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30、シュミレーションルーム(2)
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テロ発生6時間後 ホワイトハウス ワシントンDC
マティス国防長官は、これから話すことは、理久と眞に大きなダメージを与えることになると分かっていた。
無邪気で子供のような外見からは想像もできないほど、健気な二人の対応から、それは容易に推察できたのだ。
彼らは、どうやっても、この部屋から出て休むことはしないだろう…。
であるならば、言わねばなるまい。
マティスは、あえて理久と眞を見ずに、この合衆国の最高司令官であるファーガソン大統領にいった。
「今回のテロ事件は、いまだ、どこの組織も犯行声明を出しておりませんが、タンゴ(テロリスト)の狙いは、キートン首相の孫である、このお二人であると言って、間違いないでしょう」
理久と眞の顔色は、もう痛ましいほどに悪くなったが、あえてそれを見ずに、マティスは続けた。
「この監視カメラは、タンゴが意図的に破壊せずに残したのです。我々に見せるために。この中に、キートン首相の孫が映っていることを見込んで、我々に無言の脅迫をしているのです。
もちろん、我々は捜査を待たねばなりません。ですが、現時点で判明していることを総括すると、結論は、先に述べたとおりです。
タンゴが、なぜキートン首相の孫であるお二人をターゲットにしたのか?真の目的は、キートン首相であることは間違いありませんが、それも捜査を待ちましょう。
政治的な取引をするため、あるいは首相から優位な回答を得るためというのは、もちろんですが、間違いなく、お二人が狙われた最大の原因は、首相にとって、お二人が最大の弱点だったからでしょう。
取引を優位に持ち込むには、相手の弱点をつく。これは常套手段です、卑怯者のね」
ここでマティスは、一度、言葉をきった。
「卑怯などという言葉は、タンゴにはない」
イアン・ドレン統合参合本部議長がつぶやいた。
「ええ、議長のおっしゃる通りです。タンゴの存在、それ自体が卑怯者集団ですから」
マティスは続ける。
「首相と取引したい内容はさておき、首相の孫であるお二人の存在を知った時点が、このテロ事件の始まりだったと考えられます。
キートン首相のご子息が、キートン海軍大将であることは、非常に有名です。
しかし、これはキートン首相と大将、さらに周辺関係者の涙ぐましいほどの努力の賜物といっていいでしょうが、キートン大将の奥方が日本人であるということを知っている人は少ない。
だが彼らは、その情報を入手した。どこからかね。次に、この8月、首相の孫が我が国の自然史博物館を見学するという情報も手に入れた」
ここまで言って、マティスは、理久と眞にダメージを与えるであろう事を話すと決意してから、初めて、この二人を見た。
理久は眞の手を握り、大きな目を、さらに大きくしてマティスを見ていた。眞は、俯いたままだった。
「首相の孫であるお二人の情報が、どこから漏れたのか。それには至急、捜査が必要です。彼らタンゴは、キートン大将の奥方が日本人で、その子供達が、黒目・黒髪であるという情報は得ても、その容姿までも特定できる情報は得られなかった。
だから、タンゴは人質の中から、知りえた情報の容姿に該当する人物だけをピックアップして、こうして一か所にまとめ、我々に見せているんです。・・・この中に、首相の孫がいるぞと」
ラムズフェルト英国大使は、理久と眞の様子は、もう限界だと思ったのだろう。無言で二人に立ち上がるように促した。
今回は、理久も眞も何の抵抗もしなかった。
ただ、シュミレーションルームの隣の部屋のドアをラムズフェルトが開けて、二人に入るよう首を少し傾けるた時、理久が振り向いていった。
「僕たちが自然史博物館に来なければ、こんな事件は起きなった。そうですよね」
マティス国防長官は、これから話すことは、理久と眞に大きなダメージを与えることになると分かっていた。
無邪気で子供のような外見からは想像もできないほど、健気な二人の対応から、それは容易に推察できたのだ。
彼らは、どうやっても、この部屋から出て休むことはしないだろう…。
であるならば、言わねばなるまい。
マティスは、あえて理久と眞を見ずに、この合衆国の最高司令官であるファーガソン大統領にいった。
「今回のテロ事件は、いまだ、どこの組織も犯行声明を出しておりませんが、タンゴ(テロリスト)の狙いは、キートン首相の孫である、このお二人であると言って、間違いないでしょう」
理久と眞の顔色は、もう痛ましいほどに悪くなったが、あえてそれを見ずに、マティスは続けた。
「この監視カメラは、タンゴが意図的に破壊せずに残したのです。我々に見せるために。この中に、キートン首相の孫が映っていることを見込んで、我々に無言の脅迫をしているのです。
もちろん、我々は捜査を待たねばなりません。ですが、現時点で判明していることを総括すると、結論は、先に述べたとおりです。
タンゴが、なぜキートン首相の孫であるお二人をターゲットにしたのか?真の目的は、キートン首相であることは間違いありませんが、それも捜査を待ちましょう。
政治的な取引をするため、あるいは首相から優位な回答を得るためというのは、もちろんですが、間違いなく、お二人が狙われた最大の原因は、首相にとって、お二人が最大の弱点だったからでしょう。
取引を優位に持ち込むには、相手の弱点をつく。これは常套手段です、卑怯者のね」
ここでマティスは、一度、言葉をきった。
「卑怯などという言葉は、タンゴにはない」
イアン・ドレン統合参合本部議長がつぶやいた。
「ええ、議長のおっしゃる通りです。タンゴの存在、それ自体が卑怯者集団ですから」
マティスは続ける。
「首相と取引したい内容はさておき、首相の孫であるお二人の存在を知った時点が、このテロ事件の始まりだったと考えられます。
キートン首相のご子息が、キートン海軍大将であることは、非常に有名です。
しかし、これはキートン首相と大将、さらに周辺関係者の涙ぐましいほどの努力の賜物といっていいでしょうが、キートン大将の奥方が日本人であるということを知っている人は少ない。
だが彼らは、その情報を入手した。どこからかね。次に、この8月、首相の孫が我が国の自然史博物館を見学するという情報も手に入れた」
ここまで言って、マティスは、理久と眞にダメージを与えるであろう事を話すと決意してから、初めて、この二人を見た。
理久は眞の手を握り、大きな目を、さらに大きくしてマティスを見ていた。眞は、俯いたままだった。
「首相の孫であるお二人の情報が、どこから漏れたのか。それには至急、捜査が必要です。彼らタンゴは、キートン大将の奥方が日本人で、その子供達が、黒目・黒髪であるという情報は得ても、その容姿までも特定できる情報は得られなかった。
だから、タンゴは人質の中から、知りえた情報の容姿に該当する人物だけをピックアップして、こうして一か所にまとめ、我々に見せているんです。・・・この中に、首相の孫がいるぞと」
ラムズフェルト英国大使は、理久と眞の様子は、もう限界だと思ったのだろう。無言で二人に立ち上がるように促した。
今回は、理久も眞も何の抵抗もしなかった。
ただ、シュミレーションルームの隣の部屋のドアをラムズフェルトが開けて、二人に入るよう首を少し傾けるた時、理久が振り向いていった。
「僕たちが自然史博物館に来なければ、こんな事件は起きなった。そうですよね」
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