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2.王宮の書類作成補助係②
しおりを挟むこの書類作成補助係の選定にあたっては、王はもちろん宰相や将軍など国の中枢を担う重鎮の推薦を受け、最終的に面接に合格した者が任命された。
何しろ宰相府の機密事項、内政外交にまつわる書類、貴族院の婚約婚姻書類など、むしろ建国当時よりさらに王の決済が必要な書類は多岐にわたり、また膨大になっている。こういった国の重要書類の書き方を補助するということは、必然的に補助係は常に機密事項を知り得る立場になるので、係員を選択することは非常に大切である。
初代の時は重鎮たちの縁故を頼り係員を決めていたが、何しろ書類が多いので、人数を揃えるには限界があった。
そこで年月を経る中、国王たちは己の経験と知識をフル動員して補助係の任命基準を決めた。いわゆるガイドラインである。
そのガイドラインを紐解くと、口が堅いこと、実家が経済的に安定していること、金銭に対する潔癖性の三つが条件として挙がっている。「ガイドラインと言うほどの内容か」と思うことなかれ。
まず口が堅いのは絶対条件。自分のことは一晩中でも語っていいが、見た書類ついては、死んで墓場まで持っていけなくてはならない。
貴族の婚姻一つとっても、初代から数えて十代も下れば、腹に一物抱える貴族らしい貴族が形成され、損得ありきの政略結婚が主流。「A家のB令嬢とC家のD令息が婚約した」と漏れるだけで、貴族社会は右往左往。よって口が堅い、これは必須だ。
この口の堅さについては、まず一次面接が書類作成補助係の責任者、公爵による面接、二次で宰相、そして国王陛下が直々に行う最終面接で決定している。社長面接だ。
陛下の質問は至ってシンプルで「誰にも漏らさないと決意できるか?わしと約束できるか?」だけである。
しかし一国の王、為政者に対面で「約束できるか?」と聞かれて「はい」と答えたら、それを反故にした時には、どんな処罰が待っているのか、推して知るべしである。また陛下を前に「はい」と答えられない者は、そのメンタルの弱さから落とされた。
次に実家が経済的に安定していること。これは経済的に困窮した者が任につくと、簡単に金銭で買収される恐れがあるからだ。人間、道を踏み外すのはやっぱり金である。昔、同情するなら金をくれというTVドラマがあったが、まさにそれ。対して家の経済力が安定していれば買収される危険は少ない。
三つ目が金銭に対する潔癖性。これは上の二つの条件を満たしていれば、研修期間中に徹底的に教え込み身に着けさせた。
その方法はというと、かなり思い切ったやり方である。
王宮内の宝物庫の中で金銀財宝にまみれて1か月、研修を受けるのだ。目の前にある宝の山もずっと見てれば単なる物に見えてくる。元々、裕福な家に生まれた若者ならなおさらだ。1億円の札束を夢想するより、10万円を自由に使っていいと言われる方が嬉しい。これと同じ。
この1か月の研修を終えて、最初の給料を受け取ると、金銀財宝より1か月分の給金に有難みを感じるようになってしまうというのだから、あら不思議。
こうした厳しい選考基準を突破して、現在、王宮の書類作成補助係の任についている係員は、いわばエリート中のエリート?というわけだ。
身分の構成は、6割が貴族の次男三男で、残り4割は裕福な商家の次男坊三男坊である。経済的に安定しているとなると、貴族か商家になるのだ。
さて、そんな王宮の書類作成補助係は、大きく分けて貴族担当と王宮担当、それに王都担当と各地方担当、戸籍担当に分かれている。
さらに貴族担当は、王族係、宰相府係、外交院係、財務院係、陳情・嘆願書係、貴族院へ申請する婚約・婚姻係、同じく貴族院へ申請する使用人雇用係に分かれていた。
王宮担当は、騎士団係、侍従侍女係、女官係、王宮の建築土木(庭園整備を含む)係、王宮の備品(厨房を含む)係に分かれ、王都担当は、王都各所の建築係、同じく土木係、王都内陳情・嘆願書係とあり、各地方担当は、地方建築係、地方土木係、地方陳情・嘆願書係である。
そして戸籍担当は貴族・平民全ての出生係、養子縁組係、死亡係となる。
ちなみに地方からの各種書類は郵送でまとめて送られてくるが、一度は王都見物に行きたいという地方在住者が持参する場合も多い。「ベニスを見てから死ね」ということわざがあるように、オリアナには「王都を見てから死ね」というのがあるからだ。
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