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7.王と王妃①
しおりを挟む「ジジ!ババ!将軍のところへ行ってくる!」
アッシュはテントを飛び出した。
アッシュは走った。こんなに走ったのは半月ぶりだ。その時はアニアを探すためだった。
将軍は軍中枢部のテントにいた。そこには参謀に大将、それに中将まで揃っていたが、アッシュは構わず中に入り、声を張り上げた。
「王と王妃にも影武者がいたはずです!」
周囲は水を打ったように静かになる。
「臆病者は、親も臆病だからだ!王太子に七人の影武者を用意するように言ったのは誰か?間違いなく王と王妃です!そうなら、絶対に自分たちにも影武者を用意したはずです!」
将軍は無言で立ち上がった。
目指すは王城。
参謀や大将も行こうとしたが、将軍が止めた。
「わしが確認する!すぐに動けるように準備しておけ!タギヤ!」
将軍が一人の中将を呼ぶ。
「はっ!」
「わしについてこい!」
将軍はよほどタギヤを信頼しているのだろう。ここぞという時には最も信頼する部下を使いたいものだ。
タギヤは真剣な眼差しを将軍に向けた。
「腕のたつ兵士を50人集めよ!すぐに」
タギヤは迷うことなく第一部隊を召集し、集まった兵士が将軍の前に出た。
「これより王と王妃の捜索を行う!わしについてこい!」
この50名に将軍とタギヤ、そしてアッシュは馬に乗り、ウトージャの王城へ急いだ。
ここから王城までは馬ならすぐの距離だ。首都陥落により、王城にはシビリア兵か援軍を送った隣国の兵しかいない。
もし王と王妃が逃亡を図るなら、シビリアが王都を撤退してからではないか。シビリア軍は一度撤退し、その後、周辺国と協議して旧ウトージャ領を分割する算段になっている。これは大きな戦争の後のお決まりの工程だ。ウトージャとてそうしてきた。
だから王がそれを知らぬはずはない。
そんなことを思いながら、アッシュは馬を蹴った。
王城につくと、アッシュが先頭に立つ。
「隠し部屋があるとすれば、恐らく地下だと思います。王と王妃の遺体は王の間にあったと聞いています。王の間は城の最上階。わざと地下から目を逸らすために最上階で自死を装ったのではないかと」
そう早口でいうアッシュに将軍はいった。
「落ち着け、アッシュ。臆病な者ほど隠れるものだ。きっと我々がこの地を離れるのを、息を殺して待っているはず。だから、近くにいる。地下といえども広かろう。闇雲に探すより、知恵を絞れ。いつものように」
アッシュは深呼吸した。将軍もアッシュと同じことを思っていた。
「この城と、ヤツらの生態については、その方が詳しい。思い出せ」
生態…。既に動物だ。ああ、でも動物かもしれない。人と動物の違いは何か。動物には理性がない。だから理性をなくし暴虐を尽くしたウトージャの王と王妃は間違いなく動物だ。
「ヤツらが最も行きそうにない場所に、隠れているのではないでしょうか?」
冷静にタギヤがいう。
「最も行きそうにない場所?」
アッシュはオウム返しに呟いた。
ウトージャはラリア教という一神教を祀り、ラリアという神の血筋が王族だと信じられていた。最もそれを一番信じていたのはアニア以外の王族だ。神の血筋だから、何をしても許されると信じ、自分たち声は神の声だと宣う。
だから、礼拝の日を王族は嫌っていた。
「神に祈るのであれば、我に祈ればよいではないか」
そういったのは、王か王妃か。
「礼拝堂!王城の裏手にあります!」
アッシュが走り出した。この半月で三度目の猛ダッシュだった。
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