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6. 王族係・マルコ②(過去)
しおりを挟むマルコが生を受けたオリアナ暦720年11の月1日。
大陸で一番大きな両替商の屋敷から耳を劈く雄叫びがあがった。
カイトとカリムの誕生から5年が過ぎていた。
マルコ、0歳。マルコには乳母はいない。乳母はいないが、400人の信徒もとい用心棒集団がいた。マルコが生まれた時点で教団は400人に膨れ上がっていた。マルコの周りには常に彼らがいた。
マルコの社交性はこうして身に付いた。
マルコ、3歳。400人の乳母兼用心棒たちの国籍はバラバラ。全員、オリアナ語は話せるものの様々な言語が飛び交う。まるで東京都の大久保界隈を歩くよう。
こうしてマルコは様々な言語を習得した。
マルコ、5歳。両親は双子の兄たち同様に用心棒たちに家庭教師を頼んだ。
兄たちが5歳の時、両親は正式な家庭教師をつけようとした。しかし用心棒の中には「前世は博物学者ですか?」というほど博識な者、「現役の医者?」と勘違いしそうなほど医学に精通した者、「数学の教師だったの?」と問いかけるほど数学に長けた者などがおり、わざわざ教師をつける必要なしと判断したのだ。
乳母兼用心棒兼家庭教師の誕生である。
双子の兄たちは用心棒たちから様々な知識を満遍なく吸収していった。
中には「裏取引を成立させる方法」とか、「一発必殺技」、「自然死に見せかける殺人」など、おいおいという知識もあったが、両親は「知らずにいるより知ることは大事。人生、綺麗ごとばかりではない」と笑っていた。
これが大正解!
双子の兄たちは勉強だけできる頭でっかちではなく、生きるうえで必要な知識を(「自然死に見せかける殺人」が必要な知識かどうかは置いて)、必要以上に身に着けて、いい具合におもしろく成長していった。
実例があるほど強いものはない。
こうしてマルコは乳母兼用心棒兼家庭教師から、心理学(詐欺の手口の見破り方、表情の読み方)、植物学(毒の見分け方、使い方?)、政治学(建前と本音、社会のシステム、強者の闘い方、弱者の闘い方)、経済学(ここぞという時の金の使い方)など、これでもかというほどの知識を吸収した。
マルコ、10歳。マルコが10歳の時、巨大ハリケーンが王都を襲った。
このハリケーンにより、王都の半数以上の家々は破壊され、とても住めるような有り様ではなかった。
茫然とする人々。家を失い、食べる物もなく、中には家族を亡くした者たちもいた。
そんな絶望的なさなか、王宮よりもどこよりも早く動いたのがマルコの両親だ。幸いというか、予想通りというべきか、マルコの家、金庫のごとき頑丈な家は無傷。
そこで両親は私財を惜しみなく投入し、避難所の建設や炊き出しを率先して行い、それに両替商の従業員たちと共に用心棒たちも加わった。石原軍団である。
スキンヘッドで全身入れ墨の用心棒たちは、白いエプロンに、恐らく必要はなかったと思われるが(髪がないので器に毛髪混入の心配はない)、白い三角巾で頭を覆っての炊き出しや、仮設住宅建設の作業員まで、汚れも厭わず汗を流して働いた。
15歳の双子の兄たちと共にマルコも手伝った。そして自分の師匠(マルコは用心棒を師匠呼びしていた)の雄姿に大感動!
「師匠たちはすごいね、おにいちゃん!」
「そうだね、マルコ!かっこいい!」
「入れ墨最高!」
こうしてマルコの中に「かっこいい、最高!」の定義の重要なパーツの一つとして、入れ墨が刷り込まれた。
見目が麗しいとか、水も滴る貴公子だとか、そんなものいざという時に役に立つのか?
本当に困った時は入れ墨だ!
他者のために苦労を厭わず汗水流して奉仕した師匠たちが最高なのであり、その師匠たちがたまたま全身入れ墨だらけだっただけであって、入れ墨しているクズ男が「最高」なわけではないのだが、マルコの中では「入れ墨=最高!」とインプットされたのだ。
しかしこれは誰も責められないだろう。
マルコ、ちょっとだけ心配な方向に好みが育ちつつあった。
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