王宮の書類作成補助係

春山ひろ

文字の大きさ
上 下
2 / 59

2.王宮の書類作成補助係②

しおりを挟む
 
 この書類作成補助係の選定にあたっては、王はもちろん宰相や将軍など国の中枢を担う重鎮の推薦を受け、最終的に面接に合格した者が任命された。

 何しろ宰相府の機密事項、内政外交にまつわる書類、貴族院の婚約婚姻書類など、むしろ建国当時よりさらに王の決済が必要な書類は多岐にわたり、また膨大になっている。こういった国の重要書類の書き方を補助するということは、必然的に補助係は常に機密事項を知り得る立場になるので、係員を選択することは非常に大切である。
 初代の時は重鎮たちの縁故を頼り係員を決めていたが、何しろ書類が多いので、人数を揃えるには限界があった。

 そこで年月を経る中、国王たちは己の経験と知識をフル動員して補助係の任命基準を決めた。いわゆるガイドラインである。
 そのガイドラインを紐解くと、口が堅いこと、実家が経済的に安定していること、金銭に対する潔癖性の三つが条件として挙がっている。「ガイドラインと言うほどの内容か」と思うことなかれ。

 まず口が堅いのは絶対条件。自分のことは一晩中でも語っていいが、見た書類ついては、死んで墓場まで持っていけなくてはならない。
 貴族の婚姻一つとっても、初代から数えて十代も下れば、腹に一物抱える貴族らしい貴族が形成され、損得ありきの政略結婚が主流。「A家のB令嬢とC家のD令息が婚約した」と漏れるだけで、貴族社会は右往左往。よって口が堅い、これは必須だ。

 この口の堅さについては、まず一次面接が書類作成補助係の責任者、公爵による面接、二次で宰相、そして国王陛下が直々に行う最終面接で決定している。社長面接だ。
 陛下の質問は至ってシンプルで「誰にも漏らさないと決意できるか?わしと約束できるか?」だけである。
 しかし一国の王、為政者に対面で「約束できるか?」と聞かれて「はい」と答えたら、それを反故にした時には、どんな処罰が待っているのか、推して知るべしである。また陛下を前に「はい」と答えられない者は、そのメンタルの弱さから落とされた。

 次に実家が経済的に安定していること。これは経済的に困窮した者が任につくと、簡単に金銭で買収される恐れがあるからだ。人間、道を踏み外すのはやっぱり金である。昔、同情するなら金をくれというTVドラマがあったが、まさにそれ。対して家の経済力が安定していれば買収される危険は少ない。

 三つ目が金銭に対する潔癖性。これは上の二つの条件を満たしていれば、研修期間中に徹底的に教え込み身に着けさせた。
 その方法はというと、かなり思い切ったやり方である。
 王宮内の宝物庫の中で金銀財宝にまみれて1か月、研修を受けるのだ。目の前にある宝の山もずっと見てれば単なる物に見えてくる。元々、裕福な家に生まれた若者ならなおさらだ。1億円の札束を夢想するより、10万円を自由に使っていいと言われる方が嬉しい。これと同じ。
 この1か月の研修を終えて、最初の給料を受け取ると、金銀財宝より1か月分の給金に有難みを感じるようになってしまうというのだから、あら不思議。

 こうした厳しい選考基準を突破して、現在、王宮の書類作成補助係の任についている係員は、いわばエリート中のエリート?というわけだ。
 身分の構成は、6割が貴族の次男三男で、残り4割は裕福な商家の次男坊三男坊である。経済的に安定しているとなると、貴族か商家になるのだ。

 さて、そんな王宮の書類作成補助係は、大きく分けて貴族担当と王宮担当、それに王都担当と各地方担当、戸籍担当に分かれている。
 さらに貴族担当は、王族係、宰相府係、外交院係、財務院係、陳情・嘆願書係、貴族院へ申請する婚約・婚姻係、同じく貴族院へ申請する使用人雇用係に分かれていた。
 王宮担当は、騎士団係、侍従侍女係、女官係、王宮の建築土木(庭園整備を含む)係、王宮の備品(厨房を含む)係に分かれ、王都担当は、王都各所の建築係、同じく土木係、王都内陳情・嘆願書係とあり、各地方担当は、地方建築係、地方土木係、地方陳情・嘆願書係である。
 そして戸籍担当は貴族・平民全ての出生係、養子縁組係、死亡係となる。

 ちなみに地方からの各種書類は郵送でまとめて送られてくるが、一度は王都見物に行きたいという地方在住者が持参する場合も多い。「ベニスを見てから死ね」ということわざがあるように、オリアナには「王都を見てから死ね」というのがあるからだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

悪役令息に憑依したけど別に処刑されても構いません

ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。 俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。 舞台は、魔法学園。 悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。 なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…? ※旧タイトル『愛と死ね』

愛されなかった俺の転生先は激重執着ヤンデレ兄達のもと

糖 溺病
BL
目が覚めると、そこは異世界。 前世で何度も夢に見た異世界生活、今度こそエンジョイしてみせる!ってあれ?なんか俺、転生早々監禁されてね!? 「俺は異世界でエンジョイライフを送るんだぁー!」 激重執着ヤンデレ兄達にトロトロのベタベタに溺愛されるファンタジー物語。 注※微エロ、エロエロ ・初めはそんなエロくないです。 ・初心者注意 ・ちょいちょい細かな訂正入ります。

異世界に転生してもゲイだった俺、この世界でも隠しつつ推しを眺めながら生きていきます~推しが婚約したら、出家(自由に生きる)します~

kurimomo
BL
俺がゲイだと自覚したのは、高校生の時だった。中学生までは女性と付き合っていたのだが、高校生になると、「なんか違うな」と感じ始めた。ネットで調べた結果、自分がいわゆるゲイなのではないかとの結論に至った。同級生や友人のことを好きになるも、それを伝える勇気が出なかった。 そうこうしているうちに、俺にはカミングアウトをする勇気がなく、こうして三十歳までゲイであることを隠しながら独身のままである。周りからはなぜ結婚しないのかと聞かれるが、その追及を気持ちを押し殺しながら躱していく日々。俺は幸せになれるのだろうか………。 そんな日々の中、襲われている女性を助けようとして、腹部を刺されてしまった。そして、同性婚が認められる、そんな幸せな世界への転生を祈り静かに息を引き取った。 気が付くと、病弱だが高スペックな身体、アース・ジーマルの体に転生した。病弱が理由で思うような生活は送れなかった。しかし、それには理由があって………。 それから、偶然一人の少年の出会った。一目見た瞬間から恋に落ちてしまった。その少年は、この国王子でそして、俺は側近になることができて………。 魔法と剣、そして貴族院など王道ファンタジーの中にBL要素を詰め込んだ作品となっております。R指定は本当の最後に書く予定なので、純粋にファンタジーの世界のBL恋愛(両片思い)を楽しみたい方向けの作品となっております。この様な作品でよければ、少しだけでも目を通していただければ幸いです。 GW明けからは、週末に投稿予定です。よろしくお願いいたします。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

攻略対象の一人だけどお先真っ暗悪役令息な俺が気に入られるってどういうことですか

さっすん
BL
事故にあってBLゲームの攻略対象の一人で悪役令息のカリンに転生してしまった主人公。カリンは愛らしい見た目をしていながら、どす黒い性格。カリンはその見た目から見知らぬ男たちに犯されそうになったところをゲームの主人公に助けられるて恋に落ちるという。犯されるのを回避すべく、他の攻略対象と関わらないようにするが、知らず知らずのうちに気に入られてしまい……? ※パクりでは決してありません。

処理中です...