が「僕」といった。ああ、まだ16歳なんだもの。
「セオドアさ、さま。キスして」
「ラミィ…」
セオドア様の顔は赤くて綺麗で興奮してて、唾やら何やらで濡れていて…。
16歳なのに、いろんなもの背負い、これからは国も背負う。
だから、だから僕も一緒に背負わせて。
「セオドア様、僕を見つけてくれて、ありがとう」
つーと、涙がこぼれます。
セオドア様は僕の涙をなめとり、「ラミィ、僕の番!」と熱にうなされたように呟きました。そして彼の指が僕の中に。
「あ、あ、あ、もうだめ!」
指が1本になり、2本になって、僕の声さえ枯れた頃。
「ラミィ、入れるよ」
セオドア様が入ってきました。
熱くて、熱くて、すごい熱量のセオドア様。体が開かれて、セオドア様の形になるよう。
一度、熱い楔は止まり、彼の息遣いだけが響く。
これで終わりじゃないと、なんとなく分かった時、一気に奥に響いた。
「ラミィ…」
ほーっというセオドア様の声が聞こえたのも束の間、その後は暴風の中に入ってしまった。
そうして、項を嚙まれました。
僕は泣き叫びながら達して、セオドア様も達して。だけど台風は1個だけじゃなく、その後も次々に発生し、王宮の僕の私室限定で、一晩中、吹き荒れました…。
◇◇◇◇◇◇◇◇
※視点が変わります。バーネット女官長視点。
「はあ、感無量ですわ」
今頃は、私のかわいい、かわいい妃殿下が王太子殿下と…!
「きゃー!」
「叔母上、心の声が駄々洩れです」
「相変わらず、可愛げがないわね~」
「叔母上のにやけ顔は、心の臓の弱い者が見たら、止まるレベルなので、おやめください」
ほんとに憎たらしい子!この子は、私の妹の息子、つまり私の甥。グロスター伯爵家の次男でアルファのイディア・グロスター、18歳。結婚する意志は今のところなく、将来は王宮で成り上がると豪語し、猛勉強していたところを、1年前に私が声をかけて王太子妃専属の侍従として呼んだというわけ。
将来の妃殿下の家令ね。王族付きの家令といえば、家柄・容姿・能力の三拍子が揃ってないと無理だけど、イディアなら全てがクリア。家令といえば、王宮で仕える男子のトップだから、イディアの成り上がり思考にピッタリだし、女官長である私との相性もいいので、これ以上の人材はいないわ。
アルファだけど、抑止剤が体に合うことと、ラミエル様が王太子殿下と番ったら問題も起きないので、今日をもって正式に妃殿下の侍従になりましたの。
長所は、見た目と考え方が私にそっくりなところ。短所は口が悪いところかしらね。
「ところで叔母上はどちらへ?」
王太子殿下のご成婚で王宮内は興奮状態。無礼講で王宮の庭園は解放され、まだまだ貴族連中のバカ騒ぎが続いているわ。
そんな中、私はすたすたと王宮の奥へ進んでいます。
「女官長と呼びなさいよ。ダイニングルームよ」
速足の私に負けじと、イディアもピッタリ横についてくる。
「なるほど…。こういう浮かれた時こそ、王妃(てき)は動きますからね」
「一週間前の紅茶ぶっかけ事件。あの場にいたでしょ、あなたも。私の見立てでは、王妃(てき)は、もうなりふり構わず仕掛けてくると睨んでいるの」
「確かに」
「イディア、悪人面しているわよ」
「女官長ほどではないですよ」
憎まれ口を叩きながら歩いていくと、もう少しで王城2階のダイニングルームに着きそうだわ。
王族方が食事をする場所(ダイニングルーム)は4階にあります。つまり、皆様方の私室の近くです。
私が目指すダイニングルームは、王族方に食事を給仕する前に、食器を出して盛り付けて並べ、毒見役が任務を遂行する場所。
その時、私たちは窓際を歩いていたので気づいたの。
「あの大きな木箱はなんですか?」
私と同じことを思ったイディアが問いかけた。
「わからないわ。とにかく急ぎましょ!」
作業員が、大きな木箱を次々に1階に運び入れているんですもの、急がなきゃ!
ダイニングルームに着くと、その木箱は既に運び込まれていたわ。
私たちに気づかず、作業に没頭している女官は、王妃付き女官ではなく、王宮勤務のダイニングメイドたち3名だ。
「ごきげんよう」
私の登場に、全員が固まってしまった。
「楽にして頂戴。今日は無礼講でしょ。そんな日にこんなに仕事している忠義な方々に挨拶をしにきただけよ」
その中の一人が、おずおずと返事をした。おそらく彼女がこの中では一番上なのだろう。
「よもや女官長様がいらっしゃるとは思いもしませんでした」
中年のベテランと見た。
「いいのよ。ところで、この木箱は何?」
私は言いながら、箱をさりげなく観察した。すると、箱の上部に羊皮紙に書かれた「国王陛下」というメモが置いてあった。別の箱には「王妃様」、「王太子殿下」というメモ。それ以外の箱も見ると、「王太子妃殿下」、「第二王子」と書いたメモがある。
「こちらは新しい王族用の銀食器一式でございます。本日、届いたものです」
私は開いている箱の中身を見る。
「そう。新しくしたのね」
「はい。王妃様が王太子殿下ご成婚を記念して新しくしましょうと仰せになりまして、王妃様の御実家から送って頂きました」
「そう。王妃様の御実家の銀でしょうね」
「そのように伺っています」
私は壁際にある立派な食器棚に視線を移した。その食器棚も新しくしたのだろう、女性でも手を伸ばせば食器が取れる高さの同じデザインの棚が5つある。
右の壁には二つの棚が並び、「国王陛下」、「王妃様」と刻まれた真鍮のプレートが打ち付けてあり、左の壁の棚を見ると、「王太子殿下」、「王太子妃殿下」、「第二王子殿下」と刻んだプレートがあった。
「ねえ、私は女官長としては新参者なのよ。だから教えて頂戴。王族ごとに使用する食器を分けているの?これまでもそうだった?」
「いえ、これまでは分けておりませんでした。これも王妃様のご指示なのですが、これから王族も増えるので、より安全を期して王族ごとに使う食器を分けましょうと仰せられて…。本日納品でしたので、明日の朝から使用するため、今、分けて棚に納めるところです」
私は銀食器には触れられない。どこでどんな噂が出るか分からないので、触れるわけにはいかないのよ。だから、眺めながらさらに質問した。
「そう。わざわざ分けるなんて、王族ごとに食器のデザインが違うとか?もしくはナンバリングされていたり?新参者だから、こんなことも知らなくて」
「とんでもございません!デザインは全て同じで、特に食器に王族方のお名前が刻まれているというわけではありませんし、ナンバリングもございません」
「そうなの!教えてくれてありがとう!ご成婚の日まで、こんなに熱心に仕事をしている皆さんにお礼を差し上げなければ。ねえ、侍従」
イディアの美貌に、3人の女官は顔を赤くして、俯いてしまった。私はイディアに目配せをした。
「仕事熱心な皆様に、こちらの贈り物をいたしましょう」
イディアはこれでもかという笑顔で、婚約者お披露目の儀で配ったハンカチを取り出す。いつでも使える小物は常に携帯。さすが我が甥っ子!
三人の女官は感嘆の声をあげ、「そんな素晴らしいもの、頂けません!」とか「勿体ない」と恐縮するので、あえてイディアはさらに女官たちに近づき、「ああ、かわいらしい方々、どうかそんなに畏まらないでください」と、イディアの真骨頂、女たらし能力を存分に発揮!
ほんと、こういうところも使える甥で、良かったわ!
王太子妃、ご懐妊発表まで、あと5か月!
お披露目の儀がやってきました!
領地からやってきた母上と意気投合し、僕の二人目の母になったようなバーネット様は、まるでオーケストラの指揮者のように、我がタウンハウス内で采配を振るい、僕の見た目の十割増しを目指し、美容家兼女官長と大活躍です。
そしてクリメイソン公爵は、「王太子殿下の目の色と同じだから」という理由で、公爵家の家宝「龍(ドラゴン)の涙」という大きなエメラルドのブローチを貸してくださいました!
このブローチは国宝級の代物で、これまで一度も他家に貸すことはなかったそうです。これを僕が付けることで、クリメイソン公爵家は全面的に未来の王太子妃を支持するという表明にもなるとおっしゃってくださいました。
さらにドランスバルノ公爵家のトーリオ様も、同じく国宝級のパパラチアサファイアのブローチ、別名で「蓮華の女王」と呼ばれる宝石を貸してくれました。このサファイアは桃色と橙色のまざったような色で、産出量がとても少ない貴重な宝石だそうです。トーリオ様曰く「ラミエル様の瞳の色と同じだから、セオドア殿下が身に着けたら、それは美しい対になるし、ドランスバルノ公爵家として王太子妃を全面支持するという証になる」とのことです。
この二つの宝石だけで、警護にさく人数が倍になりました。セオドア様は「宝石にかこつけて、警護が増やせるからちょうどいい」と、不敵に笑いました。
お披露目は、王宮で一番大きな広間を使用する予定ですが、その広間をそのまま使うなんてこと、バーネット様が許すはずがありません。なんと10日前から内装専門の職人を雇い、大鏡をいくつも広間に運ばせ、なんと即席で「鏡の間」に仕立ててしまいました!すごい!
そして―。
僕は今、セオドア様と並び立って、国王陛下と王妃に婚約の挨拶を終えたところです。
次に二人で振り返り、居並ぶ貴族たちにも正式に挨拶します。セオドア様に目配せすると、彼は頷き前を向いて、一歩前に出ました。
「偉大なるガリア王国の貴族家に紹介しよう。我が婚約者ラミエル・ラザフォード!」
セオドア様から紹介され、僕も一歩前に出て彼と並びます。
「ジェラルド・ラザフォード侯爵が末子、ラミエル・ラザフォードと申します。以後、お見知りおき願います」
僕は右手をお腹に、左手を広げて、ボウ・アンド・スクレープをしました。顔をあげると、自然に笑みがこぼれます。左後ろに控えたトーリオ様が「合格」と小声でいい、右後ろのバーネット様からは「貴族家に頭を下げるのは、これが最後」と言われました。
即席の鏡の間は、セオドア様と僕が身につけた宝石を輝かせ、シャンデリアと相まって、きらきらと光が降り注いでいます。
「皆様、本日の記念にラザフォード侯爵家から、ささやかな贈り物を用意しました」
僕の合図に、銀の物入れを持った侍従たちが一人ひとりにハンカチを配り始めました。
「まあ、なんて美しい!」
「ダイヤモンドで縁取りされている!」
「こんなハンカチ、見たことないわ!」
この日のために、最高級シルク生地に、ダイヤモンドの縁取り入りのハンカチを用意したのです。ダイヤモンドを 研磨する際に出るクズダイヤを使ったものだけど、ダイヤモンドには違いないしね!
僕はセオドア様と離れ、トーリオ様とバーネット様の二人を従えて、公爵家から順番に御夫人方に声をかけていきます。
宰相閣下の奥方・クリメイソン公爵夫人アーシャ様、トーリオ様の母上・ドランスバルノ公爵夫人フェリシア様と挨拶。ここまでは身内同然。
さあ、いよいよ王妃の実母、オレルアン侯爵夫人です。
トーリオ様が、セオドア様は背中に目があるのではないかというくらい、僕の様子を把握していると言っていました。ほんとにそうでした。セオドア様からの心配オーラをひしひしと感じます。でも僕は大丈夫。だから僕も大丈夫オーラを必死で送ります。
オレルアン侯爵夫人はベータの女性で、面差しが王妃に似ていました。
「ごきげんよう、オレルアン侯爵夫人」
「このたびはおめでとうございます、ラザフォード侯爵御令息」
親しい仲ではないので爵位で呼び合います。
侯爵夫人は周囲をチラッと見渡し、「まさか広間を鏡の間になさるなんて、中々、出来ることではありませんわ」と、扇で口元を隠しながら言いました。
「ありがとうございます」
「それにこのハンカチ!…あの噂はほんとかしら…。妃殿下の地位を金で買ったなんて?」
僕の後方から、凄まじい冷気が…。トーリオ・バーネット寒気団です!
「そんな噂があるなんて驚きました。でも、それは王妃様に対する不敬ですね?」
侯爵夫人は扇を閉じ、僕を見据えます。
「え?」
「王妃様はご婚約のお披露目の儀の時、全員に銀製の小物入れを配ったそうですね。恥ずかしながら、実は当家はそれを模倣しただけなのです。ですから、今回の当家のやり方を批判する者は、王妃様のなさったことを批判するのも同じ。…そう思われませんか?」
「…」
僕はにっこり笑って続けました。
「ですから、侯爵夫人。その噂はオレルアン侯爵家に対する侮辱でもあります。口にしない方がよろしいかと…」
「え、ええ」
侯爵夫人は、やっと扇に注意を向けられたようで、パタパタとあおぎ始めました。
「ではごきげんよう」
僕の後方の寒気団は温暖化したようです。良かった!
結局、今回のお披露目の儀において、僕の胸元につけたクリメイソン公爵から借りたエメラルド、「龍(ドラゴン)の涙」を褒めなかった貴族は10家で、オルレアン侯爵家以外は9家の伯爵家だけでした。つまり、王妃派はこの10家だけだと分かりました。思ったよりずっと少ない!
トーリオ様は「国王陛下に対する敬愛と信頼が強い貴族家は、王妃派にはならない」と分析していましたが、その通りだと思います。
本日のお披露目の儀では、セオドア様と僕の結婚式は、セオドア様が16歳になった誕生日に執り行うと発表されました。
あと2年。
あと2年もと言ったら、僕のブレーンたちから「あと2年しかない!」と言われました!頑張ります!
◇◇◇◇◇◇◇◇
あと一週間で、セオドア様との結婚式です!
セオドア様は16歳、僕は17歳になりました。
まだ王太子妃ではないので、この間まで僕はうちのタウンハウスに住んでいましたが、いよいよ式が近づき、昨日、王宮に移りました。
僕の王宮の部屋は、セオドア様の私室の隣で、ドア一つでつながっています。
え、へへへ、ここにきって、やっと結婚するという実感が生まれてます!
「まあ、なんて美しいのでしょう!」
僕の第二の母こと、正式に王太子妃付き女官長に任命されたバーネット様が感嘆の声を上げています。
ここは王太子妃の私室で、本日、結婚式で着用する正装一式が納品され、今、みんなでそれを眺めているところです。
正装は、オフホワイトのシルク生地、襟元、袖口、裾にダイヤモンドをふんだんに散りばめた長めのジャケットとスラックスです。
少しウェストを絞ったジャケットは、ボタンを金で統一。しかもそのボタンの周囲に真珠の縁取りをほどこし、カフスも同デザイン。そしてジャケットの前身ごろには国花である白蓮華が金糸と白糸で刺繍されています。
ジャケットとスラックスのデザインは、セオドア様と完全に同じ。二人の衣装の違いはベストです。ベストにはさらに凝った蓮華の刺繍がほどこされているのですが、セオドア様の蓮華の刺繍は金糸で、僕の刺繍は銀糸なのです。これはジャケットのボタンを外さないと見えないわけですが、見えないところが凝っている、これがいいんです!
そこへ侍従から声がかかりました。
「王妃様がいらっしゃいます」
先触れがあり、来られることは分かっていましたが、一気に緊張が走ります。が、それを見せないバーネット様と侍従たち。ちなみに侍従は全てマリルボーン侯爵家、ダドリー侯爵家、フィッツランド侯爵家の遠戚から選び、王妃の息のかかった者はいません。
「王妃様です」
王妃付き女官長のブーリン伯爵夫人の声です。このブーリン女官長はオレルアン侯爵家の親類。
「ごきげんよう」
王妃はにこやかです。この2年間、どんな罠を仕掛けてくるのかと思ってきた僕ですが、ここまでは何事もなく過ごしてきました。
そもそも、この2年間で、王妃に会ったのは10回だけ。新年の挨拶が2回、王妃主催のお茶会が4回、王家主催の晩餐会と舞踏会が4回と、いずれも公式行事の場だけです。プライベートでは一切、王妃は僕に会おうとしませんでした。しかもその10回とも、王妃は一度も僕に笑顔を見せませんでした。徹底的に嫌われているはず。それなのに、この笑顔…。
「いよいよですね、ラミエル」
「はい」
そういって王妃は用意した椅子に腰かけました。僕は目配せで紅茶を用意させます。
「素敵な衣装ですこと」
王妃と対面の位置に座った僕は「ありがとうございます」と、返答しました。
そこへ侍従が紅茶を運び、王妃付き女官が紅茶をカップに注ごうと、ティーポットを持ち上げました。すると、なぜかバランスを崩して、盛大にポットの紅茶が漏れて、結婚式の衣装に飛び散ったのです。
ガチャンと割れたポットの音だけが響きました。
「も、申し訳ございません!」
女官は腰を折って謝り続けます。
誰も声を上げられません。
「まあ、なんていうことを!」
王妃だけが声を上げました。
オフホワイトの結婚衣装にてんてんと付いた茶色のシミ。僕は、ふらっと席を立って衣装に近づきました。
「あと一週間で、同じ物を用意できるのかしら?」
背後から聞こえた王妃の声に、喜色が混じっていると思うのは、僕の妄想ではないと思います。
それが分かって満足。
期待というのは、裏切られた時、期待した者を砕くから。
振り返り、僕は満面の笑顔で「全く問題ありません。どんな不測の事態が起きるやもしれないと思い、同じ衣装をあちらに、もう一着用意しております」と、クローゼットを指すと、すかさずバーレット様がクローゼットの扉を開けました。そこには、まぎれもない婚礼衣装が置いてありました。
さらに僕は王妃に一歩近づき、「ちなみに、これと同じ衣装をさらにもう一着、陛下の私室にも置いて頂いています、念のために。陛下に『どんな事態が起きるかもしれないので』と伝えたら、私室に置く許可を頂きました。陛下は『私の部屋に入る者などいないから、そこが一番安全だ』と、仰せ下さいました」と、付け加えます。
暗に、王妃といえでも陛下の私室に入れないことを知っていると、匂わせたのです。
これが僕の宣戦布告。
王妃は、積もった雪が雨で溶けていくように、表情が消えた。
「さて、そうはいっても、この女官の無作法はひどい。私は王宮で二度と、この女の顔を見たくありません」
この女官は王妃の遠戚の伯爵家の娘です。もうすぐ王太子妃になる僕が「王宮で顔を見たくない」といえば、伯爵家は取り潰しか、準男爵へ降爵。いずれにせよ、当主もろとも王宮から締め出されることになるでしょう。女官(とうじしゃ)は、紅茶をかけた時以上に、真っ青になって言葉を失っています。王妃(うえ)の指示だったのでしょうが、僕はまったく同情しません。
「ええ、もちろん、そうね。ブーリン女官長、ラミエルの指示通りに処理して」
一人の人間の将来を潰す原因を作っておきながら、王妃は飲み物の好みでも伝えるように、あっさり命じました。
「それにしても、これほど見事な衣装を3着も用意できるなんて、実家に財力があるというのは素晴らしいわ。人って、何か一つくらい長所があるものね」
財力以外には長所がないと言いたいのでしょう。でもこれは言ってはいけなかった。つまり王妃にとって僕の実家の財力は、強力な武器だと認めたようなものだから。
「最後の一言に、王妃の本音が出ましたね」
バーネット様も同じように思ったのでしょう、王妃が部屋を出てから呟きました。
「紅茶をかけた後、ブーリン女官長は真っ青になっていた。おそらく紅茶の件については、彼女は知らされていなかったのだと思う」
バーネット様が目を見張ったので、僕の方が驚き、「何?」と言ってしまいました。
「ラミエル様、いえ、今から王太子妃殿下とお呼びいたします。ほんとうにたくましくなられました。この状況で、ブーリン女官長の顔色まで確認されるなんて!」
僕は、もう一度、まじまじとバーネット様を見つめます。バーネット様も僕を見て、二人して吹き出しました。
「王太子妃殿下」
バーネット様が畏まった声で僕を呼びます。
「国王陛下のお心の平安と、我が国の平和、そして王太子殿下と妃殿下の未来の治世のため、私ども一同、誠心誠意、お仕えさせて頂きます」
バーネット様の完璧なカーテシー、そして侍従たちの挨拶に僕は笑顔で答えました。
◇◇◇◇◇◇◇◇
セオドア様の16歳の誕生日。
それは僕たちの結婚式の日でもあります!
セオドア様、春に生まれてきてくれてありがとう!
花が咲き乱れ、空から光が降ってきました。
天気は穏やかで、日差しは暖か。
まるで世界中が祝福してくれるよう!
詩人のように語ってしまった僕、ラミエル・ラザフォードは、本日をもってラミエル・ラ・フェーメルになりました!
結婚式からバルコニーで国民へのお披露目、その後、白馬の豪華馬車で王都をパレード!
僕は周囲から言われるままに、動いて、着替えて、手を振って!笑顔、笑顔、笑顔!
ずっとティアラを付けたままだったので、首が死んでます!それはセオドア様も一緒のはずなのに、なぜかセオドア様は余裕でした!少なくとも、余裕に見えました!
そして、午後から披露宴、夜には王宮舞踏会!ファーストダンスは王太子殿下ご夫妻と紹介されても、赤くならなかった僕を褒めて!
そして今。
初夜です…。
僕は私室のベッドの上に正座。
侍従に、これでもかと洗われた体は、どこもかしこもピカピカ。髪からはふんわりいい匂い。でも心にはブリザードが吹き荒れてる!
閨教育は受けました!受けましたが、ガチガチです!
ガチャ。
セオドア様の私室とつながっているドアが開きました。
ここから入ってくる人は一人しかいません。
ぼ、ぼ、わ、私の王太子殿下、お、夫のセオドア様です。
チラッと僕を見たセオドア様は目の周りが赤くなってます!それに気づいて、僕も赤くなりました!もうボーボー燃えてる!この部屋が燃えちゃうくらい!
どうしよう!どうしよう!
セオドア様が僕の隣に座りました!重みで布団が傾き、僕は固まったまま、ごろんとセオドア様の横に転がってしまいました。僕の手と足はどうなっているんでしょう。
「ラミィ、大丈夫?」
慌てたセオドア様が僕を起こしてくれました。
「だ、大丈夫です」
セオドア様はふっと淡く笑いました。つられて僕も笑います。つられて笑うって、いいなあ。
「座学でね、閨教育は受けたけど…。私も初めてだから、だから、うまくできるか、自信がない…」
この二年の間で、セオドア様はより大きくなりました。体つきは精悍に男らしく、さらに身長も伸びて筋肉質でありながら、美しく!そんなセオドア様が「自信がない」なんて!
「僕も座学で受けましたけど、…もはや思い出せない」
二人で顔を見合わせて笑ってしまう。
「ラミィ、抱きしめても?」
僕が返事する前に、抱きしめられました。あったかくて、気持ちいい。ああ、気持ちいい。ふわふわする。
「ラミィ、すごくいい匂いがする。もしかして、もしかしてヒート?」
「え?」
僕はふんわりして「気持ちいいので、もっと抱きしめてください!」と、彼に抱き着きました。
「ああ、なんて…」
セオドア様がたまらず口づけしてきました。唇だけの合わさったキスから、どんどん濃厚になって、舌が絡まる。どうしよう、どうしてこんなに気持ちいいんだろう。
「ラミィ、ラミィ、息している?」
セオドア様がキスをやめると、寂しくなります。
「してます!だからやめないで!」
「ラミィ!」
気づくと僕は裸でベッドの上で横になっていました。いつの間に?熱を帯びたセオドア様が僕の乳首を吸うたびに、声がでちゃう!
「や、ああ」
「ラミィ、可愛い!」
二人して鍋で溶かしたバターになったよう。僕の体、あるよね?溶けてない?あるよね?
セオドア様が僕の足を持ち上げ、膝を折りたたむようにしました。そしてそして!
「やあ、そこ舐めないで!」
セオドア様の舌が僕の中に入ってくる!何度も何度も舐められて、愛されて、そのたびに体がビクビクする!
「あ、あ、出る、出ちゃう!イっちゃうよ、イっちゃうから!」
それでも舌は僕の秘部をなめ続け、足指がつっぱって、またイっちゃう
「また、また、くるよ、きちゃう!」
「かわいい、かわいい、なんてかわいい、僕のラミエル」
セオドア様が「僕」といった。ああ、まだ16歳なんだもの。
「セオドアさ、さま。キスして」
「ラミィ…」
セオドア様の顔は赤くて綺麗で興奮してて、唾やら何やらで濡れていて…。
16歳なのに、いろんなもの背負い、これからは国も背負う。
だから、だから僕も一緒に背負わせて。
「セオドア様、僕を見つけてくれて、ありがとう」
つーと、涙がこぼれます。
セオドア様は僕の涙をなめとり、「ラミィ、僕の番!」と熱にうなされたように呟きました。そして彼の指が僕の中に。
「あ、あ、あ、もうだめ!」
指が1本になり、2本になって、僕の声さえ枯れた頃。
「ラミィ、入れるよ」
セオドア様が入ってきました。
熱くて、熱くて、すごい熱量のセオドア様。体が開かれて、セオドア様の形になるよう。
一度、熱い楔は止まり、彼の息遣いだけが響く。
これで終わりじゃないと、なんとなく分かった時、一気に奥に響いた。
「ラミィ…」
ほーっというセオドア様の声が聞こえたのも束の間、その後は暴風の中に入ってしまった。
そうして、項を嚙まれました。
僕は泣き叫びながら達して、セオドア様も達して。だけど台風は1個だけじゃなく、その後も次々に発生し、王宮の僕の私室限定で、一晩中、吹き荒れました…。
◇◇◇◇◇◇◇◇
※視点が変わります。バーネット女官長視点。
「はあ、感無量ですわ」
今頃は、私のかわいい、かわいい妃殿下が王太子殿下と…!
「きゃー!」
「叔母上、心の声が駄々洩れです」
「相変わらず、可愛げがないわね~」
「叔母上のにやけ顔は、心の臓の弱い者が見たら、止まるレベルなので、おやめください」
ほんとに憎たらしい子!この子は、私の妹の息子、つまり私の甥。グロスター伯爵家の次男でアルファのイディア・グロスター、18歳。結婚する意志は今のところなく、将来は王宮で成り上がると豪語し、猛勉強していたところを、1年前に私が声をかけて王太子妃専属の侍従として呼んだというわけ。
将来の妃殿下の家令ね。王族付きの家令といえば、家柄・容姿・能力の三拍子が揃ってないと無理だけど、イディアなら全てがクリア。家令といえば、王宮で仕える男子のトップだから、イディアの成り上がり思考にピッタリだし、女官長である私との相性もいいので、これ以上の人材はいないわ。
アルファだけど、抑止剤が体に合うことと、ラミエル様が王太子殿下と番ったら問題も起きないので、今日をもって正式に妃殿下の侍従になりましたの。
長所は、見た目と考え方が私にそっくりなところ。短所は口が悪いところかしらね。
「ところで叔母上はどちらへ?」
王太子殿下のご成婚で王宮内は興奮状態。無礼講で王宮の庭園は解放され、まだまだ貴族連中のバカ騒ぎが続いているわ。
そんな中、私はすたすたと王宮の奥へ進んでいます。
「女官長と呼びなさいよ。ダイニングルームよ」
速足の私に負けじと、イディアもピッタリ横についてくる。
「なるほど…。こういう浮かれた時こそ、王妃(てき)は動きますからね」
「一週間前の紅茶ぶっかけ事件。あの場にいたでしょ、あなたも。私の見立てでは、王妃(てき)は、もうなりふり構わず仕掛けてくると睨んでいるの」
「確かに」
「イディア、悪人面しているわよ」
「女官長ほどではないですよ」
憎まれ口を叩きながら歩いていくと、もう少しで王城2階のダイニングルームに着きそうだわ。
王族方が食事をする場所(ダイニングルーム)は4階にあります。つまり、皆様方の私室の近くです。
私が目指すダイニングルームは、王族方に食事を給仕する前に、食器を出して盛り付けて並べ、毒見役が任務を遂行する場所。
その時、私たちは窓際を歩いていたので気づいたの。
「あの大きな木箱はなんですか?」
私と同じことを思ったイディアが問いかけた。
「わからないわ。とにかく急ぎましょ!」
作業員が、大きな木箱を次々に1階に運び入れているんですもの、急がなきゃ!
ダイニングルームに着くと、その木箱は既に運び込まれていたわ。
私たちに気づかず、作業に没頭している女官は、王妃付き女官ではなく、王宮勤務のダイニングメイドたち3名だ。
「ごきげんよう」
私の登場に、全員が固まってしまった。
「楽にして頂戴。今日は無礼講でしょ。そんな日にこんなに仕事している忠義な方々に挨拶をしにきただけよ」
その中の一人が、おずおずと返事をした。おそらく彼女がこの中では一番上なのだろう。
「よもや女官長様がいらっしゃるとは思いもしませんでした」
中年のベテランと見た。
「いいのよ。ところで、この木箱は何?」
私は言いながら、箱をさりげなく観察した。すると、箱の上部に羊皮紙に書かれた「国王陛下」というメモが置いてあった。別の箱には「王妃様」、「王太子殿下」というメモ。それ以外の箱も見ると、「王太子妃殿下」、「第二王子」と書いたメモがある。
「こちらは新しい王族用の銀食器一式でございます。本日、届いたものです」
私は開いている箱の中身を見る。
「そう。新しくしたのね」
「はい。王妃様が王太子殿下ご成婚を記念して新しくしましょうと仰せになりまして、王妃様の御実家から送って頂きました」
「そう。王妃様の御実家の銀でしょうね」
「そのように伺っています」
私は壁際にある立派な食器棚に視線を移した。その食器棚も新しくしたのだろう、女性でも手を伸ばせば食器が取れる高さの同じデザインの棚が5つある。
右の壁には二つの棚が並び、「国王陛下」、「王妃様」と刻まれた真鍮のプレートが打ち付けてあり、左の壁の棚を見ると、「王太子殿下」、「王太子妃殿下」、「第二王子殿下」と刻んだプレートがあった。
「ねえ、私は女官長としては新参者なのよ。だから教えて頂戴。王族ごとに使用する食器を分けているの?これまでもそうだった?」
「いえ、これまでは分けておりませんでした。これも王妃様のご指示なのですが、これから王族も増えるので、より安全を期して王族ごとに使う食器を分けましょうと仰せられて…。本日納品でしたので、明日の朝から使用するため、今、分けて棚に納めるところです」
私は銀食器には触れられない。どこでどんな噂が出るか分からないので、触れるわけにはいかないのよ。だから、眺めながらさらに質問した。
「そう。わざわざ分けるなんて、王族ごとに食器のデザインが違うとか?もしくはナンバリングされていたり?新参者だから、こんなことも知らなくて」
「とんでもございません!デザインは全て同じで、特に食器に王族方のお名前が刻まれているというわけではありませんし、ナンバリングもございません」
「そうなの!教えてくれてありがとう!ご成婚の日まで、こんなに熱心に仕事をしている皆さんにお礼を差し上げなければ。ねえ、侍従」
イディアの美貌に、3人の女官は顔を赤くして、俯いてしまった。私はイディアに目配せをした。
「仕事熱心な皆様に、こちらの贈り物をいたしましょう」
イディアはこれでもかという笑顔で、婚約者お披露目の儀で配ったハンカチを取り出す。いつでも使える小物は常に携帯。さすが我が甥っ子!
三人の女官は感嘆の声をあげ、「そんな素晴らしいもの、頂けません!」とか「勿体ない」と恐縮するので、あえてイディアはさらに女官たちに近づき、「ああ、かわいらしい方々、どうかそんなに畏まらないでください」と、イディアの真骨頂、女たらし能力を存分に発揮!
ほんと、こういうところも使える甥で、良かったわ!
王太子妃、ご懐妊発表まで、あと5か月!
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