8 / 11
8.王と王妃②
しおりを挟む王城の裏手に建つ礼拝堂は、王城に比するとずいぶんと小さい。しかし敗戦国とはいえ、他国の宗教施設を破壊するのを憚ったシビリア兵によって、ほとんど破壊されていなかった。
古い木目の扉を開けて、まずアッシュが入った。その後に将軍たちが続いた。誰も足音を立てない。
アッシュは目だけで将軍に合図を送る。
アッシュが見たのは祭壇横の扉だ。その扉の奥に王族用の控室がある。今度は将軍が先頭に立った。戦闘になった場合を想定して、アッシュを守るためだ。
控室へとつながる扉の前に立った将軍は周囲を見渡し、扉の下部を見た。扉の下は少し空間がある。将軍は次に堂内の窓を見て、兵に窓を開けるように仕草で命じた。窓が開くと外から風が入る。アッシュたちは風上にいるようだ。外からの風を背に感じた。
将軍がタギヤへ視線を送る。タギヤは頷いて将軍に何かを渡したあと、その場から消えた。礼拝堂の周りを兵で固めるためだろうと、アッシュは思った。
将軍がタギヤから受け取ったのは小さな瓶。それを手にした将軍は、周りの者に口と鼻を布で覆うように仕草だけで命じる。アッシュも首に巻いていた布で口と鼻を覆い、兵が将軍から少し距離を取ったので、アッシュもそれに倣った。
静かだった。
将軍は小瓶の蓋を開けた。そして自ら口に布をあてるとかがんで、勢いよく中身を扉の下から控室に向かってぶちまけた。
シュー、シューという音がする。それがだんだんと大きくなる頃、アッシュは小瓶の中身が吸い込むと呼吸器がやられる毒だと分かった。シビリアは処刑に毒を用いるから、軍関係者が毒を持ち歩いていても不思議はない。
やがて控室から漏れるシューという音が聞こえなくなる頃、今度は人の咽る声がした。しかしまだ小さい。恐らく地下から聞こえるようだ。
まだ将軍は動かない。その声がだんだんと大きくなる。
まだ将軍は動かなかった。
声と共にガチャンという音がした。咽る声が二つ、三つ、四つになる。少なくとも四人いるということだ。二人は女だ。そのうちの一人は王妃で、もう一人は侍女だろう。
四人がいる控室には扉や窓がないことをアッシュは知っている。防犯のためだった。将軍が少し下がるように命じたので、アッシュたちは扉からさらに距離をとった。
兵が長刀の鞘に手をかけると、将軍が首を横にふった。兵は頷いて短刀の鞘を抜く。室内だから長刀だと闘いにくいのだろう。
「くそ!」
聞こえたのは罵る声。
まごう事なき、ウトージャ王の声。
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
27
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる