20 / 59
20. マルコを巡る王家の人々、そして攻めと強制?会遇③(過去)
しおりを挟む「王妃様!」
マジョリカ妃殿下は吹っ切れたように王妃に近づいた。
「私はお亡くなりなったマリ閣下を存じ上げません!ですが、レオン閣下とマルコについて、私に出来ることは何でも致しましょう!」
妃殿下は王妃の手を取った。
王妃は妃殿下の目を見る。
そして思う。推しを見つけたなと。
この時点では、妃殿下が腐女子になったことまで王妃は知る由もないが、自分と同じ目をするようになった義理の娘に、これまで以上に情が沸いてきたのをしみじみと感じていた。
それからマルコ入職にあたり、盛大にセレモニーを開催しようということになった。マルコだけというわけにはいかないので、マルコと同じ年に王宮に入る侍従侍女、騎士団員全てを対象として。いわば入社式。王はすぐに宰相府に予算の割り当てを指示し、この日から王族は多忙を極めた。突然の嬉しい繫忙期だ。
さっそく王妃はマルコ母に使者を送り、今さらながら推しをカミングアウト。それにつられて母もカミングアウト。
その後、二人の交流はどんどん内容の濃いものとなり、真の同志となっていく。
当初は、王妃は「本日のマジョリカ通信」と題した手紙を母に送り、母は「リアル・マルコの1日」と名付けた手紙でやり取りをしていたが、マルコの母が「マルコが小さい時に着けていた涎かけ(洗濯済)」をプレゼントすると、王妃は鼻血を出して喜び、涎掛けの御礼として、今度は王妃が「昨日までマジョリカが着けていた髪飾り(毛が1本ついてる!これはおまけよ)」を送ると、母が鼻血を出した。
順調に共に変態じみた方向に成長していった二人。
特に補助係の制服を作る事案においては、その変態ぶりと推しの執念が結集されたといえよう。
連日、母は王宮に出向き、王妃と共に布の選定からデザインまで王族専属デザイナーに注文を挟み、それは激やせしたデザイナーが「もう勘弁してください。どうか、どうかこれで納得してください」と、半ば悲鳴ともとれる発言をするまで続いた。
特に王妃と母が拘ったのは色と帽子だ。
色については、母から「マルコは濃紺の申し子」と聞いた王妃は、あらゆるタイプの濃紺生地を集めた挙句、「ここはマルコの肌に一度合わせてみましょう」と、下心満載の提案をしてマルコを王宮に呼び、なんと色選びのためだけにマルコを王宮に泊めたのだ。
王宮ホテルである。
5年ぶりに目の前に現れた推しに、王妃は鼻を抑えながら対応。
察した母は「王妃様はね、マルコに会えて嬉しいんですって」とナイスフォロー!
マルコはにっこり笑って「こんにちは、王妃様、マルコです」と挨拶した。
王妃としては「嬉しい」なんて言葉だけでは表せない歓喜の時。そうはいっても、いつでもどんな時でも推し命の王妃は、「私の名はゾーイというのよ、マルコ」と、鼻を抑えているため、やや聞き取りにくいながらも、ちゃっかり名前呼びをマルコに要求。
マルコが「ゾーイ様?」と遠慮がちに呼んだ時の王妃の様子は、のちに女官長がいうには「あれほど嬉しそうな王妃様を見たことはございません。初孫誕生の時より嬉しそうでございました」とか。
そこにマルコが王宮に来ていることを知った陛下とモイ卿、王太子に第二王子、第三王子が乱入(ダダン公爵は仕事中)。
なぜ全員が泣いているのか、なぜ全員が名前呼びを要求するのか、マルコには全く見当がつかないものの、ものすごく歓迎されていることだけは分かった。
マジョリカ妃殿下はどうした?
当然、騎士団へ使いを送っていたのだ。妃殿下は腐女子初心者ながら、さすがというべきか、王妃同様、自分の欲求には忠実だった。
「陛下、王妃様、レオン閣下をお連れしました!」
マジョリカ妃殿下を目の前にして、今度は母が鼻を抑えた。
そんな母を心配したマルコが「かあさん、大丈夫?」と声をかけると、妃殿下が母に駆け寄り「マルコ、お母上には私がついているわ。さあ、レオン閣下にご挨拶してらして!」と宣う。母の鼻血が余計に止まらなくなった。
一方、妃殿下としては「禁断の親子の愛、初対面編」が見たいのだ。
こうして、妃殿下に強制的作為的に演出されて、マルコとレオンは初めて出会った。
のちにマルコは、母に初対面のレオンの印象を聞かれて「入れ墨のない騎士団の人」と答えた。母は「それだけ?」と食い下がったが、「だって入れ墨、なかったよね?」と言った。
けっして塩対応ではないのだが、マルコにとっては入れ墨ある人とない人のカテゴリー分けが最初の一歩。
がんばれ、レオン閣下!先は途方もなく長いぞ!
対してレオンは「可愛い、可愛い、可愛い、ち、父上?」であった。鼻血を吹かなかったのだけが唯一褒められる行為で、妃殿下(ふじょし)の目論見通り、レオンは「親子禁断の愛」の淵に一人で堕ちた。
妃殿下、笑いが止まらない。
王妃とマルコ母の執念の末に出来上がったフルオーダーの補助係の制服は、ジャケット、ベスト、膝までのハーフパンツにパンツ、お約束の腕抜きに帽子で、全て夏用・冬用がある。師匠たちの助言もふんだんに取り入れ、夏と冬では生地を替え、夏は汗がこもらず、冬は温かい上質な生地で仕上げた。
帽子はキャスケットタイプのデザインで、母の「マルコは頭と顔が小さいから、よく似合う」とのアドバイスを全面的に活かし、まるでキャスケットをかぶって生まれてきたように、マルコによくお似合いだ。
ちなみに王妃は、マニアックな趣味「卵型の小さい顔の男子が両手で頬杖をつく」を、マルコを初めて王宮に泊めた際に実行して昇天。しばらく使い物にならず、女官長から「次にマルコにお願いする時は、翌日に公務のない時にしてください!」と言われたという。
725
お気に入りに追加
1,187
あなたにおすすめの小説
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません
ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。
俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。
舞台は、魔法学園。
悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。
なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…?
※旧タイトル『愛と死ね』
文官Aは王子に美味しく食べられました
東院さち
BL
リンドは姉ミリアの代わりに第三王子シリウスに会いに行った。シリウスは優しくて、格好良くて、リンドは恋してしまった。けれど彼は姉の婚約者で。自覚した途端にやってきた成長期で泣く泣く別れたリンドは文官として王城にあがる。
転載になりまさ
【R18】歪んだ家族の幸せ
如月 永
BL
ホモでメスガキの僕は、エッチな事が好きだった。
母さんがいなくなった家で、寂しいお兄ちゃんとお父さんは僕をメスとして愛してくれた。
セックスすると気持ち良いし寂しくなくて幸せなんだ。
<説明&注意点>
父×息子。兄×弟。3P。近親相姦。ショタ。ストーリー性0。エロ中心。
メスガキ感はあんまり出せてないかも。
一話2000文字くらい。続きの更新未定。
<キャラクター覚え書>
●お父さん(※名前未定):
会社員。妻に逃げられ、仕事に熱中して気を紛らわせたが、ある日気持ちがぽっきり折れて息子を犯す。
●和雅(かずまさ):
兄。高校生。スポーツをしている。両親に愛を与えてもらえなくなり、弟に依存。弟の色気に負けて弟の初めてを奪う。
●昂紀(こうき):
弟。僕。小学○年生。ホモでメスガキな自覚あり。父と兄とするセックスはスキンシップの延長で、禁忌感は感じていない。セックスは知識より先に身体で覚えてしまった。
伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。
実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので!
おじいちゃんと孫じゃないよ!
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
純情将軍は第八王子を所望します
七瀬京
BL
隣国との戦で活躍した将軍・アーセールは、戦功の報償として(手違いで)第八王子・ルーウェを所望した。
かつて、アーセールはルーウェの言葉で救われており、ずっと、ルーウェの言葉を護符のようにして過ごしてきた。
一度、話がしたかっただけ……。
けれど、虐げられて育ったルーウェは、アーセールのことなど覚えて居らず、婚礼の夜、酷く怯えて居た……。
純情将軍×虐げられ王子の癒し愛
《第二幕》テンプレ転移した世界でロマンスに目指す騎士ライフ
ぽむぽむ
BL
交通事故死により中世ヨーロッパベースの世界に転移してしまった主人公。
ジャンと名を貰い転移先の体の持ち前の運動神経を役立て、晴れて騎士になれたけど、旅先で知り合った男、リシャールとの出会いが人生を思わぬ方向へと動かしてゆく。《第一幕》
そんなジャンとリシャールが出会ってから4年後。
リシャールの馴染のトルバドールが現れ、繰り広げられるロマンス。
けれどもそんなに甘い時代でも無く、リシャールを取り巻く環境はさらに混迷を深めてゆく。
※この作品は《第一幕》「テンプレ転移した世界で全裸から目指す騎士ライフ」(全裸編)
の続編です。
1話から(全裸編)のネタバレしていますので、先に第一幕を読まれる事を推奨します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる