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26. マルコの同僚、レオナルド田中くん⑥
しおりを挟む無事にチコリ師匠持込書類を4人がかりでチェックし終え、警備員4人の手を借りて師匠に渡す。
「ほとんどミスなく記入して頂きましたが、2店舗だけ、それぞれ1カ所づつ未記入がありました」
公爵が書類を師匠に提示しながら説明。
「1店舗目は『サラの店 大食漢御用達』で、テントの大きさが未記入。2店舗目は『美の競技場!10分で別人へ』で、こちらは終了時間が未記入でした。これ以外は本店(王宮のこと。補助係では王宮を本店、補助係を支店呼びしている)に持ち込んで頂いて結構です」
「手間をかけた。この2店舗には書類を返して記入してもらい、明日にでも再確認に来る」
ということは、明日もチコリ師匠に会えるんだと、マルコは嬉しくなった。
「じゃ、また明日だね、師匠!」
「そうだな」
チコリ師匠がマルコの髪をくしゃっと撫でた。
「明日、お待ちしています!」
マルコの嬉しそう声がフロアに響いた。
その後は、粛々と仕事をこなして昼食時間。
王宮勤務員の昼食は午前11時からだ。
この時間になると、王宮の鐘がなり、どの部署も2時間の休憩に入る。
マルコはカウンターの下に置いたお弁当を持って、隣のレオナルドと一緒にいつも昼食を食べる王宮裏庭のベンチに向かった。
オリアナ王宮は尖がった屋根のいかにも王城という造りだが、三重の塀に囲まれた広大な敷地を誇っている。
なにしろ巨大マーケットが造れるくらいの広さなので、中で働く者にとっては、休憩場所などいくらでもあった。
マルコのお気に入りの場所は、王城の裏庭で目の前に大きな池、それを眺める位置にベンチがあり、雨除け日差し除けの大きなパラソルがセットされ、そのうえ風通しもよく、昼寝もできるほど静かなところだ。ベンチのすぐ後ろは城の壁面であるため、内緒話をするのにも都合が良かった。
マルコとレオナルドは、昼食は手作り弁当だ。弁当といってもいろいろな種類のパンに、季節のジャムを塗っただけの簡単なものだが、このジャムは母の手作りだし、パンは王宮内マーケットで色々な種類のパンが売られているので、自分の好きなパンとジャムを組み合わせると、飽きることはない。
今日のマルコのジャムサンドは、くるみ入りパンに木苺のジャムと、柔らかい白パンにクリームチーズと蜂蜜をはさんだ二種類。
対してレオナルドは、ちょっと固めの白パンにクリームチーズとオレンジジャム、もう一組は黒パンにバターと蜂蜜を挟んだ組み合わせ。お互いに多めに作って分け合って食べるのがマルコ流。そうすればいろんな種類が食べられるからだ。
「クリームチーズとオレンジジャムって合いますね、先輩!」
美味しそうに頬張るマルコに、「そうだな」と答えたレオナルドは元気がない。
「今回はどんな夢だったんですか?」
「…仕事している夢だった。俺、仕事している夢って、あんまり見ないんだ。やっぱ社畜だったから、思い出したくないのかもって思ってたんだけど。あと俺、田中って名前だった」
レオナルドが奴隷?だったことは知っているが、ついに前世の名前が出てきた。
「た、『たなか』って、変わった名前ですね」
「いや、そうでもない。あっちではすごく普通の名前だ」
「…なるほど」
「それで、今度から俺のことはレオナルド田中って、呼んでくれないかな」
「え?」
まるでお笑い芸人みたいだが、レオナルドはいたって真面目にお願いした。
「普段はいいよ。いつも通りで」
いつも通りだと、マルコはレオナルドのことを先輩呼びしているのだが、ものすごく真剣な目で訴えられたマルコは「わかりました」と答えるのが精一杯。
そこへ、サクサクと、足音が近づく。
二人が顔を上げた。
「レオン副団長!」
レオナルドが嬉しそうに声をかけた。
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