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37. マリ・オリン公爵の裏の顔と忍び集団?③
しおりを挟むエメこと、エメルダ・ダンク。
ダンク元侯爵家の末裔だ。元というのは、ダンク侯爵家はドイ王の祖父が王だったの時に爵位を返上したからだ。
先々王の時代、王都に近い南方領地を守っていたダンク侯爵領は隣国ガニアとの国境に位置していた。
当時のガニア王は兵器開発マニアで、火薬にガラスなどの異物を混入した新型爆弾の製造に成功。これは当時としては驚異の爆弾だった。爆弾を製造する者は使ってみたいという欲求に抗えない。ガニア王もそうだ。
その頃、ダンク侯爵はガニア王が新型爆弾の製造に成功したという情報を入手。
王を暗殺し、爆弾の製造方法ごと闇に葬らねばならない。しかし表立ってガニアに攻め込めば国家間の戦争になる。しかも一刻の猶予もない状況。
そこで侯爵は熟慮の末、爵位を返上し、私兵だけでガニアに侵入することを決意。
万が一、捕縛された場合、身分のない名もなき者として死する覚悟をしての決行だった。
自身の決意を記した書状と、爵位返上の書類を王家に送ったその日、侯爵は私兵と共にガニアに侵入して、見事、ガニア王の暗殺に成功。爆弾発射の数分前で、砲台はオリアナ王宮に標準を合わせていたという。
まさに危機一髪。
王家はすぐさま爵位を戻そうとしたが、これを元侯爵は固辞。
「侯爵に戻れば周辺国はオリアナに対し、また同じ手を使うのではないかという疑念を抱いて和平が保てない」と。
そこで王家は元侯爵家の血筋は全て王家の影とすることを決定。
同時に貴族年鑑には、最上位にある王家の次にダンク侯爵家を記載し、「真の貴族、貴族の中の貴族」と称賛し、ダンク元侯爵家は貴族の亀艦(きかん)となった。
そんな先祖を持つ29歳のエメは、18年前、マリ閣下が遺体で戻られた時、心が死んで茫漠としたアラビア砂漠に取り込まれた。
マリはエメの才能を見抜き、「そなたはいずれ影として大いに名を上げよう」と期待していた。マリの期待に応えたいという一心で、エメは厳しい訓練に堪えたのだ。そのマリが遺体で戻った。
エメは号泣し、自分は二度と涙を流さないと決意。それ以降、エメの心には砂漠の熱風だけが残った。
それが3年前、リンからマリ再誕の一報を聞いた時、エメの決意は翻る。
涙が止まらず、枯れた地下水路は豊富な水資源で溢れた。
「マリ閣下にもう一度、会いたい!」
そのエメの願いは、マルコの入社式?の時に実現した。
エメは侍女の扮装で式に参加。なんとマルコの隣で新人侍女として並んで座ったのである。マルコは入社式で隣に座った新人が、エメだったとは全く気付いていない。
それからエメは、ある時は宿舎の30代後半の料理人、またある時は侍女や町娘に貴族令嬢と、あらゆる人物に変装してマルコの警護を担う。
そして当然というか、必然というべきか、エメはマルコの警護を担うようになってから、マジョリカ妃殿下と接点を持つようになった。
オリアナ史上二番目の腐女子誕生である。
恐るべき波及力、マジョリカ妃殿下。伊賀の上忍、藤林長門守さえ腐女子に堕とすとは。
これ以降、エメが一層、気合を入れたことはいうまでもない。そんなエメなので、サファと夫婦を演じているが、これっぽっちの恋愛感情はない。
さて、寝坊したレオナルドが慌てて食堂にやってきた。
すぐにサファとエメが食事を用意。リンリンと孫二人?は仲良くテーブルについて、オリン公爵家の馬車を待った。
ちなみに、リンリンの左手首の入れ墨はスカリーという想像上の甲虫の模様だ。この甲虫は火でも焼けない、もし焼けたとしても灰の中から復活すると信じられていて、「再生の象徴」とされた。王家の影はこのスカリーの入れ墨を体のどこかに入れている。
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