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48. 謎のオーロラ美少年とクズ侍従とクズ騎士団員…②
しおりを挟む侍従サオ・アベル。
アベル男爵家の三男だ。見た目は完璧な美青年だが、性格は完璧なナルシスト。日々、自分の美貌を磨くことに余念のない下っ端侍従である。
サオは侍従としては4年目で、同期の侍従が順調に経験を積み、王族の専属担当へと出世していくなか、己の美貌を磨くほどの熱量は仕事に向かっていないので、いつまでたってもイレギュラー担当だ。
イレギュラー担当侍従とは、例えば王太子専属侍従が体調不良で欠勤、もしくは有給休暇を取った時だけ、王太子付きになるという具合で、正規の侍従が任に当たれない場合のカバー担当のことをいう。これ以外では、他国からの使節団等が来た時などは接待係として駆り出されている。
周囲からは「自分の美貌を磨くことに向ける情熱と同じくらいに、仕事にも取り組めばいいのに」と評価されているが、それに本人は気づいていない。
今日も今日とてほうれい線を伸ばす口内運動をしながら、日焼けを恐れて日陰のベンチで野菜中心の弁当を膝の上に広げていた。
「よう、ナルちゃん!今日も熱心だな~」
どんな美貌であってもジョンには響かない。ナルちゃんなどまっぴらごめんだからだ。ちなみにナルちゃんとは、ナルシストのことで、ジョンはサオをそう勝手に呼んでいるのだ。
昼食を食べるお気に入りの場所が、たまたま同じだったことで、お互いに憎まれ口を叩く仲だ。
「脳筋には言われたくないね!」
サオは答えながら、口内運動を続けている。
サオの隣に、どかっと座るジョン。
「ちょっと暑苦しいから、近くにこないでよ!」
「いや~、いつにも増して、熱心に取り組んでいるなと思ってな」
「当然じゃない!サマーフェスティバルまで、あと三週間なんだよ!今日は、仕事の後に商店街にいって、呼び込みもあるし!」
王都商店街主催のサマーフェスティバルでは様々なイベントが開催される。その中の目玉が「オリアナビューティーボーイズコンテスト」。略して「OBB総選挙」。年1回開催される美青年コンテストだ。商店街が主催するだけあって、王都商店街で買い物をすると、コンテストへの投票券がもらえるシステムになっている。しかも、投票は一人1回だけではない。商店街で買い物をしたら、した分だけ貰えるので、一人で何回でも投票できた。
コンテストの出場者は自薦他薦を問わず、自由に応募可。中には受けを狙って、ごっつい騎士団員が応募したりするが、結構真剣に応募する者が多い。
なぜか。
このOBB総選挙で上位7人に入ると、商店街から賞金と共にプロの絵師による「絵姿集」を発行してもらえるからだ。
写真のないオリアナでは人の姿は絵で残す。「絵姿集」とは、いわば写真集。腕のいい絵師への報酬は高額なので、この「絵姿集」を無料で手に入れられるというのは、参加者にとって結構なモチベーションになっていた。若かりし頃の己の姿を残せるからだろう。芸能人が若い時の写真をSNSにアップするのと気持ちは同じか。
この「絵姿集」作成の権利を得た者、つまり上位7人に入ると「紙7」(誤植ではない)と呼ばれ、ファンクラブ?まで出来る有り様。
この「紙7」は、1年間、商店街主催の様々なイベントに呼ばれ、きゃーきゃーと騒がれて、己の自尊心をかなり満たすことができた。もちろんイベントに出るたびに商店街から報酬も出るので、この報酬を目当てにコンテスト優勝を目論む者もいる。
サオは、一昨年は2位、昨年は1位で、ついにセンターを手に入れた。センターとは「紙7」に選ばれた7人の中で、優勝した者が中央に立つことを言い、そこから派生して、優勝者の称号のような扱いになっていた。センターになると、様々なイベントでセンターに立って参加できる。センターにいる者が、OBBの優勝者だということは、みんな知っているので、気分は最高。
サオは今年もセンターを取るべく、仕事の後は商店街の様々な店に出向き、「いらっしゃいませ!」と客引きを行い、商品を買わせたら「僕はサオです!OBBでは僕に投票してね!」と、美貌を駆使しての営業活動を行っているのだ。
これはサオだけでなく、出場者はみなしていた。商店街側からしても、商品は売れるし、無給で客引きもやってもらえるしで、いい事づくめ。OBBが近づくと、さらに出場者は熱心に商店街に赴くので、もはやオリアナの夏の風物詩。
「おまえさ、空しくね?」
「何が?」
昼食時のほうれい線対策を終了したサオは弁当を開けながら、不機嫌に対応。
「だってさ、いくらOBBに優勝したところで、おまえよりはるかにきれいで可愛い子がいるんだぜ?」
サオの目が吊り上がる。
「はあ?なに言ってくれるわけ?OBBでセンター取ったら、センターがオリアナで一番きれいで可愛いに決まってるじゃん!」
侍従には美しい話し言葉が求められるが、いまは営業外時間なので、素の出るサオである。
そんなサオに、ジョンは容赦なく油を注いだ。
「やだね~。いわゆる井の中の蛙ってヤツだな。まあ、自分が一番きれいだって、勝手に思い込んでろよ」
そういうとジョンは、この話題は終わりとばかりに弁当を食い始めた。納まらないのはサオだ。
「ちょっと、何を根拠にそんなこというわけ?」
「あ~?ナルちゃんはほんとに知らないんだ?あのな、王宮の書類作成補助係には謎のオーロラ美少年っていうのがいるんだよ?」
サオは意味が分からない。
なにそれ?謎のオーロラ?美少年…。
「意味、分かんないだけど?」
「騎士団では超有名人」
そういうとジョンはうっとりした表情になって続けた。
「オーロラはさあ、特定の場所でしか見られないじゃん」
特定の場所、それは書類作成補助係。
「しかも、オーロラは遠くでしか見られないし、見えても近づけない」
補助係にはカウンターがあるので遠くからしか見られないし、近づけない。
「だから、オーロラ美少年なんだよ」
わかったかというドヤ顔をするジョン。
サオの顔色が変わる。
「ちょっと、そんな子、いるわけないじゃん!もしいたら、その子だってOBBに出るでしょ!いい加減なこと言わないでよ!」
「あのな、自分の美しさをひけらかそうとか、そういう事さえ思わない性格もいい子なの!人間は、全部自分と同じこと思ってるなんて、勘違いしない方がいいぜ~」
ジョンにしてはまともな事をいう。
「もし、もしもほんとにそんな子がいるんなら、名前は?貴族なの?」
「だから~、謎だって言ってんじゃん。名前は分からんし、身分も知らんて」
サオは若干、勝ち誇って言った。
「名前も分からないなんて、そんな事、あるわけないでしょ。やっぱりいないんだよ。脳筋騎士団じゃ、理解できないか!」
ジョンは呆れかえった。
「おまえ、書類作成補助係に行ったことないだろ?補助係の係員と話したこともないだろう?あそこの係員の口の堅さは半端ないの!補助係の宿舎周辺であいつらに声を掛けて見ろよ。自分の名前さえ、口を割らない。ましてや同僚の個人情報なんて、まったく聞き出せないんだよ!そんくらい口が堅いの!」
個人情報漏洩が問題になっている日本とは真逆だった。
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