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33. 王妃様の夏の晩餐会予算申請と地雷を踏んだカスハラ子爵令嬢⑤
しおりを挟む「今年の桟敷席の予算、去年よりも多いですね」
「ふふふ、さすがマルコ、よく気づいたわね」
王妃主催の夏の晩餐会の招待客は伯爵家以上だ。せっかく開くのにマルコは出られない。
王妃の本音は「マルコがいないと社交に力が入らない」だ。
それを解消するために思いついたのが「桟敷席」である。これは2年前、マルコが入職した年の夏の晩餐会より取り入れられた。
桟敷席とは、メイン会場の両脇に席を設け、そこに平民の王宮勤務員とその家族を招待する席をいう。
雰囲気としては大相撲の升席のようなイメージで、あちらは土俵の方が高いが、こちらは桟敷席の方が物理的に高くて少し傾斜している。
そこに座る者は、さながら舞台を見るように、普段はお目に掛かれない王族から高位貴族を、自分も食事をしながら心おきなく堪能できるというわけだ。
そして食事は晩餐会と同じメニューのフルコース。
この桟敷席を設けてから王宮勤務員のモチベーションは上がった。
何しろ平民でありながら晩餐会という非日常の一コマを経験できるのだ。それだけでなく王宮に勤務したいという希望者も爆上がり。
そのうえ貴族からの評判も良かった。
王家が桟敷席を設けると発表した当初は、周囲のやや高い位置から平民に見られるわけだから、「王宮勤務員とはいえ、貴族を高いところから見下すような席に平民を座らせるのか」との声が上がった。
しかし実際に桟敷席を設けた晩餐会に参加してみると、桟敷席の王宮勤務員(平民)から「キャー、素敵!」、「きれい!」などの声が降るように聞こえたのだ。
これが気持ちよかった!
貴族同士なら当たり前になっている着飾った正装、お互いに出るのは歯の浮く世辞が当然の世界、純粋な羨望の眼差しを受けたのは、いったい、いつ以来か?
制服には三割増し効果があるというが、正装も同じだった!
そして、ピカピカに磨き上げられた床のレフ板?効果も相まっていたのだろう。
貴族芸能人?の誕生である。
この初めて桟敷席を設置した晩餐会以降、貴族家から王宮での全ての催しに桟敷席を設けるべきだとの声さえ出る始末。
いずれにせよ王妃としては、マルコをなんとか晩餐会に招待したいだけで思いついた桟敷席であるが、その副産物は大きかった!
そして当然のように王妃は桟敷席に出向き、そこに陣取って主だった貴族を呼び寄せて交流するものだから、「王妃の桟敷政治」なる造語さえ出来たほど。
もちろん、王妃が陣取る桟敷席はマルコの隣である。
王妃が続ける。
「今年から晩餐会を二日に分けることにしたの」
「ほんとだ。いつも一日だけなのに」
「二日に分けたのは、先生方(マルコ母にならい、王妃も用心棒を先生呼び)も招待しようと思ったからなの」
マルコの顔がぱあーと輝いた。
「半分に分ければ、師匠たち、参加できます!」
「そうなのよ!しかも、よく考えたら二日に分けた方が良かったの。晩餐会の主旨は貴族たちとの交流でしょ。招待する貴族を分ければ、1回の招待客は少ない。少ないということは一人に割く時間が取れる。いいことづくめだわ」
すかさず女官長が補足した。
「だからといって、トータル予算はオーバーしていないのよ。メニューのクオリティは落とさずに、これまではメインディッシュで肉か魚を選べましたけど、それを肉だけにしました。昨年までの食べ残し一覧から検討して、魚よりも肉が人気で、魚だと残すケースが多いと分かったからです。デザートも2種類に絞ったら、予算は昨年と同じなの!」
王妃と女官長は晩餐会を二日に分けても予算内に納めるべく知恵を絞った。
それが「食べ残し一覧」の作成だ。用心棒400人を招待するために知恵を絞った結果だが、この効果も大きかった!
以降、王宮で開催される食事を伴う式典で採用されるようになる。
食品ロスを考慮した晩餐会、東京オリンピックよりも環境に優しい!
「すっごいです!ゾーイ様!」
「うふふ。もちろん、マルコとレオナルドは二日間とも招待するわ!」
「わあ!ありがとうございます!夏の楽しみが増えました!」
「ありがとうございます!」
「二人に喜んでもらえて嬉しいわ!私も楽しみよ」
さきほどカスハラ令嬢を一喝した女官長も「ほんとに」と目を細めた。
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