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20. マルコを巡る王家の人々、そして攻めと強制?会遇③(過去)
しおりを挟む「王妃様!」
マジョリカ妃殿下は吹っ切れたように王妃に近づいた。
「私はお亡くなりなったマリ閣下を存じ上げません!ですが、レオン閣下とマルコについて、私に出来ることは何でも致しましょう!」
妃殿下は王妃の手を取った。
王妃は妃殿下の目を見る。
そして思う。推しを見つけたなと。
この時点では、妃殿下が腐女子になったことまで王妃は知る由もないが、自分と同じ目をするようになった義理の娘に、これまで以上に情が沸いてきたのをしみじみと感じていた。
それからマルコ入職にあたり、盛大にセレモニーを開催しようということになった。マルコだけというわけにはいかないので、マルコと同じ年に王宮に入る侍従侍女、騎士団員全てを対象として。いわば入社式。王はすぐに宰相府に予算の割り当てを指示し、この日から王族は多忙を極めた。突然の嬉しい繫忙期だ。
さっそく王妃はマルコ母に使者を送り、今さらながら推しをカミングアウト。それにつられて母もカミングアウト。
その後、二人の交流はどんどん内容の濃いものとなり、真の同志となっていく。
当初は、王妃は「本日のマジョリカ通信」と題した手紙を母に送り、母は「リアル・マルコの1日」と名付けた手紙でやり取りをしていたが、マルコの母が「マルコが小さい時に着けていた涎かけ(洗濯済)」をプレゼントすると、王妃は鼻血を出して喜び、涎掛けの御礼として、今度は王妃が「昨日までマジョリカが着けていた髪飾り(毛が1本ついてる!これはおまけよ)」を送ると、母が鼻血を出した。
順調に共に変態じみた方向に成長していった二人。
特に補助係の制服を作る事案においては、その変態ぶりと推しの執念が結集されたといえよう。
連日、母は王宮に出向き、王妃と共に布の選定からデザインまで王族専属デザイナーに注文を挟み、それは激やせしたデザイナーが「もう勘弁してください。どうか、どうかこれで納得してください」と、半ば悲鳴ともとれる発言をするまで続いた。
特に王妃と母が拘ったのは色と帽子だ。
色については、母から「マルコは濃紺の申し子」と聞いた王妃は、あらゆるタイプの濃紺生地を集めた挙句、「ここはマルコの肌に一度合わせてみましょう」と、下心満載の提案をしてマルコを王宮に呼び、なんと色選びのためだけにマルコを王宮に泊めたのだ。
王宮ホテルである。
5年ぶりに目の前に現れた推しに、王妃は鼻を抑えながら対応。
察した母は「王妃様はね、マルコに会えて嬉しいんですって」とナイスフォロー!
マルコはにっこり笑って「こんにちは、王妃様、マルコです」と挨拶した。
王妃としては「嬉しい」なんて言葉だけでは表せない歓喜の時。そうはいっても、いつでもどんな時でも推し命の王妃は、「私の名はゾーイというのよ、マルコ」と、鼻を抑えているため、やや聞き取りにくいながらも、ちゃっかり名前呼びをマルコに要求。
マルコが「ゾーイ様?」と遠慮がちに呼んだ時の王妃の様子は、のちに女官長がいうには「あれほど嬉しそうな王妃様を見たことはございません。初孫誕生の時より嬉しそうでございました」とか。
そこにマルコが王宮に来ていることを知った陛下とモイ卿、王太子に第二王子、第三王子が乱入(ダダン公爵は仕事中)。
なぜ全員が泣いているのか、なぜ全員が名前呼びを要求するのか、マルコには全く見当がつかないものの、ものすごく歓迎されていることだけは分かった。
マジョリカ妃殿下はどうした?
当然、騎士団へ使いを送っていたのだ。妃殿下は腐女子初心者ながら、さすがというべきか、王妃同様、自分の欲求には忠実だった。
「陛下、王妃様、レオン閣下をお連れしました!」
マジョリカ妃殿下を目の前にして、今度は母が鼻を抑えた。
そんな母を心配したマルコが「かあさん、大丈夫?」と声をかけると、妃殿下が母に駆け寄り「マルコ、お母上には私がついているわ。さあ、レオン閣下にご挨拶してらして!」と宣う。母の鼻血が余計に止まらなくなった。
一方、妃殿下としては「禁断の親子の愛、初対面編」が見たいのだ。
こうして、妃殿下に強制的作為的に演出されて、マルコとレオンは初めて出会った。
のちにマルコは、母に初対面のレオンの印象を聞かれて「入れ墨のない騎士団の人」と答えた。母は「それだけ?」と食い下がったが、「だって入れ墨、なかったよね?」と言った。
けっして塩対応ではないのだが、マルコにとっては入れ墨ある人とない人のカテゴリー分けが最初の一歩。
がんばれ、レオン閣下!先は途方もなく長いぞ!
対してレオンは「可愛い、可愛い、可愛い、ち、父上?」であった。鼻血を吹かなかったのだけが唯一褒められる行為で、妃殿下(ふじょし)の目論見通り、レオンは「親子禁断の愛」の淵に一人で堕ちた。
妃殿下、笑いが止まらない。
王妃とマルコ母の執念の末に出来上がったフルオーダーの補助係の制服は、ジャケット、ベスト、膝までのハーフパンツにパンツ、お約束の腕抜きに帽子で、全て夏用・冬用がある。師匠たちの助言もふんだんに取り入れ、夏と冬では生地を替え、夏は汗がこもらず、冬は温かい上質な生地で仕上げた。
帽子はキャスケットタイプのデザインで、母の「マルコは頭と顔が小さいから、よく似合う」とのアドバイスを全面的に活かし、まるでキャスケットをかぶって生まれてきたように、マルコによくお似合いだ。
ちなみに王妃は、マニアックな趣味「卵型の小さい顔の男子が両手で頬杖をつく」を、マルコを初めて王宮に泊めた際に実行して昇天。しばらく使い物にならず、女官長から「次にマルコにお願いする時は、翌日に公務のない時にしてください!」と言われたという。
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