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13. 王族係・マルコ⑨(過去)
しおりを挟む⑤書類作成補助係の建物を新築する
母は容赦なかった。
「備品一つとっても旧時代的です!それに補助係の建物自体が老朽化してます!」
え?そこまで?と陛下は思った。
補助係が入っているのは、王宮本体とは離れた単体の建物だ。東京駅のような歴史的建造物で外観は美しい。
しかし美しいのは外観だけ。窓はあるものの美観重視で作ったのだろう、夏は厚いわ、冬は寒いわで、中で仕事する係員に苦行を強いていた。
「陛下は、宿舎ですとか、その近辺については、まあまあ良くして下さっているとは思います。でも肝心の職場環境については、全くダメです!」
まさかのダメ出し。
陛下は茫然。
宿舎や王宮内マーケットなどは充実させてきたので、それでいいと思っていたのだ。
しかしそれさえも「まあまあ」評価だ。
「私、夏の暑い日に補助係に行きました。係員はみんな汗だくで。あの方、責任者の方なのかしら。ぴっちりベストにネクタイ、そして腕抜き。額からは玉の汗が噴き出してて、本当に大変そうでした。
こんなに暑いのに、係員はどうやって水分補給しているのかと思ったら、一人が走って倉庫に行ったんですね。それでよく見える場所まで移動して見たら、扉の影に水が置いてあって、それを急いで飲んで、また走ってカウンターに戻ってました。
…あんな劣悪な環境の中で、うちのマルコを仕事させるなんて…、とてもじゃありませんけど、絶対に嫌です!」
母は泣き出した。まるで金で売られた女工哀史を語るよう。母の嗚咽に父と騎士らも泣いた。
「…わしが甘かった。では補助係の建物を改装」
「新築ですね、陛下!」
今まで泣いていたのが嘘のように満面笑顔で母は陛下の言葉を遮った。
「…はい、新築します…」
この1年後、マルコの入職に合わせるように、オリアナの建築技術の粋を集めた時代の最先端を行く補助係専用の建物が出来ることになる。
それはまるで田舎の村役場が新宿都庁に変身したよう。
その後、順次、王宮内にある宰相府などの部屋も改装して、王宮の職場環境は改善されていく。
この発端は、マルコの母によるものだということについては王宮勤務者なら、みな知っていて、両替商の評判は爆上がりすることになる(このとき陛下に随行した騎士たちが周囲に話して、あっという間に広まったから)。
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