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42.協力者たち(1)
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テロ発生数時間後 豊島区池袋 東京
藤木一郎58歳。
藤木の朝は、まるで判で押したように午前5時半に始まる。
しかし、今朝は通常よりも1時間早く、4時半の国際電話で起こされた。その電話を受けてのち、彼はヒゲを剃り、身支度をして、数日分の着替えを小さなボストンに詰め、現在は自室のテレビでCNNを食い入るように見ていた。
午前6時過ぎに起床した妻が藤木の部屋をのぞくと、既に出かける準備が完了している様子に驚き、慌てて朝食作りに取り掛かろうとするのを「急がなくていい」と、声をかけた。
藤木が1階リビングに降り、そこのテレビをつけると、日本のテレビ局も全てワシントンで起きたテロ事件のニュース一色だった。
台所にいた妻が、藤木の隣に来て「何?これ、どうしたの」と呟き、テレビ画面を凝視した。
藤木は妻をみて、そのあとテレビに視線を戻す。
「ワシントンの自然史博物館で爆破テロが起きたらしい」
「まあ、なんてこと」
妻の言葉は、そのあと続かなかった。
そのままソファに座る妻の横に、藤木も座った。
藤木は、世界で一番大きなエレベーター製造会社の技術部門のトップであり、日本では「支社長」の肩書を持つ男だ。
技術畑一筋で歩んできたこの男に、昨年、同社CEOのジャック・ハーマンが「日本支社長」への就任を打診してきた。
ニューヨークの本社ビル最上階で、ジャックと対峙し呼ばれた理由を知った時の藤木の第一声は、「私に務まるとは思いません」という拒否の言葉だった。
ジャックは笑いながら、「これまで多くの者に就任依頼をしてきたが、いきなり断ったのは、君だけだ」といい、藤木を選んだ理由を述べたのだった。
ジャックは地震の多い日本で、さらなる市場拡大を狙うにあたり、日本人というだけでなく、専門的なアプローチが可能な人材をと考えたら、思いついたのは藤木だけだったという。
支社長ともなれば、経営手腕も問われよう。技術畑の自分では役不足だと、それでもジャックの説得に首を縦に振らなかった藤木だったが、「イチロウ、経営は一人でするもんじゃない。優秀な人材をつける。まあ、最初は苦労するだろうが、君ならできるさ。世界の『イチロー』は日本に帰った。この機会に、わが社の『イチロー』も母国で奮闘して欲しい」というジャックの言葉に、就任を引き受けたのだ。
思えば、ロンドンに6年、パリには10年、ニューヨークでは12年以上も生活し、日本を出てから30年近くたっていた。
この間の藤木の功績は素晴らしく、2010年に完成したアラブ首長国連邦ドバイのブルジュ・ハリーフェ、2016年には上海のザ・タワーなど、いくつもの超高層ビルのエレベーターを設計・製造してきた。
最近はエレベーターだけでなく、これまでのエレベーター開発で培ってきた技術を、防火扉や防火壁の開発・製造にも生かすようになり、それがクオリティも高く実用的だと評判で業績は右肩上がりだった。
こうして昨年の秋、藤木は妻と共に日本へ帰国した。
ジャックが「苦労する」と言った意味は、すぐに分かった。経団連の付き合いや経済新聞のインタビューなど、藤木の最も苦手とする「人付き合い」の仕事が多くなったのだ。
堅物で冗談が言えず、誰かと飲みに行ったりすることもほとんどない男には、気の利いたジョークなど出せるはずもなく、ひたすらストレスだけが蓄積された。
最もストレスに感じたのは、部下との間だ。朝の「おはよう」の挨拶の後から会話が続かず、いつしか「新しい支社長は気難しい」というレッテルを貼られた。
そんな時、シーズンだったのだろう、黒塗りの高級社用車の中から外を見ていると、やたらと競馬のポスターが目についた。
人間同士だって大変なのに、人と馬が協力して何かを成すなど、可能のか?
持ち前の「気になることは追求する」という技術者の欲求から、藤木はネットで検索し、一人で競馬場に行ってみた。
馬といっても、馬場で疾走する馬はサラブレットで、それは美しく、人馬が一体となって戦っていた。
藤木はハマった。
それから土曜日には競馬場へ行って競馬新聞を読み漁り、馬券を買う。レースの行方を当てるのが目的であって、それで大金を得ようとは思っていない藤木は、馬券購入額は1000円と決めていた。それでも興奮した。
この日課を続けていたある日、藤木に「よう」と、男が声をかけてきた。
年の頃は60代後半で、背が低く、猫背で足を引きずって歩く「杉ちゃん」という男だった。杉ちゃんは、自分で「俺は杉ちゃんだよ」と言ったのだ。
最初は、誰かと間違えているのかと思い、戸惑いつつ「どこかでお会いしましたか?」と聞いた藤木に、杉ちゃんは「どっかで会ってるべ」と言った。
驚いた。「どっかで」、いや、完全に初対面だ。
杉ちゃんは、まるで10年来の知り合いのように話し始めた。そればかりでなく、わずか1時間の間に藤木は、杉ちゃんは茨城県の出身で、現在は足立区に住み、清掃の仕事をしている離婚した独り身で、別れた妻は神奈川県にいて、階段で転んでから膝を痛め、心臓が少し悪いということまで知ってしまったのだ。何しろ、ずっと杉ちゃんがしゃべりっぱなしだったからだ。
その上、杉ちゃんは「金がない」といいながら、「ちょっと待ってろ」といって自販機にいき、缶コーヒーを買うと、藤木に渡した。「金がない」と言っていたのに、である。
さらに、杉ちゃんは誰にでも「おう」と声をかける。最初のうち、いちいち藤木は「知り合い?」と聞いていたが、答えはいつも同じで「どっかで会ってるべ」だった。
藤木にとって杉ちゃんは、まさにアメージングだ。
「安い!100円!」というシールが貼ってある自販機で、杉ちゃんが奢(おご)ってくれた缶コーヒーは、今まで飲んだ、どんな飲み物よりも美味しかったのだ。
二度目に会った時、杉ちゃんは、競馬目的で来ているのではないと、すぐに分かった。その日はビックダービー開催の日なのに、杉ちゃんは馬券を購入せず、ただ同じように缶コーヒーを藤木に奢り、たわいない話をしただけなのだ。
寂しいのかもしれないと、藤木は思った。
…俺だって同じだ。
こうして杉ちゃんと接するうち、人と話すのが楽しいと、藤木は初めて感じられた。
杉ちゃんが、毎回、缶コーヒーを奢ってくれるので、これではいけないと、藤木はロンドンのハロッズで購入した紅茶を持参して渡した。すると、その場で缶を開けた彼は、ティーパックを出して「これ、どうやって飲むの?」と聞いてきて、藤木は大爆笑した。
「壁のない人間・杉ちゃん」を目の当たりにした藤木は、会社で杉ちゃんの真似をしてみようと、朝、ぎこちないながらも「今日は天気がいい」と、部下に声をかけた。まさか支社長から仕事以外で声を掛けられるとは思ってもいなかった部下は、「あ、はい、良かったです」と、天気の良し悪しなど無関係は職種であるにも関わらず、そんなふうに答えた。
こうやって話せばいいのか。
藤木は少しづつだが、部下とのコミュニケーションが取れるようになっていった。
杉ちゃんは、会う度に缶コーヒーを奢っている男が、有名企業の日本支社長で、3億円以上の年収を稼ぎ、英語・フランス語・ドイツ語もペラペラだということを知らない。
それは、杉ちゃんにはどうでもいいことなのだ。
たわいない会話。
人と人との触れあい。
エレベーターも防火扉も、人を乗せ、人を守る物だ。そういう物を製造しているのに、「何を守るのか」という、その「何を」の部分が、いつの間にか曖昧になっていたことに、藤木は気づいた。
安心で安全であることは当たり前。そのために1ミリの狂いもなく設計し、稼働させる。
誰のために?
杉ちゃんも乗るであろう、世間の多くの、それはたくさんの、名も知らぬ人のために。いつか会うかもしれない人のために。彼らの日常を快適にするために。
藤木は、テレビに映る自然史博物館の変わり果てた様子を見た。ここのエレベーターや防火扉は、合衆国での藤木の最後の仕事だった。
今朝起こされた電話の相手はCEOのジャックで、ワシントンの自然史博物館でテロが発生したので、藤木に合衆国から協力要請が行くかもしれないという内容だった。
その時、藤木のスマホが振動した。
妻は心配そうに見ている。
一方的に聞いていただけの藤木だったが、「承知しました」と電話を切ると、妻に「出かける」といって、部屋にボストンを取りに行った。
階下に降りて玄関に向かう藤木に、妻がいう。
「あなた、会社?」
藤木は振り向いた。
華美な指輪も購入できるのに、結婚当初に送った指輪を大事している妻だった。よくできた女房だと思っているが、当たり前すぎて感謝の言葉を掛けたことがなかったと、今さら気づく。
「大丈夫だ、心配ない。心配ないが、3日は戻れないだろう。もしかしたら、もっと長くなるかもしれない」
「3日?3日も?…さっきの電話、誰だったの?」
玄関で靴を履きながら、藤木は何でもないように言った。
「マティス国防長官。アメリカの国防長官だよ」
「え、えー?」
妻は驚いたが、藤木が玄関のドアを開けると、そこには迷彩柄の戦闘服を着た、二人の白人の大男が立っていて、もはや言葉が出なかった。
「留守を頼む。いつもすまない。行ってくる」
そう言って自宅を出た藤木は、車でインターコンチネンタルホテルに行き、そこの屋上から超高速軍用ヘリで横須賀米軍基地に向かうと、そのままF16で一路、ワシントンに向かった。
名もない、世間の多くの人たち、どっかで会っているかもしれない人たち、これから会うかもしれない人たちを助けるために。
藤木一郎58歳。
藤木の朝は、まるで判で押したように午前5時半に始まる。
しかし、今朝は通常よりも1時間早く、4時半の国際電話で起こされた。その電話を受けてのち、彼はヒゲを剃り、身支度をして、数日分の着替えを小さなボストンに詰め、現在は自室のテレビでCNNを食い入るように見ていた。
午前6時過ぎに起床した妻が藤木の部屋をのぞくと、既に出かける準備が完了している様子に驚き、慌てて朝食作りに取り掛かろうとするのを「急がなくていい」と、声をかけた。
藤木が1階リビングに降り、そこのテレビをつけると、日本のテレビ局も全てワシントンで起きたテロ事件のニュース一色だった。
台所にいた妻が、藤木の隣に来て「何?これ、どうしたの」と呟き、テレビ画面を凝視した。
藤木は妻をみて、そのあとテレビに視線を戻す。
「ワシントンの自然史博物館で爆破テロが起きたらしい」
「まあ、なんてこと」
妻の言葉は、そのあと続かなかった。
そのままソファに座る妻の横に、藤木も座った。
藤木は、世界で一番大きなエレベーター製造会社の技術部門のトップであり、日本では「支社長」の肩書を持つ男だ。
技術畑一筋で歩んできたこの男に、昨年、同社CEOのジャック・ハーマンが「日本支社長」への就任を打診してきた。
ニューヨークの本社ビル最上階で、ジャックと対峙し呼ばれた理由を知った時の藤木の第一声は、「私に務まるとは思いません」という拒否の言葉だった。
ジャックは笑いながら、「これまで多くの者に就任依頼をしてきたが、いきなり断ったのは、君だけだ」といい、藤木を選んだ理由を述べたのだった。
ジャックは地震の多い日本で、さらなる市場拡大を狙うにあたり、日本人というだけでなく、専門的なアプローチが可能な人材をと考えたら、思いついたのは藤木だけだったという。
支社長ともなれば、経営手腕も問われよう。技術畑の自分では役不足だと、それでもジャックの説得に首を縦に振らなかった藤木だったが、「イチロウ、経営は一人でするもんじゃない。優秀な人材をつける。まあ、最初は苦労するだろうが、君ならできるさ。世界の『イチロー』は日本に帰った。この機会に、わが社の『イチロー』も母国で奮闘して欲しい」というジャックの言葉に、就任を引き受けたのだ。
思えば、ロンドンに6年、パリには10年、ニューヨークでは12年以上も生活し、日本を出てから30年近くたっていた。
この間の藤木の功績は素晴らしく、2010年に完成したアラブ首長国連邦ドバイのブルジュ・ハリーフェ、2016年には上海のザ・タワーなど、いくつもの超高層ビルのエレベーターを設計・製造してきた。
最近はエレベーターだけでなく、これまでのエレベーター開発で培ってきた技術を、防火扉や防火壁の開発・製造にも生かすようになり、それがクオリティも高く実用的だと評判で業績は右肩上がりだった。
こうして昨年の秋、藤木は妻と共に日本へ帰国した。
ジャックが「苦労する」と言った意味は、すぐに分かった。経団連の付き合いや経済新聞のインタビューなど、藤木の最も苦手とする「人付き合い」の仕事が多くなったのだ。
堅物で冗談が言えず、誰かと飲みに行ったりすることもほとんどない男には、気の利いたジョークなど出せるはずもなく、ひたすらストレスだけが蓄積された。
最もストレスに感じたのは、部下との間だ。朝の「おはよう」の挨拶の後から会話が続かず、いつしか「新しい支社長は気難しい」というレッテルを貼られた。
そんな時、シーズンだったのだろう、黒塗りの高級社用車の中から外を見ていると、やたらと競馬のポスターが目についた。
人間同士だって大変なのに、人と馬が協力して何かを成すなど、可能のか?
持ち前の「気になることは追求する」という技術者の欲求から、藤木はネットで検索し、一人で競馬場に行ってみた。
馬といっても、馬場で疾走する馬はサラブレットで、それは美しく、人馬が一体となって戦っていた。
藤木はハマった。
それから土曜日には競馬場へ行って競馬新聞を読み漁り、馬券を買う。レースの行方を当てるのが目的であって、それで大金を得ようとは思っていない藤木は、馬券購入額は1000円と決めていた。それでも興奮した。
この日課を続けていたある日、藤木に「よう」と、男が声をかけてきた。
年の頃は60代後半で、背が低く、猫背で足を引きずって歩く「杉ちゃん」という男だった。杉ちゃんは、自分で「俺は杉ちゃんだよ」と言ったのだ。
最初は、誰かと間違えているのかと思い、戸惑いつつ「どこかでお会いしましたか?」と聞いた藤木に、杉ちゃんは「どっかで会ってるべ」と言った。
驚いた。「どっかで」、いや、完全に初対面だ。
杉ちゃんは、まるで10年来の知り合いのように話し始めた。そればかりでなく、わずか1時間の間に藤木は、杉ちゃんは茨城県の出身で、現在は足立区に住み、清掃の仕事をしている離婚した独り身で、別れた妻は神奈川県にいて、階段で転んでから膝を痛め、心臓が少し悪いということまで知ってしまったのだ。何しろ、ずっと杉ちゃんがしゃべりっぱなしだったからだ。
その上、杉ちゃんは「金がない」といいながら、「ちょっと待ってろ」といって自販機にいき、缶コーヒーを買うと、藤木に渡した。「金がない」と言っていたのに、である。
さらに、杉ちゃんは誰にでも「おう」と声をかける。最初のうち、いちいち藤木は「知り合い?」と聞いていたが、答えはいつも同じで「どっかで会ってるべ」だった。
藤木にとって杉ちゃんは、まさにアメージングだ。
「安い!100円!」というシールが貼ってある自販機で、杉ちゃんが奢(おご)ってくれた缶コーヒーは、今まで飲んだ、どんな飲み物よりも美味しかったのだ。
二度目に会った時、杉ちゃんは、競馬目的で来ているのではないと、すぐに分かった。その日はビックダービー開催の日なのに、杉ちゃんは馬券を購入せず、ただ同じように缶コーヒーを藤木に奢り、たわいない話をしただけなのだ。
寂しいのかもしれないと、藤木は思った。
…俺だって同じだ。
こうして杉ちゃんと接するうち、人と話すのが楽しいと、藤木は初めて感じられた。
杉ちゃんが、毎回、缶コーヒーを奢ってくれるので、これではいけないと、藤木はロンドンのハロッズで購入した紅茶を持参して渡した。すると、その場で缶を開けた彼は、ティーパックを出して「これ、どうやって飲むの?」と聞いてきて、藤木は大爆笑した。
「壁のない人間・杉ちゃん」を目の当たりにした藤木は、会社で杉ちゃんの真似をしてみようと、朝、ぎこちないながらも「今日は天気がいい」と、部下に声をかけた。まさか支社長から仕事以外で声を掛けられるとは思ってもいなかった部下は、「あ、はい、良かったです」と、天気の良し悪しなど無関係は職種であるにも関わらず、そんなふうに答えた。
こうやって話せばいいのか。
藤木は少しづつだが、部下とのコミュニケーションが取れるようになっていった。
杉ちゃんは、会う度に缶コーヒーを奢っている男が、有名企業の日本支社長で、3億円以上の年収を稼ぎ、英語・フランス語・ドイツ語もペラペラだということを知らない。
それは、杉ちゃんにはどうでもいいことなのだ。
たわいない会話。
人と人との触れあい。
エレベーターも防火扉も、人を乗せ、人を守る物だ。そういう物を製造しているのに、「何を守るのか」という、その「何を」の部分が、いつの間にか曖昧になっていたことに、藤木は気づいた。
安心で安全であることは当たり前。そのために1ミリの狂いもなく設計し、稼働させる。
誰のために?
杉ちゃんも乗るであろう、世間の多くの、それはたくさんの、名も知らぬ人のために。いつか会うかもしれない人のために。彼らの日常を快適にするために。
藤木は、テレビに映る自然史博物館の変わり果てた様子を見た。ここのエレベーターや防火扉は、合衆国での藤木の最後の仕事だった。
今朝起こされた電話の相手はCEOのジャックで、ワシントンの自然史博物館でテロが発生したので、藤木に合衆国から協力要請が行くかもしれないという内容だった。
その時、藤木のスマホが振動した。
妻は心配そうに見ている。
一方的に聞いていただけの藤木だったが、「承知しました」と電話を切ると、妻に「出かける」といって、部屋にボストンを取りに行った。
階下に降りて玄関に向かう藤木に、妻がいう。
「あなた、会社?」
藤木は振り向いた。
華美な指輪も購入できるのに、結婚当初に送った指輪を大事している妻だった。よくできた女房だと思っているが、当たり前すぎて感謝の言葉を掛けたことがなかったと、今さら気づく。
「大丈夫だ、心配ない。心配ないが、3日は戻れないだろう。もしかしたら、もっと長くなるかもしれない」
「3日?3日も?…さっきの電話、誰だったの?」
玄関で靴を履きながら、藤木は何でもないように言った。
「マティス国防長官。アメリカの国防長官だよ」
「え、えー?」
妻は驚いたが、藤木が玄関のドアを開けると、そこには迷彩柄の戦闘服を着た、二人の白人の大男が立っていて、もはや言葉が出なかった。
「留守を頼む。いつもすまない。行ってくる」
そう言って自宅を出た藤木は、車でインターコンチネンタルホテルに行き、そこの屋上から超高速軍用ヘリで横須賀米軍基地に向かうと、そのままF16で一路、ワシントンに向かった。
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